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番外編
手探りの恋模様 前編(エクトルの恋愛)
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それはまだ、エクトルがブランシール領の上級学校に通っていた頃の話である。
卒業まで後1年となった17歳のエクトルは同じクラスのある女の子に淡い恋心を抱いていた。
その彼女の名前はエマ。
ああ、今日もニコニコしていて可愛いな。
今日は教室移動の時に話せたからラッキーだ。
今日の出来事を思い出すだけでエクトルの心は満たされていた。
そんな彼女と接点を持つようになったのは1年以上前のことである。
昨年度の頭にクラス替えで初めて同じクラスになってからエマと関わるようになり、半年後には天真爛漫な彼女の笑顔に惹かれていた。
今年度も同じクラスになれますように。
そのエクトルの願い通り、また同じクラスとなったため、卒業まで共に居られることが確定する。
ただし、同じクラスでも毎日話せる訳ではない。
なぜなら、エマは誰とでも笑顔で話すため、皆に好かれているからだ。
そんな人気者の彼女の周りには常に誰かがいるため、なかなか話す機会がない。
ただ今日はラッキーなことに、前の授業の疑問点をエマがエクトルに聞いたため、話す機会があった。
「エクトル君、呼び止めてごめんね。さっきの授業なんだけど、ここの部分がよく分からなかったから移動しながら教えて!」
「ああ、いいよ。ちょっと待ってくれ」
大好きなエマを待たせる訳にはいかないと、エクトルは慌てて次の授業に必要な物を纏める。
「お待たせ。じゃあ、行こうか」
「うん!あのね、ここが分からなかったんだけど……」
「ここの部分は……」
エマはエクトル程ではないが、成績優秀で真面目に勉学に励んでいるため、疑問点を解消したかった。
しかし、次は移動教室で先生に聞く時間がないため、学年で最も賢いエクトルに質問する。
エマに話し掛けられ、内心は舞い踊る程気持ちが上がっていたが、冷静沈着を装っているエクトルは落ち着いて丁寧にエマに説明した。
「ありがとう!エクトル君の説明は分かりやすいね!助かったよ!」
「いや、エマさんの理解が早いからだよ」
ちょうど次の教室に着く頃に解説が終わった。
もっとエマと話していたいが、勉強以外の話題が思い付かずに何を話そうかとエクトルが思案していると、エマが他の女子に声を掛けられる。
「エマ、こっちの席が空いてるよー!」
「ありがとうー!今、行くー!」
先に席を取ってくれた友達に返事をした後、エマはエクトルの方に振り返り、お礼を伝える。
「教えてくれてありがとう!それじゃあ、またね」
「どういたしまして」
エマと別れ、エクトルは空いている別の席に座った。
教科書やノートを机の上に広げながら、先程の会話の余韻に浸る。
真面目に今まで勉強してきてよかった。
やっぱり頼られるのは嬉しい。
彼女への恋心は自覚しているが、行動を起こす勇気が無いため、エクトルは彼女と話せるだけで満足していた。
そんなエクトルの気持ちが変わるきっかけが訪れる。
それはある日、校長室に呼ばれたことが始まりであった。
「突然、呼び出してすまないね。君にお客さんが来ているんだ。呼んでくるからここでちょっと待っていてくれ」
「はい、分かりました」
そう返事をしたものの心当たりが無いエクトルは、首を傾げながら待っていた。
しばらくして校長先生に連れられて部屋に入ってきたのは、ブランシール伯爵の息子であった。
エクトルは立ち上がり、挨拶をする。
「先日はご卒業、おめでとうございました。卒業後に爵位を授かったと伺いました。ジョエル様、重ねてお祝い申し上げます」
堅苦しい挨拶をされ、そんなに畏まらなくていいとジョエルは微笑んで声を掛ける。
「今日は軽く相談があって来ただけだから、そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。実は君の卒業後の進路なんだけど、首都の学校に行ってみようと思わないかい?」
先月、学校を卒業したジョエルは1学年下の秀才なエクトルのことが気になっていた。
このままブランシール領に留めておくのは惜しいと考えたジョエルは、父に彼を首都の学校に入れられないか相談していたのだ。
何とかお金の目処がついたため、今日は本人に話を持ち掛ける。
「お金は我が家が支援するし、養子になって貰って貴族として首都に送り出すから、勉強以外のことは気にしなくていいよ。君さえやる気があったら、その才能をもっと生かせる道を探して欲しいんだ」
「は、はい……」
突然の話にエクトルが困惑していることはジョエルにも分かるため、更に安心して貰おうと話を付け加える。
「もし、1人で首都に行くのが不安なら、誰かもう1人優秀な学生を誘ってくれても構わないよ。お金は厳しくなるけど、未来への投資と思ったら協力してくれる人は他にもいると思うから心配しないで」
その話を聞いてエクトルの頭にエマの顔が浮かんだ。
ただすぐに返事が出来ないため、猶予を貰えるか質問する。
「しばらく考える時間を頂いても構いませんか?」
「ああ、勿論構わないさ。そうしたら、2週間後に返事を聞きに来てもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
こうして猶予を貰ったエクトルは、エマに相談する機会を伺いながら毎日を過ごすようになった。
卒業まで後1年となった17歳のエクトルは同じクラスのある女の子に淡い恋心を抱いていた。
その彼女の名前はエマ。
ああ、今日もニコニコしていて可愛いな。
今日は教室移動の時に話せたからラッキーだ。
今日の出来事を思い出すだけでエクトルの心は満たされていた。
そんな彼女と接点を持つようになったのは1年以上前のことである。
昨年度の頭にクラス替えで初めて同じクラスになってからエマと関わるようになり、半年後には天真爛漫な彼女の笑顔に惹かれていた。
今年度も同じクラスになれますように。
そのエクトルの願い通り、また同じクラスとなったため、卒業まで共に居られることが確定する。
ただし、同じクラスでも毎日話せる訳ではない。
なぜなら、エマは誰とでも笑顔で話すため、皆に好かれているからだ。
そんな人気者の彼女の周りには常に誰かがいるため、なかなか話す機会がない。
ただ今日はラッキーなことに、前の授業の疑問点をエマがエクトルに聞いたため、話す機会があった。
「エクトル君、呼び止めてごめんね。さっきの授業なんだけど、ここの部分がよく分からなかったから移動しながら教えて!」
「ああ、いいよ。ちょっと待ってくれ」
大好きなエマを待たせる訳にはいかないと、エクトルは慌てて次の授業に必要な物を纏める。
「お待たせ。じゃあ、行こうか」
「うん!あのね、ここが分からなかったんだけど……」
「ここの部分は……」
エマはエクトル程ではないが、成績優秀で真面目に勉学に励んでいるため、疑問点を解消したかった。
しかし、次は移動教室で先生に聞く時間がないため、学年で最も賢いエクトルに質問する。
エマに話し掛けられ、内心は舞い踊る程気持ちが上がっていたが、冷静沈着を装っているエクトルは落ち着いて丁寧にエマに説明した。
「ありがとう!エクトル君の説明は分かりやすいね!助かったよ!」
「いや、エマさんの理解が早いからだよ」
ちょうど次の教室に着く頃に解説が終わった。
もっとエマと話していたいが、勉強以外の話題が思い付かずに何を話そうかとエクトルが思案していると、エマが他の女子に声を掛けられる。
「エマ、こっちの席が空いてるよー!」
「ありがとうー!今、行くー!」
先に席を取ってくれた友達に返事をした後、エマはエクトルの方に振り返り、お礼を伝える。
「教えてくれてありがとう!それじゃあ、またね」
「どういたしまして」
エマと別れ、エクトルは空いている別の席に座った。
教科書やノートを机の上に広げながら、先程の会話の余韻に浸る。
真面目に今まで勉強してきてよかった。
やっぱり頼られるのは嬉しい。
彼女への恋心は自覚しているが、行動を起こす勇気が無いため、エクトルは彼女と話せるだけで満足していた。
そんなエクトルの気持ちが変わるきっかけが訪れる。
それはある日、校長室に呼ばれたことが始まりであった。
「突然、呼び出してすまないね。君にお客さんが来ているんだ。呼んでくるからここでちょっと待っていてくれ」
「はい、分かりました」
そう返事をしたものの心当たりが無いエクトルは、首を傾げながら待っていた。
しばらくして校長先生に連れられて部屋に入ってきたのは、ブランシール伯爵の息子であった。
エクトルは立ち上がり、挨拶をする。
「先日はご卒業、おめでとうございました。卒業後に爵位を授かったと伺いました。ジョエル様、重ねてお祝い申し上げます」
堅苦しい挨拶をされ、そんなに畏まらなくていいとジョエルは微笑んで声を掛ける。
「今日は軽く相談があって来ただけだから、そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。実は君の卒業後の進路なんだけど、首都の学校に行ってみようと思わないかい?」
先月、学校を卒業したジョエルは1学年下の秀才なエクトルのことが気になっていた。
このままブランシール領に留めておくのは惜しいと考えたジョエルは、父に彼を首都の学校に入れられないか相談していたのだ。
何とかお金の目処がついたため、今日は本人に話を持ち掛ける。
「お金は我が家が支援するし、養子になって貰って貴族として首都に送り出すから、勉強以外のことは気にしなくていいよ。君さえやる気があったら、その才能をもっと生かせる道を探して欲しいんだ」
「は、はい……」
突然の話にエクトルが困惑していることはジョエルにも分かるため、更に安心して貰おうと話を付け加える。
「もし、1人で首都に行くのが不安なら、誰かもう1人優秀な学生を誘ってくれても構わないよ。お金は厳しくなるけど、未来への投資と思ったら協力してくれる人は他にもいると思うから心配しないで」
その話を聞いてエクトルの頭にエマの顔が浮かんだ。
ただすぐに返事が出来ないため、猶予を貰えるか質問する。
「しばらく考える時間を頂いても構いませんか?」
「ああ、勿論構わないさ。そうしたら、2週間後に返事を聞きに来てもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
こうして猶予を貰ったエクトルは、エマに相談する機会を伺いながら毎日を過ごすようになった。
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