残党シャングリラ

タビヌコ

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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル24」

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色んな悪魔を見てきた。
立ち向かって来た者。
命乞いしてきた者。
逃げ出した者。
騙そうとして来た者。
どの悪魔も覚えている。
彼らは形は違えど皆、生きることに真っ直ぐな者達だった。

色んな天使を見て来た。
媚びへつらう者。
尊敬してくる者。
敵意を向けて来る者。
騙そうとして来る者。
どの天使がどの天使かはよく覚えていない。
彼らは形は違えど皆、何処かに余裕のような物を抱えていた。

ワシは天使、そこは澱みなく、滞りなくそうだと言える。
だが、だからと言って、天使の味方と言う訳ではない。
いや、語弊があるな。
天使側の人間であるという事は間違いない。
しかし、嫌いか好きかで言うと。
ワシは天使の奴らが、どうしようもなく嫌いだったのだ。

何故か?

その質問の答えは簡単だのう。
今このワシの目の前におる。
こんな男が、こんな人間が。
敵わずとも叶わずとも適わずとも。
ワシに立ち向かってくるような
そんな奴が、
一人も生まれようがないからだよ。


ドグシャァァァァァァァァァァ!!!!!
「があぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぬんぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
手四つで向き合う天使と悪魔。
お互いに手を横に広げ、同時に頭突きで額を血に濡らす。
ここに来て尾方は捨て身をやめ、死ぬギリギリのラインの出力を保っていた。
それでいて本気の筋頭を相手にして、力負けをしていない。
いや、正しくは力ではやはり到底届いていない。
よーいドンでやれば尾方は瞬く間に筋頭の前に為すすべなく取り押さえられているだろう。
しかし、立ち止まっている筋頭に対して尾方は全力で突進している。
その勢いを逃がさず尾方は利用する。
しかし、それでも限界は来る。
少し時がたてば勢いは死に。
尾方はたちまち手四つで不利な状況に追い立てられる。
しかし不思議な事に、数刻たっても尾方が圧され始める気配はない。
これは説明の仕様がない。
現在尾方は、圧倒的に劣る膂力で筋頭を相手取っている。
その不条理を、僕は説明する言葉を持たない。
理外だ。不可解である。
しかしその理由は、お互いの表情をみれば自ずと理解できた。
尾方は髪の毛を逆立てて、鬼気迫る表情をしており、筋頭は少し動揺している様に見て取れる。
気圧されているのだ。あの筋肉の天使が。
決死の先、必死の先。
重死の気迫に。
それは大凡この世にある気配の中で恐らく危なっかしく、切羽詰っており、どこまでも真っ直ぐであった。
「.........ッッッ!!?」
何が起こっているのか不可解そうな表情の筋頭は、この戦争で初めて片膝を着く。
しかし、すぐに元の笑顔を取り戻す。
不思議に思ったことも、天使の使命も、この戦いも。
全てどうでもいい。
今この目の前にある奇跡に。
自分が賭けられる全力を。
もう一回り全身の筋肉が膨張する。
集中を研ぎ澄まし、只一点。
正面の人間に向けて、拳を突き出す。
それは人智を超えた、最重の物量兵器。
回避など―――

「はい、隙ありです」

さっきまでの鬼気迫る勢いが嘘のように、尾方はケロっとした顔で構えを解く。
「―――――?」
右拳に全集中をしていた筋頭はなにがなんだか分からない。
そう、背中に感じる正体不明の手に触れられた感覚など、全く気づかない。
『ひかれ者の小唄(アンダードッグ)』
筋頭の渾身の一撃は尾方の片腕に事も無げに受け止められる。
「師匠、ナイスタイミング」
「だろう? 天使の油断には人一倍敏感でねぇ」
筋頭の背中には、悪道替々の手が添えられていた。
「!!?」
異変に気づいた筋頭は振り向いて手を振り払おうと動く。が。
『雁字搦め(ロックダウン)』
無数の電信柱が振り向くのを邪魔するように地面に刺さり、筋頭の身体に自由を一瞬奪う。
「ふぅ、駄目になったメイク代は高くつくわよ」
搦手がクレーターの上から手をヒラヒラと振る。
「...ッ!!!」
こうなっても、筋頭にはこの状況を打破する手段が一つあった。
この戦闘中になんどか使用した全範囲の衝撃波。
全身の筋肉を一瞬でバンプアップする事によるノーモーションの衝撃波。
触れてる二人を吹き飛ばし、各個撃破でジ・エンド。
天使の勝利は俄然揺るがない。
当然、必然。
ただ勝つようにして、勝つ。
嫌っていた余裕を、知らず知らずの内に筋頭は持ってしまっていた。
故に、この勝負はここに決着した。
「オヤジ、俺達は卑怯かい?」
筋頭の側面に立ち。スッと尾方と替々に手を向ける影がひとつ。
これで衝撃波は國門に無効化される。
詰みである。
筋頭は、大きな溜息をついて言う。
「卑怯なもんかい。よく戦った」
瞬間、筋頭がグンッと動く素振りを見えたので、
尾方が顎に裏拳をあて、國門が後ろ頭を蹴り抜き。
筋頭は意識を失った。


筋頭に油断があった訳ではなかった。
尾方以外の三人。
これ等は、あの一撃に耐えられる訳がなかったのだ。
筋頭が大雑把にそう計算した訳ではなく。
大よそ生物が、それは天使を含み、あの距離にあの衝撃を受け、存命できる生命は存在しない。
事実がそうであった。
しかし、三人は生き残り、なんでもない様子で筋頭との戦闘に戻った。
「なぜだ?」
昏倒した筋頭は、ほんの10分ほどで意識を取り戻し、大の字で寝転がったまま開墾一番疑問を提した。
「さぁ? それがこっちもさっぱりでさ。何でかあの時、一瞬身体が浮くような感覚がして、衝撃が体をすり抜けたんだよね。そのあと第二派で吹き飛ばされたんだけどさぁ」
尾方は足を投げ出してすっかりリラックスした様子で言う。
「そうではない。なんでワシが生きとるのか、あまつさえ拘束もしていないのか聴いとる」
その質問に、ああっと尾方は近くを飛ぶドローンを差す。
「ウチのボスの意向。決着したならそれでいいんじゃないか、かわいそうじゃし。だって」
「...かわいそう?」
筋頭はキョトンとする。
そして数瞬考えた後、大笑いをしだした。
それはそれは快活に。
「ワシにか? ワシがかわいそうって? ぶわっはっはっはっははははは」
ひとしきり笑うと、筋頭はすっきりしたように言う。
「こんなに笑ったのはいつ以来か。参った参った! もう一暴れしようかと思ったがこりゃ部が悪いわい!」
「まだ暴れるつもりだったんかい...」
「して、ワシはどうすればいいんかいの? 負けたんじゃ。なんか不損失の一つもこうむるべきなんじゃないんか?」
尾方は、苦笑しながら言う。
「ああ、ウチのボスが言うには、新生メメント・モリに負けたって宣伝してくれたらいいってさ」
この返答に筋頭はまた腹を抱えて笑った。


「どうじゃ尾方よ! いい返事は貰えたかの?」
クレーターの上まで上がってきた尾方にドローンは近づいてきてその向こうから姫子がひそひそと聴いてくる。
「ん、ああ、はい。快諾でしたよ。じゃんじゃん宣伝してくれるらしいよ。よかったね」
「結構結構、強敵を打ち倒し、アジトを手に入れた。これぞ最良のメメント・モリ再興の旗揚げじゃな」
うんうんとカメラの向こうで姫子は頷く。
「それだけじゃないよ。心強い味方も手に入れたさ。ね、國門少年?」
尾方は端っこで居心地が悪そうにしている國門を差して言う。
「おお、國門殿。まさか正式にこのメメント・モリに入ってくれるのかの?」
姫子は身を乗り出す。
國門は頭を掻きながら言う。
「いや、仮でも入ってはなかったからな? だが、まぁ、今後行く先もないし。同盟の延長っていう体ならまぁ...」
「助かる!」
姫子が即答するので、國門はバツが悪そうにしている。

そうか國門がメメント・モリに。
あの國門が。
しかしあれだな。
となるとあれか。
私の出番か!

「呼ばれてないけど勝手に登場。ハロー皆の衆、悪の神だよ」
当たり前の様に僕の出現位置を予測して飛び後ろ回し蹴りをしてくる尾方を避けながら私はご丁寧に挨拶を決めた。
「まだギリギリ夜だろうが! なんで出れんだ! 帰れ!」
尾方もそんな事を言って歓迎してくれる。
構ってあげたいが私も仕事をしないといけないので。
分裂してもう一人の私に尾方の相手を任せた。
「さて、私が来たのは他でもない。えーっと、國門? だっけ? そこの天使?」
國門は虚を突かれた様に目を丸くする。
「またまたワザとらしいなぁ。四大組織解体の為にスパイの任で悪海組に潜伏していた天使の國門くん? 作戦遂行が早まって切り捨てられて今は野良天使の國門くん?」
「...ッ!」
察していたであろう現場の悪魔達は兎も角、ドローンの向こうの二人は動揺気味かな?
ネタバレは楽しいなぁ。
いかんいかん。仕事仕事。
「で。どうするの? 天使やめる? 悪魔になる?」
そ、私の仕事といえばこれこれ。
しっかりこなすぞー。
「...やめられるんか? そしたら俺はどうなる?」
「当然、悪魔になるのさ。それとも別のなにかにでもなりたいのかい?」
私は当然の問いに当然の答を返す。
國門は暫く考えている様だったが、私の方を見て言う。
「...なる。天使は正しい故にやりすぎる。俺は悪魔になる」
「その意見には概ね同意」
私は指先に意識を集中する。
「君、天使の時の二つ名は?」
よし、ずらすか。
「不屈...不屈の天使じゃ」
それはそのままでいっか。面倒だし。
さて、正装は...靴ね。
理靴。
権能は接地面に対する装備者の衝撃逃がし。
ふぅん。
そう。
「ま、いっか」
私は正装の二階層下を掴む。
「...なにがいいんじゃ? 俺は」
何かを言おうとしていたが、私の言葉はひとつでいい。
「私、やっぱり天使嫌いなんだよね」
ずらす。
「へ?」
次の瞬間、
音速で私の後ろから尾方巻彦が飛び出し。
國門を突き飛ばすと、目にも止まらぬ速さで正装を剥ぎ取り。
それを抱えると、目一杯地面を蹴り、その場から上に跳ぶ。
「あ」
ドローンの向こうからそんな声が聴こえた。
しかし無慈悲にも、世界層の断裂からくる空間の辻褄あわせは始まり。
尾方を呑みこみ。後に爆散した。
あー、そうなったか。
まさか私の邪魔を掻い潜るとは。
まぁ、それはそれでいいか。
血の雨を浴びて、私は言う。
「改めまして、新たな悪魔よ。奇跡的に誕生おめでとう。私は悪の神だよ」
私は新たな悪魔の誕生に祝言を上げた。

第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル」 完

(次回予告) 
「今度は爆死か...なんというかレパートリー豊富じゃの...」
「おじさん的には痛みはないし楽でいいんだけどね」
「尾方はガチャはやるかの?」
「このタイミングで聴くの悪意ないかい?」
「作者はよく爆死して痛そうにしておるぞ」
「現在社会の闇だね」
「次回予告ぅ!!」
「尾方が走り回り、走り回り! 息を切らすぞ!!」
「え、走るのやだな。おじさん更年期障害で階段二階上がっただけでも息が切れるのに」
「じゃあ三階立ての家には住めぬな!」
「エレベーター付けて」
「自宅にエレベーターって憧れるけどあれ電気代とか馬鹿高そうじゃよな!」
「あれに憧れるのは子供まで、大人になったらエレベーターなんて死ぬほど乗れ...」
「作者の霊に憑かれ出したのでここまでだの」
「次回! 第五章! 『白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド』」
「果たしてエレベーターの電気代はいかほどなのか! 関係ないけど待て次項!」
「おじさん電気代は切られてから払う派」
「尾方ぁ!!」

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