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七章 死する地
Ⅱ ”運命”の告げる運命
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ルバートが“調整”に消されてからビンセントは躍起になっていた。デルバを調べ上げて討伐し、その足でルバート救出へと向かう算段を描いていた。
しかし現実はそう甘くない。
塔を拠点にどこまでデルバに近づけるかを知りに向かった。村へ戻って無駄な往復時間を削減するためであった。
意気込みに反して気分が平静を保てなくなり、何度も吐き気を催しては引き返し、休憩してから再び接近を繰り返した。身体が”密度の濃いゾグマ地帯”に慣れれば近づけると考えてであった。
結果、何度試しても一向に慣れもせず、ただただ身体を悪くするだけであった。
本日の明朝、気を取り直してデルバへと接近を試みた矢先、“運命”が現われた。
「貴殿は阿呆か?」
呆れた顔で現われビンセントは驚きながらも不快に思う。
「うるさい! 俺だってデルバを倒す方法が分かればそうする!」
「だからと言って、何一つ進展せん行動を繰り返す愚行を改めねば、時間の無駄ではないか?」
「じゃあ、ボリーグレスの空間術みたいな世界で見せたっていう大技を使わせてくれよ。お前、凄い奴なんだろ」
「表現が雑だな。さておき、その技とやらは現時点では非常に危険だ。一度で貴殿の身体が生命活動を停止しかねん」
「死ぬってことか? 前は上手くいっただろ」
「その時はルバートと貴殿の仲間が応急の働きをしてくれたゆえの生還だ。本来なら死んでいる」
そう聞くと非常に危ない橋を渡っていることになる。しかし、なぜ身の丈に合わない力が備わっているかが気になった。
「使えない力をどうして俺が?」
「私の特性と貴殿の、まさしく『運命』が関係しているのだよ」
「運命? 俺の運命って、どこから?」
「全てだ。生まれて今に至るまで」
魔女を討伐しルバートに憑かれる所まで決められたと直感した。
ビンセントがやや混乱するも、“運命”は続ける。
「私は文字通り運命を司る力だ。司ると聞いて勘違いしてほしくはないのだが、運命は所々に訪れる分岐点から未来を紡ぐ力だ。貴殿の歴史において例えるなら、今まで起きた事はゾアの災禍へと繋がる未来を紡いでいた」
「じゃあなにか? 俺が何を選ぼうとゾアの災禍が起こる未来へ行くのは確実ってことか?」
「然り。だが至った未来の在り方は貴殿の選択で大きく有様を変える」
前回現われた時に話した、人を見殺しにして生き延びた場合の話が思い出される。
「何度も言うが、俺は困ってる人達を見殺しにしない」
「それでよい」
“運命”は説明を省いた。その強い責任感と意思こそがビンセントをゾアの災禍が起こる未来へ向かわせる底力だと。その底力があるがゆえに、自殺や自暴自棄で死に急ぐ戦を選ばないことを。
「貴殿の歴史上、魔女も十英雄もルバートも不可欠であった。なぜなら、貴殿は魔力に接する機会が非常に多いからだ」
思い返せばそういった場面は多い。ルバートに振り回されたようにも考えられるが、魔女狩りの旅路においても、よくウォルガやザインに叱られ、ゼノアやバゼルに冷たい目を向けられた。
「だったら、魔力の知識を得られるようにしてくれよ」
「それは貴殿の怠け癖が原因だ。私は未来を紡げても人間性や悪癖を直すものではないからな」
尤もな意見を告げられてビンセントは何も言い返せない。
「話を戻そう。前回の貴殿の暴走は私が紡いだ運命ゆえに助かる方へと流れた」
「ちょっと待った。ルバートは“調整”って奴の一部なんだろ? それも決められた運命なのか?」
「その点は少々事情が異なる。六の力に関する知識に踏み込む内容ゆえに語れんが、かいつまんで説明するなら、私にも“調整”の一部が混じっている。それが影響し、紡いで出来上がった存在がルバートだ。彼が“調整”に取り込まれるまでの運命権は私が担っているからな」
全てがここまで生かされているように聞こえる。だが説明が小難しすぎてビンセントの理解が追いつかない。
「あああぁ……ややこしいっ! 話を元に戻すけど、要するにあの大技でデルバを倒すことは出来ないんだよな!」
「ああ。貴殿が生存する未来へと紡げんからな。環境も悪く人もおらん」
「けどそれって、俺が今から使用すればどうなるんだよ。死んだら今の話は矛盾するだろ」
「そもそも、貴殿はあの大技が使えるのか?」
不意の質問に言い返せない。気功と魔力(少々だが)を扱えるだけで技としての形は築けない。
「あの技は六の力が複数合わさり発生した乱れが原因で起きた事象。偶然貴殿が解消の役を担ったゆえの技だ。あのような型として扱えるだろうが、それは現在の貴殿ではなく未来の貴殿。残念だがデルバを仕留めるものではない」
「じゃあ、デルバをどうやって仕留めるんだよ。このままだったら俺はデルバに喰われて死ぬぞ。打開策が出るまで何度吐こうとここに居続けるとどうなる?」
「おやおや、私を試しているのかな? とはいえ残念ながら運命の力ゆえに未来を教えることは出来ないのだ。運命ゆえの予防措置でな。私が貴殿へ確定した未来を教えてしまえば、異なる行動をして運命が狂わさせないためだ。例えるなら……デルバが数体現われると言えば分かるか?」
ビンセントはゾッとした。
「だから私から貴殿へ解決策を話すことは出来ない。ただし解決策は必ずある。言っただろ、ゾアの災禍まで貴殿が生き残れると。貴殿は強い意志を尊重するだろうから村の住民を助けるよう立ち回るだろうがな。それでも生存の未来は存在する」
「……もし、俺が死ねば?」
「仮にそうなれば……先ほどの例え程に度しがたい惨事が各地で起こるだろうな」
デルバを討伐出来る確信を得たが、同時に自分の命が重要な役を担っている事実も聞かされビンセントは緊張する。
「じゃあ始めに戻るけど、今俺がデルバを調べてるのって、無駄になるのか?」
それだけを話しても問題はないのだろう。“運命”はフッと笑い、「無駄だ」と返す。
苛立ちはするが、ビンセントは次の対策へと頭を切り替えた。
「そろそろ時間だ。貴殿の行いに検討を祈ろう」
「ああ、行け行け。俺は村を護るのに必死で忙しいからな」
消えるさなか、“運命”はビンセントが生き残る未来における重要な情報を口にした。
なぜデルバ討伐に関係しているのか分からずビンセント混乱する。その最中、“運命”は姿を消して時間が進む。
“運命”との話を終えたビンセントは急激な疲労に苛まれ、さらにはデルバのゾグマが注がれた。理由は不明だが、“運命”が現われたことでデルバが反応したのだと感じた。
密度の濃いゾグマを浴びたビンセントが吐き気を催すのは当然であり、塔までどうにか避難して今に至る。
スビナは嘔吐で済んでいることに驚くも、それが魔女討伐後に身についた微弱なゾグマ耐性のおかげだと察した。
ゼノア達へ話した説明の中に、“運命”が告げた重要な情報を含まなかった。まだ自分がよく理解していないからだ。
「おい、つまりあれか? この戦力でもあのデルバをどうにか出来るってことかよ」
ジェイクは咄嗟に自らが扱える切り札を巡らせた。
ガーディアンが一度だけ扱える大技。カムラ。古代の剣の残りの力。
塔ではルバートに止められたが、現状の戦力を見ればそれらを扱うしか手段はない。
「何か見落としている手があるのだろうか。それとも、今だから解決策が思いつかないのか?」
その質問にフーゼリアが意見した。
「現状ではデルバがでかでかと現われ、存分にゾグマを垂れ流す有様から討伐困難と見えるが。時が経つか、何かの事象により、我々が対処出来る状態になるのかと思いました。例えですが、塔へ到着すれば複数体に分裂するけど個々の力量が分散されて叩きやすくなるとか」
仮説の立証は出来ないが、可能性としてスビナは同意した。
「博打のような手段ですが可能性はあります。相反する力の衝突ですので」
良く転ぶか悪く転ぶか。まるで分からない。しかし現状では何も出来ない。それでも塔に最接近するギリギリまで抗おうと皆の意見が一致した。
『運命は決まっておらんが、非常に高い確率で彼らは選択を迫られるだろう。回避する方法は困難なだけだがな』
言い残した“運命”の言葉がビンセントの頭に浮かぶ。
この選択で良いのか。迷いと共に。
しかし現実はそう甘くない。
塔を拠点にどこまでデルバに近づけるかを知りに向かった。村へ戻って無駄な往復時間を削減するためであった。
意気込みに反して気分が平静を保てなくなり、何度も吐き気を催しては引き返し、休憩してから再び接近を繰り返した。身体が”密度の濃いゾグマ地帯”に慣れれば近づけると考えてであった。
結果、何度試しても一向に慣れもせず、ただただ身体を悪くするだけであった。
本日の明朝、気を取り直してデルバへと接近を試みた矢先、“運命”が現われた。
「貴殿は阿呆か?」
呆れた顔で現われビンセントは驚きながらも不快に思う。
「うるさい! 俺だってデルバを倒す方法が分かればそうする!」
「だからと言って、何一つ進展せん行動を繰り返す愚行を改めねば、時間の無駄ではないか?」
「じゃあ、ボリーグレスの空間術みたいな世界で見せたっていう大技を使わせてくれよ。お前、凄い奴なんだろ」
「表現が雑だな。さておき、その技とやらは現時点では非常に危険だ。一度で貴殿の身体が生命活動を停止しかねん」
「死ぬってことか? 前は上手くいっただろ」
「その時はルバートと貴殿の仲間が応急の働きをしてくれたゆえの生還だ。本来なら死んでいる」
そう聞くと非常に危ない橋を渡っていることになる。しかし、なぜ身の丈に合わない力が備わっているかが気になった。
「使えない力をどうして俺が?」
「私の特性と貴殿の、まさしく『運命』が関係しているのだよ」
「運命? 俺の運命って、どこから?」
「全てだ。生まれて今に至るまで」
魔女を討伐しルバートに憑かれる所まで決められたと直感した。
ビンセントがやや混乱するも、“運命”は続ける。
「私は文字通り運命を司る力だ。司ると聞いて勘違いしてほしくはないのだが、運命は所々に訪れる分岐点から未来を紡ぐ力だ。貴殿の歴史において例えるなら、今まで起きた事はゾアの災禍へと繋がる未来を紡いでいた」
「じゃあなにか? 俺が何を選ぼうとゾアの災禍が起こる未来へ行くのは確実ってことか?」
「然り。だが至った未来の在り方は貴殿の選択で大きく有様を変える」
前回現われた時に話した、人を見殺しにして生き延びた場合の話が思い出される。
「何度も言うが、俺は困ってる人達を見殺しにしない」
「それでよい」
“運命”は説明を省いた。その強い責任感と意思こそがビンセントをゾアの災禍が起こる未来へ向かわせる底力だと。その底力があるがゆえに、自殺や自暴自棄で死に急ぐ戦を選ばないことを。
「貴殿の歴史上、魔女も十英雄もルバートも不可欠であった。なぜなら、貴殿は魔力に接する機会が非常に多いからだ」
思い返せばそういった場面は多い。ルバートに振り回されたようにも考えられるが、魔女狩りの旅路においても、よくウォルガやザインに叱られ、ゼノアやバゼルに冷たい目を向けられた。
「だったら、魔力の知識を得られるようにしてくれよ」
「それは貴殿の怠け癖が原因だ。私は未来を紡げても人間性や悪癖を直すものではないからな」
尤もな意見を告げられてビンセントは何も言い返せない。
「話を戻そう。前回の貴殿の暴走は私が紡いだ運命ゆえに助かる方へと流れた」
「ちょっと待った。ルバートは“調整”って奴の一部なんだろ? それも決められた運命なのか?」
「その点は少々事情が異なる。六の力に関する知識に踏み込む内容ゆえに語れんが、かいつまんで説明するなら、私にも“調整”の一部が混じっている。それが影響し、紡いで出来上がった存在がルバートだ。彼が“調整”に取り込まれるまでの運命権は私が担っているからな」
全てがここまで生かされているように聞こえる。だが説明が小難しすぎてビンセントの理解が追いつかない。
「あああぁ……ややこしいっ! 話を元に戻すけど、要するにあの大技でデルバを倒すことは出来ないんだよな!」
「ああ。貴殿が生存する未来へと紡げんからな。環境も悪く人もおらん」
「けどそれって、俺が今から使用すればどうなるんだよ。死んだら今の話は矛盾するだろ」
「そもそも、貴殿はあの大技が使えるのか?」
不意の質問に言い返せない。気功と魔力(少々だが)を扱えるだけで技としての形は築けない。
「あの技は六の力が複数合わさり発生した乱れが原因で起きた事象。偶然貴殿が解消の役を担ったゆえの技だ。あのような型として扱えるだろうが、それは現在の貴殿ではなく未来の貴殿。残念だがデルバを仕留めるものではない」
「じゃあ、デルバをどうやって仕留めるんだよ。このままだったら俺はデルバに喰われて死ぬぞ。打開策が出るまで何度吐こうとここに居続けるとどうなる?」
「おやおや、私を試しているのかな? とはいえ残念ながら運命の力ゆえに未来を教えることは出来ないのだ。運命ゆえの予防措置でな。私が貴殿へ確定した未来を教えてしまえば、異なる行動をして運命が狂わさせないためだ。例えるなら……デルバが数体現われると言えば分かるか?」
ビンセントはゾッとした。
「だから私から貴殿へ解決策を話すことは出来ない。ただし解決策は必ずある。言っただろ、ゾアの災禍まで貴殿が生き残れると。貴殿は強い意志を尊重するだろうから村の住民を助けるよう立ち回るだろうがな。それでも生存の未来は存在する」
「……もし、俺が死ねば?」
「仮にそうなれば……先ほどの例え程に度しがたい惨事が各地で起こるだろうな」
デルバを討伐出来る確信を得たが、同時に自分の命が重要な役を担っている事実も聞かされビンセントは緊張する。
「じゃあ始めに戻るけど、今俺がデルバを調べてるのって、無駄になるのか?」
それだけを話しても問題はないのだろう。“運命”はフッと笑い、「無駄だ」と返す。
苛立ちはするが、ビンセントは次の対策へと頭を切り替えた。
「そろそろ時間だ。貴殿の行いに検討を祈ろう」
「ああ、行け行け。俺は村を護るのに必死で忙しいからな」
消えるさなか、“運命”はビンセントが生き残る未来における重要な情報を口にした。
なぜデルバ討伐に関係しているのか分からずビンセント混乱する。その最中、“運命”は姿を消して時間が進む。
“運命”との話を終えたビンセントは急激な疲労に苛まれ、さらにはデルバのゾグマが注がれた。理由は不明だが、“運命”が現われたことでデルバが反応したのだと感じた。
密度の濃いゾグマを浴びたビンセントが吐き気を催すのは当然であり、塔までどうにか避難して今に至る。
スビナは嘔吐で済んでいることに驚くも、それが魔女討伐後に身についた微弱なゾグマ耐性のおかげだと察した。
ゼノア達へ話した説明の中に、“運命”が告げた重要な情報を含まなかった。まだ自分がよく理解していないからだ。
「おい、つまりあれか? この戦力でもあのデルバをどうにか出来るってことかよ」
ジェイクは咄嗟に自らが扱える切り札を巡らせた。
ガーディアンが一度だけ扱える大技。カムラ。古代の剣の残りの力。
塔ではルバートに止められたが、現状の戦力を見ればそれらを扱うしか手段はない。
「何か見落としている手があるのだろうか。それとも、今だから解決策が思いつかないのか?」
その質問にフーゼリアが意見した。
「現状ではデルバがでかでかと現われ、存分にゾグマを垂れ流す有様から討伐困難と見えるが。時が経つか、何かの事象により、我々が対処出来る状態になるのかと思いました。例えですが、塔へ到着すれば複数体に分裂するけど個々の力量が分散されて叩きやすくなるとか」
仮説の立証は出来ないが、可能性としてスビナは同意した。
「博打のような手段ですが可能性はあります。相反する力の衝突ですので」
良く転ぶか悪く転ぶか。まるで分からない。しかし現状では何も出来ない。それでも塔に最接近するギリギリまで抗おうと皆の意見が一致した。
『運命は決まっておらんが、非常に高い確率で彼らは選択を迫られるだろう。回避する方法は困難なだけだがな』
言い残した“運命”の言葉がビンセントの頭に浮かぶ。
この選択で良いのか。迷いと共に。
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