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前略、友達と背中と

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「久しぶり、ギン。元気だった?」

「セツナ……」

 倉庫への道の途中、ギンが立っていた。
 どうやら先に行かせる気はないらしい。

「セツナ、俺はよ……」

「ごめん、前にも言ったけど告白なら後にして、やらなきゃいけないことがあるの」

「だからちげぇよ!自惚れんな!なんだよその自信!」

 出会いがそんな感じだったからか、ギンに会うとついボケたくなってしまう。
 いつも変人たちに振り回されてるし、仕方ない事だ。諦めてもらおう。
 
 あ、そう言えば聞きたい事があったんだ。

「そういえば、『テンカ』の男はみんな木刀なんじゃなかったの?チュウテツさんハンマーだったよ?」

「それは……悪かった……」

「やっぱり嘘じゃん!この金髪!」

「その……そういう勢いだったんだ……すまん……」

 そもそも木刀しかないなら鍛冶師はいらない。
 やっと疑問は解消されたし、謝罪も受け取った。もうこれ以上ここにいる理由もないし、先に進むとしよう。

「仕方ない、許そう。じゃあ!あたしは先に行くよ!」

「おう!達者でな!」

 ギンに別れを済ませて先に進む。目指すは倉庫、そう遠くはないしさっさと行こう。

 走り出して、ほんの少しして後ろの方から……

「待て待て待て待て待て!!!そんな訳ないだろ!?」

 ギンが走ってきた、もうそのイベントは終わったはずなんだけどなぁ。

「お前すげぇな!なんであんなシリアスな顔した俺をスルーできるんだよ!」

「え?あれってギンがあたしに、嘘をついたことを謝るイベントじゃないの?」

「んなわけねぇだろ!」
 
 デスヨネー、わかってた。

「でもさ、あたしはできることなら友達と戦いたくなんてないよ」

 おふざけは終わり、向き合って、あたしの気持ちを伝える。

「友達……まだ俺を友達だって言うのかよ……」

 そんなの当たり前だよ?、前置いて続ける。
 思えば、ギンもあたしを守ろうとしていた、この街からアニキさんから。

「それにギンもこの街が正しいとは思ってないんでしょ?本当はさ」

 もし違うならあたしの手は借りない。借りたとしてもすぐにテンカ塾へ送ろうとしたはずだ。
 そこまで考えて思いつくギンがここにいる理由。

「そっか、だからここにいるんだね。あたしを止めるために」

 おそらく、アニキさんあたりに言われたのだろう、あたしと仲良くしてたこと、この街に不満があること。
 そうじゃないと言うならあたしを止めろと。

「あぁ、そうだ。俺はセツナを止める。『テンカ』が、アニキが正しいと信じてるから!」

 あぁ、そうだね。傍から見るとわかる。
 これが迷ったり、怖がったりしながら戦おうとする人なんだね。
 きっと少し前のあたしは、みんなの目にはこんな感じに見えていた。

 なら助けてあげよう、久々にこれはあたしの手が届くことだから。

 ギンが木刀を構える、それはまるで恐怖を紛らわせるように。
 あたしも構える、前にいる友達の抱える、恐怖を払いたくて。
 
 まったく、いつまであたしは木刀で戦わなくちゃいけないのか。

「いくぞ!」

 その気持ちはわかる。
 怖いから、迷っているから自分から動くんだ、立ち止まれば、その感情に飲み込まれてしまいそうで。

「『セツナブースト』」

 その戦いは静かに、一瞬で終わった。
 1歩の踏み込みを爆発させ、ギンの木刀を払い、懐に一閃。
 悪いけど、もう立ち止まる気はない。

「よし、あたしの勝ちだね」

「あぁ、そんで俺の負けだ」

 倒れたギンと話す。なんだか諦めたような表情に、あたしは先に急ごうとする足を止める。

「なぁセツナ、なんでなんだろうな。俺さ、アニキの考えがさ、なんか嫌なんだよ」

 あんなに尊敬してんのによ……
 その言葉は諦めと、悲しみと、他にもいろいろな感情が感じ取れた。
 残念ながら、そのどれもが前向きな感情ではなかった。

「セツナ、お前はなにが気に入らないんだ?俺にはわっかんねぇよ。自分の気持ちも……」

 こんな風に素直にわかんないと、迷ってると、人に聞けるのは良いところだと思う。
 
 あたしのようにうじうじと悩まないで、それを解決したくての行動だと思う。
 なら答えよう、あたしの考えを、迷いの、怖がりの先輩として。

「戦わなくていい世界、適材適所。いい言葉だと思うよ。でもさ……」

 あたしは考えに考えぬいた答えを伝える。

「やりたくないことから、苦手なことから、向いてないことから、できないことから逃げて。それを他の人が勝手にやっちゃうのってさ、成長の機会を奪うのとなにが違うのさ。」

 多分、あたしの方が正しくない。わかっていてもあたしはそう考えた。
 
 人間なんだ、立ち止まったり、遠回りしたりするのもたまにはいい。最後に前を向けば。
 むしろあたしなんて立ち止まって、遠回りばっかりだ。でも前を向いてる。
 
 でも、これはやるな。と言われてそれを強制されたら、それは前を向いてると言えるのだろうか? 

「だからあたしはこの街が気に入らない。アニキさんにガツンと言って、後のことはそっから考えるよ」

「そうか……そうだな……」

 ギンの納得のいく答えを出せたのだろうか?
 わからない、それはあたしの決めることじゃない。

「セツナ、俺はどうしたらいいかな?ずっとアニキの背中を追ってきた、それが信じらんないなら誰を信じていけばいい?」

 それは自分で考えることだし、わからなければ自分を信じればいい。
 そう伝えてもギンはまだなにか悩んでいるようだ、仕方ない。

「自分を信じれないならあたしがなろう!あたしの背中を追えばいい!自分に自信がつくその日まで!」

 本当はちょっと荷が重いけど、虚勢を張って、自信があるように、胸を張って伝える。

「セツナ……」

 うん、これでいい。後はギン次第だ。
  
 先に行くよ、1言残してあたしは倉庫に走る。ギンが立ち直れると信じて。
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