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第弐幕 黒糖飴と歌姫修行

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「そうね。金糸雀歌劇団を潰さないためにも」

 アマネが結婚して女優を退けば、歌劇団もまた、消えるだろう。七色の声を持つ歌姫の抜けた穴を埋める人材など、そう簡単には見つからない。撫子ひとりに看板を背負わせるのも無理がある。音痴の翡翠を筆頭に使うなどもってのほか。
 静鶴にとって金糸雀歌劇団の首位歌姫は小鳥遊愛間音ただひとり。小鳥を遊ばせられない鳥籠など、ないに等しい。
 だから静鶴は釘をさす。

「結婚して退場なんて、許さないわよ」

 まだまだ楽しみたいんだからと笑って。

「……結婚も何も」
「そうかしら? 家から売りだされたかわせみに逃げ場はない。あるのは鳥籠の煌びやかな舞台か金城家の莫迦息子の奥方という地位ふたつにひとつ。朝誠さんは舞台で遊ばせてから嫁がせたいみたいだけど……」

 このままじゃ、飼い殺しねと静鶴は溜め息をつき、アマネに問いかける。

「私はそんな哀れなかわせみを籠から出そうと思うの」

 朝誠さんには悪いと思うけどね、とにっこり微笑む静鶴に、アマネは目を瞠る。

「出すって、どうやって……?」
台本シナリオはすでに出来上がっているの。あとは決行の日取りと役者を揃えるだけ。だから……彼を貸してくれない?」

 訝しげな表情のアマネに、静鶴は駄目押しのひとことを囁く。

「あなたにだって悪い話ではないはずよ。その身に宿る誇り高い血を日の本の公家華族に穢されるなんて耐えられない。そうは思わない? 金城朝周……いえ、あまねちゃん」

 小鳥遊アマネこと金城朝周はふっと顔色を変え、静鶴に告げる。

「――靭に、伝えておきます」

 が、と声色を低くして、彼は囁く。

「翡翠を侮辱するような言葉だけは、口にしないでいただきたい」
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