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♯21
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キングタランチュラの頭から足にかけて、光をまとった剣が降りる。
「キェェェアアアアッ!!」
最初の雄叫びよりも倍の大きさの声が草原一帯に響き渡る。
「くっ……これじゃだめかっ! ――じゃあ、これならどーだっ!」
1、2歩後ろへ飛びつつ下がり、唇を噛むテュータは、間髪入れずに2度手を叩き、高く飛ぶ。幼女の跳躍とは思えないほどの高さだ。
「とりゃああっ!」
《ダブルデーモンアタック!》
その手に握られしは先程とは違う2本の剣。大きさも倍になっているだろう。重そうだけど、テュータ平然と持ってるのすごいんだけど。
先程の攻撃で弱っていた箇所を2回打撃で切り込んでいく。頭の付け根に切り傷1つ、そして前足の1本を切断した。
「うおっ、ロリ、あんなに強かったのか? 驚きだぜ……」
ズズンと地響きが起き、切断された前足が地に落ちる。断面からは今朝口にしたばかりのシチュー同様のどろどろした血液が矢継ぎ早に流れ出てくる。
あーあーまた綺麗な真っ白の服が血だらけに……。パレッタ、ショックで寝込んじまうだろ。
「どーだっ! おっきぃすぱいだー! テュータにおそれおののきひれ伏せっ!」
一体どこで覚えたんだってばそんな言葉! お前本当に6歳の幼女か!?
俺が、テュータの年齢とはかけ離れている言動に、年齢詐称の疑いをかけている間も、キングタランチュラは切られた前足を呆然と眺めながら固まっている。
途端、キングタランチュラが小刻みに震えだした。
「……何が、起きるんだァ?」
ヤウォンもキングタランチュラのただならぬ気配と不審な行動に気付き、そちらの方を向く。パレッタも、ただひたすら怯えたままだ。
キングタランチュラの足から血液が流れ出なくなったかと思うと、そこから新しい足が生え出てきた。えっ、えっ、はっ!?
「おわーっ!? テュータいま、きのうのゆめのなかで出てきたかっこいい、あたらしいわざで切ったのに、なんでさいせいするのー!? もー!」
「回復能力がずば抜けてやがる……。ハハッ、笑えねぇ……」
タクリスの口角が引きつったまま戻らない。そりゃそうだ。
テュータの攻撃が通じない、つまりは最強の攻撃が通じない。
最強以上の存在なんて今まで見たことないから、今この段階で、あいつには太刀打ちできなくなったってことになってしまった。えっ、これ討伐できるの!?
「……つまんねェ戦いだな。ここにいるやつら全員潰れるまで戦り続けんのかァ?」
ため息と共に吐かれた言葉に同意せざるおえない。本当に全員が再起不能になるまでキングタランチュラは再生を繰り返していくつもりだ。
「…………じゃあ、か、か、間髪入れずに、攻撃、すれば――ッ」
後ろから、か細く怯えながら、確信に近づいたように声を出しつつ立ち上がる音がする。
《魔能力、開放》
パレッタが突然、詠唱しだしたかと思うと、パレッタを取り囲むように小鳥が出現した。透き通った水色の羽は、柔らかい羽毛ではなく、固く鋭い氷でできているようだ。……氷の、鳥さん?
「す、す、少し、道を開けていただけると、嬉しいです……あの、食らうと、痛いので……」
怖いこと言わないでよ!
そう言うパレッタの周りから、冷気が漂ってくる。みるみるうちにその冷気は、氷の粒へと形を変えていく。氷の鳥さんもパキパキ音を立て、氷の破片を落としていく。
《フローズニアバード!》
パレッタが高らかに叫ぶ。すると、鳥さんたちはキングタランチュラめがけ、高速で飛びぶつかっていく。その威力は小鳥とは思えない程の破壊力。
凄まじい轟音と共にあたりが砂埃で覆われる。
しばらくすると砂埃が止んで、キングタランチュラの姿が露わになる。
「キュィエッ! ギィィェアッ!」
その足は先程の攻撃で氷漬けとなっていた。抜こうとして、苦しそうな声を上げ、一生懸命に足掻いている。とりあえず1体は足止めできた……?
「おー!! すっごいあねごー! おっきーすぱいだー止められたよー!」
テュータがわいきゃいはしゃぐ。その様子にパレッタは照れ、また周りがざわつき始めた。
全員が剣や杖を構えてるのをやめ、俺たちがいる方をただ眺め、近くでひそひそ話し始める。
「やっぱりあの幼女、ただ者じゃねぇ……!」
「あの噂は本当だったのか――」
「あの女の子の使った魔法、数少ない上級魔法使いが使うことのできる強力氷魔法じゃない?」
「そんな魔法が使えるのか……でもあの子戦場で見たこと1度もなくないか……?」
キングタランチュラの動きが止まり、一時休戦状態になったからか、先ほどまで戦っていた冒険者etc.は、俺たちの方へ駆け寄ってきて期待の目を向けてくる。テュータ、パレッタのみに。
「なんか、大事になっちまったなこりゃ……しかもキングタランチュラ以外全部倒れてんぞ。なかなかにデケェ図体してる割に、結構弱かったりしたのか? オレの出る幕なかったぞ」
「出る幕て。……でも、実際どうなんだろうな。まだ息の根がある可能性も、無いわけではないだろ? 完全にあそこ勝った気で騒いでんだけど」
いろんな大人におだてられてすっかりいい気になったのか、テュータはいたる所にいる勇者だの魔法使いだのに「テュータ最強なんだよー!」なんて威張ってやがる。
今回ばかりは申し訳ねぇけど痛い目見てほしい。
パレッタはというと、コミュ障か緊張かのどちらかが働いたのか、耳を真っ赤にして固まっている。
「あいつら……パレッタさんに馴れ馴れしく近づきやがッて……! あとで地獄に突き落としてやる……」
またもや物騒なことを申す人間が一人。下手すればヤウォンの能力でパレッタを取り囲む人たちの首を絞めかねない。
新たな戦いを自ら作るのはやめなさい。
「……?」
ふとタクリスが耳を澄ます。閉じていた目をゆっくり開け、あたりを見回す。
「どうした? タクリス」
「――聞こえる。何かが動いている音が」
「あァ。さっきからコソコソ、コソコソと……ウザってェったらありゃしねェ」
「え、何が聞こえるの? 俺さっきからテュータの威張り散らしてる声しか聞こえないんだけど」
「もう少し耳澄ましてみろ。何か聞こえるから」
タクリスに言われ、両手で耳をそばだてる。
「うんやっぱりテュータの威張り散らしてる声しか聞こえない」
「こんのポンコツがァ……カサカサ言ってんのが聞こえねェ――」
「ギェアアアアアア!!」
「「!?」」
ヤウォンが俺に掴みかかろうとしたのと同時にキングタランチュラの雄叫びが草原一帯を震わす。頬がびりびりする。めっちゃ怖い。
そして雄叫びと共にキングタランチュラの背中に亀裂が走った。なにが起きるの今度はあぁ!
「あれってまさか……脱皮?」
嘘だろおぉ!? キングタランチュラが脱皮したら……しちゃったら……。
「グォア゛ア゛ア゛――!!」
「「あ゛ああああああああ――!!」」
やっぱりなぁぁ! 進化しちまったよもぉぉ! 大人しくくたばれやぁぁ!
「んひゃああっ! だっ脱皮して進化したああ!!」
「またおっきくなっちゃったー! もー!」
テュータとパレッタが真っ青な顔をして、脱皮し進化を遂げてしまったキングタランチュラ改めキングヘビータランチュラを見上げた。
キングヘビータランチュラはそれまでいたゴブリンやオークの死体、更にはまだ生きている可能性のあったキングタランチュラを襲い、貪り食った。
背中が一度膨れ上がったかと思うとまた元に戻り、先程よりも太く大きな叫び声を一つ。
しかもとても頭に響いてくるのですが……? 超音波の類い? 洗脳だけは勘弁して……。
「テュータもうこれいじょうあたらしいわざないよー! あねごー!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ」
「あねごーぉぉ!!」
パレッタついにパニック状態発動。誰の
そしてテュータ、新しい技じゃなくていいんだぜ。
「テュ、テュータがなんとかしなくちゃ――あれ?」
テュータがぱちんと手を合わせるが、先ほどの剣は出てこない。何度も叩くが一向に変わらない。ただぺちんぺちんと音がするだけだ。
「ま、まりょくぎれぇ!? どうしよう……食べられちゃうの? どうしよう、エリュスぅ……」
そんな上目遣いで言われても……
と、早速、キングヘビータランチュラが行動を開始する。
頬にあたる部分が膨らみ、そして紫がかっていく。もうこれアレ以外ないじゃん。
そう思ったのもつかの間、キングヘビータランチュラの口から毒弾が飛び出してくる。
あたりの草や花はクレーターと共に消え失せた。やっぱりね!
――というかキングヘビータランチュラって言いにくいよ。もっとマシな名前つけてやれよ。言いにくいから「大蜘蛛」って表記変えとくよ。文句言うなよ!
「ちっ……毒吐くのか……氷も物理も効かない……なら!」
《魔能力開放》
タクリスが静かに言霊を放つ。あたりに暗雲が立ち込める。これは――
《ヴィルナスサンダー!》
よく通る澄んだ声が草原一帯に響きわたる。同時に一帯を震わす雷鳴が大蜘蛛を打つ。
「ギェアアアアアアッ!」
1体となった大蜘蛛に集中攻撃する。大蜘蛛は苦しそうに唸り声をあげ、足をじたばたさせる。これはいけるだろ……!
「っハハ……! 効かねぇのかよオレの渾身の技でも――!」
ええええっ!? なんでだよっ! もうあれだけの規模の技でも無理ならもう駄目だよ!
「ひゃあああっ!」
「!?」
タクリスが攻撃した大蜘蛛とは違う個体が体力を回復したのか、ふらつきながら立ち上がり、水色の髪をしたテュータと同じくらいの大きさの女の子に標的を決めた。
「やべっ――!」
「助けてくれなのじゃあああ!!」
怯えながらも、地を這って攻撃をぎりぎりで避けながら逃げるその子の目にはうっすら涙が。
魔能力開放
タクリスとヤウォンが同時に女の子の方へ体を向け詠唱する。目の前の大蜘蛛はそっちのけ。人の命の方が大事だ。
《フーディーンサタン!》
《暗操凶曲》
タクリスの風は矢のごとく通っていき大蜘蛛に向かう。その矢の後を追うのはヤウォンの影たち。うねりを付け大蜘蛛に絡みついていく。
「おいチビっ子! 邪魔だ! そこどけ! ちんたらすんな!」
「ひぃやあああっ! 怖い人なのじゃああ! 助けてえええ!」
ヤウォンに怒鳴られ、女の子が2倍速ぐらいの速さで走っていき、タクリスの足に飛びつく。
「おにいちゃん……こわくないと思うお兄ちゃん、たしけてなのじゃあ……」
「なんだコイツ可愛いな」
心の声が漏れてるぞ27歳!? 変なスイッチ入った!
……とぅーびーこんてにゅーっ!
「キェェェアアアアッ!!」
最初の雄叫びよりも倍の大きさの声が草原一帯に響き渡る。
「くっ……これじゃだめかっ! ――じゃあ、これならどーだっ!」
1、2歩後ろへ飛びつつ下がり、唇を噛むテュータは、間髪入れずに2度手を叩き、高く飛ぶ。幼女の跳躍とは思えないほどの高さだ。
「とりゃああっ!」
《ダブルデーモンアタック!》
その手に握られしは先程とは違う2本の剣。大きさも倍になっているだろう。重そうだけど、テュータ平然と持ってるのすごいんだけど。
先程の攻撃で弱っていた箇所を2回打撃で切り込んでいく。頭の付け根に切り傷1つ、そして前足の1本を切断した。
「うおっ、ロリ、あんなに強かったのか? 驚きだぜ……」
ズズンと地響きが起き、切断された前足が地に落ちる。断面からは今朝口にしたばかりのシチュー同様のどろどろした血液が矢継ぎ早に流れ出てくる。
あーあーまた綺麗な真っ白の服が血だらけに……。パレッタ、ショックで寝込んじまうだろ。
「どーだっ! おっきぃすぱいだー! テュータにおそれおののきひれ伏せっ!」
一体どこで覚えたんだってばそんな言葉! お前本当に6歳の幼女か!?
俺が、テュータの年齢とはかけ離れている言動に、年齢詐称の疑いをかけている間も、キングタランチュラは切られた前足を呆然と眺めながら固まっている。
途端、キングタランチュラが小刻みに震えだした。
「……何が、起きるんだァ?」
ヤウォンもキングタランチュラのただならぬ気配と不審な行動に気付き、そちらの方を向く。パレッタも、ただひたすら怯えたままだ。
キングタランチュラの足から血液が流れ出なくなったかと思うと、そこから新しい足が生え出てきた。えっ、えっ、はっ!?
「おわーっ!? テュータいま、きのうのゆめのなかで出てきたかっこいい、あたらしいわざで切ったのに、なんでさいせいするのー!? もー!」
「回復能力がずば抜けてやがる……。ハハッ、笑えねぇ……」
タクリスの口角が引きつったまま戻らない。そりゃそうだ。
テュータの攻撃が通じない、つまりは最強の攻撃が通じない。
最強以上の存在なんて今まで見たことないから、今この段階で、あいつには太刀打ちできなくなったってことになってしまった。えっ、これ討伐できるの!?
「……つまんねェ戦いだな。ここにいるやつら全員潰れるまで戦り続けんのかァ?」
ため息と共に吐かれた言葉に同意せざるおえない。本当に全員が再起不能になるまでキングタランチュラは再生を繰り返していくつもりだ。
「…………じゃあ、か、か、間髪入れずに、攻撃、すれば――ッ」
後ろから、か細く怯えながら、確信に近づいたように声を出しつつ立ち上がる音がする。
《魔能力、開放》
パレッタが突然、詠唱しだしたかと思うと、パレッタを取り囲むように小鳥が出現した。透き通った水色の羽は、柔らかい羽毛ではなく、固く鋭い氷でできているようだ。……氷の、鳥さん?
「す、す、少し、道を開けていただけると、嬉しいです……あの、食らうと、痛いので……」
怖いこと言わないでよ!
そう言うパレッタの周りから、冷気が漂ってくる。みるみるうちにその冷気は、氷の粒へと形を変えていく。氷の鳥さんもパキパキ音を立て、氷の破片を落としていく。
《フローズニアバード!》
パレッタが高らかに叫ぶ。すると、鳥さんたちはキングタランチュラめがけ、高速で飛びぶつかっていく。その威力は小鳥とは思えない程の破壊力。
凄まじい轟音と共にあたりが砂埃で覆われる。
しばらくすると砂埃が止んで、キングタランチュラの姿が露わになる。
「キュィエッ! ギィィェアッ!」
その足は先程の攻撃で氷漬けとなっていた。抜こうとして、苦しそうな声を上げ、一生懸命に足掻いている。とりあえず1体は足止めできた……?
「おー!! すっごいあねごー! おっきーすぱいだー止められたよー!」
テュータがわいきゃいはしゃぐ。その様子にパレッタは照れ、また周りがざわつき始めた。
全員が剣や杖を構えてるのをやめ、俺たちがいる方をただ眺め、近くでひそひそ話し始める。
「やっぱりあの幼女、ただ者じゃねぇ……!」
「あの噂は本当だったのか――」
「あの女の子の使った魔法、数少ない上級魔法使いが使うことのできる強力氷魔法じゃない?」
「そんな魔法が使えるのか……でもあの子戦場で見たこと1度もなくないか……?」
キングタランチュラの動きが止まり、一時休戦状態になったからか、先ほどまで戦っていた冒険者etc.は、俺たちの方へ駆け寄ってきて期待の目を向けてくる。テュータ、パレッタのみに。
「なんか、大事になっちまったなこりゃ……しかもキングタランチュラ以外全部倒れてんぞ。なかなかにデケェ図体してる割に、結構弱かったりしたのか? オレの出る幕なかったぞ」
「出る幕て。……でも、実際どうなんだろうな。まだ息の根がある可能性も、無いわけではないだろ? 完全にあそこ勝った気で騒いでんだけど」
いろんな大人におだてられてすっかりいい気になったのか、テュータはいたる所にいる勇者だの魔法使いだのに「テュータ最強なんだよー!」なんて威張ってやがる。
今回ばかりは申し訳ねぇけど痛い目見てほしい。
パレッタはというと、コミュ障か緊張かのどちらかが働いたのか、耳を真っ赤にして固まっている。
「あいつら……パレッタさんに馴れ馴れしく近づきやがッて……! あとで地獄に突き落としてやる……」
またもや物騒なことを申す人間が一人。下手すればヤウォンの能力でパレッタを取り囲む人たちの首を絞めかねない。
新たな戦いを自ら作るのはやめなさい。
「……?」
ふとタクリスが耳を澄ます。閉じていた目をゆっくり開け、あたりを見回す。
「どうした? タクリス」
「――聞こえる。何かが動いている音が」
「あァ。さっきからコソコソ、コソコソと……ウザってェったらありゃしねェ」
「え、何が聞こえるの? 俺さっきからテュータの威張り散らしてる声しか聞こえないんだけど」
「もう少し耳澄ましてみろ。何か聞こえるから」
タクリスに言われ、両手で耳をそばだてる。
「うんやっぱりテュータの威張り散らしてる声しか聞こえない」
「こんのポンコツがァ……カサカサ言ってんのが聞こえねェ――」
「ギェアアアアアア!!」
「「!?」」
ヤウォンが俺に掴みかかろうとしたのと同時にキングタランチュラの雄叫びが草原一帯を震わす。頬がびりびりする。めっちゃ怖い。
そして雄叫びと共にキングタランチュラの背中に亀裂が走った。なにが起きるの今度はあぁ!
「あれってまさか……脱皮?」
嘘だろおぉ!? キングタランチュラが脱皮したら……しちゃったら……。
「グォア゛ア゛ア゛――!!」
「「あ゛ああああああああ――!!」」
やっぱりなぁぁ! 進化しちまったよもぉぉ! 大人しくくたばれやぁぁ!
「んひゃああっ! だっ脱皮して進化したああ!!」
「またおっきくなっちゃったー! もー!」
テュータとパレッタが真っ青な顔をして、脱皮し進化を遂げてしまったキングタランチュラ改めキングヘビータランチュラを見上げた。
キングヘビータランチュラはそれまでいたゴブリンやオークの死体、更にはまだ生きている可能性のあったキングタランチュラを襲い、貪り食った。
背中が一度膨れ上がったかと思うとまた元に戻り、先程よりも太く大きな叫び声を一つ。
しかもとても頭に響いてくるのですが……? 超音波の類い? 洗脳だけは勘弁して……。
「テュータもうこれいじょうあたらしいわざないよー! あねごー!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ」
「あねごーぉぉ!!」
パレッタついにパニック状態発動。誰の
そしてテュータ、新しい技じゃなくていいんだぜ。
「テュ、テュータがなんとかしなくちゃ――あれ?」
テュータがぱちんと手を合わせるが、先ほどの剣は出てこない。何度も叩くが一向に変わらない。ただぺちんぺちんと音がするだけだ。
「ま、まりょくぎれぇ!? どうしよう……食べられちゃうの? どうしよう、エリュスぅ……」
そんな上目遣いで言われても……
と、早速、キングヘビータランチュラが行動を開始する。
頬にあたる部分が膨らみ、そして紫がかっていく。もうこれアレ以外ないじゃん。
そう思ったのもつかの間、キングヘビータランチュラの口から毒弾が飛び出してくる。
あたりの草や花はクレーターと共に消え失せた。やっぱりね!
――というかキングヘビータランチュラって言いにくいよ。もっとマシな名前つけてやれよ。言いにくいから「大蜘蛛」って表記変えとくよ。文句言うなよ!
「ちっ……毒吐くのか……氷も物理も効かない……なら!」
《魔能力開放》
タクリスが静かに言霊を放つ。あたりに暗雲が立ち込める。これは――
《ヴィルナスサンダー!》
よく通る澄んだ声が草原一帯に響きわたる。同時に一帯を震わす雷鳴が大蜘蛛を打つ。
「ギェアアアアアアッ!」
1体となった大蜘蛛に集中攻撃する。大蜘蛛は苦しそうに唸り声をあげ、足をじたばたさせる。これはいけるだろ……!
「っハハ……! 効かねぇのかよオレの渾身の技でも――!」
ええええっ!? なんでだよっ! もうあれだけの規模の技でも無理ならもう駄目だよ!
「ひゃあああっ!」
「!?」
タクリスが攻撃した大蜘蛛とは違う個体が体力を回復したのか、ふらつきながら立ち上がり、水色の髪をしたテュータと同じくらいの大きさの女の子に標的を決めた。
「やべっ――!」
「助けてくれなのじゃあああ!!」
怯えながらも、地を這って攻撃をぎりぎりで避けながら逃げるその子の目にはうっすら涙が。
魔能力開放
タクリスとヤウォンが同時に女の子の方へ体を向け詠唱する。目の前の大蜘蛛はそっちのけ。人の命の方が大事だ。
《フーディーンサタン!》
《暗操凶曲》
タクリスの風は矢のごとく通っていき大蜘蛛に向かう。その矢の後を追うのはヤウォンの影たち。うねりを付け大蜘蛛に絡みついていく。
「おいチビっ子! 邪魔だ! そこどけ! ちんたらすんな!」
「ひぃやあああっ! 怖い人なのじゃああ! 助けてえええ!」
ヤウォンに怒鳴られ、女の子が2倍速ぐらいの速さで走っていき、タクリスの足に飛びつく。
「おにいちゃん……こわくないと思うお兄ちゃん、たしけてなのじゃあ……」
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