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第8章 最後の戦
第30話 真実(最終話)
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振り下ろされた刀は、千代を縛っていた縄を切った。
口の布を外され、目隠しが取られた千代の視界には、縁側に座る知久とこちらに駆け寄ってくる景臣が映る。
「千代!」
「……わ、私、……生きてる?」
状況は理解出来ないが、どうやら命は助かったようだ。
そのまま、景臣に抱き締められ、安堵した千代は涙を流しながら景臣の背中に腕を回した。
「瑠璃姫の身を守るためとは言え、騙してごめんね」
知久も千代の元へ近寄り、経緯を説明した。
紫雲城へ仕掛けた千代は敗北したが、健闘ぶりから精霊師の実力が更に評判となっていたこと。
天下統一目前の経盛を倒したことで、下克上を狙う武将が増え、千代を我が物にする動きが加速する恐れがあったこと。
そのため、千代は亡くなったことにするために、今回の作戦を実行したこと。
千代の知らなかった事実が次々と明らかになり、目を丸にして話を聞いていた。
「もうこれで君はただの千代だ。もともと農民の出で、戦とは縁の無い生活をしていた君には、元の平穏な生活の方がお似合いだよ」
「やっと普通の暮らしが出来るんだ……。ありがとうございます!」
安心すると共にいくつかの疑問点が千代の中に浮かんだ。
「でも、これから戦が増えるなら精霊師として働いた方がいいのでしょうか?それと牢の中で経盛様にお会いしました。経盛様の処遇はどうなるのでしょうか?」
「それなんだけど、今後は経盛と手を組んで戦おうと思っているんだ。経盛には内緒だけど、今は暗殺されるのを防ぐために警護の厳重な牢に入れているんだ。だから、精霊師の数は足りているから心配しなくていいよ。それにこれ以上君を危険に晒すと、景臣に何されるか分からないからね」
そう言って知久はちらっと景臣の方を見る。
突然の景臣の名前に、不思議そうな顔をして、千代も景臣の方を向いた。
「えっ?何で景臣くん……?」
「知久様!その話はいいですから!千代、とりあえず家に帰ろう!」
「えっ、あっ、うん!」
慌てる景臣に押しやられながら、千代は紅羽城を後にした。
家に着いても千代はまだふわふわとした感覚の中にいた。
「何だか夢みたい。本当に普通の暮らしに戻れるんだよね?」
「ああ、今までよく頑張ったな。精霊師の千代は死んだことになっているから村には戻れないが、ここに両親や兄弟を呼んで会うことは出来るぞ」
「もう逃げ回らなくていいんだ。本当によかった。景臣くん、ずっと助けてくれてありがとうね」
千代から緊張が抜け、柔らかな顔付きになる。
そして、紅羽城での話の続きを始める。
「ところで知久様の言っていた景臣くんが何をするか分からないって何のこと?」
「あー、あれかー。うーん、笑わないで聞いてくれよ。千代は本能寺の戦いの後、丸1日、眠っていたんだ。だから、心配の余り、千代がこのまま目を覚まさなかったら、ここまで千代を追い込んだ知久様を許さないって言っちゃったんだよな……」
てっきり目を覚ましたのは翌日だと思っていた千代は、丸1日以上眠っていた事実に驚いた。
それと同時にそこまで景臣が心配していてくれたことに胸が躍る。
「心配掛けてごめんね。景臣くんの気持ちが嬉しいよ!あのね、この戦が終わったら景臣くんに伝えようと思っていたことがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「おっ、奇遇だな。俺も千代に会ったら言おうと思っていたことがあるんだ」
千代は告白するのはやはり勇気がいるため、先に景臣の話を聞くことにした。
「単刀直入に言う。千代、好きだ!これからここに住んでくれ。昔から一緒にいて楽しいし、千代がここに来てから生活が見違えるように変わった。好きな人のためならこんなにも頑張れるんだと分かった。これからも守っていきたいから、ここにいてくれ!」
景臣にとって、千代のいる生活が当たり前となっていた。
これからもずっと一緒にいたい。
それは千代も同じ気持ちである。
千代の答えは1つ、もう決まっていた。
「私も景臣くんに好きって言おうと思っていたの。嬉しい!どんな時でも側にいてくれた景臣くんのおかげで、平穏な暮らしを手に入れられたわ。本当にありがとう!これから末永く宜しくお願いします!」
返事を聞いた景臣は千代を抱き寄せ、お互いに見つめ合う。
千代が目を閉じると、景臣の顔が近付き、唇が重なった。
お互いの気持ちが通じ合った瞬間であった。
その後、手を組んだ経盛と知久によって天下統一がなされ、平和な時代が訪れた。
そして、夫婦になることを決めた2人は、家族や親しき者たちに囲まれながら祝言を挙げた。
皆に祝福され、景臣と千代は幸せに満ち足りた表情である。
2人は寿命が尽きるまで仲睦まじく過ごした。
口の布を外され、目隠しが取られた千代の視界には、縁側に座る知久とこちらに駆け寄ってくる景臣が映る。
「千代!」
「……わ、私、……生きてる?」
状況は理解出来ないが、どうやら命は助かったようだ。
そのまま、景臣に抱き締められ、安堵した千代は涙を流しながら景臣の背中に腕を回した。
「瑠璃姫の身を守るためとは言え、騙してごめんね」
知久も千代の元へ近寄り、経緯を説明した。
紫雲城へ仕掛けた千代は敗北したが、健闘ぶりから精霊師の実力が更に評判となっていたこと。
天下統一目前の経盛を倒したことで、下克上を狙う武将が増え、千代を我が物にする動きが加速する恐れがあったこと。
そのため、千代は亡くなったことにするために、今回の作戦を実行したこと。
千代の知らなかった事実が次々と明らかになり、目を丸にして話を聞いていた。
「もうこれで君はただの千代だ。もともと農民の出で、戦とは縁の無い生活をしていた君には、元の平穏な生活の方がお似合いだよ」
「やっと普通の暮らしが出来るんだ……。ありがとうございます!」
安心すると共にいくつかの疑問点が千代の中に浮かんだ。
「でも、これから戦が増えるなら精霊師として働いた方がいいのでしょうか?それと牢の中で経盛様にお会いしました。経盛様の処遇はどうなるのでしょうか?」
「それなんだけど、今後は経盛と手を組んで戦おうと思っているんだ。経盛には内緒だけど、今は暗殺されるのを防ぐために警護の厳重な牢に入れているんだ。だから、精霊師の数は足りているから心配しなくていいよ。それにこれ以上君を危険に晒すと、景臣に何されるか分からないからね」
そう言って知久はちらっと景臣の方を見る。
突然の景臣の名前に、不思議そうな顔をして、千代も景臣の方を向いた。
「えっ?何で景臣くん……?」
「知久様!その話はいいですから!千代、とりあえず家に帰ろう!」
「えっ、あっ、うん!」
慌てる景臣に押しやられながら、千代は紅羽城を後にした。
家に着いても千代はまだふわふわとした感覚の中にいた。
「何だか夢みたい。本当に普通の暮らしに戻れるんだよね?」
「ああ、今までよく頑張ったな。精霊師の千代は死んだことになっているから村には戻れないが、ここに両親や兄弟を呼んで会うことは出来るぞ」
「もう逃げ回らなくていいんだ。本当によかった。景臣くん、ずっと助けてくれてありがとうね」
千代から緊張が抜け、柔らかな顔付きになる。
そして、紅羽城での話の続きを始める。
「ところで知久様の言っていた景臣くんが何をするか分からないって何のこと?」
「あー、あれかー。うーん、笑わないで聞いてくれよ。千代は本能寺の戦いの後、丸1日、眠っていたんだ。だから、心配の余り、千代がこのまま目を覚まさなかったら、ここまで千代を追い込んだ知久様を許さないって言っちゃったんだよな……」
てっきり目を覚ましたのは翌日だと思っていた千代は、丸1日以上眠っていた事実に驚いた。
それと同時にそこまで景臣が心配していてくれたことに胸が躍る。
「心配掛けてごめんね。景臣くんの気持ちが嬉しいよ!あのね、この戦が終わったら景臣くんに伝えようと思っていたことがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「おっ、奇遇だな。俺も千代に会ったら言おうと思っていたことがあるんだ」
千代は告白するのはやはり勇気がいるため、先に景臣の話を聞くことにした。
「単刀直入に言う。千代、好きだ!これからここに住んでくれ。昔から一緒にいて楽しいし、千代がここに来てから生活が見違えるように変わった。好きな人のためならこんなにも頑張れるんだと分かった。これからも守っていきたいから、ここにいてくれ!」
景臣にとって、千代のいる生活が当たり前となっていた。
これからもずっと一緒にいたい。
それは千代も同じ気持ちである。
千代の答えは1つ、もう決まっていた。
「私も景臣くんに好きって言おうと思っていたの。嬉しい!どんな時でも側にいてくれた景臣くんのおかげで、平穏な暮らしを手に入れられたわ。本当にありがとう!これから末永く宜しくお願いします!」
返事を聞いた景臣は千代を抱き寄せ、お互いに見つめ合う。
千代が目を閉じると、景臣の顔が近付き、唇が重なった。
お互いの気持ちが通じ合った瞬間であった。
その後、手を組んだ経盛と知久によって天下統一がなされ、平和な時代が訪れた。
そして、夫婦になることを決めた2人は、家族や親しき者たちに囲まれながら祝言を挙げた。
皆に祝福され、景臣と千代は幸せに満ち足りた表情である。
2人は寿命が尽きるまで仲睦まじく過ごした。
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