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第1章 悲しみの果て
第13話 訓練
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次にネリネ達は暗殺手段を仕込まれることとなる。
といっても任せるのは下っ端貴族となるため、グレンからしたら難易度の低い技だ。
しかし、人を殺した経験など無い彼らにとっては耐えられないことばかりであった。
「ううっ、もう嫌だ……」
もう何も感じないと思っていたネリネであったが、新たな訓練が始まるとその辛さに思わず弱音を吐く。
しかし、そう呟いたところで今の状況が変わることは無く、地獄の日々は続いた。
女性であるネリネは娼婦に扮して任務を行う前提で様々な訓練を課された。
「げほっ、ごほっごほっ……」
死刑囚を使った初めての実践練習では終了後に自室でネリネは嘔吐する。
初めて人を殺したショックでその夜は手の震えが止まらなかった。
どうしてこんなことをさせられるの……。
私も死んでしまいたい。
でも、この役割を放棄したら弟や妹達がする羽目になる。
ベッドで毛布を頭まで被って恐怖に震えながらも、目を瞑れば家族の顔が浮かんでくる。
その愛すべき家族の存在だけがネリネの理性を保っていた。
気付けばネリネ達が暗殺集団に入れられてから5年が経過した。
更に人数は減って、残っているのはネリネを合わせて3人である。
「ようやく使い物になる駒が出来たな。貴様らなら経験の浅い下級貴族レベルを始末出来るだろう」
こうしてグレンの許可が下りたため、3人は実際に暗殺を行うようになる。
ネリネは心を殺して任務をこなしたため、何件こなしたか記憶にない。
しかし、1件だけ忘れられない任務があった。
それは任務を開始して2年目の秋のことである。
「これが次のターゲットだ」
そう言われてグレンから渡された紙を見た時に、一瞬だけネリネの眉が動いた。
まさかね……。
紙に記されたターゲットの名前、「ニール・カーナル」に見覚えがあったのだ。
名前の下には「カーナル家、謀反の疑いあり。嫡男を始末せよ」と書かれている。
私と同い年でこの名前……。
気のせいだといいんだけど。
そう思いながら現場に向かったネリネの不安は的中することになる。
「君がノーラか。今日はよろしく」
屋敷で待つネリネの元にやって来た男性はかつてのクラスメイト、ニール本人であった。
やっぱりそうだったか。
ネリネが特別学園に呼ばれる前に在籍していた地元の学園で同じクラスだったのがニールであった。
彼は貴族らしく少し態度は大きいが優しい面もあり、憎めない人という印象である。
彼は私には気が付いていないみたいね。
それもそうか。
ネリネは任務に取り組むようになってから髪を染め、今では茶髪で偽名の「ノーラ」と名乗っている。
それに加えて娼婦らしい濃い化粧を施し、世間ではネリネは死亡したことになっているため、ニールが気付くはずは無かった。
「ノーラと申します。本日はご指名いただき、ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
そう言って頭を下げたネリネの顔は笑顔であったが、心は無に近い仕事モードになっていた。
といっても任せるのは下っ端貴族となるため、グレンからしたら難易度の低い技だ。
しかし、人を殺した経験など無い彼らにとっては耐えられないことばかりであった。
「ううっ、もう嫌だ……」
もう何も感じないと思っていたネリネであったが、新たな訓練が始まるとその辛さに思わず弱音を吐く。
しかし、そう呟いたところで今の状況が変わることは無く、地獄の日々は続いた。
女性であるネリネは娼婦に扮して任務を行う前提で様々な訓練を課された。
「げほっ、ごほっごほっ……」
死刑囚を使った初めての実践練習では終了後に自室でネリネは嘔吐する。
初めて人を殺したショックでその夜は手の震えが止まらなかった。
どうしてこんなことをさせられるの……。
私も死んでしまいたい。
でも、この役割を放棄したら弟や妹達がする羽目になる。
ベッドで毛布を頭まで被って恐怖に震えながらも、目を瞑れば家族の顔が浮かんでくる。
その愛すべき家族の存在だけがネリネの理性を保っていた。
気付けばネリネ達が暗殺集団に入れられてから5年が経過した。
更に人数は減って、残っているのはネリネを合わせて3人である。
「ようやく使い物になる駒が出来たな。貴様らなら経験の浅い下級貴族レベルを始末出来るだろう」
こうしてグレンの許可が下りたため、3人は実際に暗殺を行うようになる。
ネリネは心を殺して任務をこなしたため、何件こなしたか記憶にない。
しかし、1件だけ忘れられない任務があった。
それは任務を開始して2年目の秋のことである。
「これが次のターゲットだ」
そう言われてグレンから渡された紙を見た時に、一瞬だけネリネの眉が動いた。
まさかね……。
紙に記されたターゲットの名前、「ニール・カーナル」に見覚えがあったのだ。
名前の下には「カーナル家、謀反の疑いあり。嫡男を始末せよ」と書かれている。
私と同い年でこの名前……。
気のせいだといいんだけど。
そう思いながら現場に向かったネリネの不安は的中することになる。
「君がノーラか。今日はよろしく」
屋敷で待つネリネの元にやって来た男性はかつてのクラスメイト、ニール本人であった。
やっぱりそうだったか。
ネリネが特別学園に呼ばれる前に在籍していた地元の学園で同じクラスだったのがニールであった。
彼は貴族らしく少し態度は大きいが優しい面もあり、憎めない人という印象である。
彼は私には気が付いていないみたいね。
それもそうか。
ネリネは任務に取り組むようになってから髪を染め、今では茶髪で偽名の「ノーラ」と名乗っている。
それに加えて娼婦らしい濃い化粧を施し、世間ではネリネは死亡したことになっているため、ニールが気付くはずは無かった。
「ノーラと申します。本日はご指名いただき、ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
そう言って頭を下げたネリネの顔は笑顔であったが、心は無に近い仕事モードになっていた。
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