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14球目【宇賀神エルフィーズVSキングドワーフズ!①】

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【前回のあらすじ】
 宇賀神エルフィーズ結成初の全体練習。早速各部員の個性が見えてきて……。


 エルフの国の選抜野球チーム、【宇賀神エルフィーズ】結成から、早一ヶ月。光陰矢の如しとはこのことか。本当にあっという間だった。
 用具不足により練習メニューが制限される中でも、やれることはやってきた。ランニング、キャッチボール、遠投、短距離ダッシュ、槍を加工した棒を使った素振りetc……初体験のことばかりだろうに、みんなはよくついてきてくれた。
 その過程の中で、それぞれの個性もよく見えてきた。少し紹介しようと思う。

 まずは、エルフでは唯一の男性、オーブ。そして、マッスルウーマンのアーチェ。この二人は本当に身体能力が高い。素振りのスピードも速く、力強い。また、遠投の距離もチームワンツー。アーチェはファーストの守備を想定していたが、状況次第ではライトを守らせるのもアリかもしれない。特に、相手ランナーが二塁にいて、本塁突入を絶対に阻止したい場面などでは、守備交代も検討しなければなるまい。
 打順は、アーチェが三番、オーブは五番かな。二人の長打力には大いに期待したいところだ。

 外野を担う三人、エポスタ、アラバンサ、ミュゼはまさに三者三様といった感じ。
 エポスタは体力的にキツそうでもとにかく表情が変わらない。本当に変わらない。いつも朗らかに笑っていて、頼もしくさえもあるくらいだ。やはり当初の見立てどおり、身体能力では他に比べて劣る。しかし、そのメンタルは特筆モノ。他の選手に重圧がかかるような場面でも、彼女だけは普段の力を発揮できるかもしれない、という期待が俺の中では大きくある。下位打線にはなるだろうが、スタンスを崩さずに気楽にやってもらいたい。
 アラバンサは、いわゆる心技体が高レベルでまとまった選手になってくれそうだ。その鋭い瞳の印象どおり、とにかくスキがない。この人も大変な美人ではあるのだが、それゆえに口説き落とすのは相当難易度が高そうだ。一度チャレンジはしてみたいと思うが……。打順? 一番か二番かな……。
 ミュゼは、本当に頑張り屋さんで頭が下がる思いだ。動くたびにばるんばるん揺れるところも含めて、俺にとって本当に癒しの存在となっている。ささくれた心がまあるくなっていくような心地。ただ、選手として冷静に分析すれば、能力的にはチーム最下位。"ライパチ"ならぬ"ライク"をやってもらうことになりそうだ。でも、ミュゼはいてくれればいい。この一ヶ月で、そう思わせてくれるくらいに愛しい存在となったのだった--決して性的な意味じゃなくてだよ?
 それぞれ個性を持ったこの三人。他の選手も含めて、面白いチームになった--そんな手応えがあった。
 もちろん勝たなければいけない試合なんだ。だけど、正直な気持ちは……早く試合がしたい。まだまだ未完成なチームだし、まともに野球になるとは思っていない。それでも、やりたい。監督ってこんな気分なんだな。いや、選手兼任だけど……。





 その瞬間は、極めて唐突に訪れた。

「宇賀神さん!!」

 朝早くから慌てて飛び込んできたのはパフェリーだった。俺は着替え中でパンイチだったが、パフェリーがあんまり慌てているので、不思議と冷静を保っていられた。というか、なんなら見せつけてやるくらいの心のゆとりがあった。野球が戻ってきたお陰か、精神が安定しているのだろう。

「どした?」

「どした? じゃないですよ~! 服着てください服! 来たんです!」

「なにが?」

「ドワーフの、集団が! 野球用具を持って!」

「ああ、そう……ってマジか! なんでそれを早く言わないんだ!?」

 俺は急いで黄土色の町人服に身を包んで、住まいを飛び出した!
 それにしても、事前連絡なしとは。マナーがなってないよ、マナーが!!





 国と外界を隔てる大きな門の前には、ドワーフの集団が集結していた。荷車には、たくさんの野球用具たち。
 ああ、この光景を夢見ていた。ついに、ついに、この世界オリジナルの野球用具が誕生したのだ。これで、いよいよ胸を張って野球の普及に取り組むことができる。
 …ドワーフチームを倒すことができれば、だが。

「宇賀神、どうだ。出来を見てくれんか?」

 集団の後ろで腕組みをして立っていたロブロイが、自信満々の様子でそう口にした。
 俺は荷車からバットを手に取る。これは……持った感じは、向こうで使っていた物とそう変わらない手触りだ。重さも十分だし、バットのヘッドもキチンと太めになっている。グリップの再現性も高い。バットについては、実物がなく、俺画伯直筆のイラストと注釈くらいしかなかったというのに、見事な仕上がりだ。これがドワーフの職人達の技術--想像を超える出来に、俺はただ舌を巻くしかなかった。
 モデルのあったグラブやスパイクについては、さらに再現性が高い。使われている素材は、俺の持ってきた物とは当然異なるだろうが、よく分析したんだろう。実際に手に取っても違和感を感じない。重さも、手触りも、縫い目も強度も。俺は驚いて、ロブロイさんの顔を見た。

「…すごいですね、『ロブロイの工房』の技術力は」

「ふふん、当たり前のことを言うな……。受けた仕事は納期までに完璧にこなす--それがワシらのジャスティスじゃ!」

 他の職人ドワーフ達の顔に目を遣ると、いずれも顔色が悪く、疲れがはっきりと滲んでいる。俺のために、野球のために申し訳ない。
 でも……ありがとう!!

「…忘れとらんだろうな? この先量産に入るか否かは、ワシらとの試合結果次第だということを」

「この宇賀神拓哉、一度交わした約束は忘れないですよ、生憎ね。あなた達を完膚なきまでに倒すため、この一ヶ月練習してきました!」

「…え? その、試合って、今日やるんですか?」

 そう言って戸惑うパフェリー。俺とロブロイさんはパフェリーの方を見て、ほとんど同時に放った。

「当然だ(じゃ)!!」
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