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怪物街道 倉の話
経緯とこれからと
しおりを挟む目が覚めると、泣いているぼっこさんの顔が目の前にあった。
僕が起きたことに気付くと、ぼっこさんは僕に抱きついて、ずっと泣いていた。
ごめんなさいと、ありがとうを何度も何度も繰り返した。
僕はぼっこさんが落ち着くまで、背中を優しく叩きながら、大丈夫だよと笑ってあげた。
○
そうして、念願の朝ご飯を食べた。
白ご飯と味噌汁、そして漬け物である。なるほど、たしかに江戸時代の食事っぽい。
ぼっこさんから、自身が妖怪であることを聞き、そしてそのことについて詳しく説明してくれる別の妖怪がもうすぐ来ることを聞いた。
思えば大変なことになったものだ。
妖怪と出会うなんて、全く予想していなかったのだから。
ぼっこさんと朝ご飯の片付けをして、洗濯物を終わらせ、掃除でもしようかと二人で話していたところ、竈の付近にいつの間にか侵入して飯を食べている人影に気付いた。
後頭部が異様に長い爺さんだ。
僕でも知っている妖怪だな。
そう、かの有名なぬらりひょんである。
○
「倉ぼっこの呪いを解くとは、儂らも迷い込ませた甲斐があったと言うもんだ」
ぬらりひょんの爺さんは、開幕僕にそう言った。
爺さんの話をまとめるとこうだ。
まず、僕が山に迷ったのは妖怪の仕業だったという。たまたま山にいた僕は、妖怪の何だかお偉いさんに選ばれたらしく、妖怪達の住む場所に誘い込まれた。現代の人というのは、どういう生活をしているのか詳しく教えてもらおうという魂胆だったらしい。神隠しは、結構こんな軽い感じで行われるらしい。
ちなみに、別に現代の技術とかを取り入れようという気はないらしい。科学が持ち込まれれば、怪異は生きてはいけない。ただ単に、話の肴にでもしたかっただけらしい。
理由なんてあってないようなもので、気まぐれが殆どなんだろう。
とりあえず誰か妖怪にでも出会ってもらって、というところ、これまたたまたまぼっこさんのところに行き着いたらしい。
ぼっこさんの悩みについては知っていたらしく、死んじゃってるかもなー、と思いつつ来たそうだ。ひどくないかそれ。
「僕が選ばれたってことは、実は僕、妖力とか霊感がすごいのでしょうか」
「いや、お前さんからは全く感じん。平凡だ。そして、邪悪でもなく、正義に熱いわけでもない。とてつもなく人間らしい人間、故に選ばれた」
なんかひどくないかそれ。
「いやはや、面白い。正直、倉ぼっこはお前さんを見つけた時、呪いがあるからお前さんを泊めたくないと手紙を儂に送っておったんじゃけどな。儂らの方で、呪いが発動せんようにするから泊めてやってくれと嘘吐いたんじゃわ。まぁ儂らの大将が見込んだ男じゃから放っといてもええかと思うてな。そして、それは間違いではなかったらしい!お前さん、これから妖怪の街に行ってもらって、他に悩める妖怪達の助けをしてやってくれんか。うむ、それが良い!」
この爺さん、すっごい思いつきで喋ってくる。恐ろしいこと言ってたし。死んでたらどないすんねん。
僕がぼっこさんの方を向くと、それ良いね!と言わんばかりに目を輝かせて頷いていた。何だか悩み解決に関しては絶大な信頼を得てしまったらしい。僕は助けを求めて向いたつもりだったんだが。
「どの道、儂らの大将に会ってもらわねば帰れんよ。その為に来てもらったんじゃからな。その事については、おいおい連絡しよう。いやまさか、生きているとは思わんかったしな!」
爺さんはケラケラ笑っている。夢のことを思い出すと僕は全然笑えない。
「妖怪の総大将って、ぬらりひょんじゃないんですか」
「そんなわけないじゃろ。こちとら人に気付かれず家の中に入って飯食うくらいしかやっとらん。どこ情報じゃそれ」
総大将じゃないんだ。どこ情報だったんだろうあれ。
「ま、少しの間、倉ぼっことの生活を楽しむのが良いじゃろ。大変だったろうしな。なぁに、お前さんら、結構お似合いじゃあないか」
そう言われて、僕とぼっこさんは顔を赤くした。
「かかかっ!愛いな!一晩で随分と仲良くなったのう。さて、一旦儂は帰るとしよう。お前さんがここに迷い込んだことについて話に来ただけじゃしな。人間、先程の、妖怪の助けになってくれという話、真面目に考えておいてくれ」
爺さんはそう言って外に出て行った。
本当に何だったんだ。というか僕は帰れないのか。
いや、まぁ、ぼっこさんのことをよろしく頼むと言われた身だ。どうしようかとは思っていたが。
僕はぼっこさんに、とりあえず一緒にお茶でも飲みませんか、と笑いながら提案した。
ぼっこさんも、美味しいの淹れるよー!と笑ってくれた。
○
「しっかし、おかしな事になったもんだ。人間と妖怪の間に、色恋沙汰でもありそうな雰囲気じゃあないか」
ぬらりひょんはケラケラと笑った。
笑いながら視線を落とすと、そこには沈丁花の花があった。
「あぁ、人間と妖怪、垣根を超えた愛を、儂は応援しとるがなぁ…」
ぬらりひょんは沈丁花を眺めながら、沈丁花にある、永遠や栄光とは別の花言葉を口にした。
「実らぬ恋、か」
呟いた言葉を残し、ぬらりひょんはまた歩き出した。
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