怪物街道

ちゃぴ

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怪物街道 鬼の話

賑やかな夜

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 次に目を覚ますと、僕は見慣れた倉の中にいた。
 すぐそばで、ぼっこさんが寝ていた。
 少し離れたところから、貂が「起きた!」と大声をあげた。
 ぼっこさんがその声で起きて、涙目になりながら「お疲れ様」と言ってくれた。
 どうやら丸一日と半日をさらに超えて寝ていたらしい。



 起きた時は夕方頃、話を聞いて、作ってくれたお粥を食べ終わった時には夜になっていた。
 僕が眠り始めてから、ぼっこさんと貂は慌てふためいたらしい。縄の固定が解かれてから、自力で抜け出した鬼が僕を抱えてこの倉まで運んでくれたそうだ。
 ついでに、鬼から鞭打ちによく効く塗り薬をもらい、僕の身体にべったべたに塗りたくったらしい。
 どうりで身体の痛みがやわらいでいる、しやたら気持ち悪いわけだ。
 鬼は、僕の様子をまた見に来ると言っていたとのことだ。気に入った様子だったとぼっこさんは言った。
 こりゃまた来客が増えるなぁ。



「おう、元気そうじゃねぇか」
「本当にそう見えるか?」
 鬼の開口一番に、僕は布団の中からそう返した。
 寝たままだし、まだ痛みはちゃんとあるぞ。
「派手に吹き飛んでたしな。人間はすぐ壊れちまうなぁ」
 鬼は豪快に笑いながら言った。
 何わろてんねん。
「薬、くれたらしいな。ありがとう」
 とりあえず、お礼は言っておいた。僕から挑んだ勝負だし、この傷は僕の弱さのせいだから、お礼は言っておかねばなるまい。
「良いってことよ。おれはお前が気に入った。気に入ったやつには当然、色々やってやらんとな。それに、早く治ってもらわねぇと困る」
「なんで?」
 鬼の言葉に少し不安を覚え、僕は聞き返した。
「お前、弱っちいからなぁ。おれが鍛えてやる」
 鬼は平然とそう言った。
 くそありがた迷惑じゃねーか。
「いらないです…」
「遠慮すんなって!酒呑むか?お前酒呑める?」
「呑めない」
「馬鹿野郎!酒は呑め!」
「呑まない!」
 鬼は立ち上がり、僕は寝っ転がったまま、二人してぎゃあぎゃあわめいた。
「仲良くなったねぇ」
 ぼっこさんがその様子を眺めて微笑んだ。
「あたし結構イケる口よ!」
 貂が飛び込んできた。
「おっ!イタチ娘、お前意外と見所ありか!?」
 深夜、周りはとても静かなのに、倉の中はこれでもかという程賑やかになった。
「ぼっこさん!怪我人にこいつらは良くないと思います!」
 僕はぼっこさんに助けを求めた。
「お酒のアテ、すぐ用意出来るよー」
「おぉ!お嬢ちゃんも良い奴じゃねぇか!お前、離すんじゃねぇぞ!」
「味方がいない!」
 少し前では考えられない程の明るい状況を見て、楽しそうにぼっこさんは笑っていた。



「何とかなったんじゃなぁ」
 遠巻きに、倉を眺めるぬらりひょんがそう言った。
「何とかなって、良かったですね」
 その隣で、妖狐はクスクスと笑った。
「結果的には無事に終わりましたけど、貴方が怪物街で助けなかったり、鬼との再戦に私を向かわせなかったのはどうしてなんです?」
「鬼と人間は気が合うと思うておった。それに、儂らが過保護に手を加えるのではなく、あやつらだけで何とか出来るなら、何とかするべきじゃろう。出来る限りではあるがな」
 ぬらりひょんは、優しい視線を倉に向けながら言う。
「儂もおぬしも、別々の時代、遠い昔ではあるが、人間とともに困難に立ち向かった。あやつらにもきっと、何かが立ち塞がる。その時、誰かが助けてくれるとは限らん。…儂が助けられるとは限らん」
 ぬらりひょんは少し目を伏せる。
「私の時は、助けてくれたじゃありませんか」
「今回は、わからんじゃろう」
 ぬらりひょんはカカカと笑った。

「さぁ、頑張るんじゃぞ、お前達」

 そう言って、ぬらりひょんと妖狐は夜闇に消えた。
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