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怪物街道 人の話
告げる流星
しおりを挟む白狼天狗とともに幾人もの天狗が御座敷にやって来て、御膳と食事を持って来てくれた。
白米に様々な刺身、味噌汁、漬物、山菜の天ぷら、非常に彩り豊かな品々である。
白米は小さな釜で丁寧に炊かれたもの。ふっくらとしている事は勿論、艶のある光沢は食欲をそそる。刺身には鯛と鮪、鰤、そして鰹である。鰹は塩と漬けで分けられている。白米に合う事間違いなしだ。
味噌汁の具はあおさと豆腐。味噌とあおさの組み合わせは天下を取れるだろう。そして大根の漬物は歯応えが素晴らしく、酢の加減が絶妙だ。
最後に、山菜の天ぷらだ。種類が沢山ある。ふきのとう、たけのこ、つくし、菜の花、春菊…ここまで盛り合わせていただけるとは。山菜祭りが目の前で開催されている。白に近い衣はサクサクで、旨味を完全に閉じ込めている。噛んだ瞬間に広がる極上は一体どう表現すれば伝わるだろうか。
「美味すぎの妖怪」
僕の口は謎の言葉を発していた。
○
「ご馳走、ありがとうございました」
「いやいや。良い食べっぷりだった」
白狼天狗は愉快そうに笑った。
「今日はここいらで御開きと致しましょう。聞きたい事が出来ればまた来るも良し、何かお困りでも良し、何なら只顔を出すのみでも我々は歓迎する。御時間あれば、旋風の件を宜しく頼む」
白狼天狗の言葉に僕は頷き、僕らは屋敷を後にした。
鬼と貂も、そこで各々の家に帰って行った。
○
怪物街から倉への帰り道、僕とぼっこさんは二人で星を見上げながらゆっくりと歩いている。
「旋風を出す妖怪となると、他に何がいるのでしょう」
「神の類も含まれるってなると、一番に思いつくのは風神様かな?」
ぼっこさんが顎に人差し指を当てながら答える。
風神、それに比肩する妖怪だとすれば、僕の手に負える事態ではない気がする。
過去の人間達はどうやって退けたというのだろう。
力があれば、霊能があれば、格好良く真っ向から向かうことも出来るのかもしれない。だが、僕にはそんな大それた何かは無い。やるべきこととやれることはなくならないが、神が相手となると難しいな。
「見て、流れ星」
ぼっこさんが夜空を指差して言った。
今はまだ、考えていても仕方ないか。この今を大切にすることも、僕には必要なことだろう。
「流れ星ですか。良いですね、願い事でもしますか?」
「願い事?そんな言い伝えがあるの?」
僕の言葉にぼっこさんは驚いた顔をした。
「流れ星が流れている間に願い事を唱えられれば、願い事が叶うという話です。知りませんか?」
「へぇ、そんなのがあるんだね。知らなかった。でもそれ、すっごく難しくない?」
確かにそうだ。流れ星が見えて消えるまで本当に一瞬の事。舌が回るとは思えない。
「不可能に近いからこそ、出来た迷信なのかもしれませんね。ぼっこさんの時代では、流れ星は別の意味合いがあったのですか?」
「うん。私がいた時には、もう考えとしては薄れていたけど、大体凶事の兆とされていたよ。大昔は特に色濃いね。私は綺麗だなぁと思いながら見てたけれど、かつての多くの人は、気味の悪さが勝ったみたい。託宣、或いは星占いでは悪い意味だったんだよ」
ぼっこさんは、星空を眺めながらそう語った。
怪物街は、街中では提灯が掲げられているが、それでも光源は少ない方である。怪物街道に差し掛かるとさらに暗くなる。月と星の光が僕達の進む道を照らしてくれる。それ程までに人工の灯は無い。
星が良く見える夜空は、時間を考えずに眺めていると流星が結構見えたりするものである。ただ、大人数が一斉に見える事になるには、規模の違いがあれど流星群である可能性が高い。
僕のような現代人は、流星群に目を輝かせながら想いを馳せるものだが、過去の人達は不安を募らせながら見ていたのか。
確かに、不変の星座、星と星との繋がりを切り裂く流星は少し気味が悪いか。
「さらに昔では、流れ星は凶の起こりであるとともに、正体は天狗様であると思われていたんだよ。古代においては隕石も天狗様と思われていた節があるの。人智及ばぬ天からの怒りを目に見える形で示し、人間の世が乱れる予兆を告げる光と音。その吠え声はどこにいても必ず聞こえる、ってね。私達が見てきた天狗様の姿が描かれるより、遥か昔の言い伝えかな」
「ははぁ、天翔ける狗、故に天狗ですか。流れ星一つでも色々と話があるんですね」
僕とぼっこさんは、夜空を指差しながら怪物街道を歩いて行く。
「現代を生きている君と、遠い時代を生きてきた私、まるで星の出会いだね」
ぼっこさんはそう言いながら「そして、こうすれば星座だ」と、僕の手を握った。
「どんな話が秘められた星座になりますかね」
僕とぼっこさんは、笑いながら二人の帰り道を歩いて行く。
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