夕闇のネリネ

三条 よもぎ

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第2章 夜明けの光

第32話 悟り

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あれから1週間が経過した。
ネリネが部屋で1人、孤児院に寄付する靴下を編みながらポツリと独り言を漏らす。

「どうして自分の気持ちを口に出せたのだろう?」

ネリネはふと、この前に自分の心内をなぜルイスに話せたのか疑問に思った。
ぼんやりとそのことを考えていると、ある1つの答えが頭に浮かぶ。

そうか、いつの間にかあの人のことを信頼出来るようになっていたんだ。
ここにいたら何か変われるのかもしれない。

以前のネリネはもう2度と他人は信用出来ないと思っていたが、この屋敷で暮らすようになって無意識の内に気持ちが変わっていた。
その結果、自分の心の中を他人に吐き出すことが出来たのだ。

「まだ生きていてもいいのかもしれない……」

靴下を編むために手元を見ていたネリネは顔を上げてそう呟くと、窓の外の遠くを見つめながら考え事をする。
自分の生きる意味を失っていたネリネであったが、もしかしたらここにいればそれが見つかるかもしれないと希望を持つようになった。


それからネリネの生き方が少し変わった。

「エステルさん。以前、行った孤児院へ渡す靴下作りの他に手伝えることはありますか?」 

今まで受け身の行動ばかりで無気力さが体を支配していたネリネであったが、今回はこの屋敷に来て初めて自主的に行動したのだ。

とりあえず罪滅ぼしに孤児院の手伝いをしよう。
貧しい人々の暮らしは十分に見てきた。
偽善と言われるかもしれないが、困っている人のために何かをしたい。

その気持ちからネリネは行動したのであった。
質問を受けたエステルはしばらく考えてから返事をする。

「……そうね、それだったら教会の手伝いの方がいいかもしれないわ。孤児院は人手よりも物資を必要としているの。もし、何かを手伝いたいなら教会の炊き出しを手伝ったりしたら喜ばれると思うわ」

それを聞いたネリネは教会の手伝いに行くことを心に決める。


その後、月に1回の炊き出しの手伝いや街の清掃活動を行うようになった。
ネリネが精力的に動くようになったことを嬉しく思ったエステルも協力する。

「まず、小麦粉の分量を量ります。それから……」

今日は炊き出しに持っていくパンの作り方をネリネは教わっていた。
小麦粉を捏ねながら、前回の炊き出しの様子を思い出す。

この前はいろんな人からありがとうって言われて嬉しかったなあ。
誰かから必要として貰っている気がするから、自分が生きる意味があると思えるわ。

少しだけ口元を緩めながら生地を捏ねるネリネを見て、エステルも柔らかな笑みを浮かべていた。
ネリネを応援しているのはエステルだけでは無い。
勿論、ルイスもネリネの活動を支援していた。
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