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怪物街道 鬼の話
敗北と今後
しおりを挟む倉に着いてすぐ、僕は包帯まみれになった。
鬼に吹き飛ばされた後、全身擦り傷だらけになってしまい、ぼっこさんが消毒等の処置をしてくれた。
特に酷かったのは脇腹付近だ。鬼に背中を踏みつけられ、圧力がかかって固定されているのに無理矢理に体を半転させたせいで、背中から脇腹にかけて皮膚がズレてるし、ズレてないところは黒に近い紫色で内出血していた。
痛すぎてちょっと体勢を変えるのすらつらい。
「それでも、手加減してくれているよ。殺すつもりなら、もっと簡単に殺されてた」
ぼっこさんがお粥を作って持ってきてくれた。鬼は乱暴者だったが、殺生罪に関しては配慮しているということだ。
成程、嘘が嫌いだったり、そういう事は守ったり…僕と戦う時だって、必ず宣言しながら殴りかかってきていた。
変なところが、と付けざるを得ないが、非常に真っ直ぐな妖怪なのだ。
子分がいるのも、暴れていてもぬらりひょんの爺さんが取り締まるのには渋々だったのも頷けた。深いところで、嫌いにはなれないのだろう。
「郊外に住んでいる事が知られたし、鬼がここにもやってくるのかな」
ぼっこさんは不安そうに聞いてきたが、僕は首を横に振った。
「恐らくですが、鬼はもう僕に対して襲う事はないんじゃないかと思います。街でも暴れる事は無いかと」
「どうして?」
「鬼は、僕に対して手合わせと言っていました。ほんの少し遊ぶくらいだったのでしょう。予想以上に腹が立って、最後はあんな感じになったのでしょうが…。多分、僕については失望の念が強かったと思います。もう十分痛めつけて、逃げていった。鬼にとっては、満足と言わないまでも、気にかける程ではない存在になったでしょう」
「じゃあ、問題は解決?」
「鬼が、僕を探して暴れるような事はないかと。まだ続いたとしても、憂さ晴らし程度ですぐに収まることになると思います」
「…じゃあ、良かった、のかな?」
僕は、頷く事ができなかった。
正直、悔しい。このままで終わりたくない。
すると突然、倉の戸が開け放たれた。
「あたしはこのまま終わるつもりはないわ!付き合いなさい!」
貂が腕組みをして仁王立ちしていた。
○
「このまま終わるつもりはないって、鬼と戦うつもりか?」
「そうよ」
まだ朝の時間だと言うのに、数日ぶりにやってきた貂はそう言った。
「ぬらりひょんのお爺さんから聞いたわ。あんた、鬼と会って、その怪我をしたそうね。しかも、あたしのせいでもあるみたいじゃない」
貂は少しだけ申し訳なさそうに言った。口調は相変わらずだが。
「いや、それは別に…。それより、貂の方こそ怪我したんじゃないのか」
「そうだよ。貂ちゃんも鬼に怪我させられたんでしょ?危ないよ」
僕の言葉にぼっこさんも質問を重ねる。
「そうね。でもあたしはあんた程こっ酷くはやられなかったわ。あしらわれたくらい。お爺さんがすぐ止めに入ってくれたしね」
貂は左腕をさすりながら言った。
「怪我はいいのよ。それより、あんたはやられっぱなしで良いの?あたしは嫌。あたしは、あんたが意外とやる奴だってことを知ってる。あたしとあんたとぼっこちゃんなら一泡吹かせられるわよ!」
「三体一が前提ってのもまぁ、悲しい話だが…」
「実力差を考えたら、妥当か、悔しいけれど、それでも分が悪いくらいだわ。鬼、しかもあいつは純粋な力自慢よ。あたしは正直、出来る変化も中くらいが最大だし、変化するのに少し時間がかかる。あんたもぼっこちゃんも、本来は非戦闘員。三体一の条件くらいは貰わないと」
やっぱり、あの鬼は凄腕だったんだな。それを手玉に取ってた妖狐さんは尋常ではない実力者だったわけだ。
「で、やるの?やらないの?」
貂は挑発するようにニヤリとしながら言ってきた。
「…やる。乗った!」
正直、悔しいんだ。一泡吹かせるというこの話、僕もどうせならやるだけやってやりたい。
貂は、僕の言葉を聞いて、にひひと笑った。
「えぇ~…」
ぼっこさんが心底心配そうな顔でこっちを見た。僕も貂も頭に血が昇っているようなものだ。今、冷静に物事を見れているのはぼっこさんだけだろうなぁと思いながらも、僕の頭の中では鬼との戦いに向けて策謀を練り始めていた。
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