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三十三.

了二、管理人になる

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野々村さんの死去にともない、了二は「シェアハウス  サントリー二」の管理人になるため、これまで住んでいたアパートを引き払って、シェアハウスの居住スペースへ引っ越した。

引っ越しといっても、野々村さんが住んでいた時のまま、家具、家電はあるので、了二はレンタカーのバンを借りて、アパートの荷物を自分で運んだ。

野々村さんの私物は、娘さんが持って帰ってくれていた。了二は、アパートから運んできた家電類は、とりあえず使う必要がないので、一階の倉庫部屋に納め、自分の衣類は寝室に運んだ。仕事用具のパソコン類は、もと診察室を改装した、管理人室の机に設置し、WiーFiをセットした。

それから、シェアハウスの住人ひとりひとりを訪ね、(株)アンノウンで作ってもらった名刺を渡し、これからは、私が管理人を兼務しますのでよろしく、と挨拶した。

当初は、管理人の仕事と、アンノウンの仕事とを両立できるか不安があったが、生活を始めてみると、管理人が毎日やらねばならない仕事は、共用部分の掃除くらいで、緊急のことが起こった時には、了二のスマホに電話してくれるように、シェアハウスの住人達にたのみ、アンノウンの仕事の取材のために外出することはできた。

取材から帰ると、了二は管理人室で、パソコンに向かい記事やイラストを書いた。

了二は管理人として住み込みのため、家賃を払う必要はなく、管理人手当として月に10万円を野々村さんの娘さんが、了二の口座に振り込んでくださった。

そうして月日を重ねるうち、シェアハウスに住む大学生さんたちと、了二とは気心が知れてきて、「大学でSDGsの取り組みとして、服の回収と無料頒布の活動をしています。市民の方々からも服やバックを提供していただければありがたいので、アンノウンの記事にしてもらえませんか?」と頼まれて、「あなたの着ない服を誰かが待っています!」という記事を書いたり、「漫画研究会の者です。今、SNS上で「ひとりひとコマ漫画リレー」をして、どんなストーリーができるか、実験しています。朝倉さんもぜひ参加してください!」と言われ、漫画のひとコマを描いたり、「折り紙研究会です。創作折り紙作品が完成したので、アンノウンで紹介お願いします。」
と言われた時は、了二は「立体作品は、実物を見てもらうのがいちばんいいから、一階の共用リビングで作品展をしたら?」と、提案すると、「いいんですか?喜んで展示させてもらいます!」と、いうことで「開知大学  折り紙研究会   創作折り紙展示発表会」が共用リビングで開催された。これらの作品は、大きな一枚の紙から「達磨さん」や、ほぼ実物大の「鶏」「鷹」などを立体的でリアルな姿に折り出した、なかなか見事なもので、アンノウンニュースレターで発表会の予告や紹介記事を出すと、市民の方々が大勢見に来てくださっただけでなく、アンノウンの記事を読んだ地元のテレビ局と新聞社の支社から、取材に来てくださり、折り紙研究会の学生達と、了二とで対応したので、了二は地元テレビ局の人と新聞社の人と、名刺交換をして、お互いメディアの人間どうしとして、知り合いになることができた。

了二は自分より年若い、大学生の彼ら彼女らの感性や考えに触れて、おおいに刺激を受け、視野もさらに広がった。

もうひとつ、シェアハウスに来てから変えたことがある。「猫」のことだ。

アパートに住んでいた時は、「猫」をショルダーに入れっぱなしにしていることが多かったが、シェアハウスの玄関ホールには、作り付けの飾り棚があり、かつては野々村さんが、季節の花やハーブを飾っておられた場所だが、了二は、自分が在宅の時は、「猫」を飾り棚に置いて、シェアハウスの住人にも見てもらうことにした。

そして取材で外出する時には、これまで通り、了二のショルダーに入れて行く。

これで「猫」が棚にいない時には、了二は外出しているのだな、「猫」がいる時は、了二も管理人室か居住スペースにいるのだな、ということがシェアハウスの住人に一目でわかるようになった。

これは、実際上、役に立つ仕組みであるだけでなく、了二が「猫」からもらった幸運を、シェアハウスの住人にも分けてあげることができたらいいな、という思いから始めたものだ。

「猫」を入手したいきさつや、猫と了二との間に意思の疎通があることは、誰にも話してなかったが、シェアハウスの住人達も「猫」から特別な感じを受けるらしく、了二が管理人室にいると、「この猫、焼き物なのに、すごくかわいいよなあ。」「うん、俺も、そう思う。」と会話が聞こえたり、「猫」の頭をなでながら、「行ってきます。」「ただいま。」と言う人がいたりした。

そんな生活をしながら季節はめぐり、了二がシェアハウスに来てから、一年が過ぎた。
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