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一章 ギネドを崩すもの

Ⅴ 救援の戦士

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 翌朝、サラ達は戦士達からの情報でギネド本城へと向かうことになった。本城は破壊現象が起きた中心地であり、既に無いとあった。明確となっているのは、無事な町や村は、こことゼルドリアスとの国境側に一つだけだと。
 異形の魔獣が徘徊しているため、戦士達はサラ達に救援の続きと立て直しの為に残ってほしい所だった。

「この異常事態は放っておくとさらなる甚大な被害を招く怖れが大いにあります。その根幹を潰さなければなりませんので」
 バッシュの言葉により呼び止める事は出来なかった。町には一年は安泰の結界を張って貰ったため、誰もバッシュに意見できない。しかしランディスから状況次第ではまた戻ってくると告げられたので、戦士達と町民はやや安堵した。
 動ける町民達から笑顔で見送られる。こんなことが初めてのサラは、ささやかながら英雄気分であった。


「驚いたぜ。あんたがあんなに的確な指示とか与えて、しかもしっかり救助活動に励んでるなんて」
「へぇ、そんなすごかったんだ」
 ランディスとバーレミシアの感心にもバッシュは平静である。
「前世でも似たような経験を幾度かしてましたからね。ほぼ癖のようなものです」
「とか言いつつ、しっかり復興に尽力してただろ。最初は嫌味な奴って思ったけど、結構良い奴だったんだな」
「早急に事を終わらせかっただけですよ。死者を判断して運ぶという嫌な役をランディスあなたに任せっきりだから出来た事でもありますよ」

 嘘は吐いていないが、三人から”実は人助けが大事な人”と誤解されている。事実、問題を解決すれば人助けに結びつくのだから、バッシュもこれ以上言葉を返さなかった。

「これから何処に行くんですか?」
 サラの質問にバッシュは少し考えて答える。その前にカレリナから「悩むような事?」と加えられて。
「今の目的地は町で話した通りギネドの本城です。跡地らしいですが。それはさておき、本来の目的とズレている気がしましてね、今から変えようかどうかと迷いが」
 グレンを追う事を全員が思い出すも、バーレミシアの意見が即返ってきた。
「そんなの後にすりゃいいだろ? どうせ何処行ったか分かんねぇんだし、方角は似たようなもんだろ」
「それを言われてしまうと何とも言えませんねぇ」
「だったら今の目的地行きゃ、もしかしたら手がかりとか見つかるんじゃねぇか? 目当ての奴も、ギネドの本城だった所も普通じゃないってんならな」

 一理あるとバッシュは納得した。
 グレンの存在は未だに謎が多い。そしてギネドへ来て以降、何かに反応した。ギネドの本城跡地も危険視され、グレンが反応を示した何かがあるかもしれない。
 あながちバーレミシアの意見は的外れでもなかった。

「……貴女の言うとおりかもしれませんね。では、本城跡地を目的と――!?」
 全員が気づいた。強力なゾグマを保つ邪悪な存在が群れを成して攻めてきている事を。
「これが、ゾグマの」
 サラはこれほど強力な魔獣と対峙したことがない。緊張と不安から手の震えが止まらない。
「あんたの結界で凌ぐってのはどうだ?」
「得策ではありませんね。何らかの理由で相手が退く前提ありきでしたらそうします。しかし連中は獲物を狩るまで退きませんし底なしの体力でしょうから負けが確定します。始末するほうが賢明です。十英雄殿のお力を発揮してみてはどうですか?」
 返答前にランディスは剣を抜いた。
「言われなくとも見せてやるよ」

 続いてバーレミシアは短刀を構え、サラも全身に魔力を纏わせて構える。戦術は魔力の押し込み、前もってバッシュに教わった魔獣の対処法。神力が混ざる魔力を魔獣の中へ押し込めば絶命へと持ち込める。しかし箇所が悪ければ何度も押し込みを行わなければならない。

 群れは、それぞれの形が判る所まで迫ってきた。
 バッシュはランディスとバーレミシアに印術を施した。
「ガーディアンの神力が混ざる魔力をあなた達の武器に流します。半時間が限界でしょうが無いよりは幾分マシです」
 二人は感謝した。
「みんな来たわよ!」
 カレリナの合図で散開して魔獣を散らした。

 バーレミシアは幸いなことに二足歩行の巨大な魔獣が三体迫ってくるだけであり、皆から離れることで引き剥がした。手持ちの武器も少ないので大勢で攻められたら負け戦になる確率は高くなる。とはいえ安心は出来ない。巨大な魔獣は力が強く、一撃殴られれば致命傷である。自身が素早く動ける反面、周りの状況をよく見なければならなかった。

 サラを襲う魔獣は大小さまざまで、動きもすばしっこいのが多い。しかし少量の魔力で致命傷を与えられるのは幸いである。ガニシェッドでの鍛錬、バーレミシアの組み手により、素早い敵を相手にするのは慣れている。だが魔力を籠めながらの戦闘は配分が難しい。どこまで持久できるか分からない。

 ランディスは慣れた剣術でばっさばっさと魔獣を倒していった。中型の魔獣が多く、大型が他へ分散したから、早く援護へ向かいたい焦りがある。
(これがガーディアンの)
 バッシュの魔力援助で普段の魔獣より斬りやすくなったのを実感し、手早く攻めてくる魔獣を遇っていった。内心で急いた気持ちが加減を忘れさせている。

 バッシュはひたすら術を駆使して対抗した。ほぼ魔術ばかりだ。その最中、レモーラスと念話し合う。
(余裕があるなら一掃してみてはどうです? 烙印を使用して)
(あれは切り札です。こちらの手管を彼らへひけらかすのは良い手段とは思えません。このままでも問題ありませんよ)
(止めはしませんが死なないでくださいよ。このような所で)
(当然です)
 陣術と印術を駆使して複数体を相手取りつつ、平然とレモーラスと念話を交し、余裕もある。
 底知れないバッシュの実力を、三人は気づかない状況である。

 魔獣は次から次へと沸き、疲弊したバーレミシアとサラは共闘して対峙する形をとった。一方でランディスは自身の内からこみ上げる力に気づいた。それはゾアの力だとすぐに判明する。
(出てくるなよ。畜生が)
 なぜゾアの力が湧くのかが分からない。だが外に出てきて良い事は一つも無い。それだけは確かであった。ただ、ゾアの力が剣に混じったおかげもあり、一振りで三体は斬れる力を帯びていた。まるで大太刀を一振りして斬るように。
 ゾアの力に気づいたバッシュは、ランディスの戦闘をレモーラスに見て貰い、自分は始めより数を増す魔獣を相手した。

(あれは、ゾアと協力しているのでしようか?)
(彼が人間に手を貸すとは思えません。気まぐれならいざ知らず、この状況では静観に徹するでしょう)
(ではどうして?)
 聞かれてもバッシュには答えられない。それほどまでにゾアの力は謎が多すぎるからだ。
 現時点では何かに反応して力が注がれている。としか考えられない。なぜなら、ゾアの本質たる力が微塵たりとも出ていないからである。
(……それより、なぜか私のほうにばかり魔獣が寄ってませんか?)
 今、魔獣の数が多いのはバッシュ、次いでランディスである。二人がかりで遇っているサラとバーレミシアの所は比較的少ない。
(向こうも強い人間が好物なのでは?)
(まるで戦闘狂の本能ですね。ガイネス王を宛がえば共に喜びあって殺し合うでしょうが)
(それより、大技の一つでもぶつけて一掃したほうが賢明では?)

 言い返す直前、バッシュはある力に気づいた。
 振り返って確認する余裕がなく、その力の存在はすぐに、ランディスの「なんだ!?」と驚く声ですぐそこまで迫っているのに気づいた。
(速いですね)
 力は遠くにあった。それが数秒でここまで辿り着いた。その速度はバッシュが魔力を用いて全力で走っても追いつけないほど。

 ランディスの眼前に広がる魔獣の群れが一瞬にして動きを止めた。それが次々寸断され、絶命していく様を眺めるしかできない。”これもゾアの力が関係しているのか?”と疑問に思うも、どうやら違うと分かったのは、何かが目にもとまらぬ速さで動き回っているからであった。
 その存在は高々と飛び上がり、何かに魔力を籠めて落下した。
 着地と同時に武器を地面に突き刺すと、地面を通じてそれぞれの魔獣の足下まで行き渡ると、地面から礫が上空へと上り、次々に魔獣を絶命させた。
 魔獣の死体の山へ飛び乗り、素早い存在を確認したランディスは、見知った人物であり驚きと喜びの声で名を呼んだ。
「バゼル!!」
 ここまでの事をしつつもバゼルに息切れはない。
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