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第16話 アメリス、驚く
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「「どうしてあなたがここに?」」
対面する私とアルドは同時に同じ言葉を発した。長年一緒にいたからなのか息はぴったりであった。彼は状況が読み込めないのか困惑の表情を浮かべており、目が右往左往している。おそらく私も似たような表情であろう。
「ちょっと待ってくださいアメリス様、これは一体どういう状況なのですか」
すると私の指示を無視して逃げていなかったヨーデルが後ろから問いかけてきた。
「ちょっと、逃げろって言ったじゃない!」
せっかく勇気を振り絞って行動したのに、意図はあまり伝わっていなかったようだ。私は振り返って指で彼のことを指し、強めの語気で言った。
「あんな急に言われて逃げられるわけないでしょう! そもそもあなたを置いていけるわけがない」
ヨーデルも私の声に負けないほど強い口調で言い返してきた。腕を組み、そっぽを向く。少し怒っているように見えたが、私にはその理由がわからなかった。
「私抜きで話を進めないでください。そちらの彼は誰ですか、というかこんなところでアメリス様は何をしているのですか」
私とヨーデルが二人で話していると、割り込むようにアルドが入ってきた。私の顔とヨーデルの顔を交互に見回している。
そうだ、今はヨーデルと終わってしまったことで争っている場合ではない。現状に上手く立ち回ることが最優先であることをアルドの言葉で思い出させられる。
アルドの質問にどう答えるのが正解なのだろう。私は軽く息を吐き出して心を鎮めてから思考する。ロストスやルネが髪をかきあげる癖があるように、私も軽く息を吐くのが癖なのかもしれない。ため息とは違い、短くひゅうと息を吐くと少し冷静になれる気がした。
最大の目標はヨーデルの村まで行くこと。そして目下の問題はアルドが私たちに対してどう行動をとってくるかわからないことである。つまり自分たちの事情を下手に話してしまうと、目標が頓挫してしまう可能性があるということだ。彼らが私たちを捕縛する場合だってあり得るのだ。
「先にあなたたちが答えなさい、ここで何をしているかをね」
だからまず相手の出方を伺うことにした。彼らが私たちにどう対応するつもりなのかがわからなければ始まらない。
「私たちはマハス公国とナゲル連邦の国境の警備ですよ、最近は国境での小競り合いが頻発していますからね。最前線勤務というわけです」
アルドは何事もなく当然であるかのように言ったが、その言葉は私にとっては衝撃的なものであった。ロナデシア家直属の兵団に属しており、しかも長年私のそばで護衛を務めるほどであれば最前線の戦場に出向させられることなどあり得ない。いったい彼ほどの騎士がどうしてそんな役目を負わせられてるの?
私の護衛や手と足となって動いてくれていた兵士たちがアサスお姉様によって取り上げられてしまったのは先月のことであった。突然財政状況が悪化したからやむを得ないと言われて護衛の兵士たちは全員私の周りから離れてしまった。そのせいで十分に慈善事業のための外出も叶わず、活動ができないでいた。
もちろん財政が悪化したというのは方便であり、ただの私への嫌がらせであることはわかっていたが、逆らいようがなかった。
そこから彼らの行動は把握していなかった。もちろん気にかけてはいたが、情報をどう探してもつかむことができなかったためである。どこかで立派に役目を果たしてくれているだろうと勝手に思っていたが、まさかこんな悪い待遇を受けていたなんて……!
私たちが話していると、次第に周りで松明を持っていた兵士たちも近づいてきて、その顔がわかるようになっていた。その面々は誰もが私にとって馴染み深い人たちであった。
そこで私は気づく、ここにいる兵士たちは全員私の周りにいてくれた人々であると。私が慈善事業の際に無茶なお願いをしても文句を言いながら結局は私のいう通りに動いてくれた人たちであったと。
「私と別れてから何があったの! なんでこんな扱いをあなたのような立派な騎士が受けているのよ!」
感情を抑えきれず、アルドの肩を掴んで私は彼に詰め寄った。彼の年齢は三十歳過ぎであり、若いわけではないが最後に会った時より明らかに老け込んだような顔をしていた。
「それは……おそらく私たちはアサス様やテレース様にとって邪魔な存在になってしまったんだと思います。彼女たちはアメリス様が万が一にも反乱をしないよう私たちをあなたの元から引き剥がしたのです。そしてその後、すぐに最前線ここの場所に送られました。アメリス様にくみする可能性がある私たちを合法的に始末するためでしょう」
アルドは言いずらそうに語った。こんな酷い扱いを受けても一応使える先であるロナデシア家の人間を悪く言うのには抵抗があるのだろうか。
「どうして抵抗しないのよ!」
彼らほどの実力があれば、ロナデシア家に固執しなくても良い待遇で他の領主や他国でも仕えられるでしょうにどうしてこんな危険なことを……!
しかしアルドはすぐに返事をしない。あれだけハキハキとものを言っていた彼がここまで煮え切らない態度を取るのは初めて見た。
「答えなさい、アルド!」
私はもっとアルドと距離を詰めて、再度問いかける。すると彼は私の気迫に押されたのかポロリと理由をこぼした。
「命令に逆らえばアメリス様のことを追放すると脅されていたからです」
私は答えを聞いて、溶岩のように熱い血が全身に巡るような錯覚に突然襲われる。
ああ、こんなことが許されるのだろうか。こんな危険な任務に身をついやしていたのが私のためであるなんて!
悲しみと同時に怒りが湧き上がってくる。このような仕打ちを強いた上約束も守らず彼らを騙していたお姉さまに、そして何もできず何も知らなかった私に。
月は先ほどまでと変わらず、神々しい光で私たちを照らしている。だがやはり陽の光とは違い、冷たく心臓を突き刺すような光であった。
対面する私とアルドは同時に同じ言葉を発した。長年一緒にいたからなのか息はぴったりであった。彼は状況が読み込めないのか困惑の表情を浮かべており、目が右往左往している。おそらく私も似たような表情であろう。
「ちょっと待ってくださいアメリス様、これは一体どういう状況なのですか」
すると私の指示を無視して逃げていなかったヨーデルが後ろから問いかけてきた。
「ちょっと、逃げろって言ったじゃない!」
せっかく勇気を振り絞って行動したのに、意図はあまり伝わっていなかったようだ。私は振り返って指で彼のことを指し、強めの語気で言った。
「あんな急に言われて逃げられるわけないでしょう! そもそもあなたを置いていけるわけがない」
ヨーデルも私の声に負けないほど強い口調で言い返してきた。腕を組み、そっぽを向く。少し怒っているように見えたが、私にはその理由がわからなかった。
「私抜きで話を進めないでください。そちらの彼は誰ですか、というかこんなところでアメリス様は何をしているのですか」
私とヨーデルが二人で話していると、割り込むようにアルドが入ってきた。私の顔とヨーデルの顔を交互に見回している。
そうだ、今はヨーデルと終わってしまったことで争っている場合ではない。現状に上手く立ち回ることが最優先であることをアルドの言葉で思い出させられる。
アルドの質問にどう答えるのが正解なのだろう。私は軽く息を吐き出して心を鎮めてから思考する。ロストスやルネが髪をかきあげる癖があるように、私も軽く息を吐くのが癖なのかもしれない。ため息とは違い、短くひゅうと息を吐くと少し冷静になれる気がした。
最大の目標はヨーデルの村まで行くこと。そして目下の問題はアルドが私たちに対してどう行動をとってくるかわからないことである。つまり自分たちの事情を下手に話してしまうと、目標が頓挫してしまう可能性があるということだ。彼らが私たちを捕縛する場合だってあり得るのだ。
「先にあなたたちが答えなさい、ここで何をしているかをね」
だからまず相手の出方を伺うことにした。彼らが私たちにどう対応するつもりなのかがわからなければ始まらない。
「私たちはマハス公国とナゲル連邦の国境の警備ですよ、最近は国境での小競り合いが頻発していますからね。最前線勤務というわけです」
アルドは何事もなく当然であるかのように言ったが、その言葉は私にとっては衝撃的なものであった。ロナデシア家直属の兵団に属しており、しかも長年私のそばで護衛を務めるほどであれば最前線の戦場に出向させられることなどあり得ない。いったい彼ほどの騎士がどうしてそんな役目を負わせられてるの?
私の護衛や手と足となって動いてくれていた兵士たちがアサスお姉様によって取り上げられてしまったのは先月のことであった。突然財政状況が悪化したからやむを得ないと言われて護衛の兵士たちは全員私の周りから離れてしまった。そのせいで十分に慈善事業のための外出も叶わず、活動ができないでいた。
もちろん財政が悪化したというのは方便であり、ただの私への嫌がらせであることはわかっていたが、逆らいようがなかった。
そこから彼らの行動は把握していなかった。もちろん気にかけてはいたが、情報をどう探してもつかむことができなかったためである。どこかで立派に役目を果たしてくれているだろうと勝手に思っていたが、まさかこんな悪い待遇を受けていたなんて……!
私たちが話していると、次第に周りで松明を持っていた兵士たちも近づいてきて、その顔がわかるようになっていた。その面々は誰もが私にとって馴染み深い人たちであった。
そこで私は気づく、ここにいる兵士たちは全員私の周りにいてくれた人々であると。私が慈善事業の際に無茶なお願いをしても文句を言いながら結局は私のいう通りに動いてくれた人たちであったと。
「私と別れてから何があったの! なんでこんな扱いをあなたのような立派な騎士が受けているのよ!」
感情を抑えきれず、アルドの肩を掴んで私は彼に詰め寄った。彼の年齢は三十歳過ぎであり、若いわけではないが最後に会った時より明らかに老け込んだような顔をしていた。
「それは……おそらく私たちはアサス様やテレース様にとって邪魔な存在になってしまったんだと思います。彼女たちはアメリス様が万が一にも反乱をしないよう私たちをあなたの元から引き剥がしたのです。そしてその後、すぐに最前線ここの場所に送られました。アメリス様にくみする可能性がある私たちを合法的に始末するためでしょう」
アルドは言いずらそうに語った。こんな酷い扱いを受けても一応使える先であるロナデシア家の人間を悪く言うのには抵抗があるのだろうか。
「どうして抵抗しないのよ!」
彼らほどの実力があれば、ロナデシア家に固執しなくても良い待遇で他の領主や他国でも仕えられるでしょうにどうしてこんな危険なことを……!
しかしアルドはすぐに返事をしない。あれだけハキハキとものを言っていた彼がここまで煮え切らない態度を取るのは初めて見た。
「答えなさい、アルド!」
私はもっとアルドと距離を詰めて、再度問いかける。すると彼は私の気迫に押されたのかポロリと理由をこぼした。
「命令に逆らえばアメリス様のことを追放すると脅されていたからです」
私は答えを聞いて、溶岩のように熱い血が全身に巡るような錯覚に突然襲われる。
ああ、こんなことが許されるのだろうか。こんな危険な任務に身をついやしていたのが私のためであるなんて!
悲しみと同時に怒りが湧き上がってくる。このような仕打ちを強いた上約束も守らず彼らを騙していたお姉さまに、そして何もできず何も知らなかった私に。
月は先ほどまでと変わらず、神々しい光で私たちを照らしている。だがやはり陽の光とは違い、冷たく心臓を突き刺すような光であった。
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