ソラのいない夏休み

赤星 治

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三章 迫る恐怖

6 まだ可能性でしかない希望

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 加賀見茜が消えてすぐ、夏美は蒼空に電話した。

「もしもし」
「蒼空君ごめん、今いい?」
 夏美の声から、落ち込んでいる様子ではないと察した蒼空は話に集中した。
「あんな事あった後だけど、まだ頑張れる?」
「うん。自分でもうんざりするけど昨日からずっと考えてる。涼城さんは大丈夫?」
「うん。悲しんでばっかでもいられないし、それどころじゃない事態になったって所」
「どういうこと?」

 夏美は今朝見た事、加賀見茜と話して知った情報を蒼空に話した。蒼空はメモ帳に情報を書き記す。

「……他に、加賀見さんは何か言ってなかった? 些細なことでもいいんだけど」
「お爺ちゃんが加賀見さんと会ったから御堂六郎が現われたんじゃなくって、たまたま会った時期が被ったんだって。正真正銘の偶然だって。あと、お爺ちゃんが抗ったから、加賀見さんとあたしが会えたって。都市伝説の狂いを探す挑戦者になる権利はあったみたい。けど、お爺ちゃんは挑戦してないっぽい。御堂六郎さんに喧嘩ふっかけてばっかりだったみたいだし」

 二つの都市伝説が偶然重なった。儀造の行動で今の、加賀見茜と夏美の出会いがあった。
 考察する蒼空は、夢で会った儀造の事を思い返す。
『時が混ざると面倒だな』
 たしか、御堂六郎はそんな事をぼやいていたのを思い出す。
(あの人が涼城さんのお爺さんだとしたら……時系列はこっちの時代に寄せられた? なんで?)

 夏美を描いた儀造の絵が証拠である。
 儀造、御堂六郎は夢で繋がっていて、夏美と蒼空も二人と夢で会っている。
 御堂六郎は加賀見茜が先に名乗ったから自分も名乗った。しかし御堂六郎と加賀見茜は別々の都市伝説で会えない関係性。
 次々に浮かんだ謎と考察点を蒼空はメモ帳に記した。

「涼城さん都市伝説調べ、まだ頑張れる?」
「問題ないよ。十四日って明後日だもん。もう誰も死んでほしくないし。あたし馬鹿だけど、やれることあったら何でも言って」
「ありがとう。けど、一度全員で集まってからにしよ」
「え……」
 昨日の様子では音奏は参加できないと思われ、明香は苦しみ悩んでいると考えられる。
「難しくない? 音奏君なんて幼馴染みが死んだから」
「LINEで二人のやる気が出るように報せるよ。事情は会ってから話す」
「分かった。何処で会う?」

 場所は全員から距離が一定の、すぐ集まれるであろう【真昼ノ駅前公園】とされた。
 夏美はすぐに風見鶏公園から一度家へ戻り、支度を整えてから真昼ノ駅前公園へ向かった。その最中、蒼空からLINEが入り、文面を見るとあまりの内容に立ち止まった。
 “全員、真昼ノ駅前公園へ集合。桜木君はまだ死んでいない”
 何か意図があるのだろう。嘘をついてやる気に火を点けるなんて考えられないし、『皆の中で生きている』なんて精神論はこの時点では意味がない。

 夏美は蒼空を信じ、真昼ノ駅前公園へと向かった。

 ◇◇◇◇◇

「おい、どういうことだ蒼空」
 先に到着した音奏は、掴みかかるように蒼空へ迫った。
「文面通り、桜木君はまだ生きてる」
「はぁ? 死んでるってあいつの親とか、事故現場とか」
「確かに死んでる。そういう設定なんだ。今は」
 訳が分からず、音奏は手を離して事情を聞いた。
「桜木君が死んだのは都市伝説の現場。俺に電話して、都市伝説に巻き込まれたのは午後八時。理由もなくあんな所に桜木君は行かないよ。怖がりだしね」
「じゃあ、なんであいつは」
「証明だ。おそらく何かを知ったからそれを証明しなければならなかった。怖がりなのにそれを優先したってことは、かなり大切な事だ」
「けどじゃあ、あいつの遺体はどう説明すんだよ。あいつの両親が息子って言ってんだぞ」
「けど俺等は桜木君を見ていない」
 意味が分からず、“は?”と音奏は返す。
「桜木君は都市伝説に絡んだ何かに巻き込まれた。だから死んではいるけど、俺等は桜木君の死をしっかり確認していない。事故現場にあの後行ったけど、現場は閑散としててブルーシートも無かったし、血の跡もないし、近隣の人達も情報が曖昧だった。もっと言うなら高校生が事故で凄惨な死を迎えたのにニュースになってないなんて変だろ」

 言われてみて、音奏はスマートフォンを取り出して『真昼ノ町 交通事故 ニュース』のワードで検索するも、駿平の事故がニュースになっていなかった。
 何気に家のテレビで観た報道番組を思い出すも、それにも取り上げられていなかった。
「……じゃあ、今あいつ、どうなってんだ?」
「おそらく日和と同じだ。俺たちの前では失踪扱い。十四日に前園さんが死んだら本当に死んだ事になると思う」
 蒼空の推理に証拠は無い。憶測であり、信じてもらわなければ意味を成さない。
 そんな情報だが音奏は安堵し、同時にこみ上げるものがあった。
「……すまねぇ蒼空。ずっと当たり散らしてた」
「大丈夫。けど今日明日でなんとかしないと」
 音奏の顔つきが変わった。
「だな。明香ちゃんのためでもあるからな」
 二人が話し終えると、夏美と明香が到着した。
 たった今、駿平について話した内容を二人にも語った。

「……それ、本当?」
 夏美は驚くも、明香は何かを考えていた。
 蒼空は駿平が告げた情報と、儀造の葬式の明香の表情を思い出す。
「前園さん、桜木君について何か知ってるっぽかったよね。桜木君も前園さんのお兄さんがどうこうって言ってたし」
「……事情が事情だから話すね」
 どうやら口止めされていた様子が窺える。
「駿平君、お兄ちゃんが都市伝説を調べてたって知ってる感じだったの」
 ”明香の兄・翔真しょうまが都市伝説を調べていた”
 新情報に三人は明香に詳細を求めた。
「どうして駿平君がそれを知ったか知らないけど、それでお兄ちゃんの部屋を調べたら、確かにメモ帳があって、画像を撮ってLINEで送ったら、駿平君が何かに気付いたみたい」
「どうしてそれを黙るようにって?」
「分からない。けど、「僕が黙ってるから気付ける事もあるから」って言って」
 駿平が黙る事に解決の糸口がある。しかし、駿平が気付いたのは翔真のメモ帳を見てから。

「わっけ分かんねぇ。何が言いたいんだあいつ」
「前園さん、お兄さんのメモ帳、今どこ?」
 明香は鞄から茶色い表紙の小さなメモ帳を取り出した。
「いつでも調べられるように持ってる。私も気になって見たけど、さっぱりで」
 メモ帳には数字と、その下に各都市伝説の三から五文字だけが記されている。全文が必要なかったのか、記憶力が高かったのか分からない。
 翔真も数字にこだわったのだろう、いくつかの伝説に○印を点けている。それは日和と同じ偶数の伝説。しかし、四十一番だけを三重丸にして強調している。
(お兄さんは四十一番?)
 日和の一番と四十二番。
 翔真の四十一番。
 解明の糸口とはならなかった。また謎が増える。

「えー、訳分からない。駿平君、これ見て何かに気付いたんだよねぇ」
 思い返すも、駿平は数字にこだわっていた。
「もしかしたら、数字が一番関係してる……。前園さんのお兄さんも日和も数字を……」
「おいおい、これからどう解決に導けってんだ?」
 これ以上メモ帳を眺めていてもキリが無いと判断した蒼空は考察する点を変えた。
「他に気になったんだけど、涼城さんのお爺さんが御堂六郎の出る夢に出てきた人だったんだよね」
 初耳の明香と音奏は驚き、夏美が説明した。
 二人とも驚き、“すげー”、“すごい”と言葉を漏らす。
「血筋かもしれないけど、涼城さんとお爺さんと御堂六郎は繋がった。加賀見さんとも二人は会った。他に家族で何かの都市伝説に会った人っている?」
 夏美が思い返すも、そういった話は聞かない。ただ、都市伝説とは関係無いかもしれない橙也の見たモノが気になった。
「そういえば、橙也の言ってた」
 葬式の時に聞いた、明香に憑く幽霊の話を明香と音奏は思い出す。
「詳細とか分かる?」
 夏美は頭を左右に振る。
「全然。ただ、男の人だって」
 明香に憑く男。新たな都市伝説の存在か、死期を報せる何かか。
 とにかく、知る必要があった。
「今日は手分けして情報収集。時間があったら集まろう」
「けど、何をどう調べれば良い?」
 蒼空はそれぞれに指示を下した。

 音奏には駿平が何を調べていたか、桜木家へ行って調べてもらう。
 夏美と明香は橙也の見た幽霊について。

「俺は市立図書館に行く。数字と都市伝説について何か分かるかもしれない」
「え、そんなに重要?」
「ちょっと思ったんだ。日和は俺と偶然会って都市伝説調査に巻き込んだけど、あの日、もしかしたら市立図書館で数字か都市伝説に関する何かを調べようとしたんじゃないかって」
 音奏は市立図書館へ行く経緯を思い返した。
「そういや、なんでわざわざ遠い市立図書館へって思ったわ。あの日、ノート開いてスマホで調べて終了だったろ? あの程度だったらわざわざ行く必要あったのかって」
「人が多いところが嫌だったとか、静かな所がいいとか。三枝さんってそういう人だったとか?」
 夏美に訊かれても蒼空は断言できる言葉が浮かばない。
「正直、”よく分からない奴”としか言えない。何考えてるか分かんないから」
「ああ、それ俺も思った。不思議ちゃん系かと思ったけど、女子と仲良かったイメージだし。集団行動派と思ったら単独で動くみたいなのがあったり」
 本当に謎が多い。
「じゃあ、それぞれ何か分かったら電話でもLINEでも報せること」

 一同、それぞれの情報収集場所へ向かった。
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