ソラのいない夏休み

赤星 治

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終章

ソラのいない夏休み

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 七月二十四日。
 双木三柱市では例年通り夏休みが訪れた。
 地球温暖化の影響により、猛暑や酷暑といった命の危険がある暑さだ。それでも人々の生活は変わらない。

 八月。
 高校二年生の三枝日和は、親戚の涼城夏美と夏休みを浩信が経営する海の家でバイトして過ごすことになる。
 共に働く桜木駿平、彼と幼馴染みの御堂音奏と仲良くなり、夏美の通う朝日ノ高校の同級生であり秀才の前園明香とも仲良しとなった。
 男二人、女三人。五人は仲良く夏休みを謳歌するが、皆一同に、”なにか足りない”と、些細な疑問だけが浮かんでいた。
 それは杞憂なのかもしれない。
 ちょっとした不思議体験として五人は気にもとめなかった。

 消え去られている。四十二の都市伝説があった夏も、共にいた男子高生、楸蒼空の存在も。

 この夏、蒼空のいない夏休みを五人は過ごした。



 十月二日午後二時。
 市立図書館で宿題に励む一人の男子生徒がいた。

「あれ、楸君?」
 夏美は同級生の楸蒼空と出会った事に驚いた。
 一方で、蒼空は夏美と偶然会ったことよりも、傍にいる日和を見て驚いた。
「え、なんで?!」
「あれ、久しぶりぃ」
 驚いても共に声を抑えている。
 蒼空と日和が知り合いだということに夏美は驚きを隠せなかった。
「二人知り合い?」
「うん。中学までの幼馴染み」日和が答える。
「ってか、二人こそ。塾とかで一緒とか?」
「実は私達親戚同士なの。夏前に始めて知ったんだけどね。楸君、もしかして宿題?」
「社会の選択課題。それで双木三柱市の伝説系を調べてて」

 食いついたのは日和であった。

「五人いる神様のやつでしょ?」
「神様だから”五柱”な。嬉しそうに聞くけど全然面白くないぞ。なんか御神木があったとか、願いを叶える神がいたとか。ありきたりな神話ばっか」
「得意分野じゃん。謎解きは蒼空君って」
「どれだけ昔の話蘇らせてんだよ」

 事情を夏美は求め、日和は簡単に説明した。
 推理ドラマで先に謎を解くのは蒼空が早かったり、物を無くしても見つけてくれる。頭を使う事は大体が蒼空のほうが日和より良い事を。

「ああ、確かに楸君、クラスで結構頭良い部類って密かな噂よ」
「え、なんで? テストとかそこそこぐらいの点だけど」
「勉強以外で色々機転効くからじゃない? 有る物で工夫してなんか作る。みたいなのとか、作業効率よくするとか」
「それ昔っから。絶対探偵とかなれるよ」
「なるわけねぇだろ」
 そんな昔話より、偶然巡ってきたチャンスとばかりに夏美は数学のテキストを鞄から取り出した。
「ごめん。それよりも楸君にこれ教えてほしい。数学の点良いよね」
 作業の手が止まり、仕方なく夏美の数学を見る羽目になった。


 都市伝説で苦悩し、恐怖し、生きた心地がしない日々を過ごした夏休み。その歴史はもう無くなっている。
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