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五章 反動と侵蝕

Ⅱ 作戦会議

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 デグミッドへ再び訪れたミゼルはガイネスの下へ案内されるも、ガイネスの傍にいるバッシュを見て立ち止まる。
「う、ぅん……」
 僅かに抵抗ある反応を示した。
「おおぉ」反して、バッシュはやや高揚する気持ちで再会を喜んだ。「ここ最近、対人運には恵まれなかったが、どうやらここへ来て私に運が巡ってきたのかもしれない」
「やれやれ、こちらとしてはあまり会いたくはなかったのだが」
 相反する反応がおかしくて、ガイネスはちょっかいを出さずにはいられない。
「似た者同士で風変わりな再会の挨拶か? 遠慮はいらんぞミゼル、大いに喜びを表現しろ。騒がしくとも許す」
「丁重にお断りするよ。そういった間柄ではないのでね」

 案内人の兵がミゼルとバッシュの関係を訊いた。

「前世からの腐れ縁さ」ミゼルの意見。
「前世からの友だ」バッシュの意見。
 声が合わさり、ガイネスはさらに可笑しくて高笑った。

 次に案内人の兵はジェイクを探した。

「ジェイク殿はご一緒では?」
「拒まれてしまったよ。以前、少々乱暴な扱いを受けてしまったことが根底にあるからね」
 言いつつガイネスへ視線を向ける。こっそり現われたラドーリオと共に。
「案ずるな、此度の件は奴がおらんでも問題ない。それに奴は俺から逃げられん。必ず見つけ、ゾアの災禍以降は我が城の騎士として活躍して」
 すかさずバッシュは口を挟んだ。
「お止めください。あのような野蛮人、傍においては色々と手が焼けます。ロゼット殿がさらに険しくなられます」

 不適な笑みが、それを望んでいると受け取れる。

「だがデグミッドへ来なくて良かったよ。バッシュお前と会えばまた血気盛んに叫んで大争いだからな」
「困った奴だ。頭に血が上ると周りがまるで見えぬ癖が抜けんままとは。それが自らを不幸へと導いた要因の一端だとも気づかんとは救いようがない」
 バッシュの嘆きにガイネスは便乗した。
「確かに、腕は良いが阿呆すぎるのが致命傷だ。俺の渾身の説教が響いてくれれば良いものを」

 ジェイクが会いたくない気持ちをミゼルもラドーリオも強く感じた。

「それはいいとして。ミゼル、お前もゾアの災禍後はグルザイアの賢師として働いて貰うぞ」
「それは名案です!」
 ジェイクとは打って変わり喜ぶバッシュ。一方でミゼルはあからさまに”嫌だ”と顔に出ている。
「二人はロゼット殿に恨みでもあるのか? 私やジェイクが混ざれば憤慨して内乱勃発だ。あの者はそれぐらいするだろう」
「それで済まんぞミゼル」
 バッシュが言い返し、「ん?」とミゼルが返すと、ガイネスが説明する。
「お前は召喚の翌日には旅だったから知らんだろうが、あれほど苦労性で生真面目はまだまだいるぞ」
「私もなかなか肩身の狭い思いで日々を過ごしてる。少し味わってみるか?」
「遠慮しておこう。ただ、前世の私がそうであった気持ちが伝わってくれると有り難い」

 ここぞとばかりに言い返すと、さすがに兵達が呼び止める。

「……グルザイア王、そろそろ」
「ああすまん。興が乗ってしまった」

 机の上に広がる王城とデグミッドまでを記した拡大図に一同目を向ける。
 護衛の兵士が説明を始めた。
「現在、デグミッドは以前のような異常は御座いません。それも、ガーディアンジェイクの御業により神性な力が満ちているからです」
 ガイネスの口元に小さく笑みが浮かび、バッシュは不愉快といわんばかりの表情である。
「しかしこれも一時的なもの。数日もすれば神性な力は消え、周囲に燻っている悪性の気が流れ込みます」
「要するに、確実な結界を張ると?」
 ミゼルの結論をガイネスは否定した。

「今のうちに禁術の主犯を討つのだ」
「その口ぶり、正体を突き止めていると?」
「確証は無いが断言出来る。”奴”は城の中、恐らくは地下にいるだろう」
 根拠を求めると、バッシュが説明を始めた。
「バルブライン全域の大凡の異変とガイネス王からの情報をもとに鑑みたところ、予め魔力を貯め込み使用した人為的な災害だと分かりました。一人、または少人数で行われたと」

 案内人の兵が恐る恐る手を上げると、ガイネスは発言権を許可した。

「これほど大がかりなことを!? 大勢の人間を利用したとかですか?」
 バッシュは淡々と語る。
「いえ違います。貴方の解釈は集団の人間が魔力を用いて起こしたと考えているのではないですか?」
 案内人の兵は頷いた。
「諸々の惨事すべて、人間を百人集め一生涯かけて魔力を集めても三分の一に満たぬものです。ですがある条件を満たした者であれば可能な災害というわけです。大勢の人間を必要とせず、己一人か数人の協力者でね」

 条件を話す前にバッシュは災害について触れた。

「”禁術災害”と呼称しましょう。本来でしたら『人為的に魔力を用いた災害』と、多くの術師は読み解けた筈です。ですがそうできなかったのは、異変の発生状況と場所にあります」
 地図上にバッシュは筆でいくつか丸印を付けた。
「禁術災害を起こす条件は分かりませんが、魔力壁が現われた時から今までを見たところ、禁術災害には計画された過程があります。その一つに神性な力の吸収。この印は王城に近い神性な力が強い箇所にあたります。今では力がなく荒れ地ですが」
「なぜ神性な力を?」
「吸い取った力を変異させ異変を起こす力として賄っています。各地の異変は人間が起こせないほど膨大な魔力を使用します。それを可能とする変異した神性な力を用いたことで、偶然起きた禁術の影響の災害と勘違いさせたのです。発生場所がまばらなのもそう思わせることに働いたのです」
「ですが、神性な力をそう易々と入手などで来ませんよ。土着の力ですから変異させると言っても容易ではない」
「ええ。ですが変異は不可能ではない。出来ない理由は短期間においての話だから。主体は膨大な時間をかけて神性な力を変異し、使用したのです」

 兵達は気づかないがミゼルは勘づいた。

「なるほど、初手の禁術により発生した魔力壁と魔力の乱れか」
 バッシュはミゼルを指差して正解と示した。
「国全土を覆う魔力壁、そして派生した気流の乱れで国民は混乱します。さらに乱れた魔力と禁術発動でどうしても発生するゾグマの影響が魔獣を強靱かつ獰猛にさせてしまう。そして諸々の異常事態。当然、理解と対処にかなりの時間がかかってしまいます。主犯はその長期の混乱を利用して神性な力を稼ぐ時間を得ます。ここまで長引くのは有利に働いた誤算か不利に働く誤算か計画通りか。なんにせよ、計画は魔力壁解放後へと移行し、今尚進行しています」

 次の段階が明確には分からないが、デグミッドで起きた事、空間術を使用されたと思われる兵士達の出現。それらも含まれている。

「禁術災害において、次に何が起こるかと予想するのは無駄です」
 理由をミゼルは考えた。
「”異変”という括りにおいて、起こりうる惨事が多すぎるからか」
「ええ。ですから本命を討つほうが早く解決します」
 バッシュがガイネスを見ると、「構わん言え」と返される。
 秘匿の必要がなくなり、バッシュはさらに説明する。

「初めに申しました”ある条件”、それはバリオット。各国に存在する強大な力を備えた宝剣です。それを用いたなら、禁術災害における魔力、ゾグマの流れを操れるでしょう。バルブライン城を主軸とし、地中から起こしたのでしたら誰にも気づかれず、突発的に起きた災害や異変だと錯覚させられる。これが誰も人為的と疑わなかった本命になります」

 説明の途中だが、ミゼルは理解した。
 ロゼットが必ず止めるであろう魔界と化したバルブラインへのガイネスの入国理由。
 バッシュの入国。
 バリオットの存在。

 口元に浮かぶ笑みから、バッシュはミゼルが理解したと解釈した。

 護衛兵の一人が意見する。
「そのバリオットが使用されたとして、どうしてバルブライン城から? 持ち出して余所で使えば良いのでは?」
「集めた力を使用して結界を張り、籠城する計画だったのか、もしくはバリオットが強すぎて持ち運べなかったか、それ以外か。理由は仮説の域をまだ出ません。余所で使わない事実のみです」

 説明が終わり、ガイネスが発言する。

「本作戦はバルブライン城地下に潜入し、主犯を潰すものとする。向かうのは俺とガーディアン二人、以上だ」
 兵達は騒然となる。
「その人選の理由を聞きたい」率先してミゼルが手を上げた。内心で嫌だからである。
「神性な力に護られているデグミッドは、いわば反乱軍の拠点と疑われてる危険を孕んでる。ジェイクの一撃も見たとすれば、なおさら脅威が潜んでいると考えてるだろう。ここの防衛を重視し、潜入隊員は絞りに絞った。まず俺、バリオットは王しか触れることが出来ん代物だからだ」
 嘘か本当かは分からないが、ガイネスの畏怖で反論者はいない。
「その護衛は術と魔力の観察と対処において頭二つほど抜けている二人を選んだ。これ以上の人選は悪戯に事態を悪化させる。我々が死したならそれまでと捨て置き、貴君等はデグミッドとバーデラで待つアードラ指示の下、バルブライン解放に尽力しろ。いいな!」
 気迫に圧され、兵達は返事した。

(上手く言いくるめたな)
 ミゼルもバッシュも内心で思っていた。
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