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怪物街道 人の話
情報整理
しおりを挟むさて、怪物街にて白狼天狗から聞いた相談事を僕らは手伝うことになったわけでありますが、旋風を出している妖怪を突き止めるためにはまずは情報整理が必要だ。
幸い、情報収集は既に天狗がやってくれていたので手間が省けた。分けてもらった情報とともに、自分達で話を聞きに行ったり見に行ったりした方が良いだろうと考えていたが、必要なさそうなくらい詳細にまとめられた情報だった。
ただ、写真では無く絵で描かれていたのでそこはちょっとびっくりした。時代的にというか、ここは怪物街であると少し考えればわかることではあったが。この水墨画、わかりやすいけれど、凄く味があってちょっと笑えるのだ。
「それじゃあ、なんか、作戦会議ってことで」
僕が倉の床にまとめられた情報を広げる。
「敵もわかんねぇし、場所もわかんねぇ。そういうのはお前に任せた」
「あたしも同じく~」
鬼と貂はそう言って親指を立てた。手伝う気は全く無いようだ。
「その、場所の特定とかを色々みんなで考えようという話なんだが…」
「頼んだぜ」
鬼がポンと僕の肩を叩く。
「頼んだぜい」
貂も鬼の口調を真似しながら僕の肩に手を置いた。
最近何気に仲良いな、この二人。
「へぇへぇ、僕が考えりゃあええんでしょ」
拗ねる僕を置いて、鬼と貂は外に出て行った。もうそうなると、わざわざ倉に来る意味あるのかとも思う。
「私も頑張って考えるよ!」
ぼっこさんがお茶を僕の前に置き、女神のような笑顔を見せてくれる。
「ぼっこさんがいなかったら僕ももう、考えるのやめてましたね」
ははは、と乾いた笑いが出た。
本題に戻ろう。
旋風自体の発生は怪物街全土に及んでいるらしい。東西南北どこでも発生している。時間も夕刻から明朝までとまちまちだ。そのせいでどこに元凶が現れるのかが絞れない。対応が後手に回ってしまうため、ただでさえ強力な旋風を止めるのに人員を非常に多く割かねばならず、連日長時間の警戒のせいで天狗達の体力的に厳しくなってきているらしい。
時間か場所か、どちらかにでも何か規則性があれば大きな助けになるはずだ。なので何とかしたいところなのだが…。
現在の被害は十件。重傷を負った妖怪はいないものの、被害者がいないわけではない。また、被害者は必ず旋風の発生とともに吹き飛ばされてしまっている。これによって未だに犯人の目撃者はいない。
怪物街は分かりやすく長方形のようになっている。北に総大将の屋敷があり、西と東が縦長に、南に怪物街の門、そこから怪物街道が伸びている。
そのことを踏まえた上で、一件目が北の少し東寄り、つまりは北北東であり、時間は明朝。
二件目は南東、時間は深夜。
三件目も南東、二件目よりかは東寄り、細かく言えば東南東と言えなくもない。時間はこれまた深夜。
四件目は北西。時間は早朝。
五件目も北西。四件目に比べれば、少しばかり北寄り、だろうか。時間は明朝。
六件目は、南、西寄り。時間は深夜。
七件目は南東。二件目と三件目の間と言えなくもない。時間は夕刻。
八件目は西、南寄り。時間は深夜だった。
九件目は北東。時間は早朝だった。
最後の十件目がまたも南東。二件目のすぐ近くである。時間は夕刻を過ぎて月が昇り始めた頃であった。
これは毎日一件ずつ発生している。今日も恐らくどこかに現れるはずだ。
市街地ど真ん中での旋風発生は今のところ無い。警戒しないわけにはいかないが、怪物街の周りで旋風が起こるはずだ。警戒が薄れるのを待っている可能性も捨てきれないが。
発生現場としては南東に被害が集中している気がする。被害が少ない南西に今後集中する可能性があるのか、それとも南東を狙うのに理由があって集中的に攻めているのか…。
「うーん、ずっと眺めていても頭が痛くなってくるね」
ぼっこさんも難しい顔をしながら情報や水墨画を、顎に手を当てながら睨んでいる。
僕達は、外から聞こえてくる愉しげな鬼と貂の声を尻目にうんうん唸り続けた。
○
深夜、白狼天狗から手紙が届いた。
やはり、今日も旋風の発生があったようだ。
場所は、またも南東。今度は三件目の少し上辺りで深夜に入る少し前辺りだった。
やはり南東に何かあるのだろうか。
今回は天狗達も南東に多く出向いていたので被害を早く抑えられたらしい。
それでも、犯人の目撃は出来なかったみたいだが。
だがまぁ、少しわかってきたかもしれない。
範囲はまだ大きいが、次はどこ辺りだろうかと見切りをつけ始めていた頃、倉の戸が開いた。
「やべぇ、今日は結構白熱したなぁ」
「あんたから一本取るのも近いわよ」
鬼はまだまだ余裕ありげに笑い、貂は汗だくで倉の中に入ってきた。
「流石にそれははえぇよ。いい動きと、化術も隙を作れば戦いながら出来るようにはなってきたがまだまだだっつーの。せめておれの息があがるようになってからその言葉使え」
「成長速度で言えば使っても全然大丈夫でしょ」
鬼と貂は二人揃って「「お茶おくれー」」と言った。ぼっこさんが返事をしながら台所に向かう。
「どうだ、何とかなりそうかぁ?」
鬼が僕の隣に座りながら聞いてきた。
「うーむ。まぁ、明日ちょっとみんなで出掛けてみよう」
僕は鬼にそう返事をした。
「今日はもうゆっくりしよう。明日というか、もう今日だが、もしかしたら鬼にも貂にも大いに頑張ってもらうことになるかもしれない」
「あたしにまかせときなさい!」
貂は胸をドンと叩いた。
「僕は朝からいつも通り洗濯物しないといけないから寝る」
「えぇ!今から酒呑もうぜ!」
「僕は呑まないっての!ゆっくりしようってそういう意味じゃないんだよ!今日も朝帰りするつもりか!?」
僕と鬼がギャアギャア喚く合間に貂が適当な相槌をうちながら割り込んでくる。若干鬼の味方気味で。
「今日も朝帰りかな、これは」
ぼっこさんはお茶を少し離れたところに置いて、台所に夜食を作りに向かった。
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