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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑩」
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①
成りたかったもんがある。
成れなかったもんがある。
憬れたもんがある。
諦めたもんがある。
執心したもんがある。
傷心したもんがある。
そんなもんはあって当然じゃ。
誰にだってある。
俺にだってある。
誰にでもあるんじゃから。
それはそれで仕方がなかろう。
俺は、そう自分に言い聞かせて、
多くのもんを手放してきた。
最後の最後、
本当に大切なもんさえ残りゃあいいと、
それ以外のもんを容赦なく切り捨てた。
今思えば、実に滑稽で、
都合のいい解釈だった。
だってこの時の俺は、
自分も捨てられる側におるのだと、
微塵も考えておかんかったのだから。
捨てられて思う。
棄てられて想う。
嗚呼、我らが■■なる神よ。
俺を...、私を―――
②
ここはメメント・モリのアジト、その中央に位置する巨大なドーム。
基本、地下に地下に伸びるこのアジトであるが、地上に位置するこのドームが現役時代から組織の中心として機能していた。
ドームの天井は開閉が可能で、晴れの日はよく太陽光を入れるために開いていた。
そんな開いた天井から一筋の影がドーム内に突入して来る。
そして地面まで一直線に自由落下する。
落下音に身構えるような速度のソレは、しかし不可思議なほどにスッと地面に着地する。
そして瞬きほどの間を置いた後、ソレの足元の地面が大きな音を上げてひび割れた。
「...ふぅ」
落下物の正体は先刻、『筋肉の天使』筋頭に彼方へと投げ飛ばされた國門 忠堅だった。
國門は、ぐるりと周りを見渡す。
「ここは...ドームか。随分飛ばされたのう」
辺りは不気味なほどの静寂に包まれていた。
國門はその様子を眺めて訝しむ。
「はて、他組織にウチの奴らが襲撃されたアジトにしては静か過ぎるのう。皆地下でやりおうちょるのかのう」
少し考えて國門は顔を上げる。
「どっちジッとしとるのは性に合わん。俺も地下に――」
國門が慌しく駆け出そうとしたその瞬間。
『...カツン...カツン』
ドームに続く廊下から、ヒールで地面を歩くような高い足音が聞こえて来た。
國門は一旦駆け出すのをやめ、神妙な顔で通路をジッと見て警戒する。
その廊下の影の中から現れたのは、端正な顔つきだがどこか化粧が濃い、中性的な雰囲気の男だった。
「あら? 貴方が先? 以外ねん」
國門は警戒を解かずに睨みつける。
「誰じゃお前は、ここでなにをしちょる」
男は國門を値踏みするように眺める。
「ふぅん、貴方が件の國門ちゃんね。という事は門の前にいたお邪魔な兵隊さんは貴方のかしら?」
「誰じゃと聴いちょる」
國門は微動だにすることなく言葉を重ねる。
男は溜息を付いて答える。
「ふぅ、意外と冷静なのね? ...初めまして、【手中の悪魔】、搦手 収よ」
「【不屈の悪魔】、國門 忠堅じゃ。悪魔かい。さっきの言動といい、ウチの兵隊が居らんかった事と無関係じゃなさそうじゃな?」
搦手は、ニヤリと笑って答える。
「どうかしら? 意外とカマかけてるだけかもよん? オカマだけに?」
「構って貰いたいだけかも知れんしのう。オカマだけに」
國門も不敵に笑う。
対峙する二人の間に沈黙が走る。
向き合った敵同士、お互いに名乗り済み。
開戦の火蓋は既に切って落とされている。
あとは――。
「ドカン」
どちらが先に動くかと言うだけの話だった。
二人は一歩としてその場から動かなかったが、搦手の一言の拍子に突然折れた電信柱が現れ、國門目掛けて突撃していく。
「...」
國門はソレを見て、悠々と右手を体の前に出す。
自然、その右手と電信柱は激突する。
しかし、その衝撃がスッと消える様に柔らかく、電信柱がその場で止まる。
そして一瞬の間を置いて、國門の周りの地面がビキビキと大きな音を立ててひび割れた。
ズシンっと電信柱が落ちる。
國門はその砂埃を鬱陶しそうに払いながら言う。
「そのけったいな権能、聞いたことあるわ。お前、【睦首劇団(むつくびげきだん)】の悪魔じゃな?」
「正解♪ 貴方は有名人よね。悪海組の若頭さん?」
「それ知っちょって俺に喧嘩売るってこつは、思っちょる以上に大事なんじゃな、この騒ぎは」
「どの騒ぎの事を言っているかは分からないけれど、もうきっと、行く所まで行くわよこれは」
搦手はケラケラと楽しそうに笑う。
「そうかい...」
國門はどこか寂しそうに遠くを見る。
その様子を見て、搦手は少し考えて言う。
「何処か訳あり見たいね貴方。ねぇ、提案なんだけど? お互いここは見て見なかった振りして別れない?」
國門は怪訝そうな顔をする。
「なんじゃその提案? 怪しすぎるわ。簡単に乗れるか」
「正直、私にはここに来た別の目的があるの。貴方に構ってる時間が惜しいって言うのが本音」
「その目的っちゅーのは...俺らの兵隊とやり合う以外のなにかっちゅーこつか...?」
「そ、ついでに言うと私の個人的な目的。貴方と同じくね」
「...」
國門は搦手を睨みつける。
しかし、暫くするとスッと後ろを向いて言う。
「行け、俺にそっちの趣味はないきに」
「そうね、私も貴方より尾方ちゃんの方が好みよん」
「なんで尾方の名前が出るがじゃ! やっぱり殺り合いたいのかきさん!!」
「やだ、急に怒鳴るなんて怖い怖い。露骨ねー、貴方のそういう所は嫌いじゃないわ私♪」
「死に腐れ!!!」
追加で國門に怒鳴られ、搦手はスッテプで廊下の闇に消えて行く。
「それじゃあね不安定さん。次に会う時はこっち側であることを祈ってるわんノシ」
その言葉を背中で受けた國門は少し考えると、
「...不安定か。まぁ、的は得ちょるのう」
そう呟いて空を見上げる。
するとそこにドームの開きから落ちてくる影があった。
影はグングン大きくなり、ドームの中心に衝突する。
その衝撃は、巨大なクレーターをドームの中央に作り、その工程は誰がここに現れたかを物語っていた。
砂煙の中からそれは現れる。
「さっき振りだな。國門の」
國門はそれをジッと見ていたが、
スッと覚悟をしたように口を開いた。
「おじき、お久しぶりです」
成りたかったもんがある。
成れなかったもんがある。
憬れたもんがある。
諦めたもんがある。
執心したもんがある。
傷心したもんがある。
そんなもんはあって当然じゃ。
誰にだってある。
俺にだってある。
誰にでもあるんじゃから。
それはそれで仕方がなかろう。
俺は、そう自分に言い聞かせて、
多くのもんを手放してきた。
最後の最後、
本当に大切なもんさえ残りゃあいいと、
それ以外のもんを容赦なく切り捨てた。
今思えば、実に滑稽で、
都合のいい解釈だった。
だってこの時の俺は、
自分も捨てられる側におるのだと、
微塵も考えておかんかったのだから。
捨てられて思う。
棄てられて想う。
嗚呼、我らが■■なる神よ。
俺を...、私を―――
②
ここはメメント・モリのアジト、その中央に位置する巨大なドーム。
基本、地下に地下に伸びるこのアジトであるが、地上に位置するこのドームが現役時代から組織の中心として機能していた。
ドームの天井は開閉が可能で、晴れの日はよく太陽光を入れるために開いていた。
そんな開いた天井から一筋の影がドーム内に突入して来る。
そして地面まで一直線に自由落下する。
落下音に身構えるような速度のソレは、しかし不可思議なほどにスッと地面に着地する。
そして瞬きほどの間を置いた後、ソレの足元の地面が大きな音を上げてひび割れた。
「...ふぅ」
落下物の正体は先刻、『筋肉の天使』筋頭に彼方へと投げ飛ばされた國門 忠堅だった。
國門は、ぐるりと周りを見渡す。
「ここは...ドームか。随分飛ばされたのう」
辺りは不気味なほどの静寂に包まれていた。
國門はその様子を眺めて訝しむ。
「はて、他組織にウチの奴らが襲撃されたアジトにしては静か過ぎるのう。皆地下でやりおうちょるのかのう」
少し考えて國門は顔を上げる。
「どっちジッとしとるのは性に合わん。俺も地下に――」
國門が慌しく駆け出そうとしたその瞬間。
『...カツン...カツン』
ドームに続く廊下から、ヒールで地面を歩くような高い足音が聞こえて来た。
國門は一旦駆け出すのをやめ、神妙な顔で通路をジッと見て警戒する。
その廊下の影の中から現れたのは、端正な顔つきだがどこか化粧が濃い、中性的な雰囲気の男だった。
「あら? 貴方が先? 以外ねん」
國門は警戒を解かずに睨みつける。
「誰じゃお前は、ここでなにをしちょる」
男は國門を値踏みするように眺める。
「ふぅん、貴方が件の國門ちゃんね。という事は門の前にいたお邪魔な兵隊さんは貴方のかしら?」
「誰じゃと聴いちょる」
國門は微動だにすることなく言葉を重ねる。
男は溜息を付いて答える。
「ふぅ、意外と冷静なのね? ...初めまして、【手中の悪魔】、搦手 収よ」
「【不屈の悪魔】、國門 忠堅じゃ。悪魔かい。さっきの言動といい、ウチの兵隊が居らんかった事と無関係じゃなさそうじゃな?」
搦手は、ニヤリと笑って答える。
「どうかしら? 意外とカマかけてるだけかもよん? オカマだけに?」
「構って貰いたいだけかも知れんしのう。オカマだけに」
國門も不敵に笑う。
対峙する二人の間に沈黙が走る。
向き合った敵同士、お互いに名乗り済み。
開戦の火蓋は既に切って落とされている。
あとは――。
「ドカン」
どちらが先に動くかと言うだけの話だった。
二人は一歩としてその場から動かなかったが、搦手の一言の拍子に突然折れた電信柱が現れ、國門目掛けて突撃していく。
「...」
國門はソレを見て、悠々と右手を体の前に出す。
自然、その右手と電信柱は激突する。
しかし、その衝撃がスッと消える様に柔らかく、電信柱がその場で止まる。
そして一瞬の間を置いて、國門の周りの地面がビキビキと大きな音を立ててひび割れた。
ズシンっと電信柱が落ちる。
國門はその砂埃を鬱陶しそうに払いながら言う。
「そのけったいな権能、聞いたことあるわ。お前、【睦首劇団(むつくびげきだん)】の悪魔じゃな?」
「正解♪ 貴方は有名人よね。悪海組の若頭さん?」
「それ知っちょって俺に喧嘩売るってこつは、思っちょる以上に大事なんじゃな、この騒ぎは」
「どの騒ぎの事を言っているかは分からないけれど、もうきっと、行く所まで行くわよこれは」
搦手はケラケラと楽しそうに笑う。
「そうかい...」
國門はどこか寂しそうに遠くを見る。
その様子を見て、搦手は少し考えて言う。
「何処か訳あり見たいね貴方。ねぇ、提案なんだけど? お互いここは見て見なかった振りして別れない?」
國門は怪訝そうな顔をする。
「なんじゃその提案? 怪しすぎるわ。簡単に乗れるか」
「正直、私にはここに来た別の目的があるの。貴方に構ってる時間が惜しいって言うのが本音」
「その目的っちゅーのは...俺らの兵隊とやり合う以外のなにかっちゅーこつか...?」
「そ、ついでに言うと私の個人的な目的。貴方と同じくね」
「...」
國門は搦手を睨みつける。
しかし、暫くするとスッと後ろを向いて言う。
「行け、俺にそっちの趣味はないきに」
「そうね、私も貴方より尾方ちゃんの方が好みよん」
「なんで尾方の名前が出るがじゃ! やっぱり殺り合いたいのかきさん!!」
「やだ、急に怒鳴るなんて怖い怖い。露骨ねー、貴方のそういう所は嫌いじゃないわ私♪」
「死に腐れ!!!」
追加で國門に怒鳴られ、搦手はスッテプで廊下の闇に消えて行く。
「それじゃあね不安定さん。次に会う時はこっち側であることを祈ってるわんノシ」
その言葉を背中で受けた國門は少し考えると、
「...不安定か。まぁ、的は得ちょるのう」
そう呟いて空を見上げる。
するとそこにドームの開きから落ちてくる影があった。
影はグングン大きくなり、ドームの中心に衝突する。
その衝撃は、巨大なクレーターをドームの中央に作り、その工程は誰がここに現れたかを物語っていた。
砂煙の中からそれは現れる。
「さっき振りだな。國門の」
國門はそれをジッと見ていたが、
スッと覚悟をしたように口を開いた。
「おじき、お久しぶりです」
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