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第36話 舞い戻りし時

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翌日、ソフィアが準備を整えて待っているとエクトルが迎えに来た。

「お待たせ。それじゃあ、屋敷に戻ろうか」
「はい、今日はよろしくお願い致します」

ソフィアはエクトルと共に屋敷へ歩みを進める。
昨日は強気でいたが、いざ対面の時が近付いていると思うと緊張した面持ちになる。

ジーナに嵌められた時は耐えられなくなってその場から逃げてしまったけれど、今日は逃げずに立ち向かうって決めたわ。
ただ今までのことを考えると恐怖心も出てくる。
でも、私に協力して下さった方々の努力を無駄にしないために、今日は諦めないわ。

ソフィアは自分を鼓舞し、再度気合いを入れながら戦いの地に赴いた。


ソフィアが屋敷の扉を開けると、誰の姿も見えず、微かに物音が聞こえてくる程度であった。

あれっ、いつもなら外で庭仕事中のテオドールさんを見掛けたり、家事をしているジネットさんとよく廊下ですれ違うのに、誰の姿も見えないなんておかしいわ。

ソフィアは人気の無さに、もしかして約束を反故にされたのではと訝しい表情をした。
それに気付いたエクトルが説明する。

「もう皆、食堂に集まっているみたいだね。昨日、約束を取り付けた時に、食堂なら全員集まっても座って話を聞けるからそこに集まろうとジョエル様が言っていたんだ。僕達も向かおうか」
「分かりました。お手数をお掛けしてすみません。昨日も動いて下さり、ありがとうございました」

いつもなら屋敷内を忙しなく動くジネットの姿さえ見えず、扉を開けた時に違和感を覚えたが、エクトルの説明でソフィアは納得した。
そして、皆が待つ食堂の前に辿り着いたソフィアは、一度深く息を吸って気持ちを整えてから扉を開いた。


ソフィアが食堂に入ると話していた声が止み、皆の視線がソフィアに集中する。
片側の椅子にジョエルとジーナ、反対側にはテオドールとジネットが座っていた。
急に仕事を休むことは出来なかったジョエルの両親のみ不在である。
ソフィアとエクトルはテオドール側の椅子に座ると、まずソフィアが口を開いた。

「お忙しい中、お時間を取って下さり、ありがとうございます。お仕事は大丈夫ですか?」
「ああ、今日は畑仕事の手伝いだったから、また別の日に行くように伝えたよ。ソフィアこそ、体調は大丈夫かい?」

ソフィアに話し掛けられたジョエルは質問に答え、体調不良と聞いてから心配していたためソフィアの体を気遣った。

「お気遣い、ありがとうございます。休んだらよくなりました。ジーナの怪我の具合はどうですか?」

いよいよ本題を切り出したソフィアは、ジーナの方は全く見ずに真っ直ぐジョエルを見つめて問い掛ける。
しかし、ジョエルが返事をする前に、自分の話題となったことで喋りたくて堪らなかったジーナが口を挟んだ。

「全身が痛くて堪りませんわ。お姉様は休んで治る程度の体調不良でよかったですわね。私の怪我はすぐ治る見込みが無く、しばらく不便な生活が続きそうですわ。でも、優しいジョエル様が助けて下さるから……」

今日はジョエル様とお話するために来たから、ジーナの嘘に付き合っている暇は無いわ。

そう思ったソフィアは、ジーナが話している途中で話を止める。

「今はジョエル様とお話しているの。だから、あなたはしばらく静かにしていてちょうだい。ジョエル様、お医者様は怪我の具合はどうおっしゃっていましたか?」

ジョエルの言葉なら信じられるため、ソフィアは再度ジョエルに質問した。
いつもと違って厳しい口調のソフィアに少し戸惑いながらも、ジョエルは質問に答える。

「医師の見立てによると、かすり傷はあるが動けるため、骨折はしていないだろうとのことだ」

ソフィアはそれを聞いて、やっぱり妹の自作自演は間違っていないと再度実感する。

「そうだと思っていました。だって、あの子は階段から落ちる時に受身が取れたはずですから」

ずっとジーナからソフィアに突き落とされたと聞いていたジョエルは、ソフィアの言っていることが理解出来ずに思わず聞き返した。

「それはどういうことなんだい?」

その言葉を聞いて、ソフィアははっきりと真実を述べる。

「あの子が私に突き落とされたというのは嘘です。その怪我はあの子が自ら階段から落ちて出来た自作自演のものです」

ふとジョエルはあの時のソフィアの言葉を思い出す。

そうだ、ソフィアはあの時もジーナが嘘をついていると言っていた。
あの時はジーナの手当てを早くしなければと思って動いている内にソフィアが居なくなったから、詳しく話を聞けなかったけど、今日はちゃんとソフィアの話を聞かなければ。

そう思ったジョエルが詳しくソフィアに聞こうとした時、ジーナが声を上げた。
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