82 / 146
Ⅷ 月下美人と悪魔な賢者
+ 10 +
しおりを挟むついにこの老人は耄碌してしまったのだろうか。
イデアを唖然とさせたザイードは己の考えに満足したのか、ふぉっふぉっふぉとわざとらしい笑い声をあげ、去っていく。残されたイデアは切り株の上でぽかんとする。
――そもそもエーヴァにはカケオチした恋人がいるというのに。
イデアが今更「実は男でした、それもオスマンの皇子なんです、皇帝になるために銀の瞳の貴女が必要なんです。要するに花嫁に迎えたいので抱かせてください!」と言ったところで断られるのがオチだ。
そりゃあ、イデアだって女のふりをして生きてきたが身体はれっきとした男だ。街に下りれば娼婦と一夜限りの火遊びだってするし、キレイな女性を見て身体が勝手に反応してしまうこともある。エーヴァもアリーズには及ばないが、美人だと思う。だからといって恋人から寝取れるかといえば、そうもいかないのだが……
「媚薬って……まさか!」
薬を調合する技術なら、ザイードだけでなくマイヤも持っている。ふたりが結託している可能性も考えると、嫌な予感しかしない。その気にならないイデアを奮わせる薬も、一緒に処方してしまうかもしれない。
ふたりの暴走を止めなくては。でも、どうやって……?
「おい」
うんうん考え込むイデアの背後に、大柄の人影が落ちる。
けれども考え事に夢中のイデアは気づいていない。
「おいっ」
「なに……熊っ!」
「熊じゃない!」
「……なんだ、グーリーか」
「さっきまで大賢者サマと込み入った話をしてたようだから、隠れてただけだ。あのご老人、オレがマイヤの夫だって言っても信じてくれないんだよな」
「はは……ところでなんでグーリーがここにいるんだい? マイヤを迎えに来たのかな。だったらとっとと連れて帰ってほしいんだけど」
「手に負えない嫁でスマンね。困ってるんだろ? 何かオレに手伝えることはないか? ダヴィデとエーヴァちゃんの愛のちからですべてが簡単に解決できるとはさすがに思えないんだよね、あの指輪見ちゃったから」
「……指輪?」
「そ。エーヴァちゃんの母上の形見らしいんだけど、元の持ち主に返してあげたいらしくて、ダヴィデがカケオチがてらその旅路に付き合うことになったわけよ。そしたら紆余曲折あって」
「指輪が先か!?」
てっきり銀の瞳のルーツを探るためにヴェネツィアの地を飛び出してきたのだと単純に思っていた。
けれども彼女は“砂漠の薔薇”を持っていて、それをオスマンのスルタンに返したいという目的があったのだ……!
イデアはグーリーの前で瞳を輝かせながら、期待を込めて、口を開く。
「――ザイードにバレずに指輪を……ムラトに返すことは可能か?」
「それより、さっきの話を詳しく聞かせてくれないか? アフメト皇子さんよ? エーヴァに媚薬を盛るとは、聞き捨てならないなぁ……?」
ぬっ、と現れたグーリーの背後に控えていた尼僧服姿のダヴィデが、海の色の瞳をぎらつかせて、イデアに迫っていた――……
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
雨のバンドネオン
雨実 和兎
恋愛
学校でのイジメが原因で病院に入院した少年、秋人は入院先でヤンキーの虎太郎と知り合う。
住む世界の違う二人が共通の音楽を好きだと知り意気投合。
そんな中で虎太郎が恋をした相手は普通の女の子。
普通になりたい虎太郎と強くなりたい秋人のワチャワチャ共同戦線が始まる。
完結迄毎日投稿します(o*。_。)oペコッ
当作品はブログ・なろうでも掲載しています。
詩の投稿も始めましたのでそちらも是非宜しくです
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる