怪物街道

怪物街道 獣の話

一休み

　時刻は夜もそれなりに。僕とぼっこさんと妖狐さんは御飯をいただいていた。
　お店は大丈夫なのかと聞いたところ、本日お休み、と既に札をかけたらしい。
　夜からお客が来だすのだと言ってたのに、ノリが軽い。怪物街は結構そういうところが多いという。焦るのは常に相手、自分の心に余裕がなければ何をするにも手に付かず。妖怪とはかくあるべしとのこと。
　日本三大妖怪の一角の言うことだ、そういうものなのだろう。妖狐さん自体は、かの有名な九尾の狐ではないが、恐らくすごい妖怪で間違いあるまい。
　さて、本日の一品は、うどんの上に油揚げをのせた、所謂いわゆるきつねうどんである。
　狐は油揚げを好むと言われる。実際、妖狐さんは油揚げが好物らしい。好きが転じてお店まで開いてしまったとか。
「のっている油揚げ、狐がうずくまっているようよねぇ」
と妖狐さんが言って美味しそうに頬張る。
　この人、狐の妖怪なんだよな？
「こ、この出汁…。醤油とみりん、砂糖まで使っちゃってるんだって、君…！」
　ぼっこさんはぼっこさんでめちゃくちゃ目を輝かせてる。使われている調味料的には、ぼっこさんからすると確かにそうなってしまうか。高級品って以前の夢の中で教わったし。
　時代的にはその先、明治辺りから普及ふきゅうし出したのだろうか。
　僕も油揚げをひと齧かじり、出汁をたくさん含んだ油揚げは最高。お口の中にうどんと出汁をさらに投入。コシのあるうどんが食感を、旨味を際立たせる出汁の香りは鼻から抜けていき、既に口内にいた油揚げから滲にじむ甘味が混ざり合い、全ては極上へと昇華させる。
「うんまっ！」
　つい叫んでしまった。

○

「貴方達は基本的に夜寝るのよね？お二人の部屋は別々の方がいいのかしら？」
「「いえ、同じ部屋で」」
「あらあら」
　妖狐さんはクスクスと笑っている。
　僕もこんなところで被るとは思わなかった。とはいえ、流石にここで一人きりになる勇気はない。で、多分ぼっこさんは僕の事を気遣ってくれたのだろう。
　二人で二階に上がり、部屋に入った。
　部屋は布団を二つ敷いていてくれており、ぴったりとくっついている。布団が二つ並んでいればそれだけで部屋の隙間は殆ほとんどない。
　今僕も住まわせてもらっている倉は広いので、普段は布団を少し離して二人とも寝ている。
　布団をくっつけて寝る事は初めてだ。胸が高鳴るのがわかった。

　かと言って何かあるわけでもなく、僕はすんなり寝入った。怪物街に来た心労と、隣でぼっこさんが寝ている安心感が勝ったようだ。