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四.
意外なところに価値はあり
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了二は自分のアパートの部屋に帰ってきた。
(ふう、今日は午前中の短い時間のうちに、いろんなことがあったなあ…)
と思いながら、ローテーブルのそばに座り、まずショルダーから「招き猫」を出して、テーブルの上にそっと置いた。
時間をかけてよくよく見る。見れば見るほどかわいらしい猫だ。首に金色の鈴をつけ、お腹に小判を抱えている。
次に例の超有名ブランド腕時計を出して、猫のかたわらに置いた。
それからハンバーグ弁当を取り出すと、親切に割り箸も付けてくれていたので、箸を割ってお弁当を食べ始めた。
(うま…)
なかなかボリュームのあるハンバーグが入っていて、至福のひとときを味わった。
お腹が満たされると、次のことを考えようという思考になってくる。
「なあ、猫よ。このブランド腕時計をどうするのがいちばんいいかなあ?」
他人のいない一人部屋の中なので、了二は声を出して猫に尋ねた。
猫はすぐに返事をした。
(錦町(にしきまち)の商店街のアーケードに入る手前に、「ブランド品買取ります」ゆう、のぼり旗を出してる店を知ってるかニャ?)
「ああ、知ってる。前を通ったことなら何度もある。」
(あの店に、時計に詳しい鑑定士がいるから、明日行って見てもらうといいニャ。)
了二は高級ブランド品とは関わりのない生活をしてきたこともあって、鑑定と聞き、胸がドキドキしてきた。
「この高級ブランド腕時計なら中古でも数十万円もすると噂には聞くけど、そんなに価値あるのか?」
猫は含みを持たせるように、
(それは鑑定してもらってからの、お楽しみニャン。)
と言い、それ以上は何も教えてくれなかった。
了二はその夜、ドキドキワクワク、明日を楽しみにしながら眠りについた。
~~~
「よくできた、偽ブランド商品、いわゆるコピー商品ですね。」
黒縁眼鏡の鑑定士が、ルーぺから顔を上げ、了二の目を見て言った。
「ええっ!!!」
こういう展開になるとは、1mmも予想していなかった了二は、おもわず大きな声を出してしまった。
ここは、きのう、「招き猫」に指定されて訪ねて来たブランド品買取り店。
(おい、猫、これはどういうことだよ!!)
了二はショルダーの布の上から、猫が入っているあたりを手のひらでポンポンたたいたが、猫はだんまりを決め込んでいる。
そんな了二の様子はおかまいなしに、鑑定士が淡々と尋ねた。
「この腕時計、どこで手に入れられました?」
「昨日、駅のホームで偶然出会ったご老人に、親切にしてあげたら、お礼だと言って僕にくれたんです。東京で時計店をやっていたけど、廃業したからあげますと言われて。」
了二は昨日のことを、かいつまんで伝えた。
鑑定士は表情を変えることなく了二の顔を見ながら聞いていたが、やがて言った。
「まあ、あなたのおっしゃることを信じましょう。御存知のこととは思いますが、偽ブランド商品を売買したら、刑事罰になりますからね。うちで真贋(しんがん)がついて、良かった。」
(えぇぇぇ!もしかしたら俺、逮捕されることになるかもしれなかったのかよ!あのじいさん、上品そうにして何者だったのかよ!じいさんの時計店て、偽物の時計店だったのかよ!それともじいさん当人も、騙されていたのか?)
了二は混乱して、心の中で、じいさんに悪態をついた。頭も心もムカムカしてきた。
しかし、鑑定士が「ん?」とつぶやいて、何かに気づき、ふたたびルーぺをのぞき始めたことから、了二の関心も鑑定士の様子に、ふたたび惹き付けられた。
鑑定士はルーぺを時計に近づけたり離したり、上から見たり、側面から見たりしていたが、
「ちょっと気になるところがあるので、奥の機械で確認してきます。」
と言い、席を立って、ついたての向こうへ姿を消した。
了二は「偽ブランド品」を換金しようとした人物がいる、と警察に通報されるのでは?と気が気でなかったが、今、店を出ると、逃げたと思われますます疑われてしまうと思い、店内の椅子に座って待った。
長い時間が流れたように感じたが、本当は3~4分だったのかもしれない。
鑑定士が戻ってくると、また、思いもよらないことを話しだした。
「この偽ブランド時計は、偽物としては出来のよいものでしてね。出来のよい偽物というのも変な言い方ですが。で、本物らしく見せるために、この文字盤を囲むフレームのみには本物の金(きん)が使ってあります。」
「はい…」
了二は鑑定士が何を言わんとしているのかわからなかったが、とりあえずうなずいた。
「それで、この腕時計を時計としてうちで買い取ることはできませんが、フレームの部分だけはずして、金(きん)として買い取ることはできます。どうなさいますか?」
了二はこれまた予想外の提案に驚いたが、少しでも現金になればありがたいことだ。すぐさま、
「そうしてください。」
と申し出た。
「わかりました。では、フレームをはずして重さを量りますね。」
鑑定士は小さな工具を取り出すと、器用にフレームの部分をはずし、卓上のデジタル式のはかりにのせて重さを量った。それから電卓を取り出し、パンパン音をたてながら電卓を打った。
「買取り価格はこちらになりますが、よろしいですか?」
鑑定士は電卓を了二に見せながら言った。
電卓のデジタル表示の数字は…
[9220]
了二はまたまた驚いた。
「あんなに細いフレームの部分だけで、それほどの価格になるんですか?」
「ええ。今日は金の相場が高くて、良かったですね。」
鑑定士はにっこりわらって答えた。
こうして、了二のカラ財布に、9,220円が収まることになったのである。
(ふう、今日は午前中の短い時間のうちに、いろんなことがあったなあ…)
と思いながら、ローテーブルのそばに座り、まずショルダーから「招き猫」を出して、テーブルの上にそっと置いた。
時間をかけてよくよく見る。見れば見るほどかわいらしい猫だ。首に金色の鈴をつけ、お腹に小判を抱えている。
次に例の超有名ブランド腕時計を出して、猫のかたわらに置いた。
それからハンバーグ弁当を取り出すと、親切に割り箸も付けてくれていたので、箸を割ってお弁当を食べ始めた。
(うま…)
なかなかボリュームのあるハンバーグが入っていて、至福のひとときを味わった。
お腹が満たされると、次のことを考えようという思考になってくる。
「なあ、猫よ。このブランド腕時計をどうするのがいちばんいいかなあ?」
他人のいない一人部屋の中なので、了二は声を出して猫に尋ねた。
猫はすぐに返事をした。
(錦町(にしきまち)の商店街のアーケードに入る手前に、「ブランド品買取ります」ゆう、のぼり旗を出してる店を知ってるかニャ?)
「ああ、知ってる。前を通ったことなら何度もある。」
(あの店に、時計に詳しい鑑定士がいるから、明日行って見てもらうといいニャ。)
了二は高級ブランド品とは関わりのない生活をしてきたこともあって、鑑定と聞き、胸がドキドキしてきた。
「この高級ブランド腕時計なら中古でも数十万円もすると噂には聞くけど、そんなに価値あるのか?」
猫は含みを持たせるように、
(それは鑑定してもらってからの、お楽しみニャン。)
と言い、それ以上は何も教えてくれなかった。
了二はその夜、ドキドキワクワク、明日を楽しみにしながら眠りについた。
~~~
「よくできた、偽ブランド商品、いわゆるコピー商品ですね。」
黒縁眼鏡の鑑定士が、ルーぺから顔を上げ、了二の目を見て言った。
「ええっ!!!」
こういう展開になるとは、1mmも予想していなかった了二は、おもわず大きな声を出してしまった。
ここは、きのう、「招き猫」に指定されて訪ねて来たブランド品買取り店。
(おい、猫、これはどういうことだよ!!)
了二はショルダーの布の上から、猫が入っているあたりを手のひらでポンポンたたいたが、猫はだんまりを決め込んでいる。
そんな了二の様子はおかまいなしに、鑑定士が淡々と尋ねた。
「この腕時計、どこで手に入れられました?」
「昨日、駅のホームで偶然出会ったご老人に、親切にしてあげたら、お礼だと言って僕にくれたんです。東京で時計店をやっていたけど、廃業したからあげますと言われて。」
了二は昨日のことを、かいつまんで伝えた。
鑑定士は表情を変えることなく了二の顔を見ながら聞いていたが、やがて言った。
「まあ、あなたのおっしゃることを信じましょう。御存知のこととは思いますが、偽ブランド商品を売買したら、刑事罰になりますからね。うちで真贋(しんがん)がついて、良かった。」
(えぇぇぇ!もしかしたら俺、逮捕されることになるかもしれなかったのかよ!あのじいさん、上品そうにして何者だったのかよ!じいさんの時計店て、偽物の時計店だったのかよ!それともじいさん当人も、騙されていたのか?)
了二は混乱して、心の中で、じいさんに悪態をついた。頭も心もムカムカしてきた。
しかし、鑑定士が「ん?」とつぶやいて、何かに気づき、ふたたびルーぺをのぞき始めたことから、了二の関心も鑑定士の様子に、ふたたび惹き付けられた。
鑑定士はルーぺを時計に近づけたり離したり、上から見たり、側面から見たりしていたが、
「ちょっと気になるところがあるので、奥の機械で確認してきます。」
と言い、席を立って、ついたての向こうへ姿を消した。
了二は「偽ブランド品」を換金しようとした人物がいる、と警察に通報されるのでは?と気が気でなかったが、今、店を出ると、逃げたと思われますます疑われてしまうと思い、店内の椅子に座って待った。
長い時間が流れたように感じたが、本当は3~4分だったのかもしれない。
鑑定士が戻ってくると、また、思いもよらないことを話しだした。
「この偽ブランド時計は、偽物としては出来のよいものでしてね。出来のよい偽物というのも変な言い方ですが。で、本物らしく見せるために、この文字盤を囲むフレームのみには本物の金(きん)が使ってあります。」
「はい…」
了二は鑑定士が何を言わんとしているのかわからなかったが、とりあえずうなずいた。
「それで、この腕時計を時計としてうちで買い取ることはできませんが、フレームの部分だけはずして、金(きん)として買い取ることはできます。どうなさいますか?」
了二はこれまた予想外の提案に驚いたが、少しでも現金になればありがたいことだ。すぐさま、
「そうしてください。」
と申し出た。
「わかりました。では、フレームをはずして重さを量りますね。」
鑑定士は小さな工具を取り出すと、器用にフレームの部分をはずし、卓上のデジタル式のはかりにのせて重さを量った。それから電卓を取り出し、パンパン音をたてながら電卓を打った。
「買取り価格はこちらになりますが、よろしいですか?」
鑑定士は電卓を了二に見せながら言った。
電卓のデジタル表示の数字は…
[9220]
了二はまたまた驚いた。
「あんなに細いフレームの部分だけで、それほどの価格になるんですか?」
「ええ。今日は金の相場が高くて、良かったですね。」
鑑定士はにっこりわらって答えた。
こうして、了二のカラ財布に、9,220円が収まることになったのである。
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