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Ⅹ センサにて
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しおりを挟む「お久しぶりです、ディアーナお嬢様!」
「……エーヴァ」
三年ぶりに呟いた彼女の名は、相変わらず心地よくて、ディアーナを安心させる。六歳の頃から十年近くずっと傍にいてくれた、だいすきなひとが、そこにいる。夢みたいだ。
つ、と腕を引かれてディアーナは我に却る。
「――アダム? ちょ、ちょっと!」
「ディアーナ、ぼうっとしてないで早く」
濡れそぼった身体のまま、ディアーナのもとへ駆け込んできたアダムは容赦なく彼女の腕をつかみあげる。ふわりと身体が浮き上がるような錯覚に陥り、自分がアダムに背負われたのだと気づいたときには顔を真っ赤に染めていた。
「ふたりを、つかまえよう……!」
ディアーナの炎を纏ったような赤毛がふわりと宙を舞う。半裸の美少年に背負われた月の女神は水の都に訪れた福音の前に献上されるかのごとく、元首が乗る船まで連れて行かれ、下ろされた。自分の足で立ち上がったディアーナは真っ先にダヴィデから彼女を奪い取る。ダヴィデはディアーナを連れてきて息切れしているアダムと自分よりも先にエーヴァに抱きついた少女を見て、やれやれと嘆息している。
抱きつかれたエーヴァは泣き笑いを浮かべるディアーナの赤毛を優しく撫でる。
「……もう、逢えないんだと、思った」
「生きていれば、逢えますよ。何度でも」
だからふたりは戻ってきたのだ。ディアーナのところへ。
「フランチェスコ元首。どうか俺たちふたりの結婚をこの地で、祝っていただけないか」
事情を理解した元首はあっさり頷き、厳かに告げる。
「よかろう。ダヴィデ――この水の都にて、愛を誓うがよい。汝らの婚姻を祝福しよう」
元首の言葉と同時に無数の拍手が沸き起こり、歓声に包まれる。エーヴァに抱きついていたディアーナはアダムに引き離されて不服そうな顔を浮かべるも、幸せそうに微笑みつづけるエーヴァを見て、頬を緩ませる。
だって、水の都で恋の花を咲かせたエーヴァは、この先もディアーナとともに、笑顔を咲かすのだ。一夜限りではなく、何度でも。何度でも……
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