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第14話.パートナー探し
しおりを挟む意識を取り戻した私は、マヤにこう告げた。
「私、城下に出るわ。夜会のパートナーを見つけたいの」
皇女――しかも開催中の誕生祭の主役が、堂々と首都を歩くわけにもいかない。
そこで私は型落ちしたドレスを着て、城下町に堂々と繰り出すことにした。貴族令嬢とは分かるが、皇女とは分からない、といった装いを演出することにしたのだ。
(ノヴァには啖呵を切っちゃったけれど……)
夜会の相手なんて居るわけがない。
誰かを手紙で誘おうにも、適当な相手は思いつかない。それに私が書いた手紙の内容は、すべてノヴァに検められてしまうのだ。
マヤに密かに持たせることも考えた。しかし彼女は、頑張ってくれているけれども、やっぱり少し鈍いところがある。それにノヴァに見咎められたら、あっさりと手紙を渡してしまうだろう。この場面で頼るにはリスクが大きいのだ。
(こうなるともう、街に繰り出して遊んでいる適当な貴族を、自力で見つけるしかない!)
そんな探し方で、ノヴァを上回る大物が捕まるかは賭けだが――。
「え、で、でも。そんな野良猫か何かのように、夜会のパートナーは見つからないかと……」
「いいの!」
私はぎらぎらとした目でマヤの両肩をぎゅっと握った。マヤは狼狽えつつ「は、はいっ」とこくこく頷く。
いったいノヴァとの間に何があったのか、気になって仕方がない様子だが……私が何も言わないので、わざわざ訊ねてきたりはしないマヤである。気遣いができて偉い。
「エリーシェ様、こちらはどうですか?」
「それでいいわ」
衣装部屋を漁ったマヤが持ってきたドレスに、私は頷く。
ふんだんにレースが使われた、可愛らしいピンクのバルーンドレスだ。少し子どもっぽいデザインだが、まぁ及第点である。
ドレスをまとった私は、長い髪の毛を頭の上でまとめてもらった。ボンネットの中に仕舞い込むようにして隠す。白銀の髪をなびかせていては、名乗って歩いているも同然だからだ。
姿見に映る私は、ドレスが古くとも、アクセサリーを着けていなくても、はみ出したわずかな髪の毛だけが垂れるだけであっても――じゅうにぶんに愛らしい貴族令嬢といった様相である。
(そもそも私、どんな服でも似合うけれど)
純然たる事実だ。美貌の母によく似ているという私は、どんな衣装だろうとそれなりに着こなしてしまう。マヤも何度も頷いているので、同じような感想を抱いているのだろう。
「それじゃあマヤ、行きましょう!」
「は、はい!」
皇族御用達の二頭立ての馬車ではなく、エンブレムも描かれていない小さな馬車を借り、私たちは城下に向かうことにした。
護衛の人数は最小限にしてもらった。御者をはじめとして数人の騎士だけが、私服でついてきている。
お忍びという体ではあるが、皇帝やノヴァには知られるだろう。だがスクロールは書き上げているのだし、彼らも文句は言えないはずだ。
「あの、エリーシェ様」
マヤが何やらもじもじしている。小さめの馬車なので、マヤは私の斜め前に座っている。そうしないと、お互いの膝が当たってしまう。
「どうしたの。何か言いたいことがあるなら、言ってちょうだい」
「あの。なんだかエリーシェ様、いつもと違うというか……」
「!……そう、ね」
私は薄く微笑んだ。マヤの言う通りだったからだ。
結局、たくさんの猫を被っていた。ノヴァと戦うには必要だと思っていたからだ。
でも、何匹の猫を被っていたところで、ノヴァにはあっさりと見抜かれてしまった。
「これからはもうちょっと開き直ろうと思ったの」
「開き直る……ですか?」
「ええ。言いたいことは言う。やりたいようにやる。それで、夢を叶えてみせるわ」
「エリーシェ様……!」
胸を張って言い切る私に、マヤが瞳を潤ませている。
そう。
ノヴァのせいで予定はいろいろと、本当に、変わってしまったけれど――私の最終目標は変わらない。
ノヴァの手から逃れ、魔塔への招待を受けること。そのために、今だからこそできることもある。
(パートナー探し以外にも、やりたいことがあったもの)
誕生祭前の外出は、むしろ良い機会だったかもしれない。
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