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三十話 拒否は絶望に

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 話の都合上、本編ですが松川視点の回想シーンがあります。


─────────────────────






「あなたは最低な人間だ。──マツカワさん、いや、マツカワ被告。 を殺したな?」
 
 裁判長はそう松川を睨みつけ、裁判長の目からは"怒り"が映像越しでも分かる。
 対する松川は網からの脱走の手を止め、固まっていた。──しかしそれは暫時。すぐにハッとして睨みつけた。

「は、はぁ? ──何を言い出すかと思えば。僕が楜澤を殺した?そんなこと……っっ???!」


 松川が楜澤を殺したことを否定した直後、松川は網の中で悶え苦しむ。

 その姿を見た裁判長はさらに追い討ちをかける。

「マツカワ。君は私のことを何も知らず、ここに来たようだ。
 ──私の名前は"クリオネル・テスタ"。私は人間族と精霊との混血でね。精霊族は神に最も近い種族と言われ『悪行を行えない』のだ。それが何故か無知な愚か者に教えてやろう。精霊族固有の力『真実の翼』があるからだ!」

 
 告白をした瞬間、裁判長の左肩甲骨の辺りから"白い羽"が現れる。
 蝶の羽にも見えるその美しく神々しい羽の前では『心が洗われる』──そう感じた。

「私は精霊族の血を半分受け継ぐ、人間。私の前で『"偽り"の言葉を述べれば、身体中に痛みが襲う」。お前は今『クルミサワ タクミ』を殺すわけがないと言ったが、それが嘘だとすれば──」

 最後まで言わずテスタ裁判長は、机の引き出しに向かう。撮影者のエキソンもそこで撮影魔法を閉じようとした──その時だった。




─────────────────────

 俺も檻の中で最初この映像を見た時、目を疑った。


"グサッ"

 
 何かが刺された音。


「……ク、ク……ハハハハハハハハハハッッ!!!」


 網の中で腹を抱えて笑う松川。


"ドサッ!!?"


 松川の笑いと共に仰向けに倒れるテスタ裁判長。腹部は赤く染まっている。




"カラン"



 金属が落ちた音。そしてテスタ裁判長が倒れたことによって見た影。




「「ハハハハハハハハハハッッ!!!!!」」




 松川の笑いとおなじトーンで笑うその影──松川だった。



 下品な二人の松川の笑い声が裁判長室に響き渡る。そして更に信じられない光景が映る。


"バタン"



 エキソンが映像を撮る後のドアが突然閉まる。その時のエキソンも驚いたのか、映像を後ろにまわしたのだ。

 そこに現れたのは、もう一人の松川だった。



 面談の時と同じ現象。
 国王は目を丸くしてその映像を見ている。


 俺が松川に触ると「error」と頭に表示が浮かんだ時と同じ。あの時の俺は『"ルエル"が奴隷にされる・自分のせいで松川に──!!』という気持ちが大きすぎて、あの不可解な現象に注目できなかった。
 しかし冷静に、そしてこの映像を見てその可能性は極めて高くなる。

 その答え合わせを松川はご丁寧にしてくれた。



─────────────────────

「……ど、ういう、ことだ………」

 赤い血を腹からドロドロと流すテスタ裁判長はかすれた声で松川に問う。
 すると今ドアから入ってきた松川が冷静に話す。歪んだ顔だった。

「ごめんな。テスタ裁判長。お前が俺にしっかり従ってくれさえすれば、殺す気はなかったんだけどね。」

 そう言うと松川は右手を上に掲げ、指を鳴らす──すると網に引っかかった松川とテスタ裁判長を刺した松川が跡形もなく消えた。
 そして松川はテスタ裁判長の椅子に座り、倒れる彼を見下ろした。

「お前が言った通りだよ。俺が楜澤を殺した、息を止めてあげたんだ。」

 そうサイコパス的な笑みを浮かべた松川はまた右手で指をならした。その合図でドアが開く。入ってきたのは松川と同じ勉強組の鈴木 充すすずき みつるだった。
 
「この一件の犯人は俺と鈴木だよ。」


 そうキッパリと言い切る松川。


「テスタ裁判長、冥土の土産に真実を教えてあげよう。刺した包丁には少量の毒が塗りこまれていてね──"デッドスコーピオン"だっけか。お前はもう助からない。もうすぐ毒が回ると思うよ。」
「………!!?………ま、まさか、貴様ら……最初から、私──「いや、話はちゃんと聞けよ。お前は俺の思い通りに動かなかったの。更に俺に対して手を出した──だから殺すしかなくなったの。分かる?」


 テスタ裁判長の話を遮り、松川は不機嫌そうに言った──理不尽極まりない。『自分の思い通りにいかない』となれば、殺す。どう考えても計画的な殺人だ。それを正当防衛とする、『仕方が無い』と。
 もちろんテスタ裁判長は理解できるはずがない。死の間際であるはずなのに松川を睨みつけるが、松川はそれを嘲笑う。

「ハハハッ!! 
 ──まぁそういう顔を期待してなかった、と言えば嘘になるけど。まあいい、そんなことばっかり話していると、死んじゃうしね。」

 松川の歪んだ顔。『裁判長の死』を喜び、更に死に悶える姿を待つように笑う。



「齋藤があの夜、倉庫に俺達より前に行って楜澤の首を締めている時は本当に驚いたよ。だって僕達も楜澤、殺すつもりだったんだから。」

 その衝撃の事実から始まる惨劇を松川はゆっくりと話し始めた。

─────────────────────


 ──家畜共を日をまたいで可愛がったあの後に松川おれと富川の元に楜澤が話をしたいと言ってきた。

「ごめんね、足を止めてもらって。」
「言いたいことがあるなら早く言え。俺は眠いんだよ。家畜共を調教したせいで。」

 そうキツく言う富川の顔だが、どこか嬉しそうだ。最近はストレスの発散が出来ていなかった。俺も機嫌が良かった。

「さっき手錠とか猿轡とか作ったんだけど……」
「あぁ、あれか?ほんと、お前はいい仕事するよなぁ。信頼してるよ。なぁ!」
「うん、そうだね。富川の言う通りさ。毎回毎回ありがとな。家畜共も大喜びだったよ!──それでさ、次作ってもらいたいものあるんだけど、いいかな?」

 そう言うと、楜澤の体はビクッと跳ねた。──俺は知っている。楜澤はあまり家畜を痛めつけない。それは自分が中学時代遭っていたという虐めが原因ということ。更に家でも虐待を受けていたことも。
 齋藤も生物学上は人間だ。同じ目に遭っている齋藤にほんの少し同情の気持ちがあるのだろう。

「なになに? 何作ってもらうの?」

 そう富川は食い付いてくる。こいつはある意味単純──いや、バカだ。でも使える。

「黒い鞭だよぉ! 俺ってば富川と同じく家畜想いだからさぁ、鞭で叩いてあげれば嬉しがるんじゃないかなぁってっ!」
「ハハハハハ!!! それいいな! さすが松川ぁ! 天才っ!!」


 富川は簡単に乗ってきた。──しかし楜澤は違かった。

「あのさぁ!! その話なんだけど………僕もう"そういうの"やりたくない……っていうか、別に人のためになるものづくり、嫌いではないんだけど……でもこれ以上はそういう用途では使われたくない。」

 そう言う楜澤の顔は富川と俺に怯えながらも真剣だった。

「………僕はやっぱり齋藤くんのことは、『齋藤 誠』っていう一人の人間にしか見えないし……碓氷さんも同じで………僕は富川くんや松川くんが悪いことをしてるなんて思ってないんだ!……でも、僕は見てるだけがいいっていうか………うん。」


 たどたどしい喋り方。しかしそれは本当の言葉だということ。──俺は横に立つ富川の顔を見る。
 多分初めてだ。周りから見ればただの『虐め』という行為にクラスメイトが"やめたい"という意志を表したのは。
 だからもう俯いてしまっている楜澤には見えなかったと思う。富川の怒りの表情が。

 そして富川は優しい声で、怒りを押し殺して笑顔で楜澤の頭に手を置いた。

「そうか。言ってくれてありがとな。」

 予想外のその声と言葉に驚いた楜澤は顔を上げる──しかし同時に富川の膝蹴りが楜澤の腹にクリーンヒットする。


"カハッッ!!!??"


 楜澤の口からは血混じりの唾液が吐き出される。端正な顔立ちが一気に崩れる。


「なんて言うと思ったかッッ!!!」

 怒鳴り散らす富川に、その場に崩れる楜澤。それを俺はただただ見ていた。

『バカなヤツ』と思いながら。



「なるほど! お前はつまり、俺が家畜を虐めてると言いたいのか!?」

 そう言い、倒れる楜澤の胸ぐらを掴み、持ち上げる。楜澤の目からは涙が出ていて端正な顔は台無しだ。

「………い、いや、そうじゃ、ない──「じゃあなんだ?何が気に食わないと? あんなにお前のこと信頼してたのに、裏切りやがってッッ!!」

 富川は楜澤をそのまま投げ飛ばす。そして富川の口から楜澤にとっては『地獄』の幕開けとなろう言葉をかけた。

「お前も今日から家畜だ。鞭をしっかり作って明後日俺の部屋に届けに来い。届けられなかったら、お前も可愛がってやるよ。」


 富川は楜澤が倒れる反対の方向へと歩く。俺はその後を付いていく。──その後の楜澤の顔は真っ青になっていた。『また中学の時のような悪夢が来る』そう思ったのだろう。

『ほんとバカなやつ。従ってればいいものを。』

 そう口には出さず、俺は黙って富川の後を付いて歩いた。




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「それが昨日の日が明けない時の"バカな楜澤が家畜になった時"の話だ。──その後、楜澤は鈴木の元に訪れた。理由は『自殺したい』という相談だ!!」




 
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