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第25話 アメリス、夢を見る2
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客間を出て屋敷の外に案内され、馬車へと再び乗りこむ。先にヨーデルやアルドたちが向かっているヨース村へと向かうのだ。
馬車には私と彼の二人きりであり、他には御台に乗る騎手が一人いるだけである。私は気になっていたロストスの事業のことについて尋ねた。
「本当にあなたの事業は問題ないの? ロナデシアとの交易に被害が出たりするんじゃないの?」
私は彼に顔を近づけて、問いかける。座ったまま向かいに座る彼に近づいたので、彼のことを下から覗き込むような姿勢になる。
「大丈夫ですよ。アメリス様が心配することじゃありません」
ロストスは先ほどと変わらない笑顔でこちらを見る。だがその笑顔がますます私のことを不安にさせる。
「もし隠しているなら正直に話してほしいの。これは私が知っておかなきゃいけないことだと思うから」
彼の目をしっかりと見て、私は言った。知らないでは済まされない。マスタールとロナデシアの対立のことだって領主の娘にも関わらず、私が国内にだけ目を向けていたが故に全然知らないことばかりであった。ましてや自分に関わることであればなおさらである。
真剣な視線が彼に伝わったのか、ロストスは「全く、あなたの目には敵いません」と呟いてから、
「本当に大丈夫なんですよ。情勢も考えると、バルトさんが僕の悪評を国中に流したところで、それと対立するマルストラス領にはあまり被害が出ないんです。むしろ今までロナデシアと取引していた分をマルストラスに向ければいいだけです。アメリスさんには余計な負担はかけないようにと黙っていたんですが、むしろ逆効果でしたね」
と語った。どうやら本当にロストスの事業は問題がないらしい。これからのことはわからないが、目下の問題はひとまず解決した。そう言ってもいいような状況まで持ってこれたのね。
私は安心してほっと胸を撫で下ろし、ならよかったわとロストスに言った。すると今までの重圧が急に弾けたようで、体が軽くなり眠気が襲ってくる。当然だ、夜通し歩いていたのだから疲れているのも無理はない。
ロストスに少し寝るわと伝えて、私は揺れる馬車に身を任せてうつらうつらしていた。目を完全に閉じる直前に、朝日が登ってきるのが見えた。
*
「本当に私は疲れているみたいね……」
まただ、また純白の空間に来てしまった。いつから寝るのがこんなに下手になったのだろう。
私はあたりを見回して、ほっぺを思いっきり引っ張った。痛みは全くなかったのでここが明晰夢であることを知る。以前来てしまった空間と同じだ。ただただ白い景色が果てまで続いている。
しかし、前回とは異なる点があった。今回はいきなり目の前に私とそっくりな「私」が現れた。だが服装は異なり、私はドレスを着ているのにも関わらず、彼女は非常に性的な魅力に溢れる衣を身に纏っていた。もちろん顔は下半分は見えるものの、上半分は黒い靄で覆われている。
「なんであなたはそんな洋服を着ているのよ」
いくら夢の中とはいえ、自分が淫らな服装に身を包んでいるというのはいい気分ではない。まるで淫魔みたいではないか。
しかし、「私」は張り付いた笑みを浮かべているだけで、うんともすんとも言わない。
「だったらいいわ、質問を変える。あなたが前に言っていたことはどういう意味なの?」
彼女は前に私の前に現れた時、要領を得ない意味不明な言葉を最後に残していった。私はお母様や姉妹たちのように力がないだの、他人に縋ることしかできないちっぽけな人間だのバカにした挙句、最後に真実がどうのこうのと言って消えてしまったのだ。
「あなたが私の何を知っているというの?」
私は「私」に問い詰める。私と同じ造形を持つ淫らな格好をした嫌悪を催す存在に問いかける。すると彼女は何も答えず、代わりに急に抱きついてきた。体と体が密着し、背丈が同じであるため互いの頭が互いの肩のあたりに乗るような姿勢になる。彼女は露出度の高い服を着ているため、生肌が触れ合い妙な感覚だ。皮膚と皮膚が接触しているのに、そこにぬくもりはない。人形を抱いているかのようであった。
「ちょっと何よ……」
いきなりの出来事であり、また自分に抱きつかれるという経験などしたことがあるわけがないので動揺する。「私」は腕を私の背中に回して固く締め付けており、逃げることを許してくれない。
また意味のわからないまま目が覚めるのね。
そう思って彼女の抱擁を無理矢理にでも引き剥がそうとした時、右耳に甘美な感覚がピリリと走った。背筋がぞくりとして何事かと思うと、くすぐるような声で、
「前の言ったじゃない、あなたは私だって。本当は気づいているのに気づかないふりをして、何かがあるはずなのに何もないと思い込む愚かな世間知らずで欲求不満の私じゃない」
と言った。質問の答えになっていない。相変わらず話が通じない相手のようだ。そして彼女がそう告げた瞬間、世界がぐにゃりぐにゃりと歪曲を始めた。前回もあったが、これが明晰夢が解ける時の合図なのだろう。私は薄れゆく意識の中で考える。
あなたは何なの? 私に夢で嫌がらせが起きるようにお母様が魔法でもかけたっていうの?
だが次第にそう考えていた思考も薄められていき、私の意識は消失した。
「……さん、アメリスさん、到着しましたよ。ここがヨース村です」
ロストスの声で目が覚める。彼の反応を見るに、今回は起きる時に叫び声はあげなかったらしい。外を覗くと、村のみんなが待っていた。
毎回眠るたびにあんな夢を見ていたんじゃ体が持たないわ。合う枕でも探そうかしら。そう思いながら馬車を降りる。外に出ると闇に包まれた夜ではなく、微笑ましい陽の光に世界は包まれていた。
馬車には私と彼の二人きりであり、他には御台に乗る騎手が一人いるだけである。私は気になっていたロストスの事業のことについて尋ねた。
「本当にあなたの事業は問題ないの? ロナデシアとの交易に被害が出たりするんじゃないの?」
私は彼に顔を近づけて、問いかける。座ったまま向かいに座る彼に近づいたので、彼のことを下から覗き込むような姿勢になる。
「大丈夫ですよ。アメリス様が心配することじゃありません」
ロストスは先ほどと変わらない笑顔でこちらを見る。だがその笑顔がますます私のことを不安にさせる。
「もし隠しているなら正直に話してほしいの。これは私が知っておかなきゃいけないことだと思うから」
彼の目をしっかりと見て、私は言った。知らないでは済まされない。マスタールとロナデシアの対立のことだって領主の娘にも関わらず、私が国内にだけ目を向けていたが故に全然知らないことばかりであった。ましてや自分に関わることであればなおさらである。
真剣な視線が彼に伝わったのか、ロストスは「全く、あなたの目には敵いません」と呟いてから、
「本当に大丈夫なんですよ。情勢も考えると、バルトさんが僕の悪評を国中に流したところで、それと対立するマルストラス領にはあまり被害が出ないんです。むしろ今までロナデシアと取引していた分をマルストラスに向ければいいだけです。アメリスさんには余計な負担はかけないようにと黙っていたんですが、むしろ逆効果でしたね」
と語った。どうやら本当にロストスの事業は問題がないらしい。これからのことはわからないが、目下の問題はひとまず解決した。そう言ってもいいような状況まで持ってこれたのね。
私は安心してほっと胸を撫で下ろし、ならよかったわとロストスに言った。すると今までの重圧が急に弾けたようで、体が軽くなり眠気が襲ってくる。当然だ、夜通し歩いていたのだから疲れているのも無理はない。
ロストスに少し寝るわと伝えて、私は揺れる馬車に身を任せてうつらうつらしていた。目を完全に閉じる直前に、朝日が登ってきるのが見えた。
*
「本当に私は疲れているみたいね……」
まただ、また純白の空間に来てしまった。いつから寝るのがこんなに下手になったのだろう。
私はあたりを見回して、ほっぺを思いっきり引っ張った。痛みは全くなかったのでここが明晰夢であることを知る。以前来てしまった空間と同じだ。ただただ白い景色が果てまで続いている。
しかし、前回とは異なる点があった。今回はいきなり目の前に私とそっくりな「私」が現れた。だが服装は異なり、私はドレスを着ているのにも関わらず、彼女は非常に性的な魅力に溢れる衣を身に纏っていた。もちろん顔は下半分は見えるものの、上半分は黒い靄で覆われている。
「なんであなたはそんな洋服を着ているのよ」
いくら夢の中とはいえ、自分が淫らな服装に身を包んでいるというのはいい気分ではない。まるで淫魔みたいではないか。
しかし、「私」は張り付いた笑みを浮かべているだけで、うんともすんとも言わない。
「だったらいいわ、質問を変える。あなたが前に言っていたことはどういう意味なの?」
彼女は前に私の前に現れた時、要領を得ない意味不明な言葉を最後に残していった。私はお母様や姉妹たちのように力がないだの、他人に縋ることしかできないちっぽけな人間だのバカにした挙句、最後に真実がどうのこうのと言って消えてしまったのだ。
「あなたが私の何を知っているというの?」
私は「私」に問い詰める。私と同じ造形を持つ淫らな格好をした嫌悪を催す存在に問いかける。すると彼女は何も答えず、代わりに急に抱きついてきた。体と体が密着し、背丈が同じであるため互いの頭が互いの肩のあたりに乗るような姿勢になる。彼女は露出度の高い服を着ているため、生肌が触れ合い妙な感覚だ。皮膚と皮膚が接触しているのに、そこにぬくもりはない。人形を抱いているかのようであった。
「ちょっと何よ……」
いきなりの出来事であり、また自分に抱きつかれるという経験などしたことがあるわけがないので動揺する。「私」は腕を私の背中に回して固く締め付けており、逃げることを許してくれない。
また意味のわからないまま目が覚めるのね。
そう思って彼女の抱擁を無理矢理にでも引き剥がそうとした時、右耳に甘美な感覚がピリリと走った。背筋がぞくりとして何事かと思うと、くすぐるような声で、
「前の言ったじゃない、あなたは私だって。本当は気づいているのに気づかないふりをして、何かがあるはずなのに何もないと思い込む愚かな世間知らずで欲求不満の私じゃない」
と言った。質問の答えになっていない。相変わらず話が通じない相手のようだ。そして彼女がそう告げた瞬間、世界がぐにゃりぐにゃりと歪曲を始めた。前回もあったが、これが明晰夢が解ける時の合図なのだろう。私は薄れゆく意識の中で考える。
あなたは何なの? 私に夢で嫌がらせが起きるようにお母様が魔法でもかけたっていうの?
だが次第にそう考えていた思考も薄められていき、私の意識は消失した。
「……さん、アメリスさん、到着しましたよ。ここがヨース村です」
ロストスの声で目が覚める。彼の反応を見るに、今回は起きる時に叫び声はあげなかったらしい。外を覗くと、村のみんなが待っていた。
毎回眠るたびにあんな夢を見ていたんじゃ体が持たないわ。合う枕でも探そうかしら。そう思いながら馬車を降りる。外に出ると闇に包まれた夜ではなく、微笑ましい陽の光に世界は包まれていた。
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