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第弐幕 黒糖飴と歌姫修行

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「静鶴さんの妄想が暴走するのはいつものことよ。半分くらい、いえそれ以上夢物語だから放っておいてかまわないわ」

 それに、自分の世界に浸れているからこそ、優れた作品を書くのだとアマネは笑う。

「金糸雀歌劇の脚本と演出は彼女があってこそ。それに、いつまでも純真で無垢だから親父さまも放っておけなかったんでしょ」
「そういうもの、なのですかね……」

 あっけらかんとしたアマネの言葉に、翡翠は曖昧に頷き、静鶴から渡された脚本に目を通す。
 
「……燐寸マッチ売り?」
「いまから七十年くらい前に、アンデルセンってひとが書いた童話をもとにしたそうよ」

 丁抹デンマークの童話作家だというが、日本ではまだ文学者向けの独逸ドイツ語のものしか流通していないため、翡翠は知らない。静鶴も譲と親交のあるドイツ人に依頼して翻訳してもらったことで、この物語を自分なりに解釈し、舞台向けに書き下ろしたようだ。

「大みそかの夜に、燐寸を売る少女……静鶴さんはどうしても貴女を悲劇のヒロインに仕立てたいみたいね」
「悲劇のヒロインなのは事実ですから」
「それでもあからさますぎるわ」

 呆れたようにアマネは脚本をパタンととじ、寄ってきた少女たちに告げる。

「みんな、今日から歌姫候補として劇団員の仲間入りをした翡翠よ! 仲良くね」

 海老茶式部にお下げという場違いな恰好の少女がアマネの脅威になる歌姫候補だと知らされた他の劇団員たちは目を丸くするが、前日に事情を聞いているのだろう、深く追求されることもなく、翡翠は金糸雀歌劇団の一員として活動することになるのだった。

「さっそくだけど歌って」
「えっ!」

 そして容赦ないアマネと劇団員たちの歌唱指導もまた、この日からはじまるのだった……
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