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終幕 かわせみは籠のなか

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「アマネの嘘ツキ。やっぱり嫌いっ……っ」
「ごめん、ごめんよ翡翠。もう嫌いだなんて言わないで」

 皓介から翡翠を奪還したアマネは、帰りの車のなかで舞台衣装がぐしゃぐしゃになるのも構わず、翡翠をがむしゃらに抱いた。舞台に元婚約者を呼んだ彼のほんとうの心が見えないと嘆く彼女の誤解をとくために、一心不乱に愛を囁き身体をひらく。
 アマネに口を塞がれ、声を押し殺したまま達した翡翠は初めて抱かれた夜以来の深い充足感を前に、あぁ、と涙を零す。
 車のなか、翡翠は彼の上で揺さぶられ、軽く意識を飛ばす。金糸雀百貨店に戻る直前に、一緒に慌てて身なりを整え、苦笑する。


「――おかえり、新たな歌姫どの」


 アマネに迎えられ、金糸雀歌劇団に戻った翡翠は誠から話をきき、自分が試されていたのだと痛感した。
 金糸雀歌劇団という組織の背後には旧王朝派の人間が関与しており、朝周の花嫁候補にあがった公家華族出身の翡翠を追いだそうとしていたのだ。

 元婚約者と強引に引き離された彼女を哀れに思ったアマネははじめ、その計画に乗った。だからわざと彼女に嫌われるよう破廉恥な態度の金城朝周を演じていたが、誤算が生じてしまう。

「もう、嫌いだなんて言わせないから……ずっとこの鳥籠のなかで、俺のためだけに啼いて」
「――アマネ……」

 周もまた、翡翠に恋してしまったから。
 歌姫になるためなどという嘘を信じ込ませ、卑劣な手段で女装中に彼女の身体を調教し、自分の色に染めていくうちに、彼女のいない日常が考えられなくなってしまった。

 嫌われても構わない、そう思いながらも心の底では嫌いにならないでと叫んでいた。

 翡翠を誰にも渡したくないと、静鶴の計画に従うふりをしながら……アマネは皓介に彼女を諦めさせるため、蝶子とともに初日の舞台を観てもらおうと手配した。けれどもそれが裏目に出て、今回の騒動に発展してしまう。


 鳥籠に舞い戻ってきてくれた翡翠を抱く都度、彼の独占欲は深まるばかり。
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