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二章 三国の動き

Ⅸ トウマ、堪える

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 馬車に乗せられたトウマとジールは目隠しをされて連行された。ガタガタと揺れる道を進んだ後、急に速度が遅くなり、どこかで止まると少し早く進んだ。その際は地面が滑らかなのか、揺れはあまりなかった。
「着いたぞ、降りろ」
 傍に座っていた兵に目隠しを外されて馬車を降りると、今まで旅した雰囲気とはまるで違う家屋が並ぶ所にいた。
「すっげぇ……どこだよここ」
 ジールは初めて見る様式の違う建物に見蕩れた。
(和風か中華系ファンタジーっぽい)
 直感で抱いたトウマの第一印象である。連行するジールとトウマを珍しそうに見物する住民達の衣装から、初見で抱いた印象が強くなった。

 荘厳な造りの屋敷へと連れて行かれると、広間で二手に分かれた。
「おい、トウマをどうする気だ!」
「安心しろ、ガーディアンだから調べるだけだ」
 女の案内人に告げられるも信用していいか分からない。隙を見てトウマを助けようと魔力を構えるも、女の案内人が具象術で剣を出現して構え、ジールの首へ刃を近づけた。
「妙な真似をしたら殺す」
 ジールはけして鍛錬を怠けていた訳ではない。しかし、眼前の女には”素早さでは負ける”とジールの思考が働いた。魔力を解き「ああ……」と恐る恐る返事をすると、女の案内人は剣を消した。
「案ずるな。ガーディアンは尊重に値する希少な存在であり、特異な存在でもある。リブリオスの魔力は少々粗いからな、身体検査とちょっとした観察のみだ。すぐに会える。むしろ、その辺の兵士同様に扱っているバースルのもてなしにこそ異を唱えたい所だ」

 怒られている感じがしてしまい、ジールは申し訳なくなる。今までトウマと生傷の残る鍛錬に励み、時に料理を任せた。バゼルに至ってはディロと共に家の雑用をさせている。
『甘やかす気は無い』
 女の案内人へ、睨みを利かせて言い返すであろう、バゼルの光景が想像出来た。
「ここで湯浴みを済ませ、着替えてここより先の大部屋へ来い。間違っても余所の部屋へ行こうとするなよ。こちらとて客人が血祭りになる様を見る気はないからな」
 脅しにも聞こえるが、女は嘘を吐く人種ではなさそうに見える。任務では嘘を吐くよりは黙秘に徹する堅物の印象。
 ジールは素直に信じた。
「今の服は籠に入れて置いておけ」
 そう告げて女の案内人は指示した部屋へと向かった。
(トウマ、無事でいてくれよ)
 願いつつ、ジールは服を脱いだ。

 一方でトウマは今すぐにでも逃げ出したい気持ちで恥ずかしい思いをしていた。
 案内された部屋へ入ると、そこには紙を乗せた木の板を持つ、不機嫌な表情の中年男性と、壁に兵服姿の男性がいた。案内した男性は引き戸を挟んで兵服姿の男性と反対側の壁に立った。どうやら二人は見張りのように見える。
「さっさと始める。服全部脱げ」
 いきなりの事で戸惑うトウマへ、「検査だ、さっさとしろ」と急かされる。
 反論して指示に逆らおうとするトウマへ、男性が手を翳して睨み、「破くぞ」と脅した。雰囲気から必ず服を破きそうで、トウマは素直に脱いだ。
 一人全裸で恥ずかしそうにしていると、男性は嫌なものでも見る目で全身を見ると、紙に何かを記した。
「両手を上に上げろ」
 もう、トウマは泣いて許してほしい気持ちになりながら、股間を隠す手を上げて従う。

 男性が舌打ち混じりで恥を堪えるトウマの全身を汲まなく観察すると、トウマの腹部へ手を当てた。すると、全身に何かが這い回るような感覚を感じトウマは離れた。
「今、どう感じた?」
 質問に答えると、またも舌打ちされて紙に情報を記される。
 もう一度、同じ事をされるも、今度は温かい気を感じ、離れることはなかった。
「これは良いんだな」
 淡々と男性が何かを記すと、入り口とは反対の引き戸を親指で指した。
「湯浴み済ませて備え付けの服に着替えろ。後はそこの兵が案内する所へ来い」
 告げるとさっさと部屋を出て行った。
(……何もされてないよな)
 心配するトウマへ、ビィトラが、(大丈夫)と返した。


 大部屋に入った中年男性・カガは、ジールを案内した女・ヤザリの傍へ近づいた。
「随分と不服そうですね」
 役職は同等だが、あらゆる技術面でカガがヤザリより秀でている。よって、ヤザリは丁寧な言葉を選ぶ。
「何が悲しくて“野郎”の全裸ジロジロ見にゃならんのだ。他にいただろうが適役の奴がよぉ」
「仕方ないですよ。相手がガーディアンですから、呪の適正やミジュナの汚染具合を調べるのに適した人は限られてます。カガ殿が適任なのは誰もが承知の事実」
「ウーザがいるだろ」
「敬称を付けてください。誰が聞いているか分かりませんよ。それにあの方を宛がえばガーディアン様の心身共に消えぬ傷が残ります。変人っぷりは御存知でしょ」
 カガは舌打ちする。
「人材の育成を提案してるんだけどなぁ」
「貴方ほどに育つまでどれだけかかると思ってるんですか。我慢してください」

 しばらくするとジールが、その三分後にトウマが部屋へと入ってきた。
 互いに安否確認をすると、ビィトラが現われてトウマがされた事を端的に答えた。それをジールは口に手を当てて可哀想と言わんばかりの表情で同情した。
 そんな二人のやりとりはさておき、初めて守護神を目の当たりにしたカガとヤザリは少しばかり驚いた。
「本当にいるんだな」
「記されていた通り……」
 何かを呟いているのが二人には聞こえた。
 トウマはビィトラが一般の人間に見えているのが気になる。
「守護神って、見えないんじゃなかったけ?」
 ビィトラは「知らなーい」と、暢気に浮遊するだけであった。
「それより、これから俺達をどうするつもりだよ」
 痺れをきらせたジールが二人に訊くとヤザリが答えた。
「これよりルバス様にお目通りを願う。以降、しばらくはこの国で生活してもらうことになる」
「なぜですか? 僕達、ゼルドリアスの調査で遠征しに来たんですけど」
「そうだぜ。それに、無断で余所の国の隊員を拘束とか、色々面倒になるぞ」

 次にカガが答えた。
「そちらの話はこれから通すが、恐らくはバースルも了承してくれるはずだ」
「どうして言い切れるんですか?」
「向こうに借りを多く作ってるからな。多少の融通は利くだろう。なに、お前達に危害を加える気はないから安心しろ」
「恩って、何ですか?」
 カガから、ミゴウの壊滅とギネドの半壊を聞いた。驚く二人へヤザリが続ける。
「ミゴウ側だが、我が国からも協力の人員を送っている」
 話の違和感にジールは気づいた。その確認を先に優先した。
「ちょっと待った。ここってリブリオスだよな?」
「ああ。その中でも人間が統治する国・ニルドだ」
「リブリオスってのは長年秘密主義国って聞いてるし、そうあったんだぜ。なんで急に外へ出てるみたいになってんだよ」

 説明が面倒臭いと言いたげな表情にカガはなった。
「先に誤解を解いとこう。リブリオスはごく少数だが国外へ出ている時はあった。顔立ちはグルザイアとバルブライン、両国民と大差は無いからな。服装と名を変えれば偽れる。出入国の方法は話せんが、そういう訳で秘密を通してる。それに急に外へ出だしたんじゃなく、ゼルドリアスの魔力壁が剥がれたから急に動いてるように見えるだけだ」
「それと、境界の三国の王達とは密かに通じている。この度の三国の災害は、協力に値する事態ゆえに動いただけだ。おかしな所はないだろ」
 二人の話に嘘があるか、判断する方法は魔力を読むしかない。しかし二人から嘘を吐いている様子はない。バースルへ戻って確かめたいが、今は出来ない。
 戸惑っている二人を余所に、ヤザリは続けた。
「これ以上ルバス様をお待たせさせる訳にはいかん。話は後だ、着いてこい」

 ヤザリを先頭、二人を挟んでカガが後方を担当して、トウマとジールは謁見の大部屋へと向かった。
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