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第5話 冷たい牢獄

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やがて、パンとスープだけの粗末な夕食が運ばれてきた。
地下牢の隅で食べていると、半分くらい食べ終わった頃に声を掛けられる。

「ちょっとあんた、半分はレジーナ様に差し上げるのが普通でしょ!何で1人で全部食べようとしているのよ!」

顔をあげるとレジーナの取り巻きの令嬢が目の前に立っていた。
その奥には宰相の娘で王宮で一大派閥を築いていたレジーナが座っているのが見える。

最近、レジーナ様達は王宮で見掛けなかったから、先に逃げたものと思っていたけど、城の外でも捕まるのね。

疲れた体では頭が働かず、ぼーっとレジーナ達を眺めるソフィアに痺れを切らした取り巻きがソフィアの器を奪っていった。

「あっ……」
「食べかけで汚いけど、これで許してあげる。レジーナ様、お待たせしました。これを足しにして下さい」

支給された食事では十分な量は無いため、レジーナ達は他の令嬢の食事を強奪していたようだ。
抵抗する者もいたが、取り巻き2人に押さえられると身動き出来ず、次々と奪われていく。
牢に10人いる内のレジーナを含め3人が結託し、レジーナ派として動いていた。

皆、捕虜となって同じ奴隷階級なのに、まだ自分は高貴だと思っていて馬鹿らしいわね。

冷めた目で見ながらと無駄な争いをする気力さえないソフィアは、無言で壁にもたれて空腹に耐えていた。
食事が下げられると、毛布が配られた。
地下牢は冷えるため皆、重宝しているが、そんな便利な物は勿論狙われる。

「ちょっと、それも寄越しなさい!この方を誰だと思っているの!こんな階級の低い貴族と同じ扱いをされて本当にレジーナ様が可哀想だわ」

また取り巻きがソフィアの毛布を奪いに来た。
しかし、薄手と言えどこれが無ければ下手すれば寒さで体調を崩すかもしれないため、今度は抵抗する。

「いやっ、離して!捕まった以上、もう身分は関係無いわ」
「生意気な口を聞いて許さない!」

ソフィアの抵抗に怒りが増した取り巻きは、2人掛かりでソフィアに乱暴を始めた。
突き飛ばされて倒れたところを蹴ったり叩いたりしてくるため、ソフィアはその場にうずくまるしか無かった。

痛い、助けて。
どうして同じ国の人間にこんな目に合わされるの……。

ひたすら痛みに耐えていると、他の令嬢たちが立ち上がる。

「さっきから偉そうに生意気なのはあなた達でしょう!後ろ楯も無いのに、よくそんな態度を取れるわね」

ついに他の令嬢達が派閥を組んで、応戦し始めたのだ。
そして、敵味方が入り乱れる乱闘騒ぎとなる。
しかし、そんな騒ぎになれば、見張りの兵にすぐ気付かれる。

「お前たち、うるさいぞ!これ以上騒ぐなら罰を与えるぞ」

その声で全員静かになり、それぞれ眠りに就く。
しかし、ソフィアの毛布は騒ぎに乗じて奪われたままであった。

寒い、冷たい。
本当に人間は争うばかりで醜いものね。
味方のはずの同じ国の人間でさえ、傷付け合うのだから戦争が無くならないわけだわ。

地下牢の夜は更に冷える。
しかし、今更取り返すわけにもいかず、ソフィアは丸まって震えながら夜を過ごした。


翌朝、さすがにレジーナの派閥は食事の略奪は辞めたようで完食出来たが、元が粗末な食事のため、あまりお腹は満たされなかった。
朝食を終えると兵士が複数人現れ、今度は後ろ手に縛られる。
そして、縛り終えると責任者らしき兵士が説明を始めた。

「今からお前達の処遇を決める会議に連行する。権利者が引き取ればそのまま別室へ移動となり、拒否すればその場でオークションだ。誰も引き取り手が居なければ軍の預りとなり、ここに戻す。せいぜいお偉いさん方に気に入られるように頑張るんだな」

奴隷オークションに掛けられるような待遇に他の令嬢達は動揺し、ざわめきだす。
一方、元から自分の人生を諦めているソフィアは、顔色を変えずに冷めた表情で自分の番を待っていた。

「次はお前だ。こっちへ来い」

いよいよソフィアの番となり、牢から出され、会場へと移動する。

ジョエル様の言葉は信じていいのかしら。
まあ誰が主でも私が奴隷で自由が無いことは変わらないから、どっちでもいいか。

諦めの表情のまま、ソフィアは会場へと足を踏み入れた。
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