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開闢の始まり

四大学園対抗戦 予選8

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「まぁ、戦力も温存したいし、いいですよね。ランさん?」

「そうだな。俺らに決める権限なんて元から無いっぽいけどな。」

ガハハと笑いながら既にフェドールと握手しに行っているメイの背中を眺める。
テンニーンも肩を竦めながら笑うが、二人とも解っているのだ。
何よりもメイが仲間想いだという事を。

仲間が怪我をすれば真っ先に駆け寄り治療するし、自分一人の戦いに集中すれば良い物を知らぬ間に仲間全員分の結界を張っていたり。

どんな時でも仲間の為に行動しているのがメイなのだ。
それが彼女の魅力であり、どれ程適当でお気楽な態度でも周りに仲間が集まって来てしまう『カリスマ性』を成している。




「私はメイ。よろしく。」

フェドールの大きな手。
メイの手を軽く包み込める程のサイズだ。
これに腹を抉られたフェイリスはどれ程苦しかっただろうか。
思わず握手にも力が入る。

「ははっ、そんな怖い顔をしなくても大人しくしていれば直ぐに終わらせてあげるよ。」

握り返すフェドールは爽やかな笑みを零す。
メイは心の中で舌打ちをし、踵を返して距離を取る。


ある程度距離が取れ、互いに見合う形になった。
審判の片腕が挙がり、振り下ろされる。


「ハジメッッッ!!!!!」

デミドランには一瞬、メイの姿が霞んで見えた。
しかし、他の生徒や観客からは何も起きていない様に見えているのだろう。

「どうした?特別サービスだ。好きな所に打ち込んでいいぞ?」

両腕を広げ、少女に余裕を見せるフェドール。
それにメイは笑顔を返す。

「もう済んだので早く救護室で治療した方がいいですよ?」

ペキン

「???」

広げた腕の関節が、通常とは反対側へと折れていた。

ペキン

そして膝も本来とは反対側に折れ、フェドールは顔面から地面へ衝突した。

「ハガッ...!?!?ゥガアァアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

「し、勝負ありイィイイッッッ!!!!」

迷わず審判が試合を止め、救護班が駆け付ける。
あまりの痛さと驚きで叫びながら身悶えするテカテカマッチョな巨漢を担架で運んでいった。

そして割れんばかりの歓声。
一体何が起きたのかと、得体の知れない少女の実力に観客達のボルテージは最高潮へと上った。


( 全く、趣味が悪いなぁ。)


メイは心の中で悪態をつく。
この世界では普通なのかも知れないが、こんな残虐な行為を褒められるのにメイは慣れていない。
少なくともメイの世界では御法度だろう。
まぁアモス理事長の事だ。
こういった試合でのダメージは軽減される様な仕組みになっているのだろう。
自分でやっといてだが、先程の様な試合では『イップス』になってもおかしくない。


そんなメイの思惑とは裏腹に、アモスは困っていた。
先程から、今年のアンソロポジーの生徒は凄いと周りの貴族一同から持て囃されている。

( ふーむ、あの生徒がイップスにならぬ様に祈ろう。)

勿論、会場内で受けた精神的、肉体的ダメージは軽減される様にはなっているが、メイの様な『例外』仕様では無かったのだ。
せいぜいフェドールの苦痛を和らげる程度。

( トーナメントに『一服』仕込んでおいて良かったわい。)

フォッフォと笑いながら、次の試合を見届けようと姿勢を正した。



『白バラの騎士団』は残り一人。
気の強そうな女性が、怒りの表情を露にしてメイと握手する。

「あなた、覚悟は出来てる?」

「え、なんのことです?」

メイはキョトンとして目をパチクリしているが、勿論演技だ。
気の強そうな女性の身体がプルプルと震える。

「私はシュリ。絶対に貴女を屈服させてみせるわ!」

メイとの握手を捨て去り、短剣を構えて開始の合図を待つ。
一方のメイも、半身で軽く構える。
どう見てもボクサーの構えだが。


審判の腕が挙がり、振り下ろされた。



「ハジメッッッ!!!!!」



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