怪物街道

ちゃぴ

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怪物街道 鬼の話

鬼が探している

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「ちと面倒な事になった」
「うおぉ!?」
 倉の中、家事をしていた僕の隣にいつの間にかいたぬらりひょんの爺さんが、僕の耳に息を吹きかけながらそんな事を言ってきた。
 毎度毎度、心臓に悪い登場の仕方をする厄介な爺さんだ。
「いつでも新鮮な反応をするのぉ」
 爺さんは、カカカと笑う。
「じゃあ、ありきたりな出方をしてくださいよ…」
 僕は、爺さんから離れながら非難の声をあげた。
「嫌じゃな」
「でしょうね」
 ため息だって出てくるってものだ。
「あんまり虐めないであげてよね」
 ぼっこさんがひょっこりと近付いて爺さんに注意した。
「何を言う!そもそも妖怪とは…」
「その話は前に聞きました。今日はどうされたんです?」
「お前さん、年寄りは話したがりなんじゃから、もうちょっとそこらへん汲み取れい」
 爺さんは、ぷぅと頬を膨らませた。
 何も可愛くない。
「お茶れるね」
 ぼっこさんが台所に行こうとしたが、
「いや、こやつに話かける前に既に一杯もらった。まぁ座れい。貂のやつはまだ来とらんのじゃな」
と、爺さんは言った。
 す、すごい…。そんなお茶の断り方初めて聞いた。



「ついに相談事が来たのね」
 夕刻、大体いつも通りの時間で貂が倉にやってきた。ぬらりひょんの爺さんが来て、何か話があるらしいと言うや否や、貂は鼻息荒くした。
「今回はむしろ、その逆と言えなくもないがな」
 爺さんは、張り詰めた声音で言いながら漬物をボリボリと噛んだ。いつ取った。
「逆って言うと、相談が無さすぎるってこと?」
 ぼっこさんが、首を傾げながら聞いた。良い事だよね、と付け加えて。
「うーむ…。相談事はあるんじゃ。最近、ある鬼が怪物街で暴れておる。抑えつけようとして喧嘩勃発けんかぼっぱつ、段々祭りみたいになってきて、あっちこっちでちぎっては投げ状態じゃ」
「そんなにめずらしいことじゃないじゃん」
 貂は事も無げに言う。僕からしたらそれは全然普通じゃない。
「まぁ街がぶっ壊れてきとってな。しかし、収まる気配が無い。何故なら、鬼が暴れている理由が、人間、お前さんなんじゃよ」
「あんた何したのよ」
「何もしてませんけど」
 突然、矛先を僕に向けられても、こちとら貂の騒動以外では怪物街に近付いていない。最近あった怒られるようなことと言えば、つまみ食いをしてぼっこさんにおしかり頂いたことくらいだ。
「元々、人間が嫌いな鬼じゃ。この前の貂の事で、人間が怪物街にやってきた事を知ったんじゃな。出てこいとうるさいんじゃ。人間と会うまで暴れ回るつもりかもしれん」
 爺さんは眉間みけんしわを寄せる。
「殺生は厳しく取り締まってるんでしょう?僕が出向いて何とかするのが手っ取り早いし、そうするしかないという話ではないんですか?」
「だめだよ!すっごく危ない」
 ぼっこさんは真剣な目つきで言った。
「そうじゃ。今回言いに来たのは、怪物街には近付くなということじゃ。幸いなのは、奴がぼっこの家を知らん事。殺生に関してじゃが、鬼が手加減をするとは限らん。厳しい規則があったとしても、破る者はおる。儂らの方で何とかする故、少しの間はこの倉におって欲しいのじゃよ」
 同じ妖怪、今はまだ皆も楽しんで騒いでおるだけ、出来れば捕まえる等ということはしたくない。
 爺さんは、難しい顔をしながらそう告げた。
「家を知られるのも時間の問題かもしれませんよ」
「問題の解決には全力を尽くすわい」
 爺さんはため息を吐いた。いつもカカカと笑っている爺さんが、わざわざ近付くなと言いに来たのだ。知らぬ間に怪物街には行かないように。間違っても怪物街には行かないように。
「僕としては、勿論構いませんけれど…」
 自分が原因で周りに被害が出ているのに何もしてはいけないというのは、納得いかないが。
 死ぬのも怖いしな…。
「今日はとりあえずその事を連絡しに来た。また追って連絡しよう。ではな」
 爺さんは、出て行く時までずっと厳しいおも持ちでいた。
「きついわねぇ。実際、鬼はめちゃ強いわよ。しかも気分屋。近付かないのが一番だわ」
 今日も修行するわよ!と貂も外に出て行った。
頻繁ひんぱんに怪物街に行くわけではありませんし、困る事はないですが、モヤモヤします…」
「私も、お爺さんと貂ちゃんの意見に賛成。目をつけられたのは、あんまりよろしくないよ」
 ぼっこさんは心配そうにつぶやいた。

 次の日、貂は倉に来なかった。
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