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第23話 森
しおりを挟む「うあああああ!!!」
暗闇の中で俺は、風を切る音と共に水のないウォータースライダーのような縦穴を滑り続ける。
体感でもう1分くらいは滑り続けているはずなのに、全然、出口に近づいている気配がない。
というかこの感じだと絶対に9層どころか、さらにその下まで落ちているんじゃないのか?“
“どこまでいくんだよ、これww”
“ショートカットがこれってマ?”
“一瞬だけ柊のことを有能だと思った俺の気持ちを返してくれ”
“やっぱり柊だな、期待を裏切らないわ”
それから、さらに1分ほど経った頃。
下から眩い光が差し込んできた。
ようやく出口が近づいてきたのだ!
徐々に光は強くなっていき、出口と思われる場所を通過した時であった。
「よっしゃあ、外に出たぞ――え?」
穴を出た瞬間、俺の目に飛び込んできたのは快晴の空……そして、豆粒ほどの大きさしかない木々であった。
そう、俺は何もない大空の中にただ一人放り出されたのだ。
「ちょ……死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ!」
高さとしては、東京タワーくらいだろう。
そのまま着地したら、体がぺちゃんこになることなんて簡単に予想できた。
俺は死ぬ気で思考を巡らせる。
パラシュートなんてものは無い、あるのは精々カバンくらいだ。
……そうだ、少し前にパラシュートを使わずに逆噴射によって着地するロケットのニュースを見たことがある。
それなら、〈ショックブラスト〉を使えば俺でも可能だ。
「〈ショックブラスト〉〈ショックブラスト〉〈ショックブラスト〉!!!」
俺は地面に向かって何発も〈ショックブラスト〉を放つと少しずつ速度は減速していき――
「あ、危ねえ……今度こそ本当に死ぬかと思った」
俺はなんとか、地面に着地すると糸の切れたマリオネットのように倒れ込む。
今まで火竜との力比べやモンスターハウスなど、死にかけてきたことは何回もあるが、今回のは流石にマジで死を覚悟した。
しばらくして、全身に抜けた力が戻ってくると俺は立ち上がって周りを見渡し――
「どこここ?」
口をぽかんと開けて、呆然としていた。
本来なら気が滅入るほどに鬱蒼としたジャングルが広がっているはずだった。
しかし、俺の目の前に広がっているのは一寸先までしか見えないほどの濃い霧だったのだ。
“草”
“霧が濃すぎて柊すらも見えん”
“どこだよここww”
“奥多摩ジャングルにこんなところあったっけ?”
“そもそもここってジャングルか? さっき上から見た感じだと森っぽかったけど”
俺は最後のコメントを見て空中に放り出された時の情景を思い出す。
確かに上から見た時はジャングルというより森って感じだったな。
俺は森という単語で、とあることを思い出す。
冷や汗がツーっと額を流れ、表情が固まる。
森、奥多摩、そして濃霧……確かあれは10年前に日本中で話題になったとある悲報だったはず。
とあるSランクパーティが奥多摩ダンジョンの深層に潜った。
その頃の奥多摩ダンジョンはジャングルと他に類を見ない広大さという二つの特徴によって高ランクも含めた多くの探索者に毛嫌いされていた。
なぜなら、探索に多くの時間を要するからだ。
ダンジョンでは時間が多くかかればかかるほど死亡率は高まり、資源不足や精神不調などの問題が起きる。
そんな状況の中で唯一、奥多摩ダンジョン攻略に乗り出したのがそのSランクパーティである。
だが、結果は……壊滅であった。
深層に入ったところまで進んだことはわかっているのだが、そこからの消息が不明なのだ。
今になっても誰一人、生還者はおらず現在、深層に関しては『帰らずの深層』とも呼ばれている。
ただ、深層に入るギリギリまで同行した者によると深層からは霧が漏れ出してきていたらしい。
つまりここは――
「深層ってことなのか?」
どうやら俺の下層到達RTAは下層へ生還RTAに変更されたようだ。
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