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第6話 火竜

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「あっはっは!!! 死ね死ね死ね死ねえええええ!!!」

 狂気を瞳に宿し、一人の男が拳でありとあらゆるモンスターを吹き飛ばしていく。
 中には中、下層に存在するモンスターであるBランクモンスターも含まれていたが、男はそんなことを露も気にせずに暴れ回る。

 だが、そんなに獣のように暴れ回っている男を見て、知能を持つBランクモンスターたちは彼を囲い始める。
 理性を無くしている男は囲まれていることに一切気付かず、あっという間にBランクモンスターであるミノタウロスに囲まれてしまう。

 例え、高い実力を持つ探索者であってもモンスター……それもBランクモンスターに囲まれれてしまえばひとたまりもない。
 絶体絶命である。

「〈ショックブラスト〉」

 普通ならば。
 男は地面に向かって手をかざし、スキルを放つと大きく、飛び上がる。
 そして、後方にまたスキルを放ち、1秒もたたない内にミノタウロスに肉薄し――

「〈ショックブラスト〉」

 ――パァァァァン
 拳がミノタウロスに触れた瞬間、ミノタウロスが大きく吹き飛び、空中でぐちゃぐちゃになった。

 すぐさま、男はスキルを壁に向かって放ち、他のミノタウロスを同じ要領で倒していく。
 あまりの速さにミノタウロスは一発も男に攻撃を当てることができずに――

「オラァァァァ!!!」

 5体も居たミノタウロスは一人残らず肉塊と化した。

「ふぅ……流石に疲れた」

 男はそう呟くと正気に戻った。


 ――――――


「ぷはぁぁぁ」

 俺は正気に戻り、水を給油の如き勢いで飲んでいく。

 俺の奇行が人気ダンジョン配信者である眞白ちゃんの配信で事故で映り込んだ事件から半年。
 あれから幾つかの変化が俺には訪れた。

 俺は息を整えながらスマホに映ったコメント欄を見る。
 そう、まず一つ目が同接だ。

“ミノタウロス瞬殺きもちぃぃぃぃぃ!!!”
“生を実感する”
“死体ぐちゃぐちゃじゃん、グロすぎ……”
“これぞ、柊の配信よ!”
“これで今週も生きていけます”
“ミノタウロスざまぁぁぁ、俺の推しを怪我させた罰だぁぁぁ!”

 半年前と比べて何倍も流れるのが早くなったコメント欄と上に表示される3156人という数字。
 そう、あれから何故か俺の配信に来る人数がぐんと増えたのだ。
 さらにチャンネル登録者はいつの間に30万人に。

 ……え? なんで?

 俺なんか側から見たらお金のためでもドロップ品のためでもなくただ快楽のためにモンスターを殺しまくる狂人だぜ?

 だが、どんな理由であれ俺にとって同接が増えるのはメリットしかない。
 これで俺は配信で稼いだお金でより良い武器、防具が買えるようになっただけでなく、いつもより、ちょっと贅沢な飯が食えるようになった。
 例えば……某ハンバーガーショップでポテトとハンバーガーだけでなくナゲットも頼んだり、コンビニでスイーツを買ってみたり。

 俺はすっかり、この少しリッチな生活に慣れてしまっており、前のようなお金がかつカツな生活なんて考えられなくなっていた。

 俺はスキルの発動で消耗した体力をポーションを飲んで回復させ――

「ふぅ……んじゃあ、休憩したし、まだもうちょっとぶっ殺しにいくか」

 再び、狂気を瞳に灯した。
 二つ目の変わったところ――それはスキル、〈狂化〉を使わずとも、狂人のフリができるようになったこと。

〈狂化〉を使えば痛みを感じないバーサーカーになることができるが、代わり、スキルの効果時間が切れるまで冷静な判断ができなくなる。
 そのため、過去の配信の自分を参考に狂人のフリをするようにし、今では完璧な狂人の演技ができるようになった。

「久しぶりにAランクモンスターにでも挑戦すっかぁ」

 俺は指の関節をボキボキと鳴らしながらダンジョンの奥へと進んでいく。
 何より、俺は半年前に比べてさらに強くなった。

 半年前はミノタウロス一体を相手するので精一杯であったが今ではAランクモンスターをソロ討伐できるまでになったのだ。

 俺はダンジョン内を歩きながら辺りの気配を探っていると北東方向にモンスター気配を感じる。

「居た居た……!」

 その方向へ進んでいくと、そこには赤色の竜が佇んでいた。

「火竜か」

 あれは火竜……Aランクモンスターの中で最も有名なモンスターだ。

「ちょうどいい、Aランクモンスターて言ったらやっぱこいつだよな……〈ショックブラスト〉」

 俺は火竜が俺の存在に気づかないでいる内に〈ショックブラスト〉で急加速し、火竜の元まで近づき

「オラァァァァ!!!」

 火竜の右翼の付け根を思いっきり殴った。
 急加速しながら放たれた一撃は翼の付け根を大きくえぐり、右翼は地面に落ちる。

 ダンジョンの階層には様々な種類がある。
 そのうちでここは天井が高く、壁がほとんど存在しない開けた種類の階層だ。
 そのため、火竜に飛ばれるのが1番の懸念点であった。
 逆に言えば……

「これでもう、俺の独壇場だぜ」

 飛べない竜はただのトカゲだ。
 俺はもう一度、右腕を振り上げ、今度は火竜の顔面をぶん殴る。

「GYAOOO!」

 火竜は雑魚モンスターのように木っ端微塵に砕け散りはしなかったが、俺の拳によって顔面が大きくひしゃげる。
 俺は続けて左拳を振り上げるが、火竜は余力を振り絞って尻尾を振ることで俺との距離を保つ。

 すると、火竜は口を大きく開き、全ての力を口に集約させる。
 これぞ、火竜の代名詞……ブレスだ。

 二千度を悠に超える炎のブレスには探索者であっても簡単に骨まで体を溶かされる。
 本来なら俺は〈ショックブラスト〉を使ってこのブレスを避けたほうがいいのだろう。
 または、避けずに〈ショックブラスト〉でブレスが放たれる前に火竜を仕留めた方がいいのだろう。

 だが、そんなの面白くない。
 俺は探索者でもあるが、一応、配信者でもあるのだ。

 ここにいる3000人を喜ばすために……いや、お金のために俺は何もせず、その場に佇む。

“え、なんもしないん?”
“舐めすぎだろ、死ぬぞ”
“いやぁぁぁぁぁ!!!”
“逃げろぉぉぉ!!!”
“探索者になって体が丈夫になっても火炎耐性はついてないぞ!”

「GYAOOOOO!!!!!」

 そして、フルチャージされた火竜のブレスは俺に向かって放たれた。
 あまりの熱気にブレスが俺に届く前にチリチリと肌が焼ける。

 骨すらも残らず溶かす業火のブレスが俺の肌に触れる寸前

「〈ショックブラスト〉」

 俺はただ、そのスキルだけを発動した。

 俺には小細工があるわけでも秘策があるわけでもなかった。
 俺が今から行うのはただの火竜のブレスと俺の〈ショックブラスト〉による力比べだ。


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