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最終話 (注!ぬるくて下品なスケベ描写が少しあります)
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エマはベッドの下に跪き今日までギルバートにしたことを振り返った。
一つ一つの事柄にしてはいけなかったことを見つけ、反省と共にもう二度としないと神に誓いを立てていた。
一つのことを反省するたびに自分のわがままや勝手、情けなさを受け入れなくてはならず苦しいものだった。
しかし、これをせずにギルバートに謝ることは軽すぎると思ったのだった。
ギルバートはエマに怒ったことは一度もなかった。それなのに黙って部屋を出てそれきり放置をするということは、余程エマに腹を立てたに違いない。
思い通りにならないからと怒るなんて、小さな子供でも怒られることだ。
エマは結婚もした十八歳の女性なのに、なぜギルバートなら許してくれると決め込んでしてしまったのか。甘えと傲慢だ。
「神様。どうかわたしを良い大人になれるようお導きください。自分を律し他人のことを、とりわけギルバートを思い遣れる知恵をお授けください」
手を組み合わせ必死に祈っていたので気が付かなかった。ギルバートがそのすぐ後ろにいたことに。
「そのままの君でいいよ」
跪くエマの耳元に身体を屈めて囁く。
ギルバートの低くハスキーな声がエマの地の底に落ちた心を救い上げた。
咄嗟に振り向きギルバートの優しい微笑みを確認すると、エマは衝動でその首に縋りついた。
「ギルバート!ごめんなさい!わたしまたあなたに酷い態度をとったわ!」
ギルバートは縋りついて謝るエマの背中をさすり、腰に回した腕でエマを持ち上げる。
背の高いギルバートに持ち上げられると、エマの足は床からはるか高く離れてしまう。
そのまま両手で抱きしめられ、ゆっくりとベッドに下ろされる。
ベッドの上に立たされたエマがギルバートを見下ろすと、ギルバートは優しい微笑みのままでエマを見上げ頬を指の背で撫でた。
「そんなに反省してくれると思っていなかったんだ。すまない、もっと早く来ればよかった」
「それってどういう意味?」
「君を怒ったりなんかしないと言っただろう? 君の様子を見て実はもうすっかり元気なんじゃないかと思って。だからちょっとからかうつもりで食事を別に取ったんだ。その間にリンジーに風呂に入れて体調を見てくれって頼んで」
「リンジーに?」
「ああ、そうしたらリンジーがもうエマの調子は戻っているようだと言うから」
エマは泣き出しそうな顔でギルバートの顔を両手で覆った。
「わたしをからかったのね?」
「すまない。やりすぎてしまったようだ」
「いいの。わたしは本当にいけない娘よ。いえ、いけない妻よ。子供みたいにあなたにまた、またまた!酷い態度をとったわ……」
「かわいい妻だよ」
「ちゃんとした大人になりたいわ」
エマは心からの反省をギルバートに伝えたかったが、腰を支えるギルバートの手が動きベッドの上に立っていたエマを横抱きにして抱えてから優しく布団の上に寝かせた。
「大人にしてあげるよ。エマを俺のものにしたい」
寝かされたエマの横に座り、ギルバートがエマの髪を撫でながら微笑んだ。
ロウソクで照らされたその瞳には確実な誘引があった。
ギルバートのものになりたい、ギルバートの妻としての役目を果たしたい。それは思っていたことだったが、まさか今だとは心の準備が整っていない。
「今からなの……?」
「怖いかい?」
「驚いているの……」
「君が気持ちよくなれるようにしてあげるよ。怖がることはない。大丈夫だよ」
低くハスキーな声が甘く優しく誘惑するので、エマの心の準備は簡単に整ってしまった。
が、しかし。
この初夜の前に確認しようと決めていたことがある。それだけは先にしなくてはいけない。
エマはゆっくりと起き上がり、ギルバートの前に座った。
「わたしをあなたのものにしてほしいわ」
見つめながら言うと、ギルバートは破顔して溶けた。
エマを愛おしく見つめ返し、首の後ろに手をまわして唇を重ねようとした。
が、エマの言葉に止められる。
「その前にお願いがあるの。わたしの覚悟は決まっているし、愛があればどんなものでも受け入れられるとちゃんと思っているから、心配はいらないわ。だからまずは脱いでほしいの。確認してわかれば、少しは安心できると思うのよ」
エマは真剣な眼差しでギルバートに言った。
ギルバートは身体を離しエマの表情を読み取ろうとするが、読み取れない。
「まさか、体毛を確認したいのかい?」
エマがこの段にきて真剣に言い出しそうなことで思い当たったのが体毛だった。
「あなたに胸毛が生えていても、わたしは受け入れる覚悟をしているわ」
覚悟するようなことなのか?
しかしエマは真剣だ。
「……胸毛は生えないんだ、覚悟してもらったのに残念だがね」
体毛を受け入れる覚悟が出来ているなら他には思い当たらない。
本当ならエマにキスをして、エマを撫で、ロマンティック好きなエマにたっぷりと甘く官能的な雰囲気を体感させてあげたいのだが、真顔で見られている前で服を脱がされることになるとは。
ギルバートは言われた通りにガウンを脱いだ。下には薄い寝巻のズボンしかはいておらず逞しく鍛え上げられた胸や腹筋、肩や腕があらわになりエマはその彫刻のように美しい肉体に息を飲んだ。
しかし見とれてはいられない。重要なのは、確認しておきたいのは上じゃない。
「下も脱いでほしいの」
またも真顔で言われギルバートは耳を疑った。
「下も、脱いでほしいと言ったのかい?」
「そうよ。確認したいの。見せてちょうだい」
言いながら、エマの視線は完全にギルバートの股間だ。
「ちょっと、待ってくれエマ。確認ってそれは俺の、モノを確認したいってことか?」
ギルバートは焦ってエマの顎を掴み、視線を顔に戻させた。
「そうなの。あなたのペニスを確認したいの」
真剣な顔で男性器の名前を口にするエマに、ギルバートは動揺した。
今まで何人かの女性と親しい交流を経験しているギルバートだが、女性から男性器の名前をこうもはっきりと口に出されたことはない。
ましてや初めて睦みあう女性に、まずはそこを見てからなどとは言われたことがないのはもちろん、言い出されるなんて戸惑いしかない。
「エマ! どうしてそんなことを言いだすんだ!」
「どうしても確認しておきたいの」
ギルバートは動揺しているが、エマは至って真剣だ。
「待ってくれ。確認って、エマ、君は他の男のモノを見たことがあるのかい?」
「実物はないわ」
「実物……? じゃあ、どうしてそんな……。興味で言っているなら、そりゃ、裸になるのだし見せても……。どうしても先に見たいのかい?」
「見たいわ。その大きさを確認しておかないと安心できないの」
「大きさ? ちょっと待って、他の男のを見たことがないのに見てもわからないだろう?」
ギルバートの動揺が収まらない。しかしエマはまったく真剣だ。
「他の人のは見たことがないけど、うちの馬のは見てきたわ。あなたのがそれほど大きかったらどうしようと思ったのだけど、お父様から馬よりは大きくないはずだって。でも安心して身体をあなたに捧げたいの。だから大きさだけは確認したいの」
ギルバートはベッドに倒れこんで顔を両手で覆った。
もはやこれはコメディーとしか思えなくなってきていた。しかしエマは本気で真剣なので笑ってはいけないと思うのだが、震える肩が堪えきれない。
「エマ! 君はなんて話を父親としてるんだ! 馬と比べるなんて!ロバートがどんな顔をして答えたのか想像できるよ!」
とうとう噴き出し、盛大に笑いだしてしまった。
とてもじゃないがエマ相手に雰囲気を作ろうなど考える方が間違っているというものだと、ギルバートは自分の愚かさにも笑ってしまっているのだ。
ロマンティックなどもうどうでもいいものになって吹き飛ばされ、エマの眉間には怪訝な皺が立ってしまっているがギルバートは笑いを止めることが出来なかった。
「そんなにおかしなことかしら? 初めてなのよ。不安になるのはしょうがないわ。わたしあなたの身体が大きいから、ペニスも大きいのじゃないかと恐ろしくなって。だからあなたに結婚式の前逢えなかったのよ。それほど怖かったのよ」
「結婚式の前、逢えなかったのはそれが理由なのかい?」
「ええそうよ。悪かったって心から思っているわ。でも、あなたは本当に身体が大きいから、だからペニスも大きいと思い込んでしまったの。でも、お父様が言うには身体の大きさとペニスの大きさは比例しないって。でも、やっぱり先に確認して安心したいのよ」
「まあ、確かに一般的には比例はしないが。怖がらせるつもりはないけど、申し訳ないが俺の場合はちょっと大き目かもしれない。馬ほどではないけどね」
実際ギルバートのそれは大きかった。それを今までの女性は喜んだのだが、エマは明らかに落胆している。小さいほうがよかったらしい。
「あと、頼むからそのかわいい口と声でペニスなんて言葉言わないでくれ。堪らなくなる」
エマは男性器のことをロバートが性教育に使った人体図鑑でペニスと表記されているのを見たのだ。
「でも、ほかになんて言えばいいの?」
真っすぐな疑問だが、ギルバートはエマの唇に人差し指を立てて黙らせた。
「そのことに関しては、言葉にしない方向で頼むよ」
エマ自身も言いたいわけではない。しかし話がそこのことなので仕方なく言っていたのだ。男性器のことを話すのがレディのすることではないとわかっている。
「ごめんなさい。品のない言葉を言ってがっかりさせたわ……」
しゅんと肩を落とすエマにギルバートはまた噴き出しそうになったが、なんとか堪えた。
「ちがうよ。むしろ睦みあうときは品なんか忘れてもらった方が楽しいものだが、君がペニスって言うたびにドキドキさせられてしまうからね。それは後の楽しみだ。今は君の不安を解決しよう」
ギルバートはエマに向き直り、胡坐をかいて座り直した。エマを引き寄せ、その足の中に座らせる。
「これは知っているかな? 今脱いで見せても、それは本当の大きさじゃない。男性のそれは、興奮によって形を変える」
エマを腕の中に抱きしめながら、ギルバートは子供に話すように優しく言った。
「知っているわ。『散らされた薔薇』に書いてあったもの」
「『散らされた薔薇』?」
「マギーに借りた小説よ。そういうことが書いてあるの」
ギルバートはマギーが何も知らないエマのために貸したことが想像できた。しかしその手の本は大仰に煽り立てた表現が多いし、現実とはだいぶ違うものだ。
エマがその本の通りのことを想像していると、これはまた面倒だ。
「本ではこの重さや固さまで書いてあったかい?」
ギルバートはエマの手を優しく持ち上げて誘導し、手の甲に自分のものが当たるようにした。それ自体は通常時のままで、変化しているものではなかった。
「布の上から触ってみて。感触でたしかめてごらん」
背中から包まれていたエマは腕と一緒に顔をギルバートに向けると、ギルバートは向いた額に唇を落として、そのまま鼻、頬、唇に滑らせた。
手でエマの顎を上げ、ついばむ様にエマの唇を唇で遊ぶ。
エマの手はギルバートのそれに当たっていて。手の甲でなぞるようにその位置を確認してから手のひらと指でその大きさを確かめようとした。
エマの手からの刺激で、ギルバートのそれがビクリと動く。最初に確認した時より硬くなって動いたのだ。
ギルバートはエマの手の動きに誘われるようにキスを深くしていく。
唇を舌で割り開き、口腔へ侵入させていく。
それを待ち望んでいたかのようにエマの口が開いてギルバートの舌を受け入れ、絡み合ってキスをさらに深くしていく。
鼻息が頬を擽り、背中に当たるギルバートの胸の鼓動が大きくなってくる。
それに伴い、エマの手に確認されているギルバートのそれも徐々に変化して勃ち上がっていく。
エマはその変化に焦って、舌に翻弄されていた唇をはがしてギルバートを見る。
「ギルバート……。今思いついたんだけど、最初のままでしたら痛みは少ないんじゃないかしら?」
「最初のまま?」
「なんか……硬くなってきて。大きさも、変わってきてる気がするの。だから、一旦元に戻してもらって、その……変化する前にわたしの中に……」
エマは勃っていないままで挿れて欲しいといっているのだ。
ギルバートは小さく笑ってエマの額に自分の額をくっつけ、また子供に説明するように話した。
「エマ、通常のままでは挿れることは出来ないんだよ。女性の入り口はとでも狭いからね、きちんと濡らしても硬くしなくては入らないんだ」
「濡らす……」
「女性は気持ちよくなると、男性を受け入れやすくするためにそこから液が分泌されるんだ。それが濡れるってこと」
「でも、これ。ものすごく……大きいわ……」
エマが勃ち上がっているギルバートのそれを確認していた手で握った。その手の中で感じる質量は、想像の遥か上だった。
「怖くはないよ。それはきっと君を喜ばせてあげられるものだから、俺に任せて」
耳もとで囁かれ、エマの背筋が下から上に羽根で擽られるような感覚が走り身体がブルリと震えた。
と同時に。
手に力がこもり、大きさを確かめるために包むように触っていたギルバートのそれを思い切り強く握ってしまった。
「うっ!」
「え?」
エマの腕を撫でていたギルバートの手が、自分のそれを握るエマの手を押さえる。
「そこを……強く握らないでくれ……」
身を屈め後ろ抱きしていたエマの肩にギルバートが落ちてくる。
「ギ……ルバート?」
勃ち上がっている(勃ち上がっていなくても)男性のそれを力任せに握られては、男なら呻いてしまう。ギルバートじゃなくてもだ。
だがエマはそれを知らなかったのでしょうがないのではあるが、この段にきてもこれではギルバートもそろそろ堪えるのをやめた方がいい。
「そこは男の急所だ……」
「ごめんなさいぃ……、ゆるして……」
ギルバートが苦しそうに呻くのでエマはまたやってしまってことを心から詫びたが、ギルバートは目の前にあるエマの身体を持ち上げドサリと仰向けに下ろしその上に身体を跨がせた。
「いいや。ゆるさない」
言葉とは裏腹に見下ろすギルバートの瞳がチョコレートのように溶けていて、エマは息を呑んだ。
唇が唇で塞がれ、ゆっくりと深く甘くギルバートがエマを味わう。
いつもと同じようなキスのつもりが、それが場所なのか雰囲気なのか胸の上に重なるギルバートの圧迫感のせいかもしれない。エマはまるで違って感じていた。
頬を撫でる手が首に下り、それと同じ経路でギルバートの唇も顎をなぞって首筋へ降りる。
首筋から耳の裏まで舐め上げられ、エマの背中がザワザワし出す。
「うひっ……ちょっと……」
耳へのキスの音が頭に響き、全身がもじもじとくねる。
鎖骨を撫でていた手が胸元まで降りると、エマのささやかな膨らみを包むようにギルバートの大きな手が動く。
『散らされた薔薇』のおかげでその手順は解っていたが実際にギルバートの手で膨らみを包まれると、これから起こることへの不安と期待でエマの胸が苦しくなるほどの早鐘を打っている。
それはギルバートにも伝わっていた。胸を包んだ手に直に響いて来ていたからだ。
ふくらみを撫で上げ布越しに先端にキスをすると、エマの身体がビクリとする。
まだ柔らかい先端を唇で刺激しながら、踝まであるネグリジェをたくし上げていくとまたエマの身体は再びビクリとする。
エマの緊張して硬い身体が、ギルバートのするひとつひとつに反応する。
ギルバートの愛撫は優しく丁寧で、エマが『散らされた薔薇』で知ったものとは違った。
エマの鼓動が早くなって呼吸も荒くはなっているのだが、本にあったように激しくはなく叫び声も出なかった。
ただ、モヤモヤとした感じたことのないものが沸々と込み上げて変な呻き声は出てしまっている。
「うぅ。うお……。うおぅ……」
色気にはだいぶ欠けているが、ギルバートはその反応を歓迎した。
エマ本人はまさかこんなひどい唸りを上げている自覚がない。
「おぉ……。うひっうぉう……」
酷い呻き声ではあるがエマは確実に愛撫に翻弄され快感を得ていた。入り口が潤い、解れ、迎え入れる準備が整いつつある。
ギルバートのそれも、硬さを増して温もりを求めていた。
首筋にキスしながらエマの片足を片手で抱え、エマの中心にそれを宛がう。
潤んだ瞳がギルバートを見つめ、ギルバートもその瞳を見つめながら切実を訴えた。
「ぐっ!んうぅ……」
来た!痛みが来た!
狭くきつい柔壺のなかへ、硬質の熱が進んでいく。
先ほど通った長い指とは違い、進むごとに痛みが全体に広がっていく。
「い……たい……」
苦痛に歪ませたエマの顔に優しく口付けを降らして、ゆっくり・ゆっくりと進んでいくのだが。
「痛っ!!」
中ほどまでやっと進んだところで、エマは初めて経験する苦痛に叫んだ。
「うっ!」
これはギルバートの呻き声。
抱えていたエマの片足が苦痛に跳ね上がり、ギルバートの後頭部を思い切り蹴飛ばしたのだ。
クリーンヒットだ。
後頭部を蹴飛ばした足はその反動を利用して、背中に踵落としをし。
「いーーーーったい!!」
これはエマの叫び。
後頭部のヒットと背中への打撃でゆっくり慎重に進んでいた腰が反り、ギルバートのそれがエマの最奥まで突き上げてしまったのだ。
「くっ……」
「ぐうぅぅ……」
呻く二人の身体が重なる。
痛恨の二人だ。
痛みとギルバートを蹴飛ばしてしまった事に茫然とするエマ。
蹴飛ばされたくらいで奥まで突き上げてしまい、エマに強烈な痛みを与えてしまったと申し訳なくなるギルバート。
「すまない……一気に入ってしまった」
「本当に……ごめんなさいぃ……」
ギルバートは鼻を摺り寄せながらゆっくりと建て直し、エマの顔を見下ろす。
エマはと言えば、何とも表現できない有り様になっている。
中心に感じる鈍痛と蹴飛ばした足に感じる罪悪感。つながった状態にどう反応していいのかわからない困惑。明らかに動揺して余裕がない。
複雑に入り混じった心境が、素っ頓狂な表情を作り出してしまっている。
それはギルバートの全身を脱力させるだけの破壊力があった。
「エマ……。君って人は……」
ギルバートはそのままの姿勢でエマをきつく抱きしめた。
*****
夜中に目が覚めたギルバートが隣に眠るエマを避けるように起き上がる。
挿入からも焦らないよう慎重に進め。なんとかエマの中で最後を迎え。
エマには苦痛があったが、それでも身体を重ねる気持ちよさを知り。
ギルバートは見たことのない表情と必死にしがみつく仕草に愛しさを増した。
エマの身体はクタクタだ。
今まで感じたことのない快感と、したことのない恰好をしたせいだ。
おかげでぐっすり眠るエマの寝相は盛大だ。
文字通り『大の字』。
新婚夫婦の同衾とは思えぬ姿だ。
寝入際は確かにギルバートの腕の中にいた。
しかし結婚式の夜も、風邪を引いて寝込んでいるときも。エマはいつでも熟睡姿勢は『大の字』だったのを知っているギルバートにはなんの感慨もない。
伸ばされたそのか細い腕を踏まないよう避けて、ベッドの端に移動しようと起き上がったのだ。
本当に自由で奔放で、かわいらしい。
俺のエマだ。
この女の子が自分の腕の中で女性になり、老いて行くにつれ魅力的に成長していく様を見続けることを想像して。
そして、ローゼンタールに戻れば満足気な顔で迎えてくれるだろうロバートとマーナの笑顔を思い浮かべ。
ギルバートは幸せを胸いっぱいにして眠りについた。
一つ一つの事柄にしてはいけなかったことを見つけ、反省と共にもう二度としないと神に誓いを立てていた。
一つのことを反省するたびに自分のわがままや勝手、情けなさを受け入れなくてはならず苦しいものだった。
しかし、これをせずにギルバートに謝ることは軽すぎると思ったのだった。
ギルバートはエマに怒ったことは一度もなかった。それなのに黙って部屋を出てそれきり放置をするということは、余程エマに腹を立てたに違いない。
思い通りにならないからと怒るなんて、小さな子供でも怒られることだ。
エマは結婚もした十八歳の女性なのに、なぜギルバートなら許してくれると決め込んでしてしまったのか。甘えと傲慢だ。
「神様。どうかわたしを良い大人になれるようお導きください。自分を律し他人のことを、とりわけギルバートを思い遣れる知恵をお授けください」
手を組み合わせ必死に祈っていたので気が付かなかった。ギルバートがそのすぐ後ろにいたことに。
「そのままの君でいいよ」
跪くエマの耳元に身体を屈めて囁く。
ギルバートの低くハスキーな声がエマの地の底に落ちた心を救い上げた。
咄嗟に振り向きギルバートの優しい微笑みを確認すると、エマは衝動でその首に縋りついた。
「ギルバート!ごめんなさい!わたしまたあなたに酷い態度をとったわ!」
ギルバートは縋りついて謝るエマの背中をさすり、腰に回した腕でエマを持ち上げる。
背の高いギルバートに持ち上げられると、エマの足は床からはるか高く離れてしまう。
そのまま両手で抱きしめられ、ゆっくりとベッドに下ろされる。
ベッドの上に立たされたエマがギルバートを見下ろすと、ギルバートは優しい微笑みのままでエマを見上げ頬を指の背で撫でた。
「そんなに反省してくれると思っていなかったんだ。すまない、もっと早く来ればよかった」
「それってどういう意味?」
「君を怒ったりなんかしないと言っただろう? 君の様子を見て実はもうすっかり元気なんじゃないかと思って。だからちょっとからかうつもりで食事を別に取ったんだ。その間にリンジーに風呂に入れて体調を見てくれって頼んで」
「リンジーに?」
「ああ、そうしたらリンジーがもうエマの調子は戻っているようだと言うから」
エマは泣き出しそうな顔でギルバートの顔を両手で覆った。
「わたしをからかったのね?」
「すまない。やりすぎてしまったようだ」
「いいの。わたしは本当にいけない娘よ。いえ、いけない妻よ。子供みたいにあなたにまた、またまた!酷い態度をとったわ……」
「かわいい妻だよ」
「ちゃんとした大人になりたいわ」
エマは心からの反省をギルバートに伝えたかったが、腰を支えるギルバートの手が動きベッドの上に立っていたエマを横抱きにして抱えてから優しく布団の上に寝かせた。
「大人にしてあげるよ。エマを俺のものにしたい」
寝かされたエマの横に座り、ギルバートがエマの髪を撫でながら微笑んだ。
ロウソクで照らされたその瞳には確実な誘引があった。
ギルバートのものになりたい、ギルバートの妻としての役目を果たしたい。それは思っていたことだったが、まさか今だとは心の準備が整っていない。
「今からなの……?」
「怖いかい?」
「驚いているの……」
「君が気持ちよくなれるようにしてあげるよ。怖がることはない。大丈夫だよ」
低くハスキーな声が甘く優しく誘惑するので、エマの心の準備は簡単に整ってしまった。
が、しかし。
この初夜の前に確認しようと決めていたことがある。それだけは先にしなくてはいけない。
エマはゆっくりと起き上がり、ギルバートの前に座った。
「わたしをあなたのものにしてほしいわ」
見つめながら言うと、ギルバートは破顔して溶けた。
エマを愛おしく見つめ返し、首の後ろに手をまわして唇を重ねようとした。
が、エマの言葉に止められる。
「その前にお願いがあるの。わたしの覚悟は決まっているし、愛があればどんなものでも受け入れられるとちゃんと思っているから、心配はいらないわ。だからまずは脱いでほしいの。確認してわかれば、少しは安心できると思うのよ」
エマは真剣な眼差しでギルバートに言った。
ギルバートは身体を離しエマの表情を読み取ろうとするが、読み取れない。
「まさか、体毛を確認したいのかい?」
エマがこの段にきて真剣に言い出しそうなことで思い当たったのが体毛だった。
「あなたに胸毛が生えていても、わたしは受け入れる覚悟をしているわ」
覚悟するようなことなのか?
しかしエマは真剣だ。
「……胸毛は生えないんだ、覚悟してもらったのに残念だがね」
体毛を受け入れる覚悟が出来ているなら他には思い当たらない。
本当ならエマにキスをして、エマを撫で、ロマンティック好きなエマにたっぷりと甘く官能的な雰囲気を体感させてあげたいのだが、真顔で見られている前で服を脱がされることになるとは。
ギルバートは言われた通りにガウンを脱いだ。下には薄い寝巻のズボンしかはいておらず逞しく鍛え上げられた胸や腹筋、肩や腕があらわになりエマはその彫刻のように美しい肉体に息を飲んだ。
しかし見とれてはいられない。重要なのは、確認しておきたいのは上じゃない。
「下も脱いでほしいの」
またも真顔で言われギルバートは耳を疑った。
「下も、脱いでほしいと言ったのかい?」
「そうよ。確認したいの。見せてちょうだい」
言いながら、エマの視線は完全にギルバートの股間だ。
「ちょっと、待ってくれエマ。確認ってそれは俺の、モノを確認したいってことか?」
ギルバートは焦ってエマの顎を掴み、視線を顔に戻させた。
「そうなの。あなたのペニスを確認したいの」
真剣な顔で男性器の名前を口にするエマに、ギルバートは動揺した。
今まで何人かの女性と親しい交流を経験しているギルバートだが、女性から男性器の名前をこうもはっきりと口に出されたことはない。
ましてや初めて睦みあう女性に、まずはそこを見てからなどとは言われたことがないのはもちろん、言い出されるなんて戸惑いしかない。
「エマ! どうしてそんなことを言いだすんだ!」
「どうしても確認しておきたいの」
ギルバートは動揺しているが、エマは至って真剣だ。
「待ってくれ。確認って、エマ、君は他の男のモノを見たことがあるのかい?」
「実物はないわ」
「実物……? じゃあ、どうしてそんな……。興味で言っているなら、そりゃ、裸になるのだし見せても……。どうしても先に見たいのかい?」
「見たいわ。その大きさを確認しておかないと安心できないの」
「大きさ? ちょっと待って、他の男のを見たことがないのに見てもわからないだろう?」
ギルバートの動揺が収まらない。しかしエマはまったく真剣だ。
「他の人のは見たことがないけど、うちの馬のは見てきたわ。あなたのがそれほど大きかったらどうしようと思ったのだけど、お父様から馬よりは大きくないはずだって。でも安心して身体をあなたに捧げたいの。だから大きさだけは確認したいの」
ギルバートはベッドに倒れこんで顔を両手で覆った。
もはやこれはコメディーとしか思えなくなってきていた。しかしエマは本気で真剣なので笑ってはいけないと思うのだが、震える肩が堪えきれない。
「エマ! 君はなんて話を父親としてるんだ! 馬と比べるなんて!ロバートがどんな顔をして答えたのか想像できるよ!」
とうとう噴き出し、盛大に笑いだしてしまった。
とてもじゃないがエマ相手に雰囲気を作ろうなど考える方が間違っているというものだと、ギルバートは自分の愚かさにも笑ってしまっているのだ。
ロマンティックなどもうどうでもいいものになって吹き飛ばされ、エマの眉間には怪訝な皺が立ってしまっているがギルバートは笑いを止めることが出来なかった。
「そんなにおかしなことかしら? 初めてなのよ。不安になるのはしょうがないわ。わたしあなたの身体が大きいから、ペニスも大きいのじゃないかと恐ろしくなって。だからあなたに結婚式の前逢えなかったのよ。それほど怖かったのよ」
「結婚式の前、逢えなかったのはそれが理由なのかい?」
「ええそうよ。悪かったって心から思っているわ。でも、あなたは本当に身体が大きいから、だからペニスも大きいと思い込んでしまったの。でも、お父様が言うには身体の大きさとペニスの大きさは比例しないって。でも、やっぱり先に確認して安心したいのよ」
「まあ、確かに一般的には比例はしないが。怖がらせるつもりはないけど、申し訳ないが俺の場合はちょっと大き目かもしれない。馬ほどではないけどね」
実際ギルバートのそれは大きかった。それを今までの女性は喜んだのだが、エマは明らかに落胆している。小さいほうがよかったらしい。
「あと、頼むからそのかわいい口と声でペニスなんて言葉言わないでくれ。堪らなくなる」
エマは男性器のことをロバートが性教育に使った人体図鑑でペニスと表記されているのを見たのだ。
「でも、ほかになんて言えばいいの?」
真っすぐな疑問だが、ギルバートはエマの唇に人差し指を立てて黙らせた。
「そのことに関しては、言葉にしない方向で頼むよ」
エマ自身も言いたいわけではない。しかし話がそこのことなので仕方なく言っていたのだ。男性器のことを話すのがレディのすることではないとわかっている。
「ごめんなさい。品のない言葉を言ってがっかりさせたわ……」
しゅんと肩を落とすエマにギルバートはまた噴き出しそうになったが、なんとか堪えた。
「ちがうよ。むしろ睦みあうときは品なんか忘れてもらった方が楽しいものだが、君がペニスって言うたびにドキドキさせられてしまうからね。それは後の楽しみだ。今は君の不安を解決しよう」
ギルバートはエマに向き直り、胡坐をかいて座り直した。エマを引き寄せ、その足の中に座らせる。
「これは知っているかな? 今脱いで見せても、それは本当の大きさじゃない。男性のそれは、興奮によって形を変える」
エマを腕の中に抱きしめながら、ギルバートは子供に話すように優しく言った。
「知っているわ。『散らされた薔薇』に書いてあったもの」
「『散らされた薔薇』?」
「マギーに借りた小説よ。そういうことが書いてあるの」
ギルバートはマギーが何も知らないエマのために貸したことが想像できた。しかしその手の本は大仰に煽り立てた表現が多いし、現実とはだいぶ違うものだ。
エマがその本の通りのことを想像していると、これはまた面倒だ。
「本ではこの重さや固さまで書いてあったかい?」
ギルバートはエマの手を優しく持ち上げて誘導し、手の甲に自分のものが当たるようにした。それ自体は通常時のままで、変化しているものではなかった。
「布の上から触ってみて。感触でたしかめてごらん」
背中から包まれていたエマは腕と一緒に顔をギルバートに向けると、ギルバートは向いた額に唇を落として、そのまま鼻、頬、唇に滑らせた。
手でエマの顎を上げ、ついばむ様にエマの唇を唇で遊ぶ。
エマの手はギルバートのそれに当たっていて。手の甲でなぞるようにその位置を確認してから手のひらと指でその大きさを確かめようとした。
エマの手からの刺激で、ギルバートのそれがビクリと動く。最初に確認した時より硬くなって動いたのだ。
ギルバートはエマの手の動きに誘われるようにキスを深くしていく。
唇を舌で割り開き、口腔へ侵入させていく。
それを待ち望んでいたかのようにエマの口が開いてギルバートの舌を受け入れ、絡み合ってキスをさらに深くしていく。
鼻息が頬を擽り、背中に当たるギルバートの胸の鼓動が大きくなってくる。
それに伴い、エマの手に確認されているギルバートのそれも徐々に変化して勃ち上がっていく。
エマはその変化に焦って、舌に翻弄されていた唇をはがしてギルバートを見る。
「ギルバート……。今思いついたんだけど、最初のままでしたら痛みは少ないんじゃないかしら?」
「最初のまま?」
「なんか……硬くなってきて。大きさも、変わってきてる気がするの。だから、一旦元に戻してもらって、その……変化する前にわたしの中に……」
エマは勃っていないままで挿れて欲しいといっているのだ。
ギルバートは小さく笑ってエマの額に自分の額をくっつけ、また子供に説明するように話した。
「エマ、通常のままでは挿れることは出来ないんだよ。女性の入り口はとでも狭いからね、きちんと濡らしても硬くしなくては入らないんだ」
「濡らす……」
「女性は気持ちよくなると、男性を受け入れやすくするためにそこから液が分泌されるんだ。それが濡れるってこと」
「でも、これ。ものすごく……大きいわ……」
エマが勃ち上がっているギルバートのそれを確認していた手で握った。その手の中で感じる質量は、想像の遥か上だった。
「怖くはないよ。それはきっと君を喜ばせてあげられるものだから、俺に任せて」
耳もとで囁かれ、エマの背筋が下から上に羽根で擽られるような感覚が走り身体がブルリと震えた。
と同時に。
手に力がこもり、大きさを確かめるために包むように触っていたギルバートのそれを思い切り強く握ってしまった。
「うっ!」
「え?」
エマの腕を撫でていたギルバートの手が、自分のそれを握るエマの手を押さえる。
「そこを……強く握らないでくれ……」
身を屈め後ろ抱きしていたエマの肩にギルバートが落ちてくる。
「ギ……ルバート?」
勃ち上がっている(勃ち上がっていなくても)男性のそれを力任せに握られては、男なら呻いてしまう。ギルバートじゃなくてもだ。
だがエマはそれを知らなかったのでしょうがないのではあるが、この段にきてもこれではギルバートもそろそろ堪えるのをやめた方がいい。
「そこは男の急所だ……」
「ごめんなさいぃ……、ゆるして……」
ギルバートが苦しそうに呻くのでエマはまたやってしまってことを心から詫びたが、ギルバートは目の前にあるエマの身体を持ち上げドサリと仰向けに下ろしその上に身体を跨がせた。
「いいや。ゆるさない」
言葉とは裏腹に見下ろすギルバートの瞳がチョコレートのように溶けていて、エマは息を呑んだ。
唇が唇で塞がれ、ゆっくりと深く甘くギルバートがエマを味わう。
いつもと同じようなキスのつもりが、それが場所なのか雰囲気なのか胸の上に重なるギルバートの圧迫感のせいかもしれない。エマはまるで違って感じていた。
頬を撫でる手が首に下り、それと同じ経路でギルバートの唇も顎をなぞって首筋へ降りる。
首筋から耳の裏まで舐め上げられ、エマの背中がザワザワし出す。
「うひっ……ちょっと……」
耳へのキスの音が頭に響き、全身がもじもじとくねる。
鎖骨を撫でていた手が胸元まで降りると、エマのささやかな膨らみを包むようにギルバートの大きな手が動く。
『散らされた薔薇』のおかげでその手順は解っていたが実際にギルバートの手で膨らみを包まれると、これから起こることへの不安と期待でエマの胸が苦しくなるほどの早鐘を打っている。
それはギルバートにも伝わっていた。胸を包んだ手に直に響いて来ていたからだ。
ふくらみを撫で上げ布越しに先端にキスをすると、エマの身体がビクリとする。
まだ柔らかい先端を唇で刺激しながら、踝まであるネグリジェをたくし上げていくとまたエマの身体は再びビクリとする。
エマの緊張して硬い身体が、ギルバートのするひとつひとつに反応する。
ギルバートの愛撫は優しく丁寧で、エマが『散らされた薔薇』で知ったものとは違った。
エマの鼓動が早くなって呼吸も荒くはなっているのだが、本にあったように激しくはなく叫び声も出なかった。
ただ、モヤモヤとした感じたことのないものが沸々と込み上げて変な呻き声は出てしまっている。
「うぅ。うお……。うおぅ……」
色気にはだいぶ欠けているが、ギルバートはその反応を歓迎した。
エマ本人はまさかこんなひどい唸りを上げている自覚がない。
「おぉ……。うひっうぉう……」
酷い呻き声ではあるがエマは確実に愛撫に翻弄され快感を得ていた。入り口が潤い、解れ、迎え入れる準備が整いつつある。
ギルバートのそれも、硬さを増して温もりを求めていた。
首筋にキスしながらエマの片足を片手で抱え、エマの中心にそれを宛がう。
潤んだ瞳がギルバートを見つめ、ギルバートもその瞳を見つめながら切実を訴えた。
「ぐっ!んうぅ……」
来た!痛みが来た!
狭くきつい柔壺のなかへ、硬質の熱が進んでいく。
先ほど通った長い指とは違い、進むごとに痛みが全体に広がっていく。
「い……たい……」
苦痛に歪ませたエマの顔に優しく口付けを降らして、ゆっくり・ゆっくりと進んでいくのだが。
「痛っ!!」
中ほどまでやっと進んだところで、エマは初めて経験する苦痛に叫んだ。
「うっ!」
これはギルバートの呻き声。
抱えていたエマの片足が苦痛に跳ね上がり、ギルバートの後頭部を思い切り蹴飛ばしたのだ。
クリーンヒットだ。
後頭部を蹴飛ばした足はその反動を利用して、背中に踵落としをし。
「いーーーーったい!!」
これはエマの叫び。
後頭部のヒットと背中への打撃でゆっくり慎重に進んでいた腰が反り、ギルバートのそれがエマの最奥まで突き上げてしまったのだ。
「くっ……」
「ぐうぅぅ……」
呻く二人の身体が重なる。
痛恨の二人だ。
痛みとギルバートを蹴飛ばしてしまった事に茫然とするエマ。
蹴飛ばされたくらいで奥まで突き上げてしまい、エマに強烈な痛みを与えてしまったと申し訳なくなるギルバート。
「すまない……一気に入ってしまった」
「本当に……ごめんなさいぃ……」
ギルバートは鼻を摺り寄せながらゆっくりと建て直し、エマの顔を見下ろす。
エマはと言えば、何とも表現できない有り様になっている。
中心に感じる鈍痛と蹴飛ばした足に感じる罪悪感。つながった状態にどう反応していいのかわからない困惑。明らかに動揺して余裕がない。
複雑に入り混じった心境が、素っ頓狂な表情を作り出してしまっている。
それはギルバートの全身を脱力させるだけの破壊力があった。
「エマ……。君って人は……」
ギルバートはそのままの姿勢でエマをきつく抱きしめた。
*****
夜中に目が覚めたギルバートが隣に眠るエマを避けるように起き上がる。
挿入からも焦らないよう慎重に進め。なんとかエマの中で最後を迎え。
エマには苦痛があったが、それでも身体を重ねる気持ちよさを知り。
ギルバートは見たことのない表情と必死にしがみつく仕草に愛しさを増した。
エマの身体はクタクタだ。
今まで感じたことのない快感と、したことのない恰好をしたせいだ。
おかげでぐっすり眠るエマの寝相は盛大だ。
文字通り『大の字』。
新婚夫婦の同衾とは思えぬ姿だ。
寝入際は確かにギルバートの腕の中にいた。
しかし結婚式の夜も、風邪を引いて寝込んでいるときも。エマはいつでも熟睡姿勢は『大の字』だったのを知っているギルバートにはなんの感慨もない。
伸ばされたそのか細い腕を踏まないよう避けて、ベッドの端に移動しようと起き上がったのだ。
本当に自由で奔放で、かわいらしい。
俺のエマだ。
この女の子が自分の腕の中で女性になり、老いて行くにつれ魅力的に成長していく様を見続けることを想像して。
そして、ローゼンタールに戻れば満足気な顔で迎えてくれるだろうロバートとマーナの笑顔を思い浮かべ。
ギルバートは幸せを胸いっぱいにして眠りについた。
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