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Layer17 下心
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この世の中には「ごめんで済んだら警察は要らないんだよ」という言葉がある。
では今回の場合だと、この言葉がどのように変化するのかを考えてみよう。
「てへっで済んだら警察は要らないんだよ」となる。
正直に言うと、警察が要らないどころか一発かましたいぐらいだ。
だが、俺はそれをしなかった。
いや、できなかった。
もちろん、それができなかった理由は俺が男女平等主義者ではなかったからというわけでもないし、女性に対してはどんな時にでも優しく接するフェミニストだったわけでもない。
そして、不覚にも姫石のことを少しでも可愛いと思ってしまったからというわけでは決してない。
こういうことを言うと「そんなこと言って、本当はドキッとしちゃったんじゃないの? 」とか言ってくる連中が必ず一人や二人はいる。
そんな風に冷やかしてくる連中は熱湯で体を熱々に煮込んでから冷水にぶち込んで、夜の繁華街にさらしてしまえばいい。
おっと、少し喋り過ぎてしまった。
本題に戻ろう。
俺ができなかった本当の理由は八雲の何気ない一言だった。
その何気ない一言のせいで俺の計画は完全に狂わされた。
もしかしたら、人間にとって最も厄介なものは悪意が全く無いにも関わらず人の生死を左右するほどの力を持った言葉なのかもしれない。
姫石がアイドル顔負けの笑顔で「てへっ」をした後、俺達の間で少しの沈黙が続いた。
「そんなんで許されるわけねぇだろ! 」
しかし、そんな俺の怒鳴る声が俺達の少しの沈黙を破った。
「え? 何も否定しないんですか? 」
俺が沈黙を破ったことに釣られたのか、立花が恐る恐る聞いた。
すると、姫石は今度は頭に手をやり「コツン☆」というポーズをとり、ウィンクをしながら「てへぺろ」とした。
……
いつかコイツの頭をかち割って、大脳新皮質と後頭葉を奪い取ってやろうと思った。
そもそも姫石はこんなことをするようなキャラだっただろうか。
急にあざといんだよ。
アザトースかよ。
何言ってんだよ俺。
俺が姫石に向かって「だからそんなんで許されるわけねぇだろ! 」と再び怒鳴ろうとした時に、八雲がボソっと番狂わせになるようなことを言った。
「そういえば、否定はしなかったよな? 玉宮香六も」
「え? 」
「え? 」
「え? 」
あまりにも八雲の発言に脈絡が無かったため俺も姫石も立花も思わず聞き返してしまった。
「俺も否定しなかったって何の話だ? 」
「私が玉宮香六に、姫石華と入れ替われたことはある意味嬉しいのものなのか? と聞いたことだ」
「あぁ~たしかにそんなこと聞いてましたね」
立花が思い出したかのように言った。
「それは、元の体に戻りたい気持ちの方が強いとちゃんと言ったじゃないか」
「だが、それは否定にはならない。嬉しい気持ちが無かったとは言っていない。それに玉宮香六も姫石華と同じように下心があったんじゃないのか? 」
「なっ! あたしのは下心とかそういうのじゃ……ないもん」
途中で自信無くすぐらいなら最初から反論するなよ。
「それだって俺は下心なんてない……とは言っていないのか」
八雲の物事の矛盾を見透かすような目を見て、俺は言葉の続きを訂正した。
人間の記憶とはなんとも曖昧なものだな。
八雲の目を見るまでは自分は下心はないと否定していたと信じきっていた。
実際には、下心はないとは一言も言っていないにも関わらずだ。
「そうだ。玉宮香六は下心はないとは言っていない。自分が下心を丸出しにはしていないと言っただけだ。つまり、玉宮香六が否定したのはあくまでも下心を丸出しにしていないという点だけだ。それでは下心を丸出しにしていないだけで、下心自体はあるということになる」
さすが天才と言うべきか。
物事の矛盾に気づく。
歴史に名を残した天才達は皆総じて物事の矛盾の気づきから始まっている。
例えば、コペルニクスの地動説とかな。
そんな思いとは裏腹に俺は八雲に対してこう思っていた。
クソ! この科学以外のことはまるで駄目なポンコツ野郎が!
「と言うことは、玉宮にも下心があったってこと? 」
姫石が、俺に対しての反逆のチャンスを得たことを確認するように聞いた。
「そういうことだ」
八雲の言葉を聞いた姫石は水を得た魚のようになった。
「やっぱり玉宮もあたしに対してそういうエッチな下心を持っていたのね! 」
まぁ、こうなるわな。
というか何でちょっと嬉しそうなんだよ。
普通は自分に対してエッチな下心を持たれていたら嫌だろ。
本当に姫石は変態なんじゃないのか?
「なぁ、姫石。玉宮もってことは姫石にも下心があったって認めたことになるんだぞ」
「あ! ……玉宮にも下心があったことに変わらないんだからお互い様でしょ! だから、そこは問題ないの! 」
「そ、そうか」
俺は思わず納得したような返答を姫石にしてしまった。
いくら嘘だとバレバレでも、そこは認めないで否定しろよ。
何で開き直っちゃうんだよ。
絶対に開き直っちゃ駄目な場面だろう今は。
立花なんか呆然としちゃってるじゃんかよ。
八雲は……興味ないみたいだから何とも思ってなさそうだな。
はぁ~
「なぁ、姫石。お前は本当にそれで良いのか? 」
俺はため息と一緒にこの言葉も飲み込むことにした。
では今回の場合だと、この言葉がどのように変化するのかを考えてみよう。
「てへっで済んだら警察は要らないんだよ」となる。
正直に言うと、警察が要らないどころか一発かましたいぐらいだ。
だが、俺はそれをしなかった。
いや、できなかった。
もちろん、それができなかった理由は俺が男女平等主義者ではなかったからというわけでもないし、女性に対してはどんな時にでも優しく接するフェミニストだったわけでもない。
そして、不覚にも姫石のことを少しでも可愛いと思ってしまったからというわけでは決してない。
こういうことを言うと「そんなこと言って、本当はドキッとしちゃったんじゃないの? 」とか言ってくる連中が必ず一人や二人はいる。
そんな風に冷やかしてくる連中は熱湯で体を熱々に煮込んでから冷水にぶち込んで、夜の繁華街にさらしてしまえばいい。
おっと、少し喋り過ぎてしまった。
本題に戻ろう。
俺ができなかった本当の理由は八雲の何気ない一言だった。
その何気ない一言のせいで俺の計画は完全に狂わされた。
もしかしたら、人間にとって最も厄介なものは悪意が全く無いにも関わらず人の生死を左右するほどの力を持った言葉なのかもしれない。
姫石がアイドル顔負けの笑顔で「てへっ」をした後、俺達の間で少しの沈黙が続いた。
「そんなんで許されるわけねぇだろ! 」
しかし、そんな俺の怒鳴る声が俺達の少しの沈黙を破った。
「え? 何も否定しないんですか? 」
俺が沈黙を破ったことに釣られたのか、立花が恐る恐る聞いた。
すると、姫石は今度は頭に手をやり「コツン☆」というポーズをとり、ウィンクをしながら「てへぺろ」とした。
……
いつかコイツの頭をかち割って、大脳新皮質と後頭葉を奪い取ってやろうと思った。
そもそも姫石はこんなことをするようなキャラだっただろうか。
急にあざといんだよ。
アザトースかよ。
何言ってんだよ俺。
俺が姫石に向かって「だからそんなんで許されるわけねぇだろ! 」と再び怒鳴ろうとした時に、八雲がボソっと番狂わせになるようなことを言った。
「そういえば、否定はしなかったよな? 玉宮香六も」
「え? 」
「え? 」
「え? 」
あまりにも八雲の発言に脈絡が無かったため俺も姫石も立花も思わず聞き返してしまった。
「俺も否定しなかったって何の話だ? 」
「私が玉宮香六に、姫石華と入れ替われたことはある意味嬉しいのものなのか? と聞いたことだ」
「あぁ~たしかにそんなこと聞いてましたね」
立花が思い出したかのように言った。
「それは、元の体に戻りたい気持ちの方が強いとちゃんと言ったじゃないか」
「だが、それは否定にはならない。嬉しい気持ちが無かったとは言っていない。それに玉宮香六も姫石華と同じように下心があったんじゃないのか? 」
「なっ! あたしのは下心とかそういうのじゃ……ないもん」
途中で自信無くすぐらいなら最初から反論するなよ。
「それだって俺は下心なんてない……とは言っていないのか」
八雲の物事の矛盾を見透かすような目を見て、俺は言葉の続きを訂正した。
人間の記憶とはなんとも曖昧なものだな。
八雲の目を見るまでは自分は下心はないと否定していたと信じきっていた。
実際には、下心はないとは一言も言っていないにも関わらずだ。
「そうだ。玉宮香六は下心はないとは言っていない。自分が下心を丸出しにはしていないと言っただけだ。つまり、玉宮香六が否定したのはあくまでも下心を丸出しにしていないという点だけだ。それでは下心を丸出しにしていないだけで、下心自体はあるということになる」
さすが天才と言うべきか。
物事の矛盾に気づく。
歴史に名を残した天才達は皆総じて物事の矛盾の気づきから始まっている。
例えば、コペルニクスの地動説とかな。
そんな思いとは裏腹に俺は八雲に対してこう思っていた。
クソ! この科学以外のことはまるで駄目なポンコツ野郎が!
「と言うことは、玉宮にも下心があったってこと? 」
姫石が、俺に対しての反逆のチャンスを得たことを確認するように聞いた。
「そういうことだ」
八雲の言葉を聞いた姫石は水を得た魚のようになった。
「やっぱり玉宮もあたしに対してそういうエッチな下心を持っていたのね! 」
まぁ、こうなるわな。
というか何でちょっと嬉しそうなんだよ。
普通は自分に対してエッチな下心を持たれていたら嫌だろ。
本当に姫石は変態なんじゃないのか?
「なぁ、姫石。玉宮もってことは姫石にも下心があったって認めたことになるんだぞ」
「あ! ……玉宮にも下心があったことに変わらないんだからお互い様でしょ! だから、そこは問題ないの! 」
「そ、そうか」
俺は思わず納得したような返答を姫石にしてしまった。
いくら嘘だとバレバレでも、そこは認めないで否定しろよ。
何で開き直っちゃうんだよ。
絶対に開き直っちゃ駄目な場面だろう今は。
立花なんか呆然としちゃってるじゃんかよ。
八雲は……興味ないみたいだから何とも思ってなさそうだな。
はぁ~
「なぁ、姫石。お前は本当にそれで良いのか? 」
俺はため息と一緒にこの言葉も飲み込むことにした。
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