夕闇のネリネ

三条 よもぎ

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第2章 夜明けの光

第25話 関係性

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ネリネがこの屋敷に連れて来られてから1ヵ月が過ぎると、メイド頭のエステルがよく話し掛けてくるようになった。

「ネリネさん、もしお暇だったら孤児院に寄付する靴下を編んで欲しいんだけど、どうかしら?」
「えっと……。はい、お手伝いします。上手く出来るか分かりませんが……」
「まあ、助かるわ。ありがとう。売り物じゃないから見た目は気にしなくて大丈夫よ」

こうやって会話をする2人はまるで親子のようである。
エステルはネリネに対して使用人という立場よりは母親に近い気持ちで接していた。
その安心感からかネリネは素直な気持ちで過ごすことが出来る。

エステルさんは暇を持て余している私のために出来ることを考えてくれたのね。
編み物なんて子どもの頃以来だから久しぶりだわ。

ネリネは久しぶりの編み物で最初は苦戦したが、エステルに教わる内に勘を取り戻していく。

「あっという間に綺麗に作れるようになってすごいわね」
「いえ、あの……、エステルさんの教え方が上手だから……」

ぎこちなさは残りながらもネリネは次第にエステルと過ごす時間が心地よくなってきていた。

何だかエステルさんと一緒にいると母上を思い出すわ。
本当は子どもに戻って甘えたいな。

時折、ふとした瞬間にネリネの心の中に失った青春を取り戻したい気持ちが出てくる。
しかし、それが叶わないことはネリネ本人が1番よく分かっていた。

ここでの生活は所詮、仮の生活。
今後がどうなるか保証が無い中で弱音は吐けないわ。

結局、心の何処かで人を信じられない気持ちも残っているネリネは、全てをさらけ出すことが出来なかった。


毎日、共に過ごしているエステルとは心の距離が近くなったが、相変わらず1週間に1、2回の頻度でしか会わないルイスのことはよく分からないままであった。

「何かやりたいことは見つかったかい?」

以前から幾度となくルイスから質問されるが、やはり生き甲斐の無いネリネは毎回首を横に振るのみである。

「それなら、これからもここで暮らして欲しい。私は君と過ごす時間が楽しいんだ」

そうルイスから言われたネリネはとりあえず頷く。

きっとこの人は独り身で話し相手が欲しいのね。
いつでも処分出来る相手なら気軽に話せるのだろうし。

貴族間の付き合いはお互いの腹の探り合いで、気を抜けないことはネリネも経験済みであった。
そのため、自分のようなどうでもいい存在ならば気を楽に過ごせるのだろうと予想する。

ここを出ても行く当ても無いし、特に危害を加えられることは無いから、しばらくここで過ごしてもいいわね。

感情の起伏が少ないネリネは、無意味な毎日でも何とも思わずに過ごしていた。
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