上 下
20 / 21

20球目【異世界野球、プレイボール!③】

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 異世界野球開幕。最初のアウトカウントを稼いだのは天才イレネーの驚異の瞬発力によるものだった。


 野球は守備が命。これは多くの人の意見が一致するところだろう。無駄に点を与えていてはなかなか勝つことは難しくなるものだ。
 守備の固いチームというのは、すなわち、センターラインがしっかりしていること。センターラインとは、『キャッチャー』『セカンド』『ショート』『センター』の四つのポジションのことを指す。ウチで言うなら、キャッチャーパフェリー、セカンドエリス、ショートイレネー、センターアラバンサ。
 この四つのポジションには、チーム内でも特に能力に秀でていそうな選手を配置している。ただ、実戦を経験していない以上、それはまだ『出来る可能性がある』レベルの話ではあるのだが……しかしイレネーは、最初のプレーでいきなり自分の実力を示して見せた。
 センターラインの強固さは、イコール守備の強固さとなる。そして、そこが機能しているとどういう効果が生まれるのかというと--ピッチャーが楽になるのだ。
 次の二番、三番には、かなり思い切って投げ込むことが出来た。打たれても守りがなんとかしてくれると思えると、真ん中周辺の大胆なコースで勝負することも厭わなくなる。相手を警戒するあまり、際どいコースばかりを突こうとすると、どうしたってボールカウントが先行してしまうし、単純に疲れも溜まる。ストライクゾーンに投げていいと気楽に構えられることがどれほどピッチャーの心理に好影響を与えるか、ということだ。
 キングドワーフズは、もちろん全く未知の相手である。情報は皆無に近いし、そもそも完全な野球未経験者の集まりなので、何をしてくるのか想像もつかない。そんな相手に対する時は、とにかく慎重に投げなければならないとは思う。ただ、その一方で大胆さも必要だ。色々な攻め幅を持たせることで、相手の出来ること・出来ないことを探る必要もあるからだった。
 そういう意味で、イレネーのスーパーキャッチが試合に与えた影響は、周囲が考えている以上に大きかった。何故か? 早くもキングドワーフズ各打者の弱点が露呈したからである。
 大胆にストライクゾーンで勝負した結果、どうなったか? 二番ドワーフ、三番ドワーフ共に三球三振だった。
 そこで得られた仮説--ドワーフ達は、ヘンな球しか打てないのでは?
 一番ドワーフの大飛球は、俺がコントロールを誤ってグラウンドに叩きつけてしまい、弾んだボールをアッパースイングで拾い上げたものだった。あれは焦ったが、そもそも、そんなボールは普通なら手を出すこと自体がおかしいものだ。その後は、コントロールを間違えずに投げたら二者連続三振。
 あくまで一回表の時点での話だが、もしかしたら、キングドワーフズは『悪球打ち』なのかもしれない。某大長編野球漫画でいう葉っぱくわえてる人みたいな感じの。本当にそうなら、ストライクゾーン投げ込んでおけば基本的には大丈夫ということになる。もっとも、葉っぱの人みたいに試合中に対策を打たれたら話は変わってくるのだが……
 とにかく、一筋の光は見えた。さあ、次は攻撃だ!





 一回裏、打席には先ほど守備でスーパープレーを披露したイレネーが立っている。

「イレネー、初球は見ていけよ」

 バッターボックスへ向かう際、俺はそう声を掛けていた。なにせ、相手ピッチャーは、あのロブロイさん。とんでもない威圧感。身長は、五メートルくらいある? デカーい、圧倒的。そして筋骨隆々。いや、これもう大魔神だろマジで。メジャーでもクローザーやれそうなレベル。
 この見た目からして、物凄い豪速球を放ってくるに違いない。あと、ボールの角度もえげつなさそう。なんていうの、天井からボールが飛んでくる、みたいな感覚。俺も野球経験は長いけど、さすがにこんなピッチャーとは対戦したことがないので、どう対処していいものかサッパリ分からない。
 だから、イレネーにはよく見て欲しかった。別に三振しても構わない。球をよく見たい。
 プレイがかかる。宇賀神エルフィーズ初めてのバッター、イレネー。頼むぞ。
 ロブロイさんは、振り被--らない。突っ立ったまま、招き猫のように手首のスナップだけで投げ込んできた。左利き。
 そんな野球の常識から外れた投げ方は、常識外れのボールを生んだ。気付いた時にはキャッチャーミットから破裂音のようなものが聴こえた。え、これ何キロ出てんの?
 日本最速は、確か大谷が二〇一六年のクライマックスシリーズで記録した百六十五キロ。メジャーまで広げても、百七十キロは超えていなかったはずだ。あ、日本プロ野球史上唯一の四百勝投手は、全盛期に百七十キロ出てたって話だったか……。
 …とにかく、ロブロイさんが棒立ちから放った速球は、それら超人のスピードを優に超えるものなのではなかろうか。測定できないから分からないけど、体感的には二百キロは出てそう。これもう野球じゃねえな、超野球だよ超野球。こんな球打てるわけないじゃん。
 ただ、結果としてはボールだった。そりゃそうだ。例えるならちょっとしたビルの屋上からちんまりしたキャッチャーミットに投げ込んでるようなもの。これでストライクゾーンに投げるのはかなり大変。野球というスポーツは、実は打てなくても点は取れるシステムがあるんだよ。なんならバットを振らなくてもいい。たとえどんなに凄まじいボールを投げられたって、ストライクにならなければ意味がないのだ。

「見ていけよー! 振らなくていいぞ!」

 イレネーにそう指示する。すると、俺を見て不敵な笑みを浮かべた。
 嫌な予感しかしない。いや、お前、打てるわけないだろ? ていうか、バットに当たるわけないだろ!?
 二球目。
 招き猫投法から繰り出される剛球に、イレネーは打ち気満々で構える。そして、タイミングを合わせた『つもり』で振りにいく。あーあー。
 …あれ?
 乾いた木から、芯で捉えた快音が?
 ま、まさか……?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

『百頭綺譚(ひゃくとうきだん)』中篇小説

九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
ファンタジー
 西暦一八五九年に誕生した〈あなた〉は百個の頭と百本の腕と百本の脚をもっていた。  リンカーンに百個の名前をもらったあなたは、亜米利加から英吉利へと羈旅し、畸形者サーカス団に入団する。  此処から世界規模の羈旅をしていったあなたは、第一次世界大戦にて〈あの男〉と邂逅する。 〈あの男〉との関係からナチス政権下の独逸へむかったあなたは――。  百個の頭をもった偉人の百年の生涯にわたる大冒険がはじまる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

貞宗を佩く白猿

糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
 曲亭馬琴他 編「兎園小説」第十一集「白猿賊をなす事」より(全五話)  江戸時代後期に催された、世の中の珍談・奇談を収集する会「兎園会」  「南総里見八犬伝」等で有名な曲亭馬琴、著述家の山崎美成らが発起人となって開催された「兎園会」で披露された世の珍談・奇談等を編纂したのが「兎園小説」  あの有名な「けんどん争い」(「けんどん」の語源をめぐる論争)で、馬琴と山崎美成が大喧嘩をして、兎園会自体は自然消滅してしまいましたが、馬琴はその後も、個人的に収集した珍談・奇談を「兎園小説 余録」「兎園小説 拾遺」等々で記録し続けます・・・もう殆ど記録マニアと言っていいでしょう。  そんな「兎園小説」ですが、本集の第十一集に掲載されている「白猿賊をなす事」という短い話を元に短編の伝奇小説風にしてみました。  このお話は、文政八(1825)年、十月二十三日に、海棠庵(関 思亮・書家)宅で開催された兎園会の席上で、「文宝堂」の号で亀屋久右衛門(当時62歳)という飯田町で薬種を扱う商人が披露したものと記録されています。  この人は、天明期を代表する文人・太田南畝の号である「蜀山人」を継いで二代目・蜀山人となったということです。  【あらすじ】  佐竹候の領国、羽州(出羽国)に「山役所」という里があり、そこは大山十郎という人が治めていました。  ある日、大山家に先祖代々伝わる家宝を虫干ししていると、一匹の白猿が現れ家宝の名刀「貞宗」を盗んで逃げてゆきます・・・。 【登場人物】  ●大山十郎(23歳)  出羽の国、山役所の若い領主  ●猟師・源兵衛(五十代)  領主である大山家に代々出入りしている猟師。若い頃に白猿を目撃したことがある。  ●猴神直実(猴神氏)  かつてこの地を治めていた豪族。大山氏により滅ぼされた。

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

処理中です...