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16球目【宇賀神エルフィーズVSキングドワーフズ!③】
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【前回のあらすじ】
宇宙に触れた。死んだ父親に会った。
一ヶ月の間に、試合への準備は済ませていた。塁間の距離、ベースの設置の仕方、線を引く位置など、グラウンドの作り方は全て図面にしておいた。
だが、図面だけでは作れない。『ロブロイの工房』が作ってくれた巻尺があって、初めて正確な距離で作られた『野球場』が出現する。尺はほぼほぼ正確になっているはず。なんせ、俺のシンボルの長さをベースに作られているからね……
こればっかりは本当、天才バカ……いや、天才打者の日比野さんに頭が上がらない。災い転じて福となすとはまさにこのことだな、と。
ウォーミングアップが終わった。グラウンドもできた。用具も揃った。選手も揃った。
さあ、やろう。
これが、異世界における野球の船出だ。ここからは、全てが新しい足跡。未踏の地に踏み入るのは、なんだかとても誇らしく、うきうきするんだ。
「…打順発表ォォォーーーーッ!!!!!!」
第一歩目はいつも威勢良く。それが俺の信条だ。二度目なのでさらに対策が完璧になっていて、俺が息を吸い込んでいる段階で、全員耳当てを装着していた。そして、言い終わった段階で外した。
「…ふぅ。さあ、まずは一番だ。一番、ショート、イレネー!」
打順は何日間も悩み抜いた。だからこそ、今は本当に悔いがない。これが最適解だと確信している。
一番バッターは、チームで俺の次に若いイレネー。実質的最年少、という表現にしておこうか。
とにかく、彼女はスポーツエリート。それはこの一ヶ月の姿を見ているだけでも十分すぎるほど理解できた。イレネーなら、今日本の女子プロ野球リーグに入ったとしても、即レギュラーとしてやれるだろう。そのくらい、圧倒的な運動能力がある。もちろん、まだパワーは不足しているので、クリーンナップとしては適さないが、出塁率には相当期待できると踏んで切り込み隊長とした。
間違いなく、エルフィーズ打線のキーマンの一人。彼女の調子次第でチームの浮沈が決まるレベルで。でもまぁ、大丈夫だろう。そう思っているから任せるんだ。
「二番、セカンド、エリス!」
二番は、イレネーと二遊間を組むエリス。俺の命の恩人でもある。
エリスもイレネーと同様に、基礎的な能力自体が頭一つ抜けている。そこはやはり、国を統べる女王の側近として働いていただけのことはある。かつての役職上、国への忠義心も厚く、野球を国技としたい意向の女王に貢献するため、チームで最も真摯な態度で練習を行っていた。監督目線で見れば、チームリーダーとなる資質を持つ、非常に頼れる選手。プロ野球で例えるなら西武黄金期の石毛のような存在だ。この部分は分かる人だけ分かってくれ。知りたければググって。
…とにかく、イレネーとエリス、どちらかが常に出塁するような形になれば、チームの得点力は大きく向上すると考えている。
「えー、三番、サード、オーブ!」
ここでチーム唯一の男性エルフ、オーブの登場だ。
彼は性格的に良く言えば慎重、悪く言えば臆するところがあって、野球選手に向いているのかというとちょっと疑問なところがないこともない。はじめは、その面構えの良さからもっと豪快な男なのかなと思っていたが、この一ヶ月でもっとも印象の変わった選手だ。
でも、性格はそれぞれの個性だ。野球はロボットを集めてやるものではなく、違った個性を有する集団で行うもの。そして、オーブはやはり男性だけあって力が強い。その個性を生かすならやはりクリーンナップだろう。あとは、俺がどう彼を操縦するかにかかっているのかもしれない。
「四番……ピッチャー、俺!」
…これについては、ちょっと説明させて欲しい。少し長くなるが、俺の本音を聞いておけ。
俺はプロ野球の世界ではクビ寸前というか、ほぼクビ確定みたいな選手だったよ。それは確かだ。だけど勘違いしてはいけない。俺は決して野球が下手くそなわけじゃない。むしろ上手い。だってプロだもの。手前味噌ですが。
プロの最下層でもアマチュアレベルならトップクラスなんだよ。だってそうだろう。アマチュアの最高レベルでなければ、そもそもプロの門はくぐれないんだぞ? 俺は高校時代はエースで四番だったんだ、これでも。甲子園にまでチームを連れて行ったんだよ。大学からは外野手転向したけど、それでもピッチャーだった頃の感覚は忘れていない。少なくとも、野球経験のない連中よりはまともなコントロールで投げられる。
四番を打つことに関して異議はないよね? プロの打者がその辺でやってる草野球に飛び入り参加したとしたら何番を打つ? 四番だろ普通。考えるまでもない。そこは譲れない。
この試合自体は大変に意義深いものだし、歴史の一ページとして刻まれるような出来事でもある。そういう意味で俺も高揚しているけど、これから行われる野球のレベル自体は極めて怪しい。良くも悪くも『はじまり』なのだ。
俺が四番として、目指すべき『到達点』を自ら示すことが、のちの異世界野球のレベルアップに繋がると信じる。ということで、四番ピッチャー俺!
…自己弁護のようなことをして疲れてしまった。続きは次回に。ほな、また……
宇宙に触れた。死んだ父親に会った。
一ヶ月の間に、試合への準備は済ませていた。塁間の距離、ベースの設置の仕方、線を引く位置など、グラウンドの作り方は全て図面にしておいた。
だが、図面だけでは作れない。『ロブロイの工房』が作ってくれた巻尺があって、初めて正確な距離で作られた『野球場』が出現する。尺はほぼほぼ正確になっているはず。なんせ、俺のシンボルの長さをベースに作られているからね……
こればっかりは本当、天才バカ……いや、天才打者の日比野さんに頭が上がらない。災い転じて福となすとはまさにこのことだな、と。
ウォーミングアップが終わった。グラウンドもできた。用具も揃った。選手も揃った。
さあ、やろう。
これが、異世界における野球の船出だ。ここからは、全てが新しい足跡。未踏の地に踏み入るのは、なんだかとても誇らしく、うきうきするんだ。
「…打順発表ォォォーーーーッ!!!!!!」
第一歩目はいつも威勢良く。それが俺の信条だ。二度目なのでさらに対策が完璧になっていて、俺が息を吸い込んでいる段階で、全員耳当てを装着していた。そして、言い終わった段階で外した。
「…ふぅ。さあ、まずは一番だ。一番、ショート、イレネー!」
打順は何日間も悩み抜いた。だからこそ、今は本当に悔いがない。これが最適解だと確信している。
一番バッターは、チームで俺の次に若いイレネー。実質的最年少、という表現にしておこうか。
とにかく、彼女はスポーツエリート。それはこの一ヶ月の姿を見ているだけでも十分すぎるほど理解できた。イレネーなら、今日本の女子プロ野球リーグに入ったとしても、即レギュラーとしてやれるだろう。そのくらい、圧倒的な運動能力がある。もちろん、まだパワーは不足しているので、クリーンナップとしては適さないが、出塁率には相当期待できると踏んで切り込み隊長とした。
間違いなく、エルフィーズ打線のキーマンの一人。彼女の調子次第でチームの浮沈が決まるレベルで。でもまぁ、大丈夫だろう。そう思っているから任せるんだ。
「二番、セカンド、エリス!」
二番は、イレネーと二遊間を組むエリス。俺の命の恩人でもある。
エリスもイレネーと同様に、基礎的な能力自体が頭一つ抜けている。そこはやはり、国を統べる女王の側近として働いていただけのことはある。かつての役職上、国への忠義心も厚く、野球を国技としたい意向の女王に貢献するため、チームで最も真摯な態度で練習を行っていた。監督目線で見れば、チームリーダーとなる資質を持つ、非常に頼れる選手。プロ野球で例えるなら西武黄金期の石毛のような存在だ。この部分は分かる人だけ分かってくれ。知りたければググって。
…とにかく、イレネーとエリス、どちらかが常に出塁するような形になれば、チームの得点力は大きく向上すると考えている。
「えー、三番、サード、オーブ!」
ここでチーム唯一の男性エルフ、オーブの登場だ。
彼は性格的に良く言えば慎重、悪く言えば臆するところがあって、野球選手に向いているのかというとちょっと疑問なところがないこともない。はじめは、その面構えの良さからもっと豪快な男なのかなと思っていたが、この一ヶ月でもっとも印象の変わった選手だ。
でも、性格はそれぞれの個性だ。野球はロボットを集めてやるものではなく、違った個性を有する集団で行うもの。そして、オーブはやはり男性だけあって力が強い。その個性を生かすならやはりクリーンナップだろう。あとは、俺がどう彼を操縦するかにかかっているのかもしれない。
「四番……ピッチャー、俺!」
…これについては、ちょっと説明させて欲しい。少し長くなるが、俺の本音を聞いておけ。
俺はプロ野球の世界ではクビ寸前というか、ほぼクビ確定みたいな選手だったよ。それは確かだ。だけど勘違いしてはいけない。俺は決して野球が下手くそなわけじゃない。むしろ上手い。だってプロだもの。手前味噌ですが。
プロの最下層でもアマチュアレベルならトップクラスなんだよ。だってそうだろう。アマチュアの最高レベルでなければ、そもそもプロの門はくぐれないんだぞ? 俺は高校時代はエースで四番だったんだ、これでも。甲子園にまでチームを連れて行ったんだよ。大学からは外野手転向したけど、それでもピッチャーだった頃の感覚は忘れていない。少なくとも、野球経験のない連中よりはまともなコントロールで投げられる。
四番を打つことに関して異議はないよね? プロの打者がその辺でやってる草野球に飛び入り参加したとしたら何番を打つ? 四番だろ普通。考えるまでもない。そこは譲れない。
この試合自体は大変に意義深いものだし、歴史の一ページとして刻まれるような出来事でもある。そういう意味で俺も高揚しているけど、これから行われる野球のレベル自体は極めて怪しい。良くも悪くも『はじまり』なのだ。
俺が四番として、目指すべき『到達点』を自ら示すことが、のちの異世界野球のレベルアップに繋がると信じる。ということで、四番ピッチャー俺!
…自己弁護のようなことをして疲れてしまった。続きは次回に。ほな、また……
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