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怪物街道 人の話
窮奇について
しおりを挟む倉に帰ると、ぼっこさんが飛びついてきて、貂が僕の頬を叩き、鬼がその様子を見て笑った。
生きて戻ってこれた事が嬉しくて、どの対応も僕は泣いて喜んだ。
ぼっこさんとは泣きながら抱き合い、鬼とは泣きながら笑い合った。
貂は、頬を叩かれたのに泣いて喜んでいる僕を見てめちゃくちゃ引いてた。
生きて帰れた事が嬉しかった。
○
「窮奇、ねぇ」
僕は今、昨日知った異形の怪物について調べ、頭を悩ませていた。
ぼっこさん達から聞いた話、怪物街に残っていた書物を読んだ話、白狼天狗やぬらりひょんの爺さん等から教えてもらった話をまとめるとこうだ。
こことは違う海を越えた大陸、そこで語られる神話に登場する魔。
民に苦しみを、天下に害をもたらした四柱の悪。これが四凶の名を冠した。
この神及び獣は、人の悪徳を体現した存在である。
窮奇は人語を理解し、正しき論を説く者を嫌い、悪どき弁舌が立つ者には食糧になるような獣を送る。相対した時から感じていたが、要は捻くれているという事だ。
ちなみに、正しい方は頭やら何やらを窮奇に食べられるらしい。これは実際にやられかけた。
窮奇は、日本では鎌鼬や風神と同一視されることがある。これに関しては、窮奇は北風を起こす伝承が掲げられているため、日本で近しい妖怪や神の仲間、或いは、類するものとしてとりあえずの区分けをされたのではなかろうか。
風を操って怪異を起こしていたのはこの辺りが関係しているのだろう。
ちなみに、窮奇はちゃんと退治されているらしい。捕縛され、流刑になったとか。
…しかし、その方法は見つからなかった。
○
「すまぬが、儂はもう手助け出来んじゃろうな」
ぬらりひょんの爺さんに、窮奇の話を聞きに来た帰り際、そう言われてしまった。
「どうかされましたか」
「四凶の一との戦いで、腰をやってしまった。程度であれば、まだ何かしらの手助けが出来たかもしれんがな。あの怪物は強い。若い頃ならまだしも、今は到底敵わんようじゃ」
そう言って、爺さんは浴衣を少しずらした。
身体には無数の傷があり、どれも黒く、酷いものだった。ただ傷が悪化しているようなものでもなく、まるで毒でも含んでいるかのように。
「大丈夫なんですか」
「命には届かん。しかし、身体はもう動かせん」
ため息をつき、僕を見つめる。
「逃げろと言いたいところじゃが、もう目をつけられておる。逃げる事は叶うまい。それでも、儂が治るまで隠れよ。儂以外にも強きモノはおる。妖狐でもキツいかもしれんがな。命を落とさずに勝てるモノがそうおらんのは事実。どうするかのぉ」
浴衣を着直し、爺さんは空を見上げた。
「何とかしますよ」
僕は爺さんに、強く返した。
「何とかするしか、ないんです」
「ぼっこが狙われておるからか」
僕は爺さんと目を合わせ、少し笑った。
「男じゃのう」
爺さんも笑い返した。
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