憂愁なタンポポが花開くまで

第28話 初日

今、屋敷にはジョエルとソフィアしかいないため、先程まで共に過ごしていた談話室にジーナを案内する。
暖炉の前のソファに座るよう勧めると、ジーナはジョエルの横に座った。

本当にちゃっかりしている子ね。
私の横に座らず、ジョエル様の横に座るのだから、私に会いに来た訳じゃないのがよく分かるわ。

反対側のジョエルの隣に座りながら、ソフィアは内心荒ぶっていた。
しかし、人を疑わないジョエルはこの配置の違和感に気付かない。
そして、ジーナは早速ソフィアに喧嘩を売ってきた。

「ジョエル様はお姉様と婚約されたと聞きました。お姉様のどこが良いのですか？根暗なお姉様よりも私の方がジョエル様を楽しませられる自信がありますわ」

自信に満ちた表情でジョエルに話し掛けるジーナにソフィアの苛立ちが増す。
しかし、ソフィアはぐっと堪えてジョエルの返事を待った。
さすがにこの発言は看過出来なかったジョエルはジーナを窘める。

「いくら反抗期だからって人の悪口は良くないぞ。それに僕はソフィアの穏やかで一緒に居て落ち着くところが好きなんだ」

先月26歳となったジョエルにとって、18歳のソフィアは女性として見ているが、まだ11歳のジーナは子どもみたいなものであった。
そのため、ジーナの意地悪をただの反抗期だと片付けてしまう。
少しソフィアは不安になりながらも、ジョエルの褒め言葉を聞いて心内が少し穏やかになった。
勿論心優しいジョエルはジーナのフォローも忘れない。

「君の元気いっぱいで活力に満ちたところも良いと思うよ。姉妹どちらも各々良さがあって、良い姉妹だね」

ジーナを褒めるジョエルを見て、ソフィアの心の中に腹黒い感情が芽生える。

あんな子にジョエル様が気遣う必要は無いわ。
だって、あの子が調子に乗るだけだもの。

なぜ妹まで褒めるのかと思いながらも、そんな感情は表に出さずにソフィアは冷静にいることに努めた。


やがてジョエルの両親が帰宅したため、皆で夕食を食べた。
本性を隠して誰にでも笑顔を振り撒くジーナに憎しみを抱くが、この気持ちを隠しているソフィア自身も同じだと思い、何も言えない。

この屋敷の皆さんは人が良いから、あの子に丸め込まれないか不安だわ。
それに私が頑張って築いた居場所を奪われるようで不快だわ。

今までのソフィアの穏やかな日常が、この1日で一変してしまった。
そして、ジーナからとどめの一言が放たれる。

「お姉様と久しぶりにお会いしてこのまま帰るのも寂しいので、1週間お世話になってもよろしいですか？」
「ああ、勿論構わないさ。1階に空き部屋があるからそこで泊まってくれたらいい」
「まあ、ジェラール様、急な申し出にも関わらずありがとうございます！」

1週間も妹が滞在する事実に絶望しながらも、心優しい皆の前で悪態のつけないソフィアは我慢するしか無かった。
夕食を終え、しばらく談笑をしてから、各々自室に戻る。
1人になってようやくソフィアは不快感から解放された。

でも、これが毎日続くのよね……。
憂鬱だわ。
ただ、今まで自分の家族から酷い扱いを受けていたことは恥ずかしくて言えないから、どうしようも出来ないわ。

この状況に頭を抱えながら、ソフィアは1日を終えた。