76 / 90
第74話 再会と再会
しおりを挟む
「まったく、おかしいと思ったんだよなぁ~」
俺はガタガタと揺れながら道をひた走る箱馬車の中で頭を掻いていた。
箱馬車には普通、それを曳く馬が居るはずだが、この箱馬車にはそれがおらず、結構な速度で自動車の様に自走している。
もちろんそんな事が出来るのは、ヴァイダが魔法で動かしているからだ。
俺たちは今、王都セブンスウォールを出てセイラムに向かっていた。
「何がでございますか?」
「いやだってさ。ゼアルのヤツ、俺と分かれるってのに随分あっさりしてんなって思ってたんだよ」
ゼアルは守護の塔から魔力を送り、様々な都市に結界を張って多くの人を守っている。俺たちの旅についてくることは出来ない。
だから、しばらくの間お別れになる――はずだったのだ。
「ほうほう、モテ自慢でございますか。ナオヤ様もずいぶんと垂らしになってまいりましたね」
「いや。俺はゼアルに……」
会えなくなるのは寂しい。例えまた会えるのだとしても、往復に一年以上かかるエルドラド――ミカの守る皇国だ――への旅路の最中、顔すら見られないのなんて耐えられない位寂しいと俺は思ってしまったのだ。
そんな事は恥ずかしくて口に出せなかったが。
「なるほど。ナオヤ様の方がゼアルさんに惚れていらしたと、そういう事でございますね」
「あっ……」
ヴァイダは人の思考を覗き見る事が出来る。
いつもその力を発揮しているわけではないのだが、時折こうして読み取られ、からかわれてしまうのだから困りものだった。とはいえ、一応ギリギリのラインは守ってくれているため、それでヴァイダを嫌いになるわけではないのだが。
「――アウロラも知ってたんだろ。別れる時やけに静かだなって思ってたんだ」
「えへへ、ごめんね? 黙ってた方が喜ぶんじゃないかなって言われて……」
「まったく」
確かに分かった時は驚いたけどめちゃくちゃ嬉しかったよ。
言わないけどな。だって……。
「へっへー。これで何時でも一緒に居られるぜ」
ご機嫌な顔をして、ゼアルが俺の肩に止まっていた。ただし、拳を縦にしたくらいの身長な上、人形の様にデフォルメした姿で。
なんでも加護を授ける時、通常よりも多くの魂を俺に渡し、更にヴァイダによって特殊な魔法を施されたらしいのだ。それにより、こんな芸当が可能になったのだという。
「お前が普通ならって強調した時に気付くべきだったなぁ……」
「そんな事言ってたか?」
「言ってた」
「ま、細けぇ事は気にすんなって」
ゼアルはそう言いながら、本当に嬉しそうに俺の頬をぺちぺちと叩く。
俺自身も彼女と別れたくは無かったので、この結果にほとんど不満はない。一つだけ不満があるとすれば……ゼアルが露出度の高い服装でもって強烈なスキンシップをしてくれた時に色々と当たって嬉しかったのだが、それが無くなってしまった事くらい――。
「あー、またナオヤがいやらしいこと考えてる!」
「か、考えてないし……」
お前はヴァイダさんかよ。なんで俺の考えてることが分かるんだよ。
「ナオヤ様がスケベな事を考えてらっしゃる時は、鼻の下が伸び切っておられますので、非常に分かりやすいのでございます」
「目線もそういうところに来るから滅茶苦茶分かりやすいんだよな」
「ぐっ」
……おっぱいは見ない様に今度から気を付けよう。
「ナオヤ様ナオヤ様」
「ん?」
ヴァイダに呼ばれた俺は、ぐっと目に力を入れつつヴァイダの瞳を見つめる。
何があったって視線を下に下げない。そんな強い覚悟を持って……。
「馬車と共にナオヤ様も揺れてらっしゃるので気付いておられませんが」
言いつつヴァイダが魔法を発動させたのか、俺の体がふわりと浮く。
そして、彼女の言いたい事が理解できた。
「実は私、揺れ揺れでございます」
俺が止まって、ヴァイダは馬車に揺られている。
つまり、ヴァイダの胸も馬車の振動に合わせてぼいんぼいんと美味しそうに揺れていて――。
くそっ、見てしまった!! しかも何故だ!? おっぱいから目が離せないっ!!
これはきっとヴァイダさんが魔法を使って俺の体を動かしているに違いないっ。だから仕方ないんだっ。
「言い訳が全て表情に駄々洩れなのでございますよ」
「ナオヤのエッチ! わ、私だって……私だって……」
17歳でそれなんだから期待しない方がいいと思うよ、アウロラ。
大丈夫、小さいのはそれはそれで。
「アウロラ様、ナオヤ様は小さいのもお好きな野獣だそうですから安心なさってください」
「やめてぇぇ! 俺の心を読まないでくれぇぇぇっ!!」
「自業自得だ、バカ」
なんて騒ぎながら、俺たちを乗せた馬車はセイラムまで超特急で進んでいったのだった。
自走する馬車という、酷く目を引く乗り物でセイラムに入った俺たちは、そのままギルドへと向かった。
ここで装備の調達や補給、シュナイドへの報告とお土産の持参、それから地面に封じられている魔王の魂へ対処を決めるつもりだったのだが……。
「アカツキ様っ!!」
ギルドに足を踏み入れた瞬間、俺の苗字が声高に叫ばれる。
ギルドの人たちは俺の事を直夜と名前で呼ぶため、苗字を呼ばれたのは久しぶりだった。
声のした方を振り向くと、パタパタと足音を立てながら金髪をドリルにした、豊満な体つきの女性が駆け寄って来る。
その後ろには、黒髪の中に人房金の髪が混じった男勝りな感じのする女性と――。
「……イリアス……」
目つきが鋭いけれど、温和な話し方をする女性――のふりをしている魔族の姿があった。今はイリアスと名乗っているが、本当は別に名前があり、ドルグワントと呼ばれる戦闘体を操る強力な魔族である。
今はその戦闘体が地面深くに封印され、かつ魔力を乱す腕輪をしている為、かなり弱体化しているのだが。
「ナオヤさん、お久しぶりですっ」
なんてネコを2、3匹被りまくったイリアスが走りながら手を振って来る。
「お、お久しぶりです」
こちらも丁寧なあいさつを返しながら引きつりそうになる顔を必死に笑顔の形に整えながら、なんでてめえがここに居るんだよ、と視線で問いかけた。
もちろん華麗にスルーされてしまったが。
「ナオヤ様」
ヴァイダがそっと俺の肩に手を乗せる。
さすがは知の天使、一瞬でイリアスの正体を見破ったのだろう。ゼアルは何かよく分からないが危険度は薄い、という反応をしていたのだが、これは何もかもを透視できるヴァイダの特性もあってのことだ。
「ヴァイダさん」
彼女は弱体化していますが、魔族です。でも、人間に害を与えないと約束をしてくれています。
その証拠として腕輪をしてくれてますから、恐らく危険はありません。
警戒は解かない方がいいと思いますが。
「……分かりました」
ヴァイダは俺の思考を読んで、一応納得してくれたのか、肩から手を離すと一歩下がる。ただ、加護によって混じった魂から、彼女の警戒心が少し伝わって来た。
「アカツキ様でらっしゃいますよね!?」
目の前にやってきた女性は、まるで生き別れた家族を見つけたとでも言わんばかりの勢いで、俺の手を両手で掴み、首を垂れる。
「そ、そうですが……」
「ああ、良かった。ほんの少しだけ、うすぼんやりとですがアカツキ様のお顔を覚えておりましたの。ぜひ一度お目にかかりたく、こうして幾度もギルドを訪れておりまして……」
「ようやく会えたんだ。あと、アウロラだったっけ」
「ふえ?」
急に自分の名前を出されたアウロラが首を傾げる。
「アンタにも会いたかった」
金髪をたなびかせ、お嬢様言葉でしゃべる女性の背後に立つ、やや男勝りな女性が、熱っぽい目を俺とアウロラに向けて説明してくれる。
――が、何故そうまでして俺たちを探していたのかまったくわからなかった。
というか、失礼だが誰だ?
「失礼いたしましたわ、アカツキ様。私、ミスティ・クロスロードと申します」
「はぁ」
「アタシはレティシア・ガレウだ」
順に自己紹介を受けたため、一応こちら側も返しておく。
ミスティと名乗ったお嬢様口調にドリルな縦ロールの女性は、自分を取り戻したのか、アウロラに非礼をわびた後、同じ様にアウロラの手を包み込むようにして感謝の意を表す。
「本当に、お二人には感謝してもしきれませんわ」
「はあ」
「お二人は私たちの命の恩人のなのですから」
その言葉で、気付く。
ボロボロになり、汚れ切った上に憔悴した二人の姿しか見ていなかったので分からなかったのだが、ミスティとレティシアの二人は――。
「あの、魔族に捕まってた二人!」
正確には実験台に利用されていたため、意識を無くしていたのだ。
ここまで回復したという事は、彼女への処置がうまく行ったのだろう。
それをしたのは、彼女たちの背後で静かにたたずんでいるイリアスだが。
「そっか、目が覚めたんですね……良かった」
ただ、それが分かっていても俺の心は歓喜の光で満たされていく。
本当に、この2つの命が助かってくれた事が、とても嬉しかった。
「本当に感謝しかございませんわ。私達3人はお二方に命を救われましたんですのよ」
ミスティの4人居たパーティのうち、助かったのは3人ではない、正確には2人だ。
本物のイリアスは死んで、今は魔族が入れ替わっている。
恐らくは、このイリアスは本格的にミスティたちのパーティに潜り込むことにしたのだろう。だから3人と言っているのだ。
「……でも、救えなかった人も居ます。すみません」
「いいえ。シィルも指輪を持ち帰っていただいて、きっと魂が救われたはずですわ」
「アタシたち3人できちんと弔ってやれたからな。十分だ」
戦闘を主体に活動するギルド員は、死体も残らない事がままあるそうだ。
魔物に負けて食われたり、骨も残らないほど消し炭にされたりする。そういうのと比べればマシ、ということなのだろう。俺は到底そうは思えなかったが。
ただ、いつまでも悲しみを引きずっていてもしょうがない。この世界は、日本に比べてずっと死に近い世界なのだから。
「そうですか。じゃあ今度そのシィルさんのお墓に――」
アウロラやヴァイダに視線だけで確認を取りながら、そう提案しようとした矢先……。
「やっと帰って来やがったか、クソガキ」
だみ声が、俺たちの間に割って入った。
俺はガタガタと揺れながら道をひた走る箱馬車の中で頭を掻いていた。
箱馬車には普通、それを曳く馬が居るはずだが、この箱馬車にはそれがおらず、結構な速度で自動車の様に自走している。
もちろんそんな事が出来るのは、ヴァイダが魔法で動かしているからだ。
俺たちは今、王都セブンスウォールを出てセイラムに向かっていた。
「何がでございますか?」
「いやだってさ。ゼアルのヤツ、俺と分かれるってのに随分あっさりしてんなって思ってたんだよ」
ゼアルは守護の塔から魔力を送り、様々な都市に結界を張って多くの人を守っている。俺たちの旅についてくることは出来ない。
だから、しばらくの間お別れになる――はずだったのだ。
「ほうほう、モテ自慢でございますか。ナオヤ様もずいぶんと垂らしになってまいりましたね」
「いや。俺はゼアルに……」
会えなくなるのは寂しい。例えまた会えるのだとしても、往復に一年以上かかるエルドラド――ミカの守る皇国だ――への旅路の最中、顔すら見られないのなんて耐えられない位寂しいと俺は思ってしまったのだ。
そんな事は恥ずかしくて口に出せなかったが。
「なるほど。ナオヤ様の方がゼアルさんに惚れていらしたと、そういう事でございますね」
「あっ……」
ヴァイダは人の思考を覗き見る事が出来る。
いつもその力を発揮しているわけではないのだが、時折こうして読み取られ、からかわれてしまうのだから困りものだった。とはいえ、一応ギリギリのラインは守ってくれているため、それでヴァイダを嫌いになるわけではないのだが。
「――アウロラも知ってたんだろ。別れる時やけに静かだなって思ってたんだ」
「えへへ、ごめんね? 黙ってた方が喜ぶんじゃないかなって言われて……」
「まったく」
確かに分かった時は驚いたけどめちゃくちゃ嬉しかったよ。
言わないけどな。だって……。
「へっへー。これで何時でも一緒に居られるぜ」
ご機嫌な顔をして、ゼアルが俺の肩に止まっていた。ただし、拳を縦にしたくらいの身長な上、人形の様にデフォルメした姿で。
なんでも加護を授ける時、通常よりも多くの魂を俺に渡し、更にヴァイダによって特殊な魔法を施されたらしいのだ。それにより、こんな芸当が可能になったのだという。
「お前が普通ならって強調した時に気付くべきだったなぁ……」
「そんな事言ってたか?」
「言ってた」
「ま、細けぇ事は気にすんなって」
ゼアルはそう言いながら、本当に嬉しそうに俺の頬をぺちぺちと叩く。
俺自身も彼女と別れたくは無かったので、この結果にほとんど不満はない。一つだけ不満があるとすれば……ゼアルが露出度の高い服装でもって強烈なスキンシップをしてくれた時に色々と当たって嬉しかったのだが、それが無くなってしまった事くらい――。
「あー、またナオヤがいやらしいこと考えてる!」
「か、考えてないし……」
お前はヴァイダさんかよ。なんで俺の考えてることが分かるんだよ。
「ナオヤ様がスケベな事を考えてらっしゃる時は、鼻の下が伸び切っておられますので、非常に分かりやすいのでございます」
「目線もそういうところに来るから滅茶苦茶分かりやすいんだよな」
「ぐっ」
……おっぱいは見ない様に今度から気を付けよう。
「ナオヤ様ナオヤ様」
「ん?」
ヴァイダに呼ばれた俺は、ぐっと目に力を入れつつヴァイダの瞳を見つめる。
何があったって視線を下に下げない。そんな強い覚悟を持って……。
「馬車と共にナオヤ様も揺れてらっしゃるので気付いておられませんが」
言いつつヴァイダが魔法を発動させたのか、俺の体がふわりと浮く。
そして、彼女の言いたい事が理解できた。
「実は私、揺れ揺れでございます」
俺が止まって、ヴァイダは馬車に揺られている。
つまり、ヴァイダの胸も馬車の振動に合わせてぼいんぼいんと美味しそうに揺れていて――。
くそっ、見てしまった!! しかも何故だ!? おっぱいから目が離せないっ!!
これはきっとヴァイダさんが魔法を使って俺の体を動かしているに違いないっ。だから仕方ないんだっ。
「言い訳が全て表情に駄々洩れなのでございますよ」
「ナオヤのエッチ! わ、私だって……私だって……」
17歳でそれなんだから期待しない方がいいと思うよ、アウロラ。
大丈夫、小さいのはそれはそれで。
「アウロラ様、ナオヤ様は小さいのもお好きな野獣だそうですから安心なさってください」
「やめてぇぇ! 俺の心を読まないでくれぇぇぇっ!!」
「自業自得だ、バカ」
なんて騒ぎながら、俺たちを乗せた馬車はセイラムまで超特急で進んでいったのだった。
自走する馬車という、酷く目を引く乗り物でセイラムに入った俺たちは、そのままギルドへと向かった。
ここで装備の調達や補給、シュナイドへの報告とお土産の持参、それから地面に封じられている魔王の魂へ対処を決めるつもりだったのだが……。
「アカツキ様っ!!」
ギルドに足を踏み入れた瞬間、俺の苗字が声高に叫ばれる。
ギルドの人たちは俺の事を直夜と名前で呼ぶため、苗字を呼ばれたのは久しぶりだった。
声のした方を振り向くと、パタパタと足音を立てながら金髪をドリルにした、豊満な体つきの女性が駆け寄って来る。
その後ろには、黒髪の中に人房金の髪が混じった男勝りな感じのする女性と――。
「……イリアス……」
目つきが鋭いけれど、温和な話し方をする女性――のふりをしている魔族の姿があった。今はイリアスと名乗っているが、本当は別に名前があり、ドルグワントと呼ばれる戦闘体を操る強力な魔族である。
今はその戦闘体が地面深くに封印され、かつ魔力を乱す腕輪をしている為、かなり弱体化しているのだが。
「ナオヤさん、お久しぶりですっ」
なんてネコを2、3匹被りまくったイリアスが走りながら手を振って来る。
「お、お久しぶりです」
こちらも丁寧なあいさつを返しながら引きつりそうになる顔を必死に笑顔の形に整えながら、なんでてめえがここに居るんだよ、と視線で問いかけた。
もちろん華麗にスルーされてしまったが。
「ナオヤ様」
ヴァイダがそっと俺の肩に手を乗せる。
さすがは知の天使、一瞬でイリアスの正体を見破ったのだろう。ゼアルは何かよく分からないが危険度は薄い、という反応をしていたのだが、これは何もかもを透視できるヴァイダの特性もあってのことだ。
「ヴァイダさん」
彼女は弱体化していますが、魔族です。でも、人間に害を与えないと約束をしてくれています。
その証拠として腕輪をしてくれてますから、恐らく危険はありません。
警戒は解かない方がいいと思いますが。
「……分かりました」
ヴァイダは俺の思考を読んで、一応納得してくれたのか、肩から手を離すと一歩下がる。ただ、加護によって混じった魂から、彼女の警戒心が少し伝わって来た。
「アカツキ様でらっしゃいますよね!?」
目の前にやってきた女性は、まるで生き別れた家族を見つけたとでも言わんばかりの勢いで、俺の手を両手で掴み、首を垂れる。
「そ、そうですが……」
「ああ、良かった。ほんの少しだけ、うすぼんやりとですがアカツキ様のお顔を覚えておりましたの。ぜひ一度お目にかかりたく、こうして幾度もギルドを訪れておりまして……」
「ようやく会えたんだ。あと、アウロラだったっけ」
「ふえ?」
急に自分の名前を出されたアウロラが首を傾げる。
「アンタにも会いたかった」
金髪をたなびかせ、お嬢様言葉でしゃべる女性の背後に立つ、やや男勝りな女性が、熱っぽい目を俺とアウロラに向けて説明してくれる。
――が、何故そうまでして俺たちを探していたのかまったくわからなかった。
というか、失礼だが誰だ?
「失礼いたしましたわ、アカツキ様。私、ミスティ・クロスロードと申します」
「はぁ」
「アタシはレティシア・ガレウだ」
順に自己紹介を受けたため、一応こちら側も返しておく。
ミスティと名乗ったお嬢様口調にドリルな縦ロールの女性は、自分を取り戻したのか、アウロラに非礼をわびた後、同じ様にアウロラの手を包み込むようにして感謝の意を表す。
「本当に、お二人には感謝してもしきれませんわ」
「はあ」
「お二人は私たちの命の恩人のなのですから」
その言葉で、気付く。
ボロボロになり、汚れ切った上に憔悴した二人の姿しか見ていなかったので分からなかったのだが、ミスティとレティシアの二人は――。
「あの、魔族に捕まってた二人!」
正確には実験台に利用されていたため、意識を無くしていたのだ。
ここまで回復したという事は、彼女への処置がうまく行ったのだろう。
それをしたのは、彼女たちの背後で静かにたたずんでいるイリアスだが。
「そっか、目が覚めたんですね……良かった」
ただ、それが分かっていても俺の心は歓喜の光で満たされていく。
本当に、この2つの命が助かってくれた事が、とても嬉しかった。
「本当に感謝しかございませんわ。私達3人はお二方に命を救われましたんですのよ」
ミスティの4人居たパーティのうち、助かったのは3人ではない、正確には2人だ。
本物のイリアスは死んで、今は魔族が入れ替わっている。
恐らくは、このイリアスは本格的にミスティたちのパーティに潜り込むことにしたのだろう。だから3人と言っているのだ。
「……でも、救えなかった人も居ます。すみません」
「いいえ。シィルも指輪を持ち帰っていただいて、きっと魂が救われたはずですわ」
「アタシたち3人できちんと弔ってやれたからな。十分だ」
戦闘を主体に活動するギルド員は、死体も残らない事がままあるそうだ。
魔物に負けて食われたり、骨も残らないほど消し炭にされたりする。そういうのと比べればマシ、ということなのだろう。俺は到底そうは思えなかったが。
ただ、いつまでも悲しみを引きずっていてもしょうがない。この世界は、日本に比べてずっと死に近い世界なのだから。
「そうですか。じゃあ今度そのシィルさんのお墓に――」
アウロラやヴァイダに視線だけで確認を取りながら、そう提案しようとした矢先……。
「やっと帰って来やがったか、クソガキ」
だみ声が、俺たちの間に割って入った。
0
お気に入りに追加
1,731
あなたにおすすめの小説
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる