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20球目【異世界野球、プレイボール!③】
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【前回のあらすじ】
異世界野球開幕。最初のアウトカウントを稼いだのは天才イレネーの驚異の瞬発力によるものだった。
野球は守備が命。これは多くの人の意見が一致するところだろう。無駄に点を与えていてはなかなか勝つことは難しくなるものだ。
守備の固いチームというのは、すなわち、センターラインがしっかりしていること。センターラインとは、『キャッチャー』『セカンド』『ショート』『センター』の四つのポジションのことを指す。ウチで言うなら、キャッチャーパフェリー、セカンドエリス、ショートイレネー、センターアラバンサ。
この四つのポジションには、チーム内でも特に能力に秀でていそうな選手を配置している。ただ、実戦を経験していない以上、それはまだ『出来る可能性がある』レベルの話ではあるのだが……しかしイレネーは、最初のプレーでいきなり自分の実力を示して見せた。
センターラインの強固さは、イコール守備の強固さとなる。そして、そこが機能しているとどういう効果が生まれるのかというと--ピッチャーが楽になるのだ。
次の二番、三番には、かなり思い切って投げ込むことが出来た。打たれても守りがなんとかしてくれると思えると、真ん中周辺の大胆なコースで勝負することも厭わなくなる。相手を警戒するあまり、際どいコースばかりを突こうとすると、どうしたってボールカウントが先行してしまうし、単純に疲れも溜まる。ストライクゾーンに投げていいと気楽に構えられることがどれほどピッチャーの心理に好影響を与えるか、ということだ。
キングドワーフズは、もちろん全く未知の相手である。情報は皆無に近いし、そもそも完全な野球未経験者の集まりなので、何をしてくるのか想像もつかない。そんな相手に対する時は、とにかく慎重に投げなければならないとは思う。ただ、その一方で大胆さも必要だ。色々な攻め幅を持たせることで、相手の出来ること・出来ないことを探る必要もあるからだった。
そういう意味で、イレネーのスーパーキャッチが試合に与えた影響は、周囲が考えている以上に大きかった。何故か? 早くもキングドワーフズ各打者の弱点が露呈したからである。
大胆にストライクゾーンで勝負した結果、どうなったか? 二番ドワーフ、三番ドワーフ共に三球三振だった。
そこで得られた仮説--ドワーフ達は、ヘンな球しか打てないのでは?
一番ドワーフの大飛球は、俺がコントロールを誤ってグラウンドに叩きつけてしまい、弾んだボールをアッパースイングで拾い上げたものだった。あれは焦ったが、そもそも、そんなボールは普通なら手を出すこと自体がおかしいものだ。その後は、コントロールを間違えずに投げたら二者連続三振。
あくまで一回表の時点での話だが、もしかしたら、キングドワーフズは『悪球打ち』なのかもしれない。某大長編野球漫画でいう葉っぱくわえてる人みたいな感じの。本当にそうなら、ストライクゾーン投げ込んでおけば基本的には大丈夫ということになる。もっとも、葉っぱの人みたいに試合中に対策を打たれたら話は変わってくるのだが……
とにかく、一筋の光は見えた。さあ、次は攻撃だ!
◇
一回裏、打席には先ほど守備でスーパープレーを披露したイレネーが立っている。
「イレネー、初球は見ていけよ」
バッターボックスへ向かう際、俺はそう声を掛けていた。なにせ、相手ピッチャーは、あのロブロイさん。とんでもない威圧感。身長は、五メートルくらいある? デカーい、圧倒的。そして筋骨隆々。いや、これもう大魔神だろマジで。メジャーでもクローザーやれそうなレベル。
この見た目からして、物凄い豪速球を放ってくるに違いない。あと、ボールの角度もえげつなさそう。なんていうの、天井からボールが飛んでくる、みたいな感覚。俺も野球経験は長いけど、さすがにこんなピッチャーとは対戦したことがないので、どう対処していいものかサッパリ分からない。
だから、イレネーにはよく見て欲しかった。別に三振しても構わない。球をよく見たい。
プレイがかかる。宇賀神エルフィーズ初めてのバッター、イレネー。頼むぞ。
ロブロイさんは、振り被--らない。突っ立ったまま、招き猫のように手首のスナップだけで投げ込んできた。左利き。
そんな野球の常識から外れた投げ方は、常識外れのボールを生んだ。気付いた時にはキャッチャーミットから破裂音のようなものが聴こえた。え、これ何キロ出てんの?
日本最速は、確か大谷が二〇一六年のクライマックスシリーズで記録した百六十五キロ。メジャーまで広げても、百七十キロは超えていなかったはずだ。あ、日本プロ野球史上唯一の四百勝投手は、全盛期に百七十キロ出てたって話だったか……。
…とにかく、ロブロイさんが棒立ちから放った速球は、それら超人のスピードを優に超えるものなのではなかろうか。測定できないから分からないけど、体感的には二百キロは出てそう。これもう野球じゃねえな、超野球だよ超野球。こんな球打てるわけないじゃん。
ただ、結果としてはボールだった。そりゃそうだ。例えるならちょっとしたビルの屋上からちんまりしたキャッチャーミットに投げ込んでるようなもの。これでストライクゾーンに投げるのはかなり大変。野球というスポーツは、実は打てなくても点は取れるシステムがあるんだよ。なんならバットを振らなくてもいい。たとえどんなに凄まじいボールを投げられたって、ストライクにならなければ意味がないのだ。
「見ていけよー! 振らなくていいぞ!」
イレネーにそう指示する。すると、俺を見て不敵な笑みを浮かべた。
嫌な予感しかしない。いや、お前、打てるわけないだろ? ていうか、バットに当たるわけないだろ!?
二球目。
招き猫投法から繰り出される剛球に、イレネーは打ち気満々で構える。そして、タイミングを合わせた『つもり』で振りにいく。あーあー。
…あれ?
乾いた木から、芯で捉えた快音が?
ま、まさか……?
異世界野球開幕。最初のアウトカウントを稼いだのは天才イレネーの驚異の瞬発力によるものだった。
野球は守備が命。これは多くの人の意見が一致するところだろう。無駄に点を与えていてはなかなか勝つことは難しくなるものだ。
守備の固いチームというのは、すなわち、センターラインがしっかりしていること。センターラインとは、『キャッチャー』『セカンド』『ショート』『センター』の四つのポジションのことを指す。ウチで言うなら、キャッチャーパフェリー、セカンドエリス、ショートイレネー、センターアラバンサ。
この四つのポジションには、チーム内でも特に能力に秀でていそうな選手を配置している。ただ、実戦を経験していない以上、それはまだ『出来る可能性がある』レベルの話ではあるのだが……しかしイレネーは、最初のプレーでいきなり自分の実力を示して見せた。
センターラインの強固さは、イコール守備の強固さとなる。そして、そこが機能しているとどういう効果が生まれるのかというと--ピッチャーが楽になるのだ。
次の二番、三番には、かなり思い切って投げ込むことが出来た。打たれても守りがなんとかしてくれると思えると、真ん中周辺の大胆なコースで勝負することも厭わなくなる。相手を警戒するあまり、際どいコースばかりを突こうとすると、どうしたってボールカウントが先行してしまうし、単純に疲れも溜まる。ストライクゾーンに投げていいと気楽に構えられることがどれほどピッチャーの心理に好影響を与えるか、ということだ。
キングドワーフズは、もちろん全く未知の相手である。情報は皆無に近いし、そもそも完全な野球未経験者の集まりなので、何をしてくるのか想像もつかない。そんな相手に対する時は、とにかく慎重に投げなければならないとは思う。ただ、その一方で大胆さも必要だ。色々な攻め幅を持たせることで、相手の出来ること・出来ないことを探る必要もあるからだった。
そういう意味で、イレネーのスーパーキャッチが試合に与えた影響は、周囲が考えている以上に大きかった。何故か? 早くもキングドワーフズ各打者の弱点が露呈したからである。
大胆にストライクゾーンで勝負した結果、どうなったか? 二番ドワーフ、三番ドワーフ共に三球三振だった。
そこで得られた仮説--ドワーフ達は、ヘンな球しか打てないのでは?
一番ドワーフの大飛球は、俺がコントロールを誤ってグラウンドに叩きつけてしまい、弾んだボールをアッパースイングで拾い上げたものだった。あれは焦ったが、そもそも、そんなボールは普通なら手を出すこと自体がおかしいものだ。その後は、コントロールを間違えずに投げたら二者連続三振。
あくまで一回表の時点での話だが、もしかしたら、キングドワーフズは『悪球打ち』なのかもしれない。某大長編野球漫画でいう葉っぱくわえてる人みたいな感じの。本当にそうなら、ストライクゾーン投げ込んでおけば基本的には大丈夫ということになる。もっとも、葉っぱの人みたいに試合中に対策を打たれたら話は変わってくるのだが……
とにかく、一筋の光は見えた。さあ、次は攻撃だ!
◇
一回裏、打席には先ほど守備でスーパープレーを披露したイレネーが立っている。
「イレネー、初球は見ていけよ」
バッターボックスへ向かう際、俺はそう声を掛けていた。なにせ、相手ピッチャーは、あのロブロイさん。とんでもない威圧感。身長は、五メートルくらいある? デカーい、圧倒的。そして筋骨隆々。いや、これもう大魔神だろマジで。メジャーでもクローザーやれそうなレベル。
この見た目からして、物凄い豪速球を放ってくるに違いない。あと、ボールの角度もえげつなさそう。なんていうの、天井からボールが飛んでくる、みたいな感覚。俺も野球経験は長いけど、さすがにこんなピッチャーとは対戦したことがないので、どう対処していいものかサッパリ分からない。
だから、イレネーにはよく見て欲しかった。別に三振しても構わない。球をよく見たい。
プレイがかかる。宇賀神エルフィーズ初めてのバッター、イレネー。頼むぞ。
ロブロイさんは、振り被--らない。突っ立ったまま、招き猫のように手首のスナップだけで投げ込んできた。左利き。
そんな野球の常識から外れた投げ方は、常識外れのボールを生んだ。気付いた時にはキャッチャーミットから破裂音のようなものが聴こえた。え、これ何キロ出てんの?
日本最速は、確か大谷が二〇一六年のクライマックスシリーズで記録した百六十五キロ。メジャーまで広げても、百七十キロは超えていなかったはずだ。あ、日本プロ野球史上唯一の四百勝投手は、全盛期に百七十キロ出てたって話だったか……。
…とにかく、ロブロイさんが棒立ちから放った速球は、それら超人のスピードを優に超えるものなのではなかろうか。測定できないから分からないけど、体感的には二百キロは出てそう。これもう野球じゃねえな、超野球だよ超野球。こんな球打てるわけないじゃん。
ただ、結果としてはボールだった。そりゃそうだ。例えるならちょっとしたビルの屋上からちんまりしたキャッチャーミットに投げ込んでるようなもの。これでストライクゾーンに投げるのはかなり大変。野球というスポーツは、実は打てなくても点は取れるシステムがあるんだよ。なんならバットを振らなくてもいい。たとえどんなに凄まじいボールを投げられたって、ストライクにならなければ意味がないのだ。
「見ていけよー! 振らなくていいぞ!」
イレネーにそう指示する。すると、俺を見て不敵な笑みを浮かべた。
嫌な予感しかしない。いや、お前、打てるわけないだろ? ていうか、バットに当たるわけないだろ!?
二球目。
招き猫投法から繰り出される剛球に、イレネーは打ち気満々で構える。そして、タイミングを合わせた『つもり』で振りにいく。あーあー。
…あれ?
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