1 / 30
第1章 予知された目覚め
第1話 芽吹きの儀
しおりを挟む
芽吹きの儀、それは16歳になると行われる精霊師を見出だす儀式である。
跪く千代の差し出す手に、宮司が手を翳すと、両者の手が朧げに光った。
「精霊師の誕生じゃ。皆、この者を称えよ」
皆が称賛の声を口々にする中、千代は満足そうな顔をしていた。
なぜなら、こうなることは予期していたからである。
それは1年前のことであった。
ある日、千代は交通事故に遭う夢を見た。
夢を見ている時は、見たこともない鉄の塊が迫ってくる恐怖に怯え、これが交通事故とは分からなかった。
しかし、目覚めた時、全てを思い出していたのである。
驚きを抑えきれず、思わず独り言を言う。
「私、21歳で死んだんだった……。ここは途中までプレイしていた乙女ゲームの世界……?千代ってヒロインの名前じゃないの!?」
芽吹きの儀、精霊師、紫雲城、どれも全て乙女ゲーム「戦乙女の恋愛術」で聞いた単語であった。
そして、8歳の時に父と見に行った戦が頭に思い浮かんだ。
あの頃は出し物を見ている感覚であったが、今なら意味が分かる。
「千代、明日は紫雲城に戦を見に行こう」
「父様、戦ってお殿様とお殿様が戦うことでしょう?戦いは怖いよ」
「人同士が戦っていたのは昔の話さ。今は土壌兵同士が戦うから、駒同士が戦う将棋のようなものさ」
父の説明は難しくてよく分からなかった。
しかし、父から見れば分かる、面白いから行こうと誘われ、千代は父と一緒に戦を見に行くことにした。
昔は戦で田畑が荒らされ、駆り出された農民も殺され、国全体が疲弊していた。
そこで、戦では戦場が決められ、埴輪に似ている土壌兵が用いられるようになった歴史がある。
前世でゲームをプレイしていた頃はただの設定だと思っていたが、暮らしてみると理にかなっていると感じた。
「わあー、広いね!見晴らしもいいね!」
「そうだろう、今日はいい席が取れたんだ」
戦場を見下ろす席に座り、その景色に千代は喜んでいた。
戦場は前世での陸上競技場のイメージだ。
城の前方500m四方に作られ、戦場を囲む座席から観覧出来る。
厳しい城主で無ければ、どの城主でも大抵生活は変わらないため、農民たちは娯楽感覚で戦を観覧していた。
「さあ、戦が始まったぞ。あれが土壌兵だ」
「人や馬の形をしているのね。何で動いているの?」
「それは精霊師と呼ばれるお方が魂を宿しているからだよ。16歳になったら芽吹きの儀で分かるから、千代にも力があるといいね」
父の解説を聞きながら、白熱した戦いを千代は楽しんで見ていた。
「あの土壌兵は人形師が作っているんだ。幼馴染の景臣くんの家が人形師をやってるから、千代も見たことあるかな?」
「ううん、景臣くんが作ったのはいつもでこぼこの塊ばかりで、あんな綺麗な形をしてないから、土壌兵って気付かなかったわ」
この日の戦は我が国の城主、藤堂様が勝利した。
家に帰ってから、千代以外の兄弟の面倒を見ていた母にたくさん話をした。
そして、明日は景臣くんにも話そうと思いながら床に就いた。
跪く千代の差し出す手に、宮司が手を翳すと、両者の手が朧げに光った。
「精霊師の誕生じゃ。皆、この者を称えよ」
皆が称賛の声を口々にする中、千代は満足そうな顔をしていた。
なぜなら、こうなることは予期していたからである。
それは1年前のことであった。
ある日、千代は交通事故に遭う夢を見た。
夢を見ている時は、見たこともない鉄の塊が迫ってくる恐怖に怯え、これが交通事故とは分からなかった。
しかし、目覚めた時、全てを思い出していたのである。
驚きを抑えきれず、思わず独り言を言う。
「私、21歳で死んだんだった……。ここは途中までプレイしていた乙女ゲームの世界……?千代ってヒロインの名前じゃないの!?」
芽吹きの儀、精霊師、紫雲城、どれも全て乙女ゲーム「戦乙女の恋愛術」で聞いた単語であった。
そして、8歳の時に父と見に行った戦が頭に思い浮かんだ。
あの頃は出し物を見ている感覚であったが、今なら意味が分かる。
「千代、明日は紫雲城に戦を見に行こう」
「父様、戦ってお殿様とお殿様が戦うことでしょう?戦いは怖いよ」
「人同士が戦っていたのは昔の話さ。今は土壌兵同士が戦うから、駒同士が戦う将棋のようなものさ」
父の説明は難しくてよく分からなかった。
しかし、父から見れば分かる、面白いから行こうと誘われ、千代は父と一緒に戦を見に行くことにした。
昔は戦で田畑が荒らされ、駆り出された農民も殺され、国全体が疲弊していた。
そこで、戦では戦場が決められ、埴輪に似ている土壌兵が用いられるようになった歴史がある。
前世でゲームをプレイしていた頃はただの設定だと思っていたが、暮らしてみると理にかなっていると感じた。
「わあー、広いね!見晴らしもいいね!」
「そうだろう、今日はいい席が取れたんだ」
戦場を見下ろす席に座り、その景色に千代は喜んでいた。
戦場は前世での陸上競技場のイメージだ。
城の前方500m四方に作られ、戦場を囲む座席から観覧出来る。
厳しい城主で無ければ、どの城主でも大抵生活は変わらないため、農民たちは娯楽感覚で戦を観覧していた。
「さあ、戦が始まったぞ。あれが土壌兵だ」
「人や馬の形をしているのね。何で動いているの?」
「それは精霊師と呼ばれるお方が魂を宿しているからだよ。16歳になったら芽吹きの儀で分かるから、千代にも力があるといいね」
父の解説を聞きながら、白熱した戦いを千代は楽しんで見ていた。
「あの土壌兵は人形師が作っているんだ。幼馴染の景臣くんの家が人形師をやってるから、千代も見たことあるかな?」
「ううん、景臣くんが作ったのはいつもでこぼこの塊ばかりで、あんな綺麗な形をしてないから、土壌兵って気付かなかったわ」
この日の戦は我が国の城主、藤堂様が勝利した。
家に帰ってから、千代以外の兄弟の面倒を見ていた母にたくさん話をした。
そして、明日は景臣くんにも話そうと思いながら床に就いた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる