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開闢の始まり

初任務2

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一息ついて、口を開く。

「さて、第36回の会議を開きます!」

メイが高らかに宣言すると、テンニーンとデミドランがパチパチと手を叩く。
デミドランは乗り気では無さそうだが。
それに倣い、フェイリスも手を叩いた。

「入学して半年が経ちました。」

学園へ入学して半年。
それが意味する事。

「もうすぐ対抗戦とやらがあるらしいです。」

対抗戦。
それはミストリア帝国にある4つの学園都市が、中央都に集まり合同開催する学園祭の様な物だ。
正式名称は『ミストリア帝国主催四大学園対抗戦』である。
各学園が3チームずつ選出し、優勝を競う。
優勝チームはトロフィーのペナントリボンに名前を刻まれ、多大な栄誉と出世、今後の活動への資金援助が約束される。

「フェイリスが仲間に入ってくれた事で、私達も出場条件を満たしました。多分アモスさんは出場させたいのでしょう。」

只の生徒達の揉め事に理事長が首を突っ込んで来たのだ。
それなりの思惑があるのだろう。

「今までこの学園が優勝した事は無いみたいですしね。」

テンニーンは何処で調べてきたのか、アンソロポジー魔術学園の状況を伝えた。

「へぇ、面白いな。」

それを聞いてデミドランも前のめりになる。
この話は、フェイリスも初耳だ。

「だけど、私達、注目されすぎてるよね、自業自得だけどさ。」

それにはフェイリスも強く頷いた。
自分が招いた結果として、このままでは学園生活を送りにくい。

「なので考えました!!」

メイが指を鳴らすと、ガラスモニターに年間予定表が映し出される。

「私達、ここからここまで、ギルド活動を主に行いたいと思います!」

メイが指差したのは今から卒業まで。

「ハハッ、相変わらずぶっ飛んでんな!」

思わずデミドランも手を叩いて笑う。
が、確かに理にかなっていた。
注目されている状況では、普通の学園生活等送れはしないだろう。
この学園は自由主義な為に入学半年からギルドで活動が出来る。
試験さえ受ければ昇級も卒業も出来るし、学園の外であれば対抗戦等のイベント事まで身を隠せる。
そして1番大きいのは、彼等の目的に少しでも近付けるという事だ。

「フェイリス、これから話す事、見る事、全部内緒にしてくれる?」

「??? あぁ、仲間になったのだし、約束しよう。」

メイは寝室の奥から1本の剣を持って来てフェイリスに渡す。
その剣の刀身は白銀に輝き、刃こぼれ1つ無い。
黄金の柄も頑丈で、握り心地も最高だった。

「こ、この剣はなんだ!?」

「その剣は『聖剣デュランダル』ってやつで、私の世界にあった最強の剣の1つ。昨日壊しちゃった剣と盾の代わりね。」

「私の...世界?」

「うん、ちょっと長くなるけど全て話すね?」


メイのこれまでの経緯。
デミドランとテンニーンの正体。
全てを話した。

「んで、私達はその世界を揺るがすであろう何かを止める為に活動してるの。他の古龍達がランちゃんみたいに勝手に暴走するのも止めないとだし。」

「え...あ...。」

理解した。
とんでもない化物パーティーに加えられてしまったのだと。
一国を滅ぼした五大古龍に、隠密に代々活動してきた王族の龍人、異世界から来た異能力者で亡国の王族。

デミドランの暗黒色の瞳、テンニーンの赤き瞳、メイの碧き瞳を交互に見て、貴族だなんだと暴れていた自分を恥じた。

そして手に持つ『聖剣デュランダル』が恐ろしい物に見えて、思わず取り零した。

サクッ

床に静かに柄まで沈んだ刀身。
それを見てフェイリスは身震いする。
子爵家に伝わる聖剣よりも遥かに性能が良いのが分かった。

「あ、ごめんごめん。鞘を渡し忘れてたね!」

昨日から、いとも簡単に高度な空間魔法を無詠唱で乱発するメイ。
話の信憑性は疑いようが無い。

「あわわわ...。」

鞘を受け取りながらも、フェイリスは暫く放心状態だった。







パーティー会議から数時間後。
正気を取り戻したフェイリスを連れ、4人は学園都市内にあるドレイムのハンターズギルド本部を訪れていた。

「たのもー!!!!」

勢い良く扉を開け、真っ直ぐに受付へと進む。
デミドランは『どっかで見たなこれ』と、思い出し笑いをしていた。

ハンターズギルド内部には、鎧やローブを身に纏った熟練のハンター達や荒くれ者という言葉が似合うハンター業を生業とする者達が跋扈している。
それらが、道場破りかの如く現れた学生服の4人を静かに観察していた。

アンソロポジー魔術学園は貴族御用達の学園でもあり、メイとフェイリスを見た荒くれ者の男達はその将来性と美貌に欲望を顕にした視線を向け、熟練のハンター達は4人の新米ハンターを憂う視線を向けている。

前者については言うまでもないが、貴族の令嬢と婚姻を結べば所謂勝ち組になれる。
ハンターの手ほどきをしてやると、パーティーに引き込んでしまえば貰ったも同然。
学生の男なんかよりも、ハンターが何たるかは良く分かっているつもりだ。
後はなし崩し的に将来が約束される。

後者は心配なのだ。
新米ハンターの生存率は50%を切る。
大半は勇み足で無茶な依頼に挑み、儚く散っていく。
それに、ハンターの敵は魔物だけではない。
盗賊や悪徳な商人の手に落ち命を落としたり、奴隷商品として闇市等で取り引きされてしまう者を何人も見てきたのだ。


「ドレイムのハンターズギルドへようこそ。」

色白の受付嬢が機械的に歓迎する。

ギルドを訪れるアンソロポジー魔術学園の生徒は多い。
だが、大半は面白半分の興味本位か、無知で傲慢な貴族の末子だ。
そういう輩はハンター証を持っていない。

しかし、受付嬢は目を丸くする。
1人はアンドランドのギルド公認ハンター証を提出し、他の3人も学園公認のハンター証を持っていた。
メイのD以外は、どれも学生専用のEクラスだが。

「い、いらっしゃいませ。当ギルドは初めてですか?」

気を取り直し、受付嬢としての仕事を再開した。

まずはギルド内部の説明だ。
受付を挟んで両側に位置する広間が集会所。
両傍にある別の受付、左が依頼の受付・申請所、右側が素材の鑑定所となっている。
そして、集会所の奥に設置された掲示板に各依頼書が貼ってある。
それを受付に持ってくれば依頼を受けられるらしい。
そして、依頼の難易度はハンターランクと連動している様だ。


一通りの説明を受けた4人は、集会所の奥の掲示板へと足を運んだ。


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