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17 side Juliet-3
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オデルとの行為は頻繁にあった。
オデルがなぜこんなにも頻繁に自分を求めるのかを考えると、やはり子供が欲しいからなのだろうと思う。
しかしジュリエットは今月も月のものが来てしまいなかなか子供を授かることが出来ていない。
申し訳ないと伝えると、焦っている様子はない。
もちろん精を発散したいのもあるだろうが、それだけにしては頻繁過ぎる。ほぼ隔日で求められているのだ。
ジュリエットは正直に言えば求められることが嬉しくてしょうがない。
行為がこれほど快感をもたらすものだとオデルで知った。そして素肌を合わせ合うことは本当に暖かい気持ちになれるのだ。
ただ抱き締められるだけでも込み上げてくる喜びは、オデルには想像もできないだろう。
子供が出来たらもうなくなるかもしれない不安もあるが、オデルの望みが子供なら儲けてあげたかった。
それが数少ない自分がオデルにしてあげられることのひとつだからだ。
なかなか出来ないことに悩んでいると、オデルに舞踏会に誘われた。
アバークロンビー公爵デイビットがスティーブンス伯爵邸に滞在するため開かれるものだと言う。
デイビットはヒューブレインの王弟だ。彼が来るので招待されたとなれば行かなくてはならないだろうが、ジュリエットは返答に逡巡した。
自分のような女を妻として伴ってもいいのだろうかと。
ジュリエットは八年間前夫に放置された女として有名だ。オデルがジュリエットを後妻に迎えたことは地位を考えれば知れ渡っているだろうが、それでも伴って行くとなるとそれがオデルの恥にならないかと不安になったのだ。
しかしその不安はオデルのよって打ち消された。
一緒に行った方がいいのか聞くと『そうして欲しい』とはっきり言われたからだ。
オデルはジュリエットの心を簡単に躍らすが、他の不安もあった。ドレスがないのだ。
持ってはいるが、九年以上前のものでデザインも古く物もあまり良くはない。
クローゼットの中身は知っていてもそれを思いつかないだろうマリリンが、経験する初めての舞踏会の準備に興奮したのか新しいドレスを作れと進言した。
この先もこんなことがあるかわからないのに新しいドレスを作るのは贅沢ではないだろうかと再び思案していると、オデルが作ることを決めてくれた。
傍からはそうは見えなくとも、ジュリエットは相当浮かれてオデルに感謝を伝えた。
少しでもオデルの恥にならないようしたかったし、着飾った姿を見せたい女心もあった。
何事も素直に伝えられないジュリエットに代わってマリリンがはしゃいでくれることにジュリエットは心から感謝していた。
本人に自覚はないだろうが、マリリンはいつもジュリエットを支えてくれている。
ジュリエットの憧れるかわいいマリリンは鏡のようだ。なりたかった自分になれない代わりに、正反対のマリリンがしてくれている。
だからドレスの生地選びもマリリンの意見を取り入れた。自分では選ばない、でも本当は着てみたい色をマリリンなら選ぶと思ったのだ。
実際マリリンは深紅のシルクを選んだ。ジュリエットでは選ぶことの出来ない自信のある女性が選ぶ生地だ。
自信のないジュリエットが着るにはかなり勇気がいる色だが、マリリンはこれがジュリエットに似合うと確信している。そう思うとジュリエットも勇気が出た。
デザインは年齢も考えてシンプルなものにしたが、生地だけで勝負できるものだからシンプルな方がいい。
それにオデルからもらったネックレスを着ければこれ以上の支度はないと思った。
そしてこれはマリリンががっかりするかもしれないと思ったが、自分だけではどうにもできないので仕方がない。ケイトに支度を手伝って欲しいと頼んだ。
普段のまとめ髪はジュリエットがやっているので問題ないが、パーティー用の髪型となるとひとりでは難しい。髪を結うのが苦手なマリリンでは出来ない。
マリリンにやらせてやりたい気持ちもあるが、オデルに恥をかかせるわけにはいかないのだ。
案の定マリリンはがっかりしたようだったが、ケイトは普段の髪型もよく変えてかわいく結っているだけのことはあってジュリエットが望む以上の腕前だった。
何本もねじった髪をピンで止め、複雑に編んだ髪をボリュームを出しながら纏めた。
化粧もこんなのが流行りだというやり方で手伝ってくれたので、ケイトのおかげでジュリエットは時代遅れではない仕上がりになった。
ジュリエットは満足したが、マリリンの自信も復活させてあげなくてはならない。
きっとケイトに頼んだ方が早いだろうが、コルセットの締め直しやドレスの用意はマリリンにさせた。
マリリンは嬉しそうにしたので、自信は復活したようだ。
マリリンの自信は復活したが、ジュリエットは不安と戦っていた。
時代遅れではない髪型や化粧、新品の美しいドレスにオデルから送られたネックレスを着けても、ジュリエットにそれに見合っているかはわからなかった。
オデルに気に入ってもらえるかが不安だったのだ。
しかしマリリンのおかげで少しだけ払拭することが出来た。オデルの待つ階下へ向かうとマリリンがジュリエットがきれいだとはしゃいだのだ。
するとオデルの口から『本当に美しい』という言葉がジュリエットに贈られた。
マリリンの催促があってだったが、ジュリエットはその言葉が嬉しかった。まったくなかった自信を少しだけだが持つことが出来た。
舞踏会のオデルは完璧だった。
屋敷で見た時も息を呑んだが、この華やかな場にひとつも引けを取らないどころか、行き交う人たちが思わず見とれて視線で追いかけるほどに圧倒的だった。
普段からオデルの美丈夫はわかっていたが、正礼装を着て更にゴージャスで公爵の地位に相応しい品と女性の視線を剥がさない色気を醸し出していた。
こんな男性にエスコートされるに相応しいとは思えないジュリエットだったが、せめてオデルの恥にならぬよう背筋を伸ばした。
と言っても、ジュリエットもオデルも普段から伸びている美しい背筋に変わりはない。
王弟デイビットへの挨拶を済ますと、ふたりの周りにはオデルと話したい貴族で囲まれた。
仕事の話になるのだろうと、ジュリエットはオデルの腕から離れ邪魔にならぬようにした。
ソファーに座って第一の目的であったデイビットへの挨拶を終え緊張を少し解いていると、懐かしい再会があった。
結婚前に交流のあったモナーレだ。
結婚前は舞踏会で何度も行き合い茶会にも招いてくれたこともあるモナーレは、友達と言うほどには親しくないが、ジュリエットにとっては唯一邸を訪れたことのある女性だった。
結婚してからは一切社交場へ行くことを許されなかったジュリエットなので約十年ぶりの再会だ。
モナーレはジュリエットが表情に乏しいことを知って、理解してくれている節もあった。上手く笑ったり話を合わせたり出来なくとも嫌な顔ひとつもせずに声をかけてくれた。
茶会に招待された時は本当に嬉しくて彼女と友人になれたらと願ったほどだったが、その後すぐに結婚が決まり疎遠になった。
ジュリエットが懐かしく、そうは見えないだろうが再会を喜んでいると、モナーレも同じように思ってくれているようだった。
再び交流が出来れば今度こそ友人になりたい。
オデルに友人を呼んでいいと言われた時もジュリエットはモナーレを思ったが、あまりにも長い期間疎遠になっていたので招待することは出来ないと諦めた。
だが、これを機会にモナーレを招待出来れば嬉しいし、オデルにも友人として紹介できれば更に嬉しい。
しかもモナーレは結婚したジュリエットに茶会の招待をしてくれていたのだと初めて知った。それを前夫が握り潰していたのだとも知ることになり悲しくなったが、それでも再び交流し合おうと約束出来た。
そこで、二人が話していることに興味を持ったのだろう人たちが集まり出した。
最初はジュリエットとオデルに興味があるのだろうと聞かれたことに返事をしたが、そのうち話はオデルの前妻の話になった。
現在の前妻がどれほど落ちぶれているのかを同情するような顔をして楽し気に話しているのだ。
ジュリエットは胸が曇るようなもやもやとしたものを感じた。
前妻をオデルが愛したかどうかはわからなかったが、一度でもガロポロ家の女主人でありオデルの妻だった女性が辱められていることをオデルが知ればきっと良い気分ではないはずだ。
シルビアは惨めな姿をオデルに見せたくなかったはずなのに、指輪を返しに来てくれた。その指輪はガロポロ家の正当な女主人の証としてジュリエットの指で輝いている。
そのシルビアの落ちぶれを楽しそうに話されてはオデルまで貶められている気分になった。
不愉快になり、こんな人たちはきっと自分と前夫のこともこうして話していたのだろうと思うともう聞いてはいられなかった。
引き留められたが、付き合っていられないジュリエットが言えるのはこれだけだ。
『短くともわたしの夫の妻であった方を辱めることはわたしの夫を辱めているのと同じことです。わたしの愛する夫を侮辱なさるような話は一切聞きたくございません』
感情のまま言ってしまったが、次の瞬間にそれを後悔することになる。
人垣を抜けるとオデルが立っていたからだ。
シルビアの話を聞かれただろうか、自分の言ったことを聞かれただろうか。
オデルの表情からはなにも読み取れなかった。
そのままエスコートされ帰宅することになったが、馬車に乗り込む前に『愛する夫と言ったな』と確認された。やはり聞かれていたのだ。
ジュリエットはオデルを愛している。だから口から出てしまったのだが、オデルは違う。
そんな風に言われるのはいやではなかっただろうか? オデルが自分を愛していないのに一方的にこんな風に思われることは重荷だろうか?
ジュリエットの中に不安が渦巻き、なにか問題があるかと聞くと、『問題だ』という返事だった。
鼻の奥がツンと痛くなり、泣いてしまうかもしれないと思った。
しかしこれ以上面倒な女にはなりたくないジュリエットは、傷ついた心を必死で隠し奥歯を喰いしばって涙を堪えた。
屋敷に戻るとオデルがマリリンに来なくてもいいと言った。
人払いをした理由をジュリエットは理解した。
あんなことを外で言うなと叱責されるのだろうと覚悟して部屋に入る。
後ろから付いて来たオデルもジュリエットの部屋に入って来たので、ドアが閉まるのを待って前言撤回して詫びようと思った。
しかし。
背中でドアが閉められると、オデルは振り向こうとしたジュリエットの背後から抱きしめて来た。
こんなことは初めてで動揺しどうしたらいいのか戸惑っていると、額に唇が触れ、そのまま耳、頬、首へと滑らせてきた。
抱きしめて身体のなかに入れられ両手で肩を掴まれている。その肩に触れる手、首に落ちる唇が熱い。
力強い腕に触れると一層強い力で身体を締め付けるように抱かれた。
オデルが欲情している。ジュリエットが今すぐに欲しいと訴えられていると感じた。
官能と喜びがジュリエットに勇気を与える。
首に埋められたオデルの頬に触れると、首筋から耳までを舐め上げられ、ジュリエットは僅かに震えた。快感が全身を駆け巡る。
ジュリエットはそのままオデルに身体を預け、オデルのすること、したいことを全て受け止めた。
いつものベッドの中では、優しくジュリエットを労るように快感を与えてくれたオデルだったが、この時はまるで違った。
貪るようにぶつけてくるように、激しくジュリエットを掻き抱いた。
ジュリエットを見つめる瞳は切実で、快感に声が漏れるとオデルの触る手は更に熱くなり、欲望は体積を増してジュリエットの中を責め立てた。
恥ずかしい恰好もさせられた。はしたない声も抑えることが出来なかった。
オデルを受け止める身体が揺さぶられ、何度達しても離されなかった。
意識が飛びそうになってもオデルはジュリエットを求め、すべてを受け止めたいジュリエットは乱れに乱れながらもオデルのすることに従った。
いつ終わってどうやって眠りについたのかも覚えていなかった。
頬に触れる優しい指先で目が覚めたが、身体はだるく上手く動かなかった。
あれだけ激しく抱かれればしかたのないことだ。
『起こしてしまったか?』と言うオデルの声がいつもよりも優しく感じるのは気のせいだろうか。眼差しが愛しいと伝えてくれていると思うのは勘違いだろうか?
普段はしない目覚めのキスをされて、それが気のせいでも勘違いでもない気がしている。
普段からジュリエットを触る手は優しいが、今日は違う気がする。ただ優しいのではなく、本当に愛されていると感じてしまうのだ。
幸せが充満している。身体だけでなく心も満たされている。
オデルにすり寄ると、昨夜何も出なくなる程ジュリエットの中にしぶきをあげたというのに昂ぶりが腹に押し付けられる。
こんなに情熱的だとは知らなかったというと『君にだけこうなってしまうようだ』と返ってきたので、もうジュリエットは堪らない。
愛されているのだ。本当にオデルは自分を愛してくれているのだ。
それが嬉しいことを伝えるとオデルが強い力でジュリエットを抱きしめ、昨夜の続きのように貪られた。
オデルがなぜこんなにも頻繁に自分を求めるのかを考えると、やはり子供が欲しいからなのだろうと思う。
しかしジュリエットは今月も月のものが来てしまいなかなか子供を授かることが出来ていない。
申し訳ないと伝えると、焦っている様子はない。
もちろん精を発散したいのもあるだろうが、それだけにしては頻繁過ぎる。ほぼ隔日で求められているのだ。
ジュリエットは正直に言えば求められることが嬉しくてしょうがない。
行為がこれほど快感をもたらすものだとオデルで知った。そして素肌を合わせ合うことは本当に暖かい気持ちになれるのだ。
ただ抱き締められるだけでも込み上げてくる喜びは、オデルには想像もできないだろう。
子供が出来たらもうなくなるかもしれない不安もあるが、オデルの望みが子供なら儲けてあげたかった。
それが数少ない自分がオデルにしてあげられることのひとつだからだ。
なかなか出来ないことに悩んでいると、オデルに舞踏会に誘われた。
アバークロンビー公爵デイビットがスティーブンス伯爵邸に滞在するため開かれるものだと言う。
デイビットはヒューブレインの王弟だ。彼が来るので招待されたとなれば行かなくてはならないだろうが、ジュリエットは返答に逡巡した。
自分のような女を妻として伴ってもいいのだろうかと。
ジュリエットは八年間前夫に放置された女として有名だ。オデルがジュリエットを後妻に迎えたことは地位を考えれば知れ渡っているだろうが、それでも伴って行くとなるとそれがオデルの恥にならないかと不安になったのだ。
しかしその不安はオデルのよって打ち消された。
一緒に行った方がいいのか聞くと『そうして欲しい』とはっきり言われたからだ。
オデルはジュリエットの心を簡単に躍らすが、他の不安もあった。ドレスがないのだ。
持ってはいるが、九年以上前のものでデザインも古く物もあまり良くはない。
クローゼットの中身は知っていてもそれを思いつかないだろうマリリンが、経験する初めての舞踏会の準備に興奮したのか新しいドレスを作れと進言した。
この先もこんなことがあるかわからないのに新しいドレスを作るのは贅沢ではないだろうかと再び思案していると、オデルが作ることを決めてくれた。
傍からはそうは見えなくとも、ジュリエットは相当浮かれてオデルに感謝を伝えた。
少しでもオデルの恥にならないようしたかったし、着飾った姿を見せたい女心もあった。
何事も素直に伝えられないジュリエットに代わってマリリンがはしゃいでくれることにジュリエットは心から感謝していた。
本人に自覚はないだろうが、マリリンはいつもジュリエットを支えてくれている。
ジュリエットの憧れるかわいいマリリンは鏡のようだ。なりたかった自分になれない代わりに、正反対のマリリンがしてくれている。
だからドレスの生地選びもマリリンの意見を取り入れた。自分では選ばない、でも本当は着てみたい色をマリリンなら選ぶと思ったのだ。
実際マリリンは深紅のシルクを選んだ。ジュリエットでは選ぶことの出来ない自信のある女性が選ぶ生地だ。
自信のないジュリエットが着るにはかなり勇気がいる色だが、マリリンはこれがジュリエットに似合うと確信している。そう思うとジュリエットも勇気が出た。
デザインは年齢も考えてシンプルなものにしたが、生地だけで勝負できるものだからシンプルな方がいい。
それにオデルからもらったネックレスを着ければこれ以上の支度はないと思った。
そしてこれはマリリンががっかりするかもしれないと思ったが、自分だけではどうにもできないので仕方がない。ケイトに支度を手伝って欲しいと頼んだ。
普段のまとめ髪はジュリエットがやっているので問題ないが、パーティー用の髪型となるとひとりでは難しい。髪を結うのが苦手なマリリンでは出来ない。
マリリンにやらせてやりたい気持ちもあるが、オデルに恥をかかせるわけにはいかないのだ。
案の定マリリンはがっかりしたようだったが、ケイトは普段の髪型もよく変えてかわいく結っているだけのことはあってジュリエットが望む以上の腕前だった。
何本もねじった髪をピンで止め、複雑に編んだ髪をボリュームを出しながら纏めた。
化粧もこんなのが流行りだというやり方で手伝ってくれたので、ケイトのおかげでジュリエットは時代遅れではない仕上がりになった。
ジュリエットは満足したが、マリリンの自信も復活させてあげなくてはならない。
きっとケイトに頼んだ方が早いだろうが、コルセットの締め直しやドレスの用意はマリリンにさせた。
マリリンは嬉しそうにしたので、自信は復活したようだ。
マリリンの自信は復活したが、ジュリエットは不安と戦っていた。
時代遅れではない髪型や化粧、新品の美しいドレスにオデルから送られたネックレスを着けても、ジュリエットにそれに見合っているかはわからなかった。
オデルに気に入ってもらえるかが不安だったのだ。
しかしマリリンのおかげで少しだけ払拭することが出来た。オデルの待つ階下へ向かうとマリリンがジュリエットがきれいだとはしゃいだのだ。
するとオデルの口から『本当に美しい』という言葉がジュリエットに贈られた。
マリリンの催促があってだったが、ジュリエットはその言葉が嬉しかった。まったくなかった自信を少しだけだが持つことが出来た。
舞踏会のオデルは完璧だった。
屋敷で見た時も息を呑んだが、この華やかな場にひとつも引けを取らないどころか、行き交う人たちが思わず見とれて視線で追いかけるほどに圧倒的だった。
普段からオデルの美丈夫はわかっていたが、正礼装を着て更にゴージャスで公爵の地位に相応しい品と女性の視線を剥がさない色気を醸し出していた。
こんな男性にエスコートされるに相応しいとは思えないジュリエットだったが、せめてオデルの恥にならぬよう背筋を伸ばした。
と言っても、ジュリエットもオデルも普段から伸びている美しい背筋に変わりはない。
王弟デイビットへの挨拶を済ますと、ふたりの周りにはオデルと話したい貴族で囲まれた。
仕事の話になるのだろうと、ジュリエットはオデルの腕から離れ邪魔にならぬようにした。
ソファーに座って第一の目的であったデイビットへの挨拶を終え緊張を少し解いていると、懐かしい再会があった。
結婚前に交流のあったモナーレだ。
結婚前は舞踏会で何度も行き合い茶会にも招いてくれたこともあるモナーレは、友達と言うほどには親しくないが、ジュリエットにとっては唯一邸を訪れたことのある女性だった。
結婚してからは一切社交場へ行くことを許されなかったジュリエットなので約十年ぶりの再会だ。
モナーレはジュリエットが表情に乏しいことを知って、理解してくれている節もあった。上手く笑ったり話を合わせたり出来なくとも嫌な顔ひとつもせずに声をかけてくれた。
茶会に招待された時は本当に嬉しくて彼女と友人になれたらと願ったほどだったが、その後すぐに結婚が決まり疎遠になった。
ジュリエットが懐かしく、そうは見えないだろうが再会を喜んでいると、モナーレも同じように思ってくれているようだった。
再び交流が出来れば今度こそ友人になりたい。
オデルに友人を呼んでいいと言われた時もジュリエットはモナーレを思ったが、あまりにも長い期間疎遠になっていたので招待することは出来ないと諦めた。
だが、これを機会にモナーレを招待出来れば嬉しいし、オデルにも友人として紹介できれば更に嬉しい。
しかもモナーレは結婚したジュリエットに茶会の招待をしてくれていたのだと初めて知った。それを前夫が握り潰していたのだとも知ることになり悲しくなったが、それでも再び交流し合おうと約束出来た。
そこで、二人が話していることに興味を持ったのだろう人たちが集まり出した。
最初はジュリエットとオデルに興味があるのだろうと聞かれたことに返事をしたが、そのうち話はオデルの前妻の話になった。
現在の前妻がどれほど落ちぶれているのかを同情するような顔をして楽し気に話しているのだ。
ジュリエットは胸が曇るようなもやもやとしたものを感じた。
前妻をオデルが愛したかどうかはわからなかったが、一度でもガロポロ家の女主人でありオデルの妻だった女性が辱められていることをオデルが知ればきっと良い気分ではないはずだ。
シルビアは惨めな姿をオデルに見せたくなかったはずなのに、指輪を返しに来てくれた。その指輪はガロポロ家の正当な女主人の証としてジュリエットの指で輝いている。
そのシルビアの落ちぶれを楽しそうに話されてはオデルまで貶められている気分になった。
不愉快になり、こんな人たちはきっと自分と前夫のこともこうして話していたのだろうと思うともう聞いてはいられなかった。
引き留められたが、付き合っていられないジュリエットが言えるのはこれだけだ。
『短くともわたしの夫の妻であった方を辱めることはわたしの夫を辱めているのと同じことです。わたしの愛する夫を侮辱なさるような話は一切聞きたくございません』
感情のまま言ってしまったが、次の瞬間にそれを後悔することになる。
人垣を抜けるとオデルが立っていたからだ。
シルビアの話を聞かれただろうか、自分の言ったことを聞かれただろうか。
オデルの表情からはなにも読み取れなかった。
そのままエスコートされ帰宅することになったが、馬車に乗り込む前に『愛する夫と言ったな』と確認された。やはり聞かれていたのだ。
ジュリエットはオデルを愛している。だから口から出てしまったのだが、オデルは違う。
そんな風に言われるのはいやではなかっただろうか? オデルが自分を愛していないのに一方的にこんな風に思われることは重荷だろうか?
ジュリエットの中に不安が渦巻き、なにか問題があるかと聞くと、『問題だ』という返事だった。
鼻の奥がツンと痛くなり、泣いてしまうかもしれないと思った。
しかしこれ以上面倒な女にはなりたくないジュリエットは、傷ついた心を必死で隠し奥歯を喰いしばって涙を堪えた。
屋敷に戻るとオデルがマリリンに来なくてもいいと言った。
人払いをした理由をジュリエットは理解した。
あんなことを外で言うなと叱責されるのだろうと覚悟して部屋に入る。
後ろから付いて来たオデルもジュリエットの部屋に入って来たので、ドアが閉まるのを待って前言撤回して詫びようと思った。
しかし。
背中でドアが閉められると、オデルは振り向こうとしたジュリエットの背後から抱きしめて来た。
こんなことは初めてで動揺しどうしたらいいのか戸惑っていると、額に唇が触れ、そのまま耳、頬、首へと滑らせてきた。
抱きしめて身体のなかに入れられ両手で肩を掴まれている。その肩に触れる手、首に落ちる唇が熱い。
力強い腕に触れると一層強い力で身体を締め付けるように抱かれた。
オデルが欲情している。ジュリエットが今すぐに欲しいと訴えられていると感じた。
官能と喜びがジュリエットに勇気を与える。
首に埋められたオデルの頬に触れると、首筋から耳までを舐め上げられ、ジュリエットは僅かに震えた。快感が全身を駆け巡る。
ジュリエットはそのままオデルに身体を預け、オデルのすること、したいことを全て受け止めた。
いつものベッドの中では、優しくジュリエットを労るように快感を与えてくれたオデルだったが、この時はまるで違った。
貪るようにぶつけてくるように、激しくジュリエットを掻き抱いた。
ジュリエットを見つめる瞳は切実で、快感に声が漏れるとオデルの触る手は更に熱くなり、欲望は体積を増してジュリエットの中を責め立てた。
恥ずかしい恰好もさせられた。はしたない声も抑えることが出来なかった。
オデルを受け止める身体が揺さぶられ、何度達しても離されなかった。
意識が飛びそうになってもオデルはジュリエットを求め、すべてを受け止めたいジュリエットは乱れに乱れながらもオデルのすることに従った。
いつ終わってどうやって眠りについたのかも覚えていなかった。
頬に触れる優しい指先で目が覚めたが、身体はだるく上手く動かなかった。
あれだけ激しく抱かれればしかたのないことだ。
『起こしてしまったか?』と言うオデルの声がいつもよりも優しく感じるのは気のせいだろうか。眼差しが愛しいと伝えてくれていると思うのは勘違いだろうか?
普段はしない目覚めのキスをされて、それが気のせいでも勘違いでもない気がしている。
普段からジュリエットを触る手は優しいが、今日は違う気がする。ただ優しいのではなく、本当に愛されていると感じてしまうのだ。
幸せが充満している。身体だけでなく心も満たされている。
オデルにすり寄ると、昨夜何も出なくなる程ジュリエットの中にしぶきをあげたというのに昂ぶりが腹に押し付けられる。
こんなに情熱的だとは知らなかったというと『君にだけこうなってしまうようだ』と返ってきたので、もうジュリエットは堪らない。
愛されているのだ。本当にオデルは自分を愛してくれているのだ。
それが嬉しいことを伝えるとオデルが強い力でジュリエットを抱きしめ、昨夜の続きのように貪られた。
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