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第1章 悲しみの果て
第16話 住処
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ここなら身分も経歴も問われないわ。
何にも縛られずに自由に生きたいと思ったネリネは、訳ありの者達が大勢住む貧困区域に身を置くことに決めた。
勿論治安は悪いが、腕力には自信があるため心配は無い。
えっと、確か……。
ネリネは記憶を頼りに入り組んだ路地を歩いていく。
やがて、とあるバラック小屋の前に辿り着くと扉を叩いて声を掛けた。
「ラナさん、いらっしゃいますか?ノーラです」
ネリネが扉の前で待っていると、やがてゆっくりと扉が開いて中から老婆が出てくる。
「あら、ノーラちゃんじゃないか!久しぶりだねえ。最近、娼館で見掛けないから誰かに貰われたのかと思ったよ。突然、どうしたんだい?」
「もう歳で最近客足が遠のいて……。それで部屋を追い出されたんです。行くところが無くて……」
ラナは娼館で掃除婦として働いており、ネリネが任務で娼館を利用する内に知り合いとなった者であった。
「それならここで暮らしな。私も歳を取ると仕事が無くなって、今では掃除をして僅かな賃金で暮らすしか出来ないから苦労が分かるよ」
かつて自身も娼婦だったラナはネリネの境遇が分かり、同情する。
ラナの見た目は老婆であったが、実際は50歳手前であり、ノーラが娘のように思えて可愛がっていた。
「ありがとうございます。お世話になります」
こうしてネリネは人混みに紛れて息を潜めながら暮らすようになる。
日中は靴磨きなどをして、ネリネはなるべく手持ちのお金を減らさずに生活していた。
なるべく目立たずに過ごすためには、皆と同じ暮らしをするのが1番だわ。
今までの辛さと比べると、貧乏ながら自由のある暮らしは全く苦にならなかった。
この暮らしを気に入ったネリネは、時折かつての自室に戻って髪を染色し、ノーラとして生きていくことに決める。
ネリネは目立たずに暮らそうとしても、女性だからと破落戸に襲われることがあった。
ネリネ自身は腕が立つため、自力で撃退出来る。
しかし、他の女性が襲われているのを見て見ぬ振りが出来なかった。
今日も帰り道に少女が組み敷かれているのを見掛けて、ネリネの体が動く。
「くそっ、覚えてろよ!」
ネリネの素早い攻撃により、男性は捨て台詞を吐きながら去っていく。
そして、自由に身動きが取れるようになった少女はネリネをお礼を述べる。
「ありがとうございました」
「気にしないで」
そう言ってネリネはその場から立ち去った。
はあ、こんなに派手に動いたら本当は駄目なのにね。
ネリネの境遇を考えると本来は通り過ぎるべきであるが、いつも体が先に動いてしまう。
どうしても妹の顔が浮かんでくるのよね。
若い女性を見ると助けたくなるネリネの心の中には、まだ家族への情が残っていた。
半年程経つと、ある噂が流れるようになる。
「おい、聞いたか?何でも赤い目の女と目が合うと死ぬらしいぜ」
「おお、俺も聞いたよ。しかも、死ぬのは男だけらしいな。俺も気を付けねえと」
ネリネの行動は貧困区域内で噂となっていた。
暴漢を撃退する際に時には、抵抗を続ける男性の息の根を止めることがあった。
死体は見つかっていないからバレていないと思うけど、これは不味いわね。
ネリネは死体を石と共に袋に入れて川に沈めるなど隠蔽工作をしていたが、それでも素性がバレる不安は残る。
心苦しいけど仕方ないわね。
それからネリネは暴漢を見掛けても関わりを持つことを止め、再び息を潜めて暮らすようになった。
しかし、それから半年後、ネリネがどうしても許せない事件が起こる。
何にも縛られずに自由に生きたいと思ったネリネは、訳ありの者達が大勢住む貧困区域に身を置くことに決めた。
勿論治安は悪いが、腕力には自信があるため心配は無い。
えっと、確か……。
ネリネは記憶を頼りに入り組んだ路地を歩いていく。
やがて、とあるバラック小屋の前に辿り着くと扉を叩いて声を掛けた。
「ラナさん、いらっしゃいますか?ノーラです」
ネリネが扉の前で待っていると、やがてゆっくりと扉が開いて中から老婆が出てくる。
「あら、ノーラちゃんじゃないか!久しぶりだねえ。最近、娼館で見掛けないから誰かに貰われたのかと思ったよ。突然、どうしたんだい?」
「もう歳で最近客足が遠のいて……。それで部屋を追い出されたんです。行くところが無くて……」
ラナは娼館で掃除婦として働いており、ネリネが任務で娼館を利用する内に知り合いとなった者であった。
「それならここで暮らしな。私も歳を取ると仕事が無くなって、今では掃除をして僅かな賃金で暮らすしか出来ないから苦労が分かるよ」
かつて自身も娼婦だったラナはネリネの境遇が分かり、同情する。
ラナの見た目は老婆であったが、実際は50歳手前であり、ノーラが娘のように思えて可愛がっていた。
「ありがとうございます。お世話になります」
こうしてネリネは人混みに紛れて息を潜めながら暮らすようになる。
日中は靴磨きなどをして、ネリネはなるべく手持ちのお金を減らさずに生活していた。
なるべく目立たずに過ごすためには、皆と同じ暮らしをするのが1番だわ。
今までの辛さと比べると、貧乏ながら自由のある暮らしは全く苦にならなかった。
この暮らしを気に入ったネリネは、時折かつての自室に戻って髪を染色し、ノーラとして生きていくことに決める。
ネリネは目立たずに暮らそうとしても、女性だからと破落戸に襲われることがあった。
ネリネ自身は腕が立つため、自力で撃退出来る。
しかし、他の女性が襲われているのを見て見ぬ振りが出来なかった。
今日も帰り道に少女が組み敷かれているのを見掛けて、ネリネの体が動く。
「くそっ、覚えてろよ!」
ネリネの素早い攻撃により、男性は捨て台詞を吐きながら去っていく。
そして、自由に身動きが取れるようになった少女はネリネをお礼を述べる。
「ありがとうございました」
「気にしないで」
そう言ってネリネはその場から立ち去った。
はあ、こんなに派手に動いたら本当は駄目なのにね。
ネリネの境遇を考えると本来は通り過ぎるべきであるが、いつも体が先に動いてしまう。
どうしても妹の顔が浮かんでくるのよね。
若い女性を見ると助けたくなるネリネの心の中には、まだ家族への情が残っていた。
半年程経つと、ある噂が流れるようになる。
「おい、聞いたか?何でも赤い目の女と目が合うと死ぬらしいぜ」
「おお、俺も聞いたよ。しかも、死ぬのは男だけらしいな。俺も気を付けねえと」
ネリネの行動は貧困区域内で噂となっていた。
暴漢を撃退する際に時には、抵抗を続ける男性の息の根を止めることがあった。
死体は見つかっていないからバレていないと思うけど、これは不味いわね。
ネリネは死体を石と共に袋に入れて川に沈めるなど隠蔽工作をしていたが、それでも素性がバレる不安は残る。
心苦しいけど仕方ないわね。
それからネリネは暴漢を見掛けても関わりを持つことを止め、再び息を潜めて暮らすようになった。
しかし、それから半年後、ネリネがどうしても許せない事件が起こる。
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